【INTERVIEW】沼『いとまのすいけい』──“余白”の中で揺れる12の物語を語る

沼アー写


「ダンス」──止まっていた時間が動き出した曲

-:アルバムの流れとして、「ダンス」になると急に曲調が変わりますよね。
シカロ:そう、リズム感を出したかったんです。それは染谷さんにリクエストしたところで。訳あって、それまで我慢していたライブに行くようになったのがこの頃で。仕事を辞めたのもあって、その解放感がきっかけだったと思います。
-:具体的には?
シカロ:家が大阪なんですけど、神戸や京都まで足を延ばして、いろんなライブハウスに行くようになって。遠くの場所で、自分が知らないだけでずっと音楽が鳴り続けて、誰かが踊っていたんだなって思いを馳せて作った曲です。自分が1人だと思っても、毎日が苦しくても、そのことを忘れないでね、って気持ちを込めました。
染谷:どうしても「沼」の曲って抽象的な歌詞が多かったんですけど、私生活での付き合いが長いぶん、彼女が具体的に話せるようになってきているのは感じていて。曲調も変わっていくのをちゃんと汲んだうえで、私も曲調を変えていきたいと意識していました。最初のイメージは「ドラムを絶対に入れる」ということでした。
シカロ:「ドラム入れて」ってずっと言ってたので。
染谷:ドラムを入れると今までと変わってしまうところがあるので、どれくらい取り入れるかというバランスにはすごく悩みました。アコギや鉄琴、口笛といったアナログな音を残しつつ、ドラムに偏りすぎないように。
シカロ:染谷さん、めちゃめちゃ思い悩んで作ってくれたと思います。
染谷:元々バンド時代、私はドラム・ボーカルをやっていたので。
シカロ:私はずっと「ドラム叩いてよ」ってリクエストしてたんです。ギターとドラムのデュオが元々好きで。The White Stripesとか。
染谷:私も好きだったんですけど、「沼」の世界観を残したくて、ドラム自体をちょっと避けていたところがあって。でもこの曲から、明確にリズム感を意識するようになりました。「見えない雨」のチャカポコのイメージも、そのリズム感の延長線上にあります。

タカハシシカロ

「踊るように歩く」──開けていく世界を歩く曲

-:これも前向きな一曲ですね。
シカロ:本当に。「ダンス」と同じ、世界が開けてきた頃の曲です。「みんな地下をいく」っていう歌詞は、あるライブハウスをイメージして書きました。今はあまり行っていない場所なんですけど、旦那さんと出会ったきっかけの場所でもあって。「目を瞑ってみて 何も見せないでいて」は、それまでの自分の生活を新しい場所の人たちに見せたくなかった、新しい場所に移りたかったという気持ちです。「遠くの朝日が昇るまで」は文字通り、朝が来てもその場所にいたかったという気持ち。みんなが楽しそうに音楽を楽しんでいる空間が素晴らしいと思って書きました。
-:この時期のタカハシさんの変化は感じていましたか?
染谷:「ダンス」のあたりから明るくいい方向に向かっているのが見えていたので、その勢いはちゃんと出したうえで曲を作っていきたいと思っていました。距離が近いぶん、内面を汲んだ曲作りになっていたかもしれません。
シカロ:一番近くで見てくれているから、私が言わないことも分かってくれている。それが恥ずかしくもあり、ありがたくもあり。
染谷:明るい曲を、今どこまで明るくできるかなという感じの曲ではありましたね。
シカロ:それに比例して、実はこの頃「沼」の関係は一度悪くなって(笑)。
染谷:そうですね(笑)。2〜3年前くらい、「沼」の活動が増えてきた時期と、お互いの距離感が近くなりすぎた時期が重なって、しんどい時期でもありました。
シカロ:それぞれの生活がある中で、忙しくしすぎたというか。「沼」の名前が知られ始めて、私は「今動かないと」ってなっていたけど、染谷さんはそこまでではなくて。
染谷:ちょっとしんどくはなっていたんですけど、曲作りに関しては、たぶんポジティブな気持ちなんだろうなというところを、ずっと曲のイメージと照らし合わせていました。コーラスで持ち上げたいというイメージもあって、民族音楽的なテンションを少し入れたくて。
あと、これ最近気づいたんだけど、「nayuta」をイメージしてたんじゃない?
シカロ:ああ!
染谷:「nayuta」は私たちが10代の頃から大好きなバンドで。そのイメージがあったから、コーラスが印象的なんだと思います。
シカロ:私たちの歴史がこのアルバムに凝縮されている感じがします。新しい曲の中に「下衆のうた」みたいな古い曲が入っているのも、感慨深いです。

