【INTERVIEW】For Tracy Hyde『Ethernity』


うすうす気づいてはいたけど、そもそもこの作品をパーフェクトに理解できるひとってそもそも数少ないんだ(管)

–:2020年というと、管さんが以前から影響を公言していたThe 1975の新作『Notes On A Conditional Form』が発売されましたけど、聴かれました?
管:聴きましたよ。曲単位ででしか好きになれないですね……とっ散らかってることの美学はわかるし、コンセプト上ああいう作りにするのもわかるんです。でも、ポップ・ミュージックとして楽しいか?といわれたら、楽しいものじゃないなと。
–:なるほどです。
管:そういう意味で言えば、コンセプトがあって、個々の楽曲強度が強い、ポップスとして楽しめるファーストアルバムってやっぱり凄いなと思いますね。ファーストアルバム以上の感動は他の作品では感じてないです。とはいえ、今の時代・このタイミングに出すべき作品だと思います。……どう思った?みんな。
U-1:深夜徘徊とか一人で散歩するときのBGMとしては凄く良い。でも、家でしっかり聴こうと向き合うようなアルバムじゃないなって思ったな。
管:ある意味では、そこも含めてすごく現代的なのかもね。
U-1:そうそうそう。



–:The 1975は、ドラムやリズムの部分でまずロックバンドらしさからは抜け出して、ハウスミュージックやアンビエントミュージックにいったわけですよね。そのせいもあって、実は3枚目と4枚目ではセールスがグっと落ちてしまっている。管さんのおっしゃるようにポップスらしくないからということでしょうね。
U-1:ああ、なるほどです。
管:うん。
–:話の矛先を変えますけど、管さんは2010年代初期のソロではチルウェイブ性の強いエレクトロ・ポップな曲をいくつも作ってましたし、『he(r)art』でもシンセサイザーを多用するなど、ラップトップミュージックらしい部分を積極的に取り込んできましたし、管さんもThe 1975からの影響は話されていた。どこかのタイミングでFor Tracy HydeはThe 1975らしい作風にもなれた、とは思うんです。いま考えてみていかがでしょう?
管:そっちの道をいく人はストイックだなと思うんですよ。僕は自分やメンバーが気持ち良くできる音楽をやれればと思うんです。そういう気持ちを捨ててまで、作風をグッと変えて音楽を作るのはできないよな……ってのは思いますね。
U-1:草野さんの仰るように、そっち方向もやろうと思えばやれるんだと思います。
管:そうね。
U-1:でも僕の勝手な話になるけど、いまは辞めておいたほうがいい。そもそも僕らはまだまだこの規模ででしかやれていないので、もっともっと大きいスケールにバンドが成長しないと、この方向性には振り切れないよね。
管:そうだね(笑)行くとこまで行く、行ききらないと、このスケールと音楽性は望めないなと。



–:『Ethernity』というアルバムのコンセプトはいつ頃に思いついたんですか?
管:前々から「アメリカについての作品を作りたい」という気持はがあったんですよ。それがこのタイミングになるとは思ってはいなかったんですけどね。実は、2020年7月にレーベルから急に「アルバムを作りませんか?」と打診をうけて、そのタイミングで考えていたアルバム用のコンセプトやネタがなかったんですよ。どうしようか……って悩んだ時に、「アメリカについての作品を作ろう」と決めましたね。
–:社会情勢や時勢……BLM運動やLGBTからの影響などは抜きにして、むしろカルチャーとしてアメリカが面白いからこそ、そういった作品を作りたいと。
管:そうですね。「アメリカについて描きたい」というのが先にあって、いまの社会情勢も考慮して……というような流れでした。
–:アルバムの制作はどのように進んだのでしょう?以前にインタビューしたときには、管さんがある程度トラックを作って、各メンバーに投げて、そこから出来上がったものを合わせていくというような流れでしたよね?
管:そうですね、今回もほとんど同じです。今回はMav.くんが作った曲もあったんですけど、基本的な流れは同じです、作曲者が音頭をとっていく形です。
–:なるほど。レコーディング自体はどのように進んだのでしょうか?
管:基本的にはスタジオに集まって収録しました。いつも通り、トリプルタイムスタジオの岩田さんに手伝っていただきました。けど、やはりコロナ禍だったので、メンバー全員が集まって「せーの!」で合わせたいところ、スタジオに入れる人数に制限が出たので、バラバラに収録したんですよ。僕のギターとリズム隊の3人で先に収録して、つぎにリードギターとボーカル、順々に収録しましたね。
–:先ほどの話のように、キツキツなスケジュールで進んだりとかは?
管:むしろちょっと時間がかかったんですよね。大変だったのは、一発録りなら5人がドラムに合わせて録れるんですけど、今回はバラバラに録ったので、クリックに合わせるかドラムに合わせるかでグルーヴが全然変わったりとかして、そういう苦労がありましたね。
U-1:正味4か月とかかかったよね?
Mav.:前回と決定的に違うのは、今回は先にスタジオを抑えてしまって、途中で録音できる曲がない!みたいなことになったよね?間に合ってないぞ!?と(笑)
管:ホントに突然に声がかかったので、まったく備えていなかったんですよね。オフモードというか、充電期間にする時間だと思っていたので、急には出てこないぞ!?みたいな。



