【REVIEW】Capture a Thing / Space Daze



Danny RowlandとJenny Weidlによるユニット、Space Dazeが新作を配信した。このシアトルのユニットはシンプルに重ねる複数のギターと淡いヴォーカルを軸にしたUSインディーサイケマナーの作品を発信し続けているが、ジェントルシューゲイズと言われる彼らの作風は今回も淡く美しい。

1.Intro
フェイドインから入る導入トラックは、ローファイなキックとスネアを中心とする打ち込みのリズムトラックに、左右に分かれた2本のギターがそれぞれゆったりとオブリまぜつつアルペジオを刻み、センターのギターがゆるいソロを響かせる、彼らが得意とするサーフ系サイケロックも連想させるインスト作品。

2.Far Away
安定したエコーの中のアルペジオと淡い2声ボーカルでSpace Dazeらしさを響かせる美しいトラック。ミニマルに展開するコード進行と短いフレーズをつなぐヴォーカルだが、これらを支えるややドローン的なアプローチをみせるオルガンが心地よい。エンディングの不安感を煽るカオスへの移行は、悲しげな歌詞に不思議と連動して余韻を残す。

3.Sunlight Waves
アコースティックギターが小気味良くアルペジオを刻み、8ビートのリズムトラックとギターのストロークが加わる。イントロから続くコードパターンの中で大きな展開は無いが、中間部から加わるスライドギターによるコードプレイなど細かく色々なアプローチが重ねられて繰り返し聴きたくなるトラックだ。このストイックさは彼らのアプローチの微妙な変化かもしれない。

4.Wasn’t Anyone
冒頭から静かに四つ打ちのハイハット、そのままキックがこれを受け継ぐが決して大きく展開することは無い。ゆったりしたアルペジオが繰り返されるバッキングパターンの中で時折、キックが途切れる瞬間がある。これによって浮かび上がる浮遊感あるオルガンやブレイクのトレモロギターの淡さが印象的だ。

5.Was Never
ややカントリータッチにスウィングするアコースティックギターのアルペジオは、深いエコーのスライドギターとヴォーカルによっていつものSpace Dazeスタイルに突入する。やはり大きく展開する事はなく、静かにフェイドアウトしていく。

6.Everyone Knows
808を連想するスネアが印象的なややアップテンポのトラック。リズムボックス合わせて8ビートをキープするベース、左右に分かれたギター、断片的だが流れるようなヴォーカル、めずらしくこのトラックではサビとも言えるような展開を聴かせてくれる。さらに驚くべき事にエンディングに向けて大サビが用意されている。音数は少ないが美しいメロディーをつぎ込んだ力作だ。

7.How It Is
この曲はルートに戻らないメロディーが原因だろうか、余韻を残す不思議な楽想になっている。そのためについメロディーを追いかけてしまうが、アコースティックなバッキングがシンプルなローファイ感を上手く支えていて美しい。

8.Alone In the Shadows
冒頭のインストともつながるサーフ系サイケロックのアップテンポなトラック。前作の流れも汲んでいるように感じた。8ビートのリズムトラックに印象的なオルガンがコードを響かせる。この曲も本作ではめずらしく明確なサビ、間奏のギターソロなど場面の切り替えが埋め込まれた展開になっている。

9.By the Road
ラストの曲はトレモロの効いたオルガンに、ダブのアプローチが意外過ぎるアプローチだが、やはり淡いギターとヴォーカルが入ると彼ららしいサウンドにしっかりと組み込まれている。この曲では他の曲にはあまり見られないテンションコードが全面的に多用されている。エンディングのギターソロはジェリーガルシアさえも連想させるサイケロックの美しさを湛えた演奏だ。


これまでの作品から比べると淡さが増しており、一層ジェントルなユニットになりつつあると感じた。ラストのトラックでは新機軸も垣間見える。ユニットは過渡期にあるのかもしれない。カセットリリースだった前作からリミックス作品をはさんで約1年の間をおいて発表された今作は、淡さや深いエコーをどう表現するかといった表現の幅を広げつつも前作以上にストイックな構成に仕上がった。

テキスト:30smallflowers(@30smallflowers



2015.8.10 3:59

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