【INTERVIEW】沼『いとまのすいけい』──“余白”の中で揺れる12の物語を語る

「ミファソファミレド」──キーボードから生まれた新しい作り方
- -:この曲でまた雰囲気がパッと開けますね。
- シカロ:割と明るめの曲です。ギター以外で初めて作った曲で、キーボードで曲作りをしてみようと思って。入院中に、ギターは持ち込めないからキーボードを持ち込んで、イヤホンで作った曲なんです。
- 染谷:以前から「キーボードだけでやりたい」とは言っていて、ギターに触れない時期に、しっかりピアノで作曲を頑張ってくれていました。
- シカロ:「ドレミ」がすごく好きで、「ドミソ」もすごく好きだから、それだけで曲を作りました(笑)。音の響きと、私の歌詞や歌に合うかどうかだけを意識して。
- 染谷:最初は何を弾いているのか全然分からなくて(笑)、表と裏のリズムをちゃんと理解するところから始まりました。
- シカロ:本当に拍とかも全然分からなくて、染谷さん、苦労したと思います。ぐちゃぐちゃでしたね(笑)。
- 染谷:でもまあ、最終的にはいい感じになったので。
- シカロ:曲が良ければいいでしょって、割と丸投げしちゃって(笑)。ソロも「入れてよ」って丸投げして、染谷さんが全部考えてくれました。間奏のところは、染谷さんがソロを入れるってイメージでやってくれています。
- -:自分で曲を作るとき、染谷さんならこうするだろうな、っていうイメージはあるんですか?
- シカロ:あるときとないときがありますね。完全に私だけで作ることもあれば、「この曲は染谷さんのコーラスがこう浮かぶから」って伝えることもあります。前作に入っている「たよりない白」は、染谷さんのコーラスのイメージがかなりあって、「ファーっていう感じにしてー」みたいに言ったりしました。
- 染谷:「ミファソファミレド」は割とピアノで、リズムも独特だったので、また違う感じで作れた曲でしたね。
「点描」──藍さんに書いてもらった、青い歌詞
- -:では次、「点描」。
- シカロ:これは結構古い曲です。歌の感じもかなり若いですね。私だけが曲作りをしていることが嫌になって、染谷さんに「曲を作ってよ」ってすごく言っていた時期があって。それで「せめて歌詞だけでいいから書いて」ってお願いして、書いてもらった歌詞です。
- 染谷:完全に銀杏BOYZの影響ですね。めっちゃ青いです(笑)。
- シカロ:聴いた時に「恥ずかしいよ、青春だよ」って思いました。最高だなって。
- 染谷:22、23歳くらいの頃か、もっと若かったかも。当時青い感じのバンドをすごく聴いていた時期でもあって、歌詞を書いてって言われるとそっちに寄っちゃうんですよね。基本、私は物語を作らないと歌詞が書けないので。
- シカロ:「水色の日々」っていう歌詞があるんですけど、見た時に青すぎて「水色って入っててほしいよね!」って気持ちになった。(笑)
- 染谷:当時聴いていたバンドの世界観のイメージが強かったかもしれないです。
- シカロ:割とすぐに書いてくれて、私は結構適当に曲をつけたんですけど、すごくハマったなという印象があります。
「夢を見たんだ」──綺麗な言葉が自然と出てきた曲
- -:では「夢を見たんだ」。
- シカロ:割と新しい曲で、世界が開けてからできた曲です。すごく前向きな時期にできた曲ですね。一番最後にできた曲です。ただ、「月並みな言葉があふれる夜の海」っていうところは、実はディスが入っていて。みんなSNSばっかり見て、っていう気持ちです。
- -:去年の夏はすごくしんどい時期でもあったよね。
- 染谷:大変な時期ではありましたけど、シカロとしては一番テンションが上がっていた時期だったので、その時にできた曲ですね。
- シカロ:「この遠ざかる日を思えば 七色に輝く魂に火をつけて 私の一部になっていく」っていう歌詞が出たとき、「やった」って思ったんです。こんな歌詞が自分に書けるんだって、すごく嬉しくて。今までの自分では絶対に出てこなかった言葉でした。
- -:言葉が綺麗だよね。
- シカロ:本当に綺麗なものができたと思って、自分を少し好きになれました。特別な言葉じゃないのに美しいというか。ここの歌詞は結構悩んでいて、メロディはできているのに歌詞がしっくりこなくて。でもふと、適当に口ずさんでいたときに出てきた言葉たちで、自分でも意識していないところからスラスラ出てきたのに、すごくしっくりはまって。今でも宝物のような歌詞です。「沼」って聴き返すと、大体「めっちゃいい曲やん」ってなることばかりなんですけどね(笑)。
「にとなみ」──打ち間違いから生まれたタイトル
- -:では最後、「にとなみ」。
- シカロ:これは本当に新しい曲です。
- 染谷:新しいって、どこからを新しいって言ってるのかって感じですけど(笑)。
- シカロ:私の中では、1つの区切りがあった時期に作った曲です。その区切りが「新しい」の始まりというか。まだ全部が整理できているわけではないんですけど、たぶんちょうど揺れ動いていた時期の曲です。
- -:以前のインタビューでも言ってたけど、これはもともと「人並み」という言葉から来ているんだよね。
- 染谷:はい、言い間違いからの「にとなみ」です。
- -:「にとなみ」って、音がいいですよね。そこがうまいなと思っていて。
- シカロ:私がこの曲、「人並みのあれだな」と思ってスマホで打ったときに、操作が本当に苦手で、「人並み」って打てなくて「にとなみ」になっちゃったんです。でも、その響きがすごくいいなと思って、そのまま染谷さんに送りました。
- 染谷:そのやりとり、もう残ってないと思います(笑)。LINEで「もう、ええわあ」って送られてきて。私も「人並み」よりその響きの方がいいと思って、普通に意見が合致しただけで、そこまで深くは考えていなかったです。結果的にいいタイトルになったと思います。
(2026年8月8日、横浜桜木町で)
今回のインタビューを通じて見えてきたのは、擬音語ひとつ、匂いの記憶ひとつから曲の世界観を掴み取ってしまう、ふたりだけの独特な回路だった。作詞作曲を手がけるタカハシシカロの衝動的で率直な言葉と、それを丁寧に翻訳し形にしていく染谷藍の職人的な耳。ノリのよさと落ち着き、一見正反対に見えるふたりの気質が10年以上かけて溶け合い、『いとまのすいけい』という一枚に結晶した。秘密めいた歌の気配が漂う全曲を聴き終えたとき、彼女たちの歴史そのものを追体験したような感覚が残るはずだ。そしてアルバム全体にある余白と隙間こそが、聴いた人それぞれの生活にゆっくり溶け込むことだろう。
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『いとまのすいけい』/ 沼
2026年7/1リリース
フォーマット:CD
レーベル:MY BEST! RECORDS
カタログNo.:MYRD172
【Track List】
01. 見えない雨
02. 下衆のうた
03. ゴッタルド峠
04. ダンス
05. めにうつる
06. 踊るように歩く
07. 14時
08. マッソの歌
09. ミファソファミレド
10. 点描
11. 夢を見たんだ
12. にとなみ
ディスクユニオン
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『いとまのすいけい』/ 沼
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2026.9.22 12:00

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