【INTERVIEW】沼『いとまのすいけい』──“余白”の中で揺れる12の物語を語る

沼(ぬま)は、タカハシシカロと染谷藍による、大阪を拠点に活動する2人組ユニット。高校の軽音楽部で出会った2人は、パンクバンド「下衆milk.」での活動を経て、卒業と同時に「沼」を結成した。全曲の作詞・作曲をタカハシシカロが、編曲を染谷藍が手がけ、トイポップやフォークの手触りを残しながら独自の音像を作り上げてきたこのユニットは、結成から10年以上を経た今年2026年7月、待望の2ndアルバム『いとまのすいけい』をディスクユニオンのレーベル、MY BEST! RECORDSからリリースした。前回のインタビューでは2人のプロフィールを中心に語ってもらったが、今回はアルバム収録曲を1曲ずつ掘り下げ、「沼」の音楽がどう生まれてくるのかに迫った。
進行/まとめ:金野篤(MY BEST! RECORDS)
「見えない雨」──擬音語ひとつから広がる世界
- -:収録順に1曲ずつ話を聞いていきましょう。アルバムの曲順を考えるのに時間かかったけど、2人の数年分の時間の流れを敢えて断ち切ったんです。だからこそ、多くの物事が見えてくる作りになったと思うのです。まずは1曲目「見えない雨」から。
- タカハシシカロ(以下、シカロ):Aメロとかは結構暗い気持ちで書いた曲で。当時ちょっと落ちてる時期があって、「また明日も明日が来る」っていう気持ちを書きました。しんどくても大丈夫だよ、じゃなくて、「ああ、また今日も明日になってしまった」っていう気持ちですね。
- -:曲と歌詞、どちらが先にできるんですか?
- シカロ:だいたい全部同時です。ギターを弾いてそのまま歌って、出てきた歌詞を後から整える。逆に、メロディと歌詞が先にできて、そこにギターを入れることもあります。
- -:曲ができたら、すぐに染谷さんに見せるんですか?
- シカロ:ちょっとブラッシュアップしてから出すこともあれば、「めっちゃいいの出来た!」と思ったらそのまますぐ出します。
- 染谷藍(以下、染谷):曲をもらったら、歌詞も確認したうえでどんな世界観にするか考えます。「見えない雨」に関しては、最初からタカハシに「チャカポコしたイメージ」って言われて。
- シカロ:そう、「なんかチャカポコチャカポコって感じで」って(笑)。
- 染谷:それだけなんですよ(笑)。音が簡素で、打楽器っぽくて、メロディ主体じゃないんだろうな、っていうのを汲み取って形にしていく感じです。リズムのイメージというより、音の雰囲気そのものというか。
- シカロ:(染谷)藍さんじゃなかったら、私も自分の曲を渡さないし、藍さんじゃなかったら私の曲をイメージ通りに形にできないと思う。だから「沼」に誰かが入るなんて絶対あり得ないです。
- 染谷:擬音語みたいなイメージだけをもらって、そこから曲を作っていく。「見えない雨」は打楽器中心で、色んな木の音を表すような表現にして、タイトルと雨っぽい雰囲気を汲み取って構築しました。
「下衆のうた」──高校時代のバンド、そして「沼」の原点
- -:続いて「下衆のうた」。これはアルバムの中では一番古い曲になるんですか?
- シカロ:これは高校時代に組んでいた「下衆milk.」というバンドのことを書いた曲です。時代背景としては高校の頃なんですが、実際に曲ができたのは10代の終わり、18歳の頃なので、「沼」の歴史の中では古めの部類だと思います。
- 染谷:私たちが一緒に組んでいたバンドですね。
- -:「下衆」ってあまり使わない言葉ですよね(笑)。「milk.」というのは?
- 染谷:その時は可愛いと思ってたんじゃない?
- シカロ:私が考えた言葉です(笑)。「下衆」という悪い言葉を、「ミルク」っていう可愛い言葉で中和したイメージだったと思います。あとから知ったんですけど、実はBLANKEY JET CITYと繋がっていて。私、元々めちゃくちゃブランキーが好きなんですよ。
- -:この曲ができた時、染谷さんはどう思いました?
- 染谷:かなり初期に渡された曲で、あの頃はお互い曲作りが自分の中で定まっていなかった時期だったと思います。
- シカロ:私は家を出て初めて1人暮らしした部屋の白壁の隅っこで、自然とメロディが出てきたのを覚えています。「下衆milk.」のことは絶対に曲にするってずっと思っていて。自分の中に蓄積してきたものが、勝手に出てくる感じですね。
- 染谷:「下衆milk.」はパンクっぽいバンドだったので、「沼」ではそれとは違う音楽をやろうという意識がありました。リコーダーや鉄琴といったおもちゃ楽器を使いたいという方向性は最初からあって。実際にレコーディングする時は、あのバンドの高校時代の切ない情景を思い浮かべながら、リコーダーを使って、より歌ものに寄せたメロディラインで仕上げていきました。
「ゴッタルド峠」──牧歌的な響きに込めた痛み
- -:「ゴッタルド峠」も、また少し暗い時期の曲でしょうか。
- 染谷:言ったら、暗いっちゃ暗いですね(笑)。
- シカロ:これは染谷さんに曲を渡した瞬間に伝わったみたいで。すごくたくさん食べて、吐いてしまう時の気持ちを曲にしたものです。
- -:「ゴッタルド」というのは?
- 染谷:固有名詞です。実際にスイスにある峠の名前で、曲の内容とは直接関係はありません。
- シカロ:自分が適当に弾いた感じが「なんか峠っぽいよね」って染谷さんに伝えて。すごく暗いことを歌っているんだけど、ポップにしたいという話をしました。
- 染谷:曲が完成してから、そのイメージで「牧歌的な感じにしたいね」ってなって、峠の名前を調べていったら、なんだか悪魔にまつわる伝説があるらしくて。「これええやん」ってなって。語感とその背景、曲の雰囲気を掛け合わせてタイトルがつきました。
- -:この頃の曲は、基本的に根っこが荒れている感じがしますね(笑)。
- シカロ:何かに対する苛立ちで書いていた時期でした。10代・20代前半は荒れてた感じです。最近の曲はそういうことはないですね。
- 染谷:ここら辺は「沼」の初期から2023年頃に作った、ちょっと古めの曲です。
次ページ「「ダンス」──止まっていた時間が動き出した曲」へ
![]()
『いとまのすいけい』/ 沼
2026年7/1リリース
フォーマット:CD
レーベル:MY BEST! RECORDS
カタログNo.:MYRD172
【Track List】
01. 見えない雨
02. 下衆のうた
03. ゴッタルド峠
04. ダンス
05. めにうつる
06. 踊るように歩く
07. 14時
08. マッソの歌
09. ミファソファミレド
10. 点描
11. 夢を見たんだ
12. にとなみ
ディスクユニオン
Amazon
『いとまのすいけい』/ 沼
Amazon
2026.9.22 12:00

">
">
">
" >
















