【INTERVIEW】想像力の血『物語を終わりにしよう』

あんまりそういう幻想みたいなものに寄りかかりたくないっていう気持ちはありますね
- –: ちなみに、鈴木慶一さんが参加している7曲目、「Quaggi」のタイトルの意味は?
- 佐藤:エスキモーの人たちの、踊り場のことをそう呼ぶらしいです。伊福部昭の本で知ったんですけど。でも、タイトルは別に何でもいいと思ってるんです。何でもいいんだけど、いざ付けるとなると結構悩んじゃって……。
- –: 〈これが歌いたい〉っていう、メッセージがない場合は大変かもしれない。
- 佐藤:メッセージは、まったくないですね。でもそこで〈Untitled〉とか、ちょっと記号っぽいタイトルにするのも、それはそれでまた違うメッセージ性が出てきちゃうというか……タイトルっていうのはすごく厄介だなと思ってますね。
- –: ポップ・ミュージックのリスナーとしては、〈誤解〉が重要だと思うんですよ。タイトル、文字があることによって、それが生まれる余白がつくれるというか。
- 佐藤:でも、そういう誤解っていうのは、なんていうか、結局ロマンチシズムだと思うので。ちょっと意味深なタイトルにしてみたり……『エヴァンゲリオン』のやり方みたいな(笑)。『エヴァ』って、放送当時のことはよく知らないですけど、いろんな本とかあったんでしょ。
- –: いわゆる考察本みたいな。
- 佐藤:今でもそういうのはいっぱいあると思うんですけど。YouTubeとかでも多いじゃないですか、ほとんど陰謀論みたいな(笑)。だから、あんまりそういう幻想みたいなものに寄りかかりたくないっていう気持ちはありますね。
- –: タイトルを付けるのって、年々むずかしくなってるというか。配信の時代になって、タイトルも含め、文字に求めてるものの比重が重くなってるような気がして。昔だったら、パッケージにいろんな情報を載せることができたけど、今はその部分がどんどん少なくなってきて。
- 佐藤:ビジュアル的にも、情報量的にもそうですね。だからSNSとかでいろいろ書きたくなっちゃうのかもしれない。
- –: 特にインディーズだと、宣伝方法が他にないっていうのもある。とにかく話を聞いてほしい、みたいな。
- 佐藤:個人的には、アーティスト自身の〈思い〉っていうのは、一番どうでもいいと思ってるんです。音楽って、あくまでも現実のものとして、そこで鳴っている音でしかないっていうか。そもそもメッセージとか、込められた〈思い〉が好きで音楽が好きになったわけじゃないから。必要以上に言葉の力を借りようとすると、かえって音楽自体への意識が弱くなっていくような感じがします。
- –: SNS以前だと、個人ブログとかで情報を集めるしかなかったけど、今思うと趣味性が高くて、面白いものが多かった。最近は情報過多になってきて、どんどん埋もれていっちゃうから、文字の量でアピールしたくなっちゃうっていうのはあるかもしれない。
- 佐藤:コミュニケーション的な欲望っていうのは、もちろん自分にもあるんですけど。ただ、音楽の質よりも、文字の量に熱が入ってそうなものを見かけると、寂しいなと思っちゃうんですよね。もうちょっと音楽そのものを信じてほしいな、っていう気持ちはあります。
- –: 情報的なところだと、Twitterを見なくなると、インディー・ミュージックっていうものは視界からほぼ消える(笑)。ミュージシャンもリスナーも、SNSっていうものにかなり依存してるんだなっていうのがわかる。配信が中心になって以降、その傾向も強くなった気がして。
- 佐藤:最近まで、CDとかモノに対する愛着っていうのは、自分ではあんまりないと思ってたんですけど、配信の時代になって、いろんなルールから自由になるのかなと思ってたら、配信は配信でシステムがしっかりあって、全然自由じゃないんですね(笑)。でもそこに上がってないと、さっき言われたように、存在してないも同義になる。ネットのどこかに、もう勝手にポンと上げちゃってもいいんだけど、そういうことをしてもなかなか相手にされないですね。システムが強すぎて。
投げっぱなしで……(笑)。そういう人間なんだと思いますね
- –: 話をアルバムに戻すと、今回のアルバム・タイトルもそうだけど、そういう〈思い〉とかイメージが固定されてない、聴く側にいろいろと委ねてるような感覚があって、そこがいいなと思ったんです。聴く人が自分の中で再構築するというか……いきなり爆発音で終わっちゃうような曲もあるし(笑)。
- 佐藤:投げっぱなしで……(笑)。そういう人間なんだと思いますね。さっき言った、誰かに演奏をお願いするときもそうだけど、基本、自由にやってくださいっていう感じなんで。ずっと一人で作業してると、何か予想外なもの、無軌道なものが欲しくなってくるというか。
- –: そういう感覚があるのがすごいなと思います。ソロで活動してるミュージシャンって、結構コントロール・フリークになりがちというか。全部管理してないと気が済まない、みたいな人が多いイメージがあるので。
- 佐藤:自分の場合、予想外のものが入ってないと、逆に気が済まないんですよね。そこも含めてのコントロールなんだと思います。全部自分の思い通りになっている状態って、都合がよすぎるというか……自分にとってあんまり面白いものじゃなくなってしまうんですよね。綺麗なものだけ集めても違う、無菌室みたいな感じになっちゃうんで。本当の部屋だって、勝手に散らかっていっちゃうし(笑)、そっちの方が自分にとっては自然な状態なんです。
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『物語を終わりにしよう』
/ 想像力の血
2025年4/16リリース
フォーマット:デジタル配信
レーベル:想像力の血
【Track List】
01. ◯◯空洞説
02. UTOPIA(異議申し立て)
03. ゴーストタウンの町長さん
04. ataraxia
05. ふたつのアリア
06. 着いてすぐ帰ることを考える観光客
07. Quaggi
08. Ide
09. こんな仕事はこれで終わり
10. 反時代ゲーム Il Conformista
11. EL TOPO
12. そして音楽はつづく
マルチリンク
【ゲストボーカル】
岡田紫苑(M-5)
鈴木慶一(M-7)
佐藤奈々子(M-10)
【ゲストミュージシャン】
イトケン(ドラムス、パーカッション)
佐久間裕太(シンセサイザー)
澤部渡(サックス)
四家卯大(チェロ)
シマダボーイ(シンセサイザー、パーカッション)
西田修大(ギター)
シンリズム(ギター、ベース)
【マスタリング・エンジニア】
illicit tsuboi, Stuart Hawkes, Felix Davis, 樫本”GURI”大輔, 原口宏
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2025.5.15 12:00
カテゴリ:INTERVIEW, PU3_ タグ:JAPAN, カメラ=万年筆, スカート, 佐久間裕太, 佐藤優介, 僕とジョルジュ, 想像力の血, 澤部渡