【INTERVIEW】For Tracy Hyde『Ethernity』

For Tracy Hydeの新作『Ethernity』が2月17日に発表された。
ギター・ポップ、シューゲイザー、ドリームポップを奏で続け、東京のシーンでも異色な存在として輝き続けてきたバンドだ。indiegrabとしては『he(r)art』以来となるので、今回はこの数年分の活動をいま現在から振り返っていただきつつ、2020年のコロナ禍での生活と制作、そして『Ethernity』のこと。
自信も伺えつつも、悔しさもすこし口に出す。5人のトークからは見栄や謙遜といったものからは無縁の、2021年に生きるバンドマンのリアルな心境、独自の道を進むミュージシャンのプライド、ハッキリと聞くことができた。

このバンドが計画的だったことなんてほとんどないですよ(管)

–:管さん、お久しぶりです。
管:お久しぶりです。
–:indiegrabとしてFor Tracy Hydeへのインタビューをするのが『he(r)art』のとき、2017年以来になるんですね。
管:そうなんですよね。だいぶ久しぶりな気がします。
–:ということで、2017年の『he(r)art』以降の流れを拾いつつ、今作の話へといきたいと思います。
管:了解です。丁寧にありがとうございます(笑)
–:いえいえ(笑)『he(r)art』の発売記念のワンマンライブ、自分は諸々あって行けなかったんですが、自分の友人が足を運んでいて、「凄く良かった」って話していたのが印象的だったんですよ。
管:へぇー……あのときは渋谷のO-nestだったかな?
U-1:そうだったはず。
–:そういう話も聞いていたので、「早く見に行きたいな」と思ってたんですが、2018年にドラムスを務めていたまーしーさんが脱退され、草稿さんへとメンバーチェンジしました。当時はどのようなことを考えてらっしゃいましたか?
管:『he(r)art』はエレクトロニックな部分が大きくなったアルバムで、彼はもっとギターポップ畑の人間だった。バンドとしてやりたい音楽と、ドラマーとしての資質、当時はその部分で食い違いが大きくあって、バンドとしてももっとステップアップしたかった。最終的には脱退へと繋がった……という感じですね。
–:なるほどです。草稿さんがメンバーに加わった理由というのは?
Mav.:ぼくと草稿とU-1がもともとBoyishでいっしょにやっていて、もっというと大学のサークル時代から彼と僕は一緒にNumber Girlを何十曲もコピーするみたいなことをやってて、彼のプレイがよく分かっていたんです。そういえばTenkiame(管梓が中心になって活動していた某ロキノン系ジェネリックバンドのこと)でもサポートで叩いてたよね?
草稿:そうだね。
Mav.:ぼく、草稿、管、U-1の4人で面識があって、お互いのプレイや感覚が分かっている。ということもあって、自然と彼の名前があがって、加入してもらったっていう流れでしたね。
草稿:eurekaとだけは面識がまったくなかったんだよね。
Mav.:そうだね。
eureka:うん、そうでしたね。
管:そっか、そこ初対面スタートだわ。
–:eurekaさん的には、自身が途中から加入されていて、ドラムスが新作を出した直後に代わって……という一連の流れはどういう風に見てましたか?
eureka:最初のメンバーとはだいぶ違うというのは知っていたので、「こうやってバンドは変わっていくものなんだな……」と思ってましたね。
管:メンバーが一回も変わらないままで進むバンドって、ほとんどいないですからね。
–:逆に変わらないほうが珍しいですしね。
管:うん、ほんとそうですね。
–:2018年に入ってからのお話をザックリとお聞きしたいんですけど、For Tracy Hydeの活動と並行して、アイドルグループ「・・・・・・・・(ドッツ)」などへの楽曲提供や、他のプロジェクトも進めてらっしゃって、かなり多忙だったんじゃないかな?と思うのですが、いかがでしょうか?
管:うーん、どうだろう。1年を通して忙しかったというのはないんですよね。アルバムを制作しようとなってからアルバム用に楽曲を作っていく流れになっていくんです。ぼくは「放っておけば勝手に曲を作るというタイプ」では全くないので、アルバム制作の終盤になってガっと曲が増えて、メンバーの作業量も増えていき……ほかのメンバーに申し訳ないなと。
Mav.:ほんとに増えるよね、しかも突然に増える(笑)
草稿:いやでもね、創作者として考えると、終盤に曲やアイディアが増えるのは良いことだと思うよ。
Mav.:確か『NEW YOUNG CITY』のとき、楽曲提供とアルバム制作が重なってむちゃくちゃしんどいときなかったっけ?
U-1:あったね。
草稿:あの頃は全然デモがあがってこなかったな。
管:たしかに、でも忙しかった覚えがあまりなかったな。
–:傍から見ていると・・・やはり多忙だったということになりますかね
U-1:たしかに(笑)
Mav.:Sobsとツアーが2019年の1月だったよね?
管:そうそう。Sobsとのツアーのときに「櫻の園」と「Girl’s Searchlight」の2曲だけあったんだよね。
eureka:そうそう。
Mav.:そのあとの3月ぐらいからガツガツ作っていった覚えがありますね。
管:……やってたっけ?
–:でも、『NEW YOUNG CITY』は9月にリリースですよね?16曲あったアルバムで14曲分を数か月で制作したということですか。
Mav.:最終的に終わったのが6月末だった覚えがありますね。
管:そこまで早かったっけか。
Mav.:7月頭がデッドラインだった覚えがあるんだよね。3月から6月の春から梅雨の時期に、制作を一気に進めて、リハで2回くらいバンドで合わせて、そのままの勢いでレコーディングに進んだはず。
管:そっか、MVを7月に出してたね。