–:最新作『Ethernity』というタイトルですが、これは「ether」とか「Etetnity」を掛け合わせた造語でしょうか?
管:「ether」というよりは、「ethereal」という形容詞のほうですかね。儚いものとか一時的なもの、という意味に近いでしょうかね。
–:なるほどです。今作でやっぱり注目すべきなのは、明確な名前や場所、製品名までちゃんと出し、人の暮らしや生活を描写していることで、現実の生活感をすごく強く感じたんですよ。オバマ大統領の演説を使っていたり、「赤白青の旗」という言葉が出てきたりしていて、これまでの作品に比べると、より聴いているリスナーの現実世界を歌っているし、そこに近づいた作品だと思えました。
管:これまでの3作品は僕のパーソナルな感情や体験から生まれている部分がすごく多かったんですけど、今作ではあまりないんですよ。外の世界の出来事、アメリカでいま起きていることとか、コロナ禍で見てきた映画からインスピレーションを得た部分が多いですね。
草稿:ぼくとしては、リスナーが一番共感ができない作品できないかなって思ったりしますね。
eureka:共感できるできないというよりかは、そもそも今までの作品は「私は~」っていう主観が中心にあった3作だったけども、この作品ってパーソナルじゃなくなった時点で客観的な部分のほうが大きい作品じゃないかなとわたしは思いますね。
U-1:「Radio Days」もそういう曲よね。
管:そうそう。あの曲は一人称じゃなくて全部三人称の歌詞になってる。
–:ちょうど映画で言うなら、登場人物ではなくカメラマンになっているんですよね。ぼくは主演でも助演でもなく、カメラマンとして撮り続けている、そういう作品になってる。
管:そうですね。「あの街では、あの人がこういうことに巻き込まれてるみたいなんだ」っていう風に描いたんですよ。それが暮らしに近いっていうふうに言われたのは面白いですね。
–:聞いたとき思ったのは、政治的な部分をいったん抜いたとしても、アメリカの社会や状況を知ったうえで、ある程度のリアクションとして作品表現として出してくるっていうのは、J-POPなどを含めた日本のポップス全体としてみたとき、あまり見られない表現にはなると思うんです。
管:それは確かにそうですね。
–:それに、日本の立場からアメリカの暮らしについて、その人たちの生活や暮らしについて語ろうっていう作品は、あまり見られないと思ったんですよ。
草稿:もしも歌詞で今までのような流れでアメリカについて書いたら、かなりクサくなってしまうんだよね。
管:当たり前だけどウソっぽくなるよね。
草稿:そうそう。いまの話を聞いてみると、たしかに落としどころがとても上手いなと。
管:あとは、ドリームポップやシューゲイザーをやっているバンドが割と政治から距離を置こうとしているのをみていて、「むしろそこと向き合うことで意義があるんじゃないか?」と思ったんですよ。個人的なポイントとして、思想を押し付けたりはしない、右や左のどちらかに偏って肯定するものではなく中立な立場で描こうとしていて、何かを考えるきっかけを与えつつ、答えになるようなものは一切提示しないようにしたんです。
eureka:「こういう話をしても、タブーでもなんでもないよね?」ってね。
管:そうそう。こういう話もしてもいいよね?っていう温度感に仕上げる、そこは気を付けましたね。
–:むちゃくちゃ伝わってます。登場人物らの動きや生活は見えるけど、そこになにか政治的なあれそれや主義主張があるようには読めなかったですね。
U-1:ぼくも今作を作っていく中で、「アメリカってどんな国で、どういう状況なのか?」というのをどんどん勉強しましたね。
管:とはいえ、僕らを聴くリスナーはどうしても音楽と社会を別々に捉えがちなところはあると思ってますし、今作も「For Tracy Hydeのアルバム」としてでしか受け取られていないなというのは実感してます。
