【INTERVIEW】『タラスコン・イヤーズ』で辿る、90年代の横川理彦


録音からミックスまで自分でやったのだけれど、スタジオ時間の半分以上は歌詞を書いてた。煮詰まると、近所の銭湯に通ってました

–:『MEATOPIA』は、横川さん、今堀恒雄さん、松本治さんの3人によるインスト・バンドのアルバムです。 MEATOPIAというバンドが結成された経緯は? またバンド名の意味は?
横川:当時、練馬区桜台(江古田の隣)に住んでいて、Tipographicaの今堀君、松本さんが近所で仲良しだったのです。松本さんが六本木ロマニシェス・カフェでの3人のセッションを企画し、これがレギュラー化して行ったので、私がMEATOPIAと命名しました。MEATOPIAは当時練馬区にあった肉屋のチェーン店で、豚がシェフの格好で肉を宣伝する看板が名物。軽い気持ちで命名したので、イタリアにツアーに行ったときに「ミャオトピーア」と大声で紹介されたときは「しまった」と思ったものです。
–:MEATOPIAではライブ、CDでそれぞれどのようなことをやろうとしていたのでしょうか?
横川:最初は、3人曲持ち寄りのセッションでした。VIVID SOUNDとの契約で、もう1枚CDを作れそうだったので、海外ツアーをするための宣伝キットとしても使えるなという目算はありました。ツアーの時には、ドラムの外山くんを加えてTipographica度を高め、さらにTipoの海外ツアーに繋がっていけばいいのに、と勝手に思っていたものです。
–:『DIVE』と『Solecism』はDIW/SYUNレーベルからリリースされたソロ・アルバムですが、DIW/SYUNからリリースすることになった経緯は? 制作に際してレーベル側から要望のようなものはあったのでしょうか?
横川:当時、平沢進君の事務所だったI3がディスクユニオンと組んでDIW/SYUNを設立した時に、平沢君から誘ってもらったのです。I3が持っていたホームスタジオを3週間くらいまとめて使わせてもらって、その間に1枚作る、というのを2回やらせてもらって2枚できました。内容については、お任せだったけど「なるべく歌ってほしい」というリクエストはあったような気がする。録音からミックスまで自分でやったのだけれど、スタジオ時間の半分以上は歌詞を書いてた。煮詰まると、近所の銭湯に通ってました。
–:銭湯でいいアイデアや歌詞がひらめくことはありましたか?
横川:これはもうほぼ絶対に、煮詰まっている問題の曲の歌詞ではなく、ほかの曲のアイデアが浮かぶ。何曲か並行して作っていたので、銭湯に行くのは作業効率が良かったです。歌詞は、そのまま考えても出てこないので、シチュエーションを想定し、出来事をそのままドキュメンタリーとして言語化していました。
–:『Dive』と『Solecism』というタイトルにはそれぞれどのような意味があるのでしょうか?
横川:『Dive』は同タイトルの曲が先にできて、アルバム・タイトルとしても相応しいと思いました。新鮮なところに飛び込んでいくワクワクする感じ、期待と不安。『Solecism』は、北園克衛さんの「ソルシコス的夜」からの引用・変形で、元を辿ればバスク地方の踊りらしいのですが、言葉の響きに孤独感もあり、私小説的な作品集といったニュアンスです。
–:『Dive』と『Solecism』はカップリングした編集版という形で後にリイシューされ、今回もそのリマスタリング・バージョンが使用されています。オリジナル仕様で今回収録しなかったのは何か理由があるのでしょうか?
横川:2017年に自分のCycleレーベルでリイシューしていて、マスタリングも含めその内容に満足していたので、それをそのまま使うことにしました。CD5枚組であれば、オリジナル仕様にしたかもしれません。リイシューした時には、2枚のアルバムでスタイルや内容が重なるものは良い出来のものを残す、というやり方で、さらに同時期の実験的作品『Air』を足しています。これは、ちょっと調子の悪い換気扇の音を生録音し、それを直接MIDIに変換した後に、誤変換したデータを強調する形でエディットしました。



