【REVIEW】SONASILE / 網守将平(PROGRESSIVE FOrM)
マルチチャンネルのサウンドインスタレーションなどアートシーンとの関わりも多い音楽家、網守 将平による1stアルバムは自身のこれまでの幅広い活動を総括するように、ネオクラシックからラップトップミュージック、ポップ、コンテンポラリーアート等あらゆる要素を丁寧に積み上げたアルバムに仕上がった。
1.sonasile
冒頭からタイトル曲が登場する。響板の鳴りを含めたアンビエンスのコンテンポラリー感覚の一方で無調前夜の近現代的な旋律と和声がとても美しいピアノ曲だ。中盤の短調からシーンを切り替える瞬間がとても美しい。強すぎず、弱すぎない丁寧な打鍵が印象的だ。
2.Pool Table
前曲の終盤から徐々に溢れるノイズは、このトラックに入って静かに和声を見せる。しかし突如、切り進むリズムトラックがノイズの流れを分断する。再びノイズの役割が展開する。表面上のシーンの切り替わりが背景を作るノイズの役割を変えていく様は見事だ。そして朴訥なヴォーカルをシンプルな旋律が引き立てる。混沌を混沌のまま受け取り美しく表現する手法は幅広い音楽的な素養をうまく盛り込むことに成功している。
3.Kuzira
電子音とオルガンがドローン的な効果をもたせつつ、ゲストボーカル柴田聡子による透明感のある歌がゆっくりとトラックに染み入る。絵画的な歌詞と幾何学的な旋律が奥行きをもたせている。終盤のブレイクが仕掛けるダイレクトなアプローチがとてもインパクトを持って迫る。
4.Stab/Text
エレクトロニカメソッドを慎重にたどるトラックの複雑ながら漂う安心感と、カットアップされた言葉によるミクスチュア感覚が心地よいトラック。ノイズの組み立て方は端正なアッサンブラージュの立体感覚を連想する。
5.Flat city variation
前曲の安心感から一転してフリーなサウンドコラージュからはじまるが、次第に輪郭が見えて来る。ミッドセンチュリーな音色の中で引き続きカットアップされたテキストが埋め込まれているが、幾分かのユーモアとラウンジ感溢れる構成が惹きつける。中盤のトラック解体から再構築に至る組み立て方が見事。エンディングに向けて繰り返される旋律のモチーフがとても美しい。
6.LPF.ar
限りなく無調に近いピアノの低音フレーズが印象的だが、叙情的な旋律を織り込みつつ、やはり印象派的なアプローチを響かせる展開に引き込まれる。随所に挟み込まれたエレクトロニカアプローチが慎重にピアノとピアノの空間を埋め尽くしているが、時折見せる空白、打鍵を響かせる展開との振れ幅がとても面白い。終盤はアンビエンスのみを響かせて静かに、しかし緊張感をもって終わる。
7.atc17〜8.env Reg.
そのままフィールドレコーディングコラージュに移り変わり、そこから本作中では比較的シンプルなリズムトラックにミニマルなフレーズが追随するスタイルへと移行する。ブレイクのユーモアもそもままに、次のトラックへと間断なく続く。ここではリズミカルな譜割りが印象的なBabiのヴォーカルが浮遊するサウンドに乗せて繰り返される転調を優しく辿る。中盤のノイズが織りなすポリリズムはそれでいてシンプルに響かせる力量が素晴らしい。
9.Sheer Plasticity Of The Lubricant
本作中もっともアブストラクトな仕上がりだが、通貫するノイズから和声がしだいに骨格をあらわす手法を極限までシンプルに提示する。低音が残る中盤でゆっくりとシーンを切り替えるまでの無限音階的な断面と、その後の静謐なコード展開の対比が面白い。開かれた和声とそれを辿るように奏でられるピアノの終盤の展開も印象的。
10.Mare Song
淡くエンディングに向かう前曲から静寂をはさんではじまるトラック。ここでは端正でシンプルなノイズのリズムトラックに古川麦のギターが馴染む。古川麦もやはり多様な音楽を奏でるアーティストであり、両者の美学が交差する中盤からの流れはとても幻想絵画的。本作中、もっとも歌がフロントに配置されているトラックでもあるがあくまでもさりげなく上品なアプローチになっている。冒頭とエンディング、いづれも静寂と余韻を大事にした作りになっており独立した作りも引き込まれる。
11.Rithmicats
タイトル通り、もっともリズムトラックの粒が立っている。リズムトラックをそれだけでポップに仕上げるというのはとても難しいように思う。そういったアプローチが自然に生まれているところが印象的。この多様なアルバムをどう締めくくるのかという点で興味を持って聴き進んだが、実に軽やかにポップに詩的にそれをまとめあげている。
ストリーミングが主流になる中で、アルバム単位の作品の捉え方は多様化しているだろう。そんな中でもやはり1stアルバムに込める力というのは多くのアーティストがそうであるように、ある種の力みが心地よく響くことがある。そしていつか再び回帰するときに原点が垣間見られることがある。すでに多様な展開を十分に発揮した上での1stアルバムだが、今後どう展開していくのか、とても楽しみだ。
テキスト:30smallflowers(@30smallflowers)
『SONASILE』/ 網守将平
2016年12/2リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD64
価格:¥2,000(税抜)
【Track List】
01. sonasile
02. Pool Table
03. Kuzira
04. Stab/Text
05. Flat city variation
06. LPF.ar
07. atc17
08. env Reg.
09. Sheer Plasticity Of The Lubricant
10. Mare Song
11. Rithmicats
リリース特設サイト
2016.12.31 21:00
カテゴリ:REVIEW タグ:JAPAN, progressive form, 網守将平
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