【INTERVIEW】「さよなら平成」死神紫郎


それにソロでやっていると制作中にその場で批判してくれる人がいないですからね。仮想「アンチ」を育てて自分で自分を叱咤しながらやっています。

–:次の曲は表題曲‟さよなら平成”です。死神さんの中には、平成への名残惜しさと言うのは依然ありますか?
死神:名残惜しさはないんですけど、令和の実感がないので、まだ平成の延長を生きているような感じがします。自分の大部分を作った平成という時代の影響は大きいですね。
–:どちらかというと、平成という時代の暗い部分が凝縮されたような歌詞ですが、死神さんにとって平成は決して明るい時代ではなかったのですね?
死神:はい、暗い時代ですね。当然「便利になった」という明るい側面もあるんですけど、天秤に掛けたら暗いに傾きますね。
–:「便利になった」の部分は多く歌詞に反映されていますね。やはり平成を象徴するものとしてSNSの存在がありますか?
死神:SNSの存在は大きいですね。人との関わり方が大きく変わったと思うんです。mixiが登場したとき20代前半だったんですけど、戸惑いましたよね。オンライン上で「繋がる」とか「友達」になるって感覚が。最初、ねずみ講かと思って周りに相談したくらいですから。
–:他人と繋がることにかなりの違和感があったんですね。(笑) やはりそうした不信感はぬぐえないまま‟さよなら平成”(楽曲)の制作にあたられたのでしょうか。
死神:はい、現代における人との関わり方っていったいなんなんだ?というのが‟さよなら平成”(楽曲)の制作動機です。
–:「さよなら」というと一区切りついたようなイメージを持ちますが、この楽曲を通してそうした現代の人間関係にひとつの答えを見出すことは出来ましたか?
死神:オンラインにしろオフラインにしろ、ただ一つ確かなのは、人との関係は「さよなら」の連続、ということです。永遠に、ということはないんです。何故なら自分も相手もいつか必ず死ぬからです。「だからどうするのか?」それはその人自身が自分で答えを見つけるものだと思っています。
–:「さよなら」の「連続」ということは「さよなら」をしてもまた新たに続いていくということですね。となると、冒頭の「最後の交信」という歌詞は死を示唆するものではないのでしょうか?
死神:そうです。出会って別れてを繰り返して、最後は自分と「さよなら」するんです。「最後の交信」という部分は、死を示唆しています。でも、最後のつもりが、実は次のスタートだったみたいなこともありますから、そこは聞き手にゆだねている部分です。一つの正解だけでは面白くないので。
–:「最後の交信」の後はリスナーの解釈に任されるのですね。もう一つドキッとする箇所が、「まだやっていたのか!」という台詞の部分です。あの言葉を投げかけられているのは死神さんですよね?
死神:そうです。いつも人に投げかけてばかりいるので、たまには自分に投げかけてみようと。15年くらい活動しているんですけど、30年先でも「まだやっていたのか!」と言わせたいですね。
–:それは過去の死神さん自身の声なのでしょうか、それとも幻視した誰か他の人の声なのでしょうか?
死神:他人の声ですね。仮想「アンチ」のイメージです。
–:面白い存在ですね。仮想「アンチ」というのは常に死神さんの心の中にいるものなのですか?
死神:はい。自意識過剰なので。それにソロでやっていると制作中にその場で批判してくれる人がいないですからね。仮想「アンチ」を育てて自分で自分を叱咤しながらやっています。