この音環境が自分の作詞や曲のタイトル等に大きな影響を与えています

–:振り返ってみて、これらの作品を発表した90年代は横川さんにとってどういう時期だったと思いますか?
横川:ソロ・アルバムを作るのが軸の1つだったけれど、これ以外にMetrofarceをやってライブツアーと3枚のフル・アルバムを作り、実験的なスタンスの演劇の音楽も年2回くらい連続して渋谷ジャンジャンとかで公演。あと90年代の後半になると、毎月異なる相手とデュオで演奏する「TWO OF US」のライブ版も始めて、月1回ずつ、全100回のライブを高円寺の(今はなき)ペンギンハウスでやりました。こうやってまとめて見ると、とても元気だったと思う。
–:90年代はハウスやテクノ、ドラムン・ベース、アブストラクトヒップホップなどなど、ダンス・ミュージックの動きが盛んでしたが、横川さんは90年代のクラブ・カルチャーをどう見ていましたか? 面白いと思っていましたか? また、ポスト・ロックやエレクトロニカなどの、いわゆる音響系の動きについては?
横川:それらのムーブメントの中にはいなかったけど、面白いと思ったし随分影響もされました。エレクトロニカが一番近しかったかも。ただ、94年にロンドンでカンパニー・ウィークの最終回、5日間のコンサートを全部見て、デレク・ベイリーに心底感動し、完全即興ができるように修業していたのが94年から2000年代初めまでの自分の流れです。
–:デレク・ベイリーのライブのどういうところに感動して、自分でも表現できるようになりたいと思ったのでしょうか?
横川:その場で、何もないところから音楽を立ち上げ、しかも共演者がいる。自由でいるための表現、というところです。デレク・ベイリーの音楽スタイルを、メソッドとして真似ることはできるし、70年代からずっと見聞きはしていたのですが、94年に感動したのは音楽の方法論とパーソナリティの完全一致です。うまくいかないセッションもたくさんあったし、共演者に台無しにされてしまうことも良くあるけれど、オーディエンスも含めて自由な場を造ることに100%賭けている。
–:90年から現在にかけて音楽の制作環境が目まぐるしく変化しました。ソフトやハードウェアの変化は当然サウンドにも変化をもたらしますが、作詞などの面にも影響はありましたか?
横川:私の現在の音楽は「パソコンから音を出しスピーカーやヘッドフォンで音を聞く」という、いわばコンピュータと自分のデュオで、90年代とは随分違います。そして、この音環境が自分の作詞や曲のタイトル等に大きな影響を与えています。とはいえ、自分の今のテキストは、大きく括ればヒップホップの影響下にあって、これはベイルートやキンシャサで現地の若者たちとセッションした2000~2011のワークショップで自分のスタイルが大きく変化したと自覚しています。例えば、再スタートした2004年以降の4-Dでのテキストは、全部ヒップホップのつもりで作りました。
–:自分のスタイルが変化していくうえで、ヒップホップのどういう部分がどのように作用したと思われますか?
横川:音楽性としては、低音重視のアフリカ系ビート・ミュージックでダンス志向のシンプルなサウンド、歌・ラップもリズムが大切かつメッセージを乗せ韻を踏み、膨大なエネルギーがあって即興性も高い。「その場ですぐ作って、サウンドが良く、オーディエンスとじかにコミュニケートする」、余計なものがないのが良いです。



聴いて楽しんでもらえば、それでとても嬉しい

–:00年代に入って4-Dが再始動したのは、今この3人だったら面白いことができる、という予感のようなものがあったからですか?
横川:小西君や成田は、やりたがっていたと思う。自分も楽しかったです。内容がきちんとするのには時間がかかって、再始動後3枚目のオリジナル・アルバム『胤(inn)』でようやく1つの音楽性を示すことができたと思います。
–:ソロ、いくつものユニットでのライブや作品制作など、形態は違えど横川さんの創作活動には「異なった物をいかに異種配合させるか」という、異種配合/変容の面白さを追求しているところがあるように見えます。客観的に分析してみて、ご自身でもそう思われますか?
横川:結果的に、そうなってしまった。面白いものを作ろうとしてるだけなのですが、相手との関係性とか、時代の流行(ワールドミュージックとかヒップホップだとか)に流されつつ、棹さしつつ(両方の意味で)ということになるかしら。大きな音楽の伝統に沿っていると考えると気持ちいいのだろうけれど、手近にある材料でコラージュしているだけともいえる。せっかく良い区切りをつけてもらったので、さらにデッサン力をたかめ、精進していきたい。
–:現在の横川さんのファン、もしくは昔からのファンに、このボックスの楽しみ方のアドバイスがありましたら、どうぞ。
横川:聴いて楽しんでもらえば、それでとても嬉しい。楽しみ方としては、リマスタリングしたので、音が良くなってると思います。
–:横川さんのソロ、現在進行しているさまざまなユニットやプロジェクトで予定していることや発表できることがありましたら教えてください。
横川:ソロでは、コンピュータによる現代音楽/アンビエント的な音響を追求するCrackleの2枚目『Chill』を8月1日に発売、毎年続けてアルバムは10枚作り、何らかの映像を伴う形のライブパフォーマンスも続けていくつもり。完全即興スタイルのヴァイオリン・ソロも、ライブ・スペースOTOOTOのレーベルから10月10日発売、ライブもやります。ずっとやってる歌もの中心のソロ・ライブも、再開します。
ユニット/プロジェクトとしては、小西健司君とやってるSchneider×Schneiderがいい感じで脂が乗ってきている。全方位アートユニットとして深度を追求していきたいです。成田忍とやってるBlan( は、3月11日にアルバムを発売、同時にコンサートをやる予定が、コロナ禍で延び延びになっていて、来年にはコンサートやりたいです。あと、『TARASCON YEARS』でもしょっちゅう登場している、ギターの今堀恒雄君とドラムの外山明君とのユニットQuivaracも、9月29日の新宿Pit Innなどライブを重ねていくつもりなので、ぜひ現場で見て聴いて欲しいです。この他にも、セッションやプロジェクトがあるけど、今の社会状況で(外国との移動とか)どうなるかわからないところ多々あります。