–:なるほどです。作風にコンセプチュアル性があるし、もっと計画的に、例えば1か月に1曲は仕上げていこう!みたいな流れなのかと勝手に考えてました。
管:いやー無理ですね。このバンドが計画的だったことなんてほとんどないですよ。
eureka:そうですね(笑)
U-1:計画的だったことなんてないよな。
Mav.:ないね。
草稿:うん(笑)
管:1作もないですよ。そんな長期的な計画で録音していったことなんて。
eureka:いま当時のスケジュールを追いかけて見直してみたんだけど、2日でリハして、3日間でレコーディングするっていうスケジュールになってるね(笑)
管:それ確か連休のときの収録だったよね、せっかくの連休が……(笑)
草稿:思い出した、そのときオレめっちゃキレたんだよ。家に帰れると思っていたのに。
–:帰れないじゃねぇか!と?
草稿:そうそう(笑)
U-1:言ってたね、それ。可哀そうだなと思ってたわ。

『NEW YOUNG CITY』は00年代末から10年代のジャパニーズ・シューゲイザーを決算できたアルバムなんじゃないのかなって思ったんです(Mav.)

–:『NEW YOUNG CITY』に関するインタビューがいくつかあって、ちょっとそこから引っ張ってきたいんですけども、<「あの頃はバンドを辞めようと本気で思ってた」と話を振ってみたら、他のメンバーもちょうどその頃、同じことを思っていたみたいで。メンバーの共通認識として「バンドが終わるかもしれない」というのがあった。 >と。
管:はいはい、確かにしてましたね。
U-1:ぼくと管くんの間ではそういう話はしてたよね。
管:なんというか、数枚アルバムを作っていく中で、やりたいことをやり尽くしてしまったように思ったんです。長く活動をしていく上でマンネリ化が一番怖くて、僕らのバンドは1枚でいろんなことをやってしまうので、この先なにをやっても「これ、前に聴いたことあるな」っていう風にアルバムを重ねていくごとにリスナーから飽きられてしまうように思ったんです。しかもそういう状況を避けられるような想像もできてなかったんです。草稿ともそういう話したよね?
U-1:そうそう、ちょこちょこしたね、レコーディング中とか。でも結局、楽曲制作が進んで世に出してみたら、そういう気持ちも消えたよね。
管:うん。楽曲が出そろって、レコーディングして、リリースしてみたら、「この不安もぜんぜん小さかったんだな」って思えたんですよ。
U-1:そうね。「これでもいいね」ってね。
eureka:マリッジブルーかなにかみたいね(笑)実は私はぜんぜん気づいてなかったんです。結構能天気に「よし、ギター弾くぞ、頑張らなきゃ!」って思ってました。
Mav.:正直言って、バンド活動外の生活、他のお仕事で手一杯になっていたっていうのもあって、ぼくも全然気づいてなかったんですよね。
U-1:もっと言っちゃうと、一体感みたいなのはなかったかもね。メンバーが同じところを見れていない感じというか。
管:うんうん、それも話した覚えがある。でもこうして振り返ってみると、実は僕ら2人だけが重くとらえすぎていただけなんだなと。
草稿:このバンドのなかでも悲観的な2人だからでしょうね。
U-1:ほんまそうな!(笑)



–:とはいえ話を聞いてみると、2018年を通じて様々な制作活動をしつつも、For Tracy Hydeとしてどういう曲を作っていけるかという不安が管さんのなかにあって、2019年の初め頃まではそれが尾を引いていた感じですよね。
管:うん、そうかもですね。
草稿:サードを作るきっかけになったのって、どのタイミングくらいからなの?
Mav.:オレも知らないな。
U-1:前々からずっと構想みたいなのはあったんだよね。「せっかくトリプルギターだからこだわりたい」「60年代ロックを探求したいね」みたいな話を2人でしていたよね?
管:してたね。「トリプルギターにもなるし、ギターベースなサウンドにしようか」みたいな話をどんどん2人で進めていったんだよね。
U-1:俺は作曲とかはほとんど手伝わないのに、口出しして管にめっちゃ作らせるんですよ(笑)
管:……バンドの共通認識といわれるものは僕ら2人で作ってるようなところはあるかなぁとは思います。
草稿:まぁバンドの初期メンバーだしね。
U-1:そうそう。最初期のメンバーだからね。
–:『NEW YOUNG CITY』から数年経ちましたけど、現在から見てこの作品はどういう作品だと感じてますか?
U-1:やっぱり「トリプルギター」というのは大きいよね。
管:うん……そうだね、僕らがいまいるシーンとしても「トリプルギター」を追求しているバンドはいないですし、他のバンドとは違うというのを示せたのは大きいかなと思ってますよ。あとは、作曲者・アレンジャーとしての幅を広げるうえでも、こういう作品を生み出せて幅が広がったかなと思います。