どう考えても絶望的なんですけど、そこから見える希望もあるかもしれません。




–:客観性を持つための装置になっているんですね。次の曲‟牛は屠殺を免れない”での牛は人間のメタファーなんですよね。
死神:はい、牛がいわゆる“お肉”として人間に消費されるように、人間もまた人間に消費されてるからね、というシンプルな歌です。たしか6年くらい前に作って、数か月歌ってボツにしたのですが、ここにきて歌うべき時代が来たなと思って積極的に歌っています。
–:歌うべき時代が来た、というのは?近頃人間が人間に消費されている風潮が強まってきたということでしょうか?
死神:その通りです。作った当時以上に人間の消費が激しくなったなと。
–:“人間の消費”というのは具体的にどういったことを指すのでしょうか?
死神:分かりやすく言えば「労働力」の消費ですね。小学校から従順な人間を育てて思考力を奪って、散々働かせて壊れたらポイですから。
–:それが食肉として消費される牛と重なったんですね。
死神:そうです。まだ肉牛の方が人間に愛情注がれてる感じがしますね。現場はよく知らないのでイメージですけど。
–:ではかなり現実社会に絶望した歌なんですね。一方でサウンド自体はアップテンポで覚えやすい曲ですよね。
死神:はい、追い立てられるような雰囲気が欲しかったので。曲の長さも、2分弱とコンパクトにしました。これは「命の短さ」みたいなのも狙って削りに削りました。
–:短い命の中で、ただ消費されるだけに終わらないようにするにはどうすればいいと思われますか?
死神:まずは「消費されている」という自覚を持つことだと思います。それから、やりたいことはなるべくやって、やりたくないことはなるべくやらない。この「なるべく」ってところが実践のコツです。
–:それは人間に出来て、牛には出来ないことですね。‟牛は屠殺を免れない”はMVも公開されていますが、アルバムからこの曲を選んだ理由というのは何だったのでしょう?
死神:アルバムのフックになる曲だと思ったんです。あとは映像を天使弾道ミサイル(映像クリエイター)さんにお願いするならこの曲がベストだろうと思いまして。
–:天使弾道ミサイルさんにMVを頼もうと思われた経緯を教えていただけますか?
死神:天使弾道ミサイルさんは、私のミュージシャン仲間の弟さんなんです。6年前位にその仲間から「弟が最近映像撮り始めて…」と教えてもらって、その時に見た作品のCMがずっと印象に残ってまして。今回、新作のMVを誰に頼むかってなったときにTwitterで映像作家を調べていたら、彼の発信する映像にたどり着いたんです。
–:そんな経緯があったんですね。ロケーションに歌舞伎町を選ばれていますが、それはなぜでしょう?人間が消費されている場所としての色が強いという観点もあるのでしょうか?
死神:MVのストーリー・演出については、天使弾道ミサイルさんにすべて任せました。牛(人間)が牛舎(会社)から脱走して、自由な場所(街)へと逃げたけど、結局上手には生きられなかった、という内容です。歌舞伎町が撮影場所に選ばれた理由の一つとして、たくさんの人が集う「街」の象徴、というのがありました。
–:とすると、死神さんは「街」をこの世界において比較的自由な場所として捉えられているということでしょうか?
死神:いえ、自由だとは思っていないです。正確に言うと、自由だと思っていた場所(街)へと逃げたけど、そこは全く自由じゃなかった、という感じですね。
–:それはなんだか絶望的なお話ですね。逆に死神さんが「自由」を感じられる場というのはどんなところでしょうか?
死神:自由はないものと思っています。人や物と関わる時点である程度の制約や不自由が生まれるので。でもその中で、あえて不自由さを楽しめば良いんだと思います。例えば俳句みたいに五・七・五の枠をあえて楽しむみたいな。ちょっと逸れますけど、音楽に限ってはラッパーの人はそういうのが上手いですよね。呂布カルマさんなんか、ガチガチの4/4拍子の中で、自由に言葉を紡いでいるように見えますし。人生を豊かにする肝ってこれなんだろうなって思います。
–:「屠殺を免れない」状況を理解していながらもその中で生を楽しむということなんですね。一見絶望的な曲のように思えますが、希望が見えてきますね。
死神:そう感じてもらえると嬉しいですね。絶望を突き抜けた先の希望もあるんじゃないかと思って歌っているので。
–:最後に収録されているのは‟どうせいつか壊れてしまう人間は悲しい肉の飴細工だから”のライヴ・テイクです。なぜこの曲を選ばれたんでしょうか?
死神:ここ数年、よくライブで演奏してきた曲だからです。この曲はシングルで2015年に出したんですが、アルバムに入れてなかったので、じゃあ入れようかと。正直、4年前の曲なので作詞がまるでなってないんです。なんですけど、この曲にはタイトルだけ楽曲を運べる力があるんです。音楽のそういう不確かさも味のうちでしょう、というわけで収録しました。
–:ライブで磨かれてきた1曲なんですね。「タイトルだけで楽曲を運べる」というのは、そのインパクトゆえでしょうか?
死神:インパクト、そうですね。楽曲の中でタイトルをそのままを呪文のようにリフレインするので。聞き手に刷りこむつもりで唱えています。
–:聞き手に刷り込むことで、意識して欲しいことは何ですか?
死神:これは「どうせいつか壊れてしまう人間は悲しい肉の飴細工」だから、「あなたはどう生きる?」という問いかけでして、そこから先は自分なりの感じ方を大事にしてほしいと思っています。
–:死神さんの楽曲には問いかけが多く潜在しているのですね。最後に、このアルバムを通してリスナーに考えて欲しいことを教えて下さい。
死神:私もあなたも、1日、1日、死に向かって“生きている”ということです。どう考えても絶望的なんですけど、そこから見える希望もあるかもしれません。



『さよなら平成』
/ 死神紫郎
2021年4/3リリース
フォーマット:デジタル配信
【Track List】
01.序幕
02.続・自殺の唄
03.七人掛けの椅子
04.二足、影絵踏み
05.なにかの拍子
06.夢遊蝕-ムユウショク-
07.死角い浴室
08.さよなら平成
09.牛は屠殺を免れない
10.どうせいつか壊れてしまう人間は悲しい肉の飴細工だから(live)
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2021.4.3 12:00

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