【REVIEW】Zigoku from Hell / Computer Feeling(Tanukineiri Records)


http://www.tanukineiri.net/home/portfolio-item/tnr-061/
Computer Feelingが2006年から2010年の間に作った楽曲をTanukineiriから配信した。Poor Asian Danceを通じて配信されている新しいトラックなどで展開しているユーモアとは異なる側面がこれらのトラックには詰まっている。それは一言でいえば内省、すこし丁寧に言うと制作プロセスの魅力の詰まった作品集のようにも聴こえた。

1.LL
シンプルな単音旋律と低音ノイズにまじるスピークマシンのオープニングに続いて、短くカットアップされた音声やノイズがループするリズムトラック、そしてサウンドコラージュ。次第に織り込まれていくディレイの中で配置されたフリーなピアノのブロックコードが徐々にリバーブに溶け込んでいく。やがて時折浮上するリズムトラックが展開を予想させる。本作の冒頭になるこのトラックはアルバム全体を通して垣間みる安定したのノイズアプローチが鏤められた12分弱、試行錯誤のトラックだ。

2.OUT
続いて、再び低音のノイズからトラックははじまる。ただしこの低音は一定のフレーズを持ち続けている。そしてキックを中心としたリズムが次第に姿を見せる。IDMを離れた頃のAutechreのようなリズムトラックの組み方が印象的だ。最後には金属音のパッドがカットアップされてトラックを終える。

3.Friendly Ghost
前曲とのつながりがとてもスムーズなこの曲では引き続き、Autechreのようなリズムトラックの組み方が印象的だ。ここではややキックが明確に押し出されている。中間部の細かくエディットされたサンプリングの連なりはキック以外のリズムトラックの組み方をうまく見せている。エンディング近くになってようやく見せる808系のスネアやカウベルの音で本作中でははじめて具体的な音に触れる事になると気づいた。

4.Dig Dug
このトラックはややPoor Asian Danceにも通じる世界観を感じる。4つ打ち系のキックとシンセベース、リズムトラックの各パーツの役割は明確になっている。上もののアブストラクトなアプローチはヨーロッパ系のアンビエントテクノを連想させる美しい音が慎重に配置されている。

5.IDOL DEMON
ノイズを組み合わせて作った短いリフと女性ヴォーカルのカットアップ、グリッチ音に近い電子音と、BMPを意識しない波形の切り方、その組み方がポリリズム変拍子を作り出している。リズムトラックは2曲目OUTで見られたアプローチと近いが、中音域を中心とした音の選び方には違いがある。

6.GO TO HELL
アルバムタイトルに選ばれている「HELL」というキーワードがこのトラックのタイトルとして登場する。美しいパッド系の電子音にしだいに混じる不協和音、リバーブとディレイに乗る小さなノイズ成分によってトラックは静謐に進行する。後半に登場するリズムトラックは丸みを帯びた柔かな音作りが心地よい。アンビエントダブ色の強い美しいトラックだ。

7.Konica Tape
サンプリングレートの低いノイズを組み合わせて作ったリズムトラックのループに時折ピアノの低音が混じる。一定のBMPをキープする事の緊張感がLo-Fiで粗いノイズに繊細さを持たせている。中間部は次第に低音成分が細かく登場することでテンションを変えていくが、エンディングのピッチを変えながら登場するサウンドコラージュがこれらを包み込む。

8.ELECOM
前半のノイズ成分を中心としたリズムトラックはこれまでの作品と基本的には同じアプローチになっている。印象的なのは中間部で突如としてあらわれる明確なキックとスネアを中心としたリズムと、明確なコード進行をもったシンセ音。これらは次第にディレイの中でノイズに埋もれていくが、コード進行の印象が上手く残されていてやはり美しいトラックだ。

9.sea
6曲目GO TO HELLと並んでアンビエント色の強いトラック。比較的柔らかな音を中心として組まれており、タイトルからも連想させる水中あるいは浮遊感を伴った構成になっている。後半にはリズムトラックの中でノイズ成分が登場するが、前半から一貫して組まれている細かな電子音のシーケンスが楽想を統一させている。シリアスになり過ぎず、またエフェクト成分の少ないアンビエントトラックとして印象的だ。

10.TV Program Error
コトバが聞き取れる範囲で大きくサンプリングされているところは、その後の活動で見られるユーモアにもつながるかもしれない。キック、スネアが明確にその音を維持しながらリズムとして組まれている。コトバは後退し、性急なループがしだいにノイズを伴って登場する。エンディングのミニマルなベースラインが印象的だ。

11.Nekomura
最後のトラックはもっともアブストラクトな構成でリズムが組まれている。低音を中心としたノイズのカットアップ、中間部に組み込まれるヴォイスサンプリングやギター、複雑なリズムは次第に音数を増していく。突如として展開は静寂に落ちるが、そこからエンディングに向かう柔らかな電子音、サイン波からホワイトノイズに至るまで幅広い電子音が配置された構成はとても美しい。


基本的にはノイズ成分を細かくカットアップしたリズムトラックが印象的な作風だが、時折垣間みるサンプリングや、サイン波の使われ方を通して後の作品に繋がる要素が随所に見られるように感じた。アンビエントの美しさと細かなリズムの複雑さ、中音域の内省、レーベルのサイトにはアルバムを意識して制作したものではないというコメントが紹介されているが、数年に渡って作り続けられた作品群が通して違和感なく聴けるというのは制作アプローチの確かさという事なのかもしれない。

テキスト:30smallflowers(@30smallflowers


2015.2.19 2:00

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