管:あとは、ライブ映えを意識して、同期をもっと減らしたいっていう話もしていて、3本のギターでライブをするとアンサンブルがギターメインになって、シンセなどの同期演奏がかなり減って、ライブそのものの感じが変わったんですよね。草稿もどんどんバンドに馴染んでいったこともその要因で、よりロックぽくなった。
U-1:さっきも言いましたけど、60年代の追求も今作でできたのは大きいんじゃない?管君のルーツだし。
管:全部が全部というわけじゃないけど、ところどころのエッセンスとしてはちゃんと出せたかなと。
U-1:で、やりきって思ったのは、「もう既にそういう部分はしっかりあったんだな」と(笑)再発見できたんですよ。
管:そうだね(笑)意識しなくても自然と出てるんだなって。





Mav.:すごーく大それたことをいうと、00年代末から10年代のジャパニーズ・シューゲイザーを決算できたアルバムなんじゃないのかなって思ったんですよ。ぼくは同人音楽のシーン、同人音楽即売会のM3やニコニコ動画内のニコニコインディーズ、あとはミクゲイザー(ボーカロイド+シューゲイザー)といったシーンのなかにいて、J-POPらしいメロディセンスとシューゲイズなサウンドをどうやってマッチさせていくか?という流れを草の根からやっていくを見てきたんですよ。なので、僕らのアルバムでドリームポップらしくこういう作品を作れたのは大きいなって思うんですよ……めっちゃくちゃ主観入ってますね!(笑)
U-1:でもさ、それはめちゃくちゃ分かるわ。2010年代の最初の頃って、ニューゲイザーとかドリームポップの流れがガッツリあったやん?
–:The Pains of Being Pure at Heart、Asobi Seksu、Beach Houseなどですね。
U-1:そうですね。ああいう要素も取り込みつつ、うちらが最初期からやってるギターポップさともつなげて、しっかり形にできたという達成感はすごくよくわかる。
管:そうみると、このアルバムは日本ででしか生まれないアルバムなんだよね。洋楽っぽいサウンドデザインだけど、J-POPのメロディラインがちゃんと入っている。日本だと色んな国の音楽がちゃんと聴ける部分があるだろうけど、アメリカやイギリスだとどうしても自国や英語圏の音楽だけで完結してしまう部分がどうしても出てきてしまうけど、そこに留まらないで音楽が生まれていくというのは日本の音楽らしさだと思う。





草稿:ぼくは1作目で思うところって正直そこまで多くはないんだけども、管さんが僕のドラムに合わせるように作曲したのかな?って思ったことが多々あったんだけども、どうなの?
管:それね、実はそうなの。
–:なぜそのように?
管:さっきも話してましたけど、Number Girlのコピーを多くやっていたこともあって、アヒトイナザワっぽいドラムスで、ライブ映えする激しいドラムを叩くんですよ。彼に合わせた曲を作れたほうがバンドとして良いと思ったので。
草稿:「繋ぐ日の青」を聴いたとき、「こういう曲も叩かせてもらえるんだ」って率直に思ったんだよね。
–:『NEW YOUNG CITY』を聴いてみて、前作の反動もあってかかなりロックらしいアルバムになったなと思ったんです。トリプルギターになったことやドラムスが変わったことで、ここまで激しい音を出すバンドになったのかと。
管:やっぱりセカンドアルバムまでだと、リズムに対する意識が薄かったんだと思うんです、良くも悪くも。サードは楽曲を作るときにも、スタジオで合わせたり、ライブをやっていくなかでも「リズムを感じさせる」という意識は強く感じていたので。
eureka:いまずーっと話をきいてて、そういえばあの頃メチャクチャ体調が悪かったことを思い出しましたね……(笑)
–:申し訳ないです(笑)つぎに行きましょう!

>次ページ:僕は自分やメンバーが気持ち良くできる音楽をやれればと思うんです。



『Ethernity』
/ For Tracy Hyde
2021年2/17リリース
フォーマット:CD/デジタル配信
レーベル: P-VINE, Inc.
カタログNo.:PCD-94012
価格:¥2,400(税抜)
【Track List】
01. Dream Baby Dream (Theme for Ethernity)
02. Just Like Fireflies
03. Interdependence Day (Part I)
04. Interdependence Day (Part II)
05. Welcome to Cookieville
06. Radio Days
07. Desert Bloom
08. Chewing Gum USA
09. City Limits
10. ヘヴンリイ
11. The Nearest Faraway Place
12. Orca
13. Sister Carrie
14. スロウボートのゆくえ
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2021.5.5 12:00

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