染谷藍写真

「めにうつる」──これまでにはなかったハッピーなノリ

-:ここ、いい流れが続きますね、「めにうつる」。
染谷:この時はVulfpeckをよく聴いてました。
シカロ:これは新しい曲ですね。
染谷:そこからリズム&ブルースのノリがこの曲にはいいなあと思って。重なるキーボードのリズムで、パーッと開けていくイメージ。
-:Vulfpeckとは思いもよらぬ名前が出たけど、アレンジとか何か参照するものはあるの?
染谷:こういう表現いいかも、と思いながら曲を聴いてることはあります。ハッキリこれに影響された、という具体的なものはあまりないかも。また、今回はシカロのギターと歌だけ先に録って、アレンジを足していって録音しました。
シカロ:ライブだと、藍さんの両手でできる範囲でしか演奏出来ないので。
染谷:今までとは違う作り方で出来た曲です。

沼 写真

「14時」──昼間に飲むお酒と、本当の自分

-:「14時」もアルバムの中でポイントが高い曲です。
シカロ:ちょっと古い曲なんです。いろんなミュージシャンの方に褒めていただいている曲で。黒岩あすかちゃんとの出会いも大きくて、「こういう曲を歌う子が同世代にもいるんだ」と思ったのがきっかけです。20代になりたての頃、あすかちゃんもギターを始めて1年くらいの頃でした。「沼らしさ」って何だろうと考えて、演奏中にお酒を開ける音を入れたりしていて。自分が一番楽しいことは何だろうと思った時に、「昼間に飲むお酒、美味いよね」って。染谷さんと一緒に飲むのが好きで、「14時」というタイトルになりました。当時ふたりとも接客業で休みが不定期だったので、平日の昼間にお酒を飲みながら私の家で練習していたんです。
-:この頃の生活は?
シカロ:私は人に流されてばかりで、「本当の私ってどこにいるんだろう」と思っていた時期でした。それを書いた曲です。あと、意味をあえて曖昧にしたくて、英語の歌詞も入れました。日本語なのか英語なのか分からないような感じにしたくて。
染谷:私はそこ、意味はいらなくて、音だけでいいと思っていました。
シカロ:私は一応意味を考えていたんですけどね(笑)。当時出ていたライブハウスで「なんであんなフワフワ歌ってんの」「はっきり言え」って言われて、「じゃあ逆にもっとやってやろう」ってなりました。
-:ライブハウスでそういうことを言われるんですか?
シカロ:言われましたね。最初の頃は結構意見されました。
染谷:しっかりバンドっていう感じのライブハウスに多く出ていたので、「その2人の良さでもっと明るくやれよ」みたいなことをよく言われました。
シカロ:表情なく歌っていたら「ずっと怒ってるの?」とか言われたりして(笑)。まあでも、面白い曲になりました。「世界観」ってよく言われたんですけど、この曲を作った頃から、その意味が少しずつ分かってきた気がします。

タカハシシカロ

「マッソの歌」──大切な友人に届かなかった言葉

-:「マッソの歌」は?
シカロ:固有名詞なんですけど、「マッソポーニ」っていう友達がいて。「下衆milk.」でギターを弾いてくれていた子です。私が名付け親で。専門学校を出て料理人になったんですが、当時仕事から逃げ出してしまって。1人ですごく悩んでいたんだろうなと思いを馳せて、その時何も気づけなかった、助けられなかったことがすごく悲しくて、それで作った曲です。
染谷:ちょっと独特な子で、自分のことをあまり話さない子だったんです。今はイタリアで10年近く働いています。「下衆milk.」の頃の青春時代も重ね合わせた曲で、夏がテーマになっています。
シカロ:「下衆milk.」は夏が大好きだったので。夏を目一杯楽しんでいて、これからも楽しみたいけど、それが当たり前には続かないっていう切なさを含んだ曲です。
-:音作りはどんな風に?
染谷:最初はキーボードだけで作ろうとしていたんですけど、しっくりこなくて、何年も寝かせてしまって。最終的には、当時のキーボードだけのものよりもう少し開けた感じで、キラキラした印象を意識して作りました。
シカロ:しんどいこともいっぱいあるけど、「先には希望しかないよ」っていう思いを込めた曲です。

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『いとまのすいけい』/ 沼アートワーク
『いとまのすいけい』/ 沼
2026年7/1リリース
フォーマット:CD
レーベル:MY BEST! RECORDS
カタログNo.:MYRD172
【Track List】
01. 見えない雨
02. 下衆のうた
03. ゴッタルド峠
04. ダンス
05. めにうつる
06. 踊るように歩く
07. 14時
08. マッソの歌
09. ミファソファミレド
10. 点描
11. 夢を見たんだ
12. にとなみ
ディスクユニオン
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2026.9.22 12:00

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