【REVIEW】Poor Homme / 骨架的
2012年頃からカテゴライズされたその音楽は「Vaporwave」という名前がつけられた事で注目された。例えば、MuzacやMondo、Chill OutやAORは辿っても辿っても全貌を把握するのは難しいだろう。一方でVaporwaveとしてカタチを変えて進化していく先の先を追いかけてもやはりそれが何かを把握するのは難しいかもしれない。常に揺れ動く音と言葉の関係、そんな中で2012年に発表された「safe」から3年、変わらぬスタンスを貫く作品が自身のbandcampから突如として発表された。
1. Midnight
冒頭のこのトラックは、前作Safeの見事に延長線上にある。パッド系のコードディレイとサックス風のフレーズ。次第に深くリバーブに沈み込むオープニングイントロダクション。
2. Thoughts
そしてヴォーカルサンプリングとピアノのやはりディレイ、ゆったりしたシンプルな音階のループでオープニングと続くタイトル曲の間をつなぐ。
3. Poor Homme
スロウなリズムトラックにブラス系の音色とピアノがやはりゆったりとからんでいく。ループのつなぎ方は意図しているのかエレクトロラウンジテイストの粗さを残したままだ。随所に細かく波形をエディットする手法を含めて安定のアプローチだ。メロウに流れるトラックだからか、2分半があっという間に過ぎていく。アリス症候群のように距離感が消失していく感覚をおぼえるトラックだ。
4. Right Here
タイトル曲もこれまでのトラック同様にそのまま次のこのトラックへと間断なくつながっていく。ややくもったスネアで少し気づいたが、このアルバムでは前作に比べて一層音の分離がよくなったように思う。Vaporwaveは元々そういった傾向にあるだろうが、こういう音をパーツひとつひとつ組み立てるのは中々の集中力を要するのではないかと思う。男性ヴォーカルのサンプリングにワンコードのメロウなトラックだ。
5. Tell Me
ここでようやくタイトルが明確に歌詞らしく使われるトラックが登場する。808のリズムバランスがエレベーターミュージックを逸脱した雰囲気を持っている。やはりディレイの効いたコーラスがダイレクトな808との対比で美しく交差する様が見事だ。
9. Breath
シンプルなリムショットにややファンキーなテイストをもったシンセベースがからむミニマルな構成の6曲目(Woman)、まさに80’sのコンテンポラリーソウルを連想させるエレピとリズムトラックの7曲目(Dreams)、トライバルなウィンド系のソロとスイングのかかったハイハットが印象的な8局目(Nature)を経て、これも従来からの作風を受け継ぐ電子音が登場するこのトラックは続く曲へのインタールードの位置づけだ。
10. Confusion
そして続くこのトラックはエレピとリムショット、ゆったりしたウィスパーなヴォーカルループ。無駄のないベースラインがクールに支えて時間がゆっくりと過ぎていく。ギターがコードを変えるタイミングで入り込むスライド音さえ大きく響くような繊細なミックスが冴え渡る。アリス症候群的な感覚に満ちた力作だ。
14. Forever
そして沈み込むようなスネアと湿り気を帯びた2声のコーラスが効果的な11曲目(Pain)、リバーブとノンリバーブの切り分けが見事な12曲目(One)、メロウに滑り込むボーカルとレゾナンスとBPMの変化が印象的なミックスの13曲目(Feel)を経て、ラウンジテイスト満載のこのトラックではさりげないコーラスと時折はさみ混まれる電子音がとても効果的だ。抑制の効いたミュートがリズムを刻むギターにサックスのインプロフレーズが乗っかってどこまでも続いていくレイドバック感を漂わせた美しいトラックに仕上がっている。前曲同様にBPMをエディットしている所はそのつながりを想像しても面白い。トラックは不思議な沈黙の中で終わる。
15. Real
アコースティックピアノの2コードがディレイに乗って紡ぐ上昇感とEQの調整の面白さ、非常にシンプルな作りのこのトラックでは静かだか音数を重ねるウッドベースが不思議と際立っている。聴かせたい音とミックスのバランスの巧みさが印象的だ。
16. Nobody
ダイレクトに80’sなスネア、明確なフレーズをもったヴォーカルのメロディーを支えるのは、シンプルなフレーズを均等につなぐシンセベース。断片的なイメージの積み重ねといった印象だが、このヴォーカルとベースの組み合わさった重奏バランスが見事だ。
19. Hologram
淡いパッドにシンセベースとリバーブの効いたリズムトラックで限りなく前作を受け継いだ17曲目(Anywhere)、ディレイをペーストさせたエレクトロニカ的なアプローチも見られる18曲目(The World)を経て、明確なリズムを持たせたこのトラックへとなだれ込む。パッドのコードの厚さと力強いキックが組み合わさって不思議とノスタルジックな雰囲気を醸し出している組み合わせが印象的だ。
20. Rain
最後を飾るのは、今作の中ではもっとも明確なブレイクビーツを持たせたトラックだ。やはりフレーズごとにディレイの効いたヴォーカルとループするリズムトラック。微熱感覚の中で入り込む間奏、再びヴォーカルに入ると細かくエディットされたつなぎを含めた細かな処理が効果的に織り込まれる。そしてトラックは唐突に終わりを告げる。
音の分離が一層明確になった、と感じた。そして、唐突にはじまり、唐突に終わる。沈黙についても何も語らない(強いて言えば、14曲目(Forever)のエンディングの沈黙は3年の沈黙を象徴している部分かもしれない)。ノスタルジックな瞬間は多々訪れるが、むしろミニマリストとしての静謐な美しさ、整合性、そしてそれを切り崩すような唐突さが入り交じった実に複雑に交錯する思念に満ちたアルバムだと感じた。
テキスト:30smallflowers(@30smallflowers)
2015.2.4 2:51
カテゴリ:REVIEW タグ:experimental, USA, vaporwave, 骨架的
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