『タラスコン・イヤーズ』
/ 横川理彦
2020年9/9リリース
フォーマット:4CD
レーベル:SUPER FUJI DISCS
カタログNo.:JSP400
【収録曲】
CD-1 [Two Of Us]
01. 硬い人 with 山口優
02. トラック・ラグーン with 平沢進
03. 誰もいない with 今堀恒雄
04. MIT CHANG with Haco
05. 雲の影 with 成田忍
06. ダム64 with 小西健司
07. 卍 with 北田昌弘
08. ボーダーソング with 伊藤与太郎
09. 再訪 with 外山明

CD-2 [TARASCON]
01. DO THE TARASCON
02. 坂をのぼる
03. TOO FAR
04. 町につくまで
05. 武家屋敷
06. STEP
07. 火をつけて
08. AIR SICK
09. BOB≒ROBERT
10. WHY?~WHY NOT?
11. OUT TO LUNCH

CD-3 [meatopia]
01. NEIGHBORS
02. タラスコン組曲3 / DO THE TARASCON
03. ミートピアの逆襲
04. INDONESIAN TIME
05. 天狗と散歩
06. ミートピア
07. タラスコン組曲2 / にんにく入りスープ
08. 青空だけど迷宮入り
09. フル・スイング
10. 黄金の時
11. オレはセクシーかい?
12. タラスコン組曲1 / ラッパと太鼓

CD-4[DIVE/Solecism(Edited)]
01.Dive
02.黄金車に乗る男
03.Call
04.ブルノでストンプ
05.外で泣く
06.つかまえて
07.5月のブギウギ
08.Twins
09.ソルコシス的夜
10.Walk Song
11.夢の先
12.辻師
13.On The Phone
14.月
15.眠る額
16.水の歌
17.See You
18.Air
詳細(ディスクユニオン)


CD-1 [Two Of Us]  
横川理彦(guitars,bass,violin,vocals,programming)
山口優(electric instruments,percussion,vocals on 1.)
平沢進(voice on 2.)
今堀恒雄(guitars,keyboards,drums on 3.)
HACO(singing,performing,electone on 4.)
成田忍(guitars,programming,vocals on 5.)
小西健司(programming,MS-20,vocal on 6.)
北田昌弘(hands-feet-voice,synthesizer,percussions on 7.)
伊藤与太郎(vocals on 8.)
外山明(drums,percussion,voice on 9.)

CD-2 [TARASCON]  
横川理彦(bass,violin,guitars,vocals,keyboards,etc…)
今堀恒雄(guitars,bass)
外山明(drums,percussions)
山口優(keyboards,programming)
ライオンメリイ(accordion on 1.7.)
磯部智子(chorus on 7.)
MINT-LEE(vocals on 11.)

CD-3 [meatopia]  
横川理彦(bass,bouzouki,mandolin,violin,voice,percussions)
今堀恒雄(guitars,bass,keyobards,mandolin,percussions)
松本治(trombone,trumpet,pianica,organ)

CD-4[DIVE/Solecism(Edited)]  
横川理彦(guitars,bass,mandolin,violin,vocals)
今堀恒雄(guitars,bass)
外山明(drums,percussions)
田村玄一(steel pan)
福来良夫(chorus)
小西健司(chorus)
Miss.N(voice)
ライオン・メリイ(accordion)
篠井英介(朗読)
松本治(trombone)

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2020.9.5 19:00

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