草稿:そもそも、日本人にはこういう歌詞ってそこまでウケるものじゃないよなぁってのもあるよね。
管:作っていてうすうす気づいてはいたけど、そもそもこの作品をパーフェクトに理解できるひとってそもそも数少ないんだよね。日本人はアメリカ人のライフスタイルや環境、歴史や文化を全部わかっているわけではないし、アメリカ人は日本語を理解できるわけでもない、かなり限られた人にしか伝わっていかないようなアルバムになったなと。オバマ大統領のスピーチをああやって使っても、どのくらいの方がしっかりと受け取れるのか。
–:でもさっき仰ったように、「社会に目をむけよう」というメッセージや描写を表現するということ、それはやはり意義がある作品だと思いますよ。作り終えて、どのような作品だと思いますか?
管:うーん……先ほども話したように、結構突然なところから制作があって、突貫工事な部分があったのは否めないんですよね。本当ならもっとアレンジを突き詰められたかもしれないし、半年以上の時間があってジックリと制作と向き合えれば完成度があげられたかもしれない。とはいえ、これまでの作品でも一番キレイな流れが出来てる作品だと思ってますよ。
U-1:ちょっと話はズレますけど、この作品作ったあと、すでに次のアルバム用としてショートデモを作ってるよね?管くん。
管:そうだね。7曲くらいかな。
U-1:今作は今までとは違ったサウンドにも手をつけた作品で、そのこともあって良いバランスで曲が作れるようになったって話してなかった?
管:うん。
U-1:それを聞いたときに庵野秀明監督のことを思い出したんですよ。『シン・ゴジラ』の制作で得た経験や技術が、『シン・エヴァンゲリオン』の制作に大きな影響を与えたっていう話で、それはいまのFor Tracy Hydeにも当てはまってるなって。1枚目から3枚目まで作ってきて、4枚目ではそれまでと違った作りの作品を生み出したことで、彼の創作にも幅ができたのかなと。
管:今までは甘いギターポップを作りがちだったんですけど、今作ではマイナーキー中心の暗い曲だったり、リズムが遅い曲をちゃんと作れたなと思うんですよね。
–:実際、グランジっぽい曲が数曲入っていて、こういう曲もやるのかって驚きましたね。
U-1:今までだと世界観を壊さないように、ある程度指示通りに音作りをしていたんですけど、今回では開き直ってメチャクチャにしてやろう!くらいの勢いで攻めたら、案外バッチリとハマったなという感じでしたね。驚きでした。
管:発売後の制作は実際とても調子がいいので、僕らの活動をトータルで見たときに、今作はプロセスとしてどこかで通るべきアルバムだったんだなと、この話を通して気づけましたね。

インタビュー:草野虹




『Ethernity』
/ For Tracy Hyde
2021年2/17リリース
フォーマット:CD/デジタル配信
レーベル: P-VINE, Inc.
カタログNo.:PCD-94012
価格:¥2,400(税抜)
【Track List】
01. Dream Baby Dream (Theme for Ethernity)
02. Just Like Fireflies
03. Interdependence Day (Part I)
04. Interdependence Day (Part II)
05. Welcome to Cookieville
06. Radio Days
07. Desert Bloom
08. Chewing Gum USA
09. City Limits
10. ヘヴンリイ
11. The Nearest Faraway Place
12. Orca
13. Sister Carrie
14. スロウボートのゆくえ
amazon
Apple Music
Spotify




1 2 3

2021.5.5 12:00

カテゴリ:INTERVIEW, PU2 タグ:,