【INTERVIEW】「さよなら平成」死神紫郎

死神紫郎による4thアルバム「さよなら平成」のデジタル配信が2021年4/3に開始された。
本記事は、2019年12月から2020年1月に掛けて行われた秘蔵の楽曲インタビュー。
ディスクユニオン週間インディーズチャート1位を獲得した楽曲の魅力に迫る。
(聞き手:清家咲乃)

時代についていけないので、いつも後ろを振り返っているんです。

–:4枚目のアルバム、リリースおめでとうございます。この時期、「令和」と言う言葉を使うのは判り易いのですが、なぜ今「平成」という言葉をタイトルに据えたのでしょう?
死神紫郎(以下死神):それは私が後ろ向きな人間だからです。時代についていけないので、いつも後ろを振り返っているんです。
–:なるほど。いきなりブラックボックスに手を突っ込んでしまったようですね。1曲目の‟序幕”はかなり和的な音使いをされていますが、これはなぜでしょう?元号という極めて日本的なシステムから連想されたわけではないですか?
死神: ‟序幕”は2006年作曲の古い楽曲なのですが、当時、日本の音楽に対し「外国人の真似ばかりしてるんじゃねぇ」という気持ちが強かったので、あえて演奏に洋楽器を多用して、わざとらしいくらい日本的な音使いをしています。「元号」からの連想というよりかは「日本」という大きな括りからの連想なので、無駄に壮大な感じになっています。
–:なるほど。かなり昔から構想のあった曲なのですね。今回のアルバムが総て”平成の終焉”を意識して作られたわけではないんですね?
死神: そうです。平成の終焉にふさわしい楽曲を“選んだ”という感じです。なので、古い楽曲は2004年のものもありますし、最新曲が未収録だったりもします。平成の終焉を意識して作った楽曲は、“さよなら平成”のみになります。
–:平成の間に作ってきた楽曲から選んだということは、平成の総括になり得ますね。
死神:あ、それは上手いこと言いますね。たしかにそうです。そういうことにしておいてください。

死ぬのが怖いんです、死神とか名乗ってますけど。




–:‟続・自殺の唄”には「続」とついていますが、これは?
死神:‟続・自殺の唄”の前に、2012年に発表した2ndアルバムに“自殺の唄”というのがあるんです。これを発表した当時、ミュージシャン仲間の横田ユウさんが、「あらゆる自殺方法で是非続編を…」と言っていたのを思い出し、作ることにしました。メロディは“自殺の唄”と同じですが、歌詞とキーが異なります。‟続・自殺の唄”には少しだけ希望の光をと思って、ラストに「いつかみんなしんじゃった」という私なりの救いの言葉を盛り込みました。
–:「いつか~」が救いの言葉というのは、何故なのでしょう?「いつか」という言葉が不確定性を持っているからですか?
死神:死のうとしている人の多くが、死にたいと生きたいの狭間にいるように感じたんです。「いつか」の部分は、今死ななくても、いつか必ず死んでしまうんだけどどうする?という問い掛けです。今死ぬ必然性がないなら、ぼやきながらでも生きてみるのも良いかもしれないし、死にたいという衝動にだけは殺されるなよと。
–:曲の冒頭と終わりに携帯のバイブレーション音が入っていますが、最後に突然止まってしまいますよね。まるで人間の鼓動のようにも聞こえます。
死神:最初の携帯電話の振動音は、死を目前にしながらも「誰かと繋がっていたい」「助けてほしい」「気づいてほしい」という生の欲求を表しています。ラストの振動音はそれにプラスして、現代人の心音とその停止をイメージしています。
–:なるほど。振動音は自殺志願者のSOSということですね。なぜラストで現代人の心音は止まってしまうのですか?
死神:それがまさに「いつか必ず死んでしまう」のところなんです。最後の振動が最後の心音、というわけです。
–:この曲では他にも効果音が用いられていますね。例えば、飛び込み自殺では電車のガタンゴトンという走行音、野次馬が遺体に向かってカメラのシャッターを切る音。これらはそれぞれ何を使って出した音なのでしょう?
死神:電車の走行音は、STOMP BOXという足踏み打楽器で出しています。ハイとミドルの音域をカットして「ゴン、ゴン」という音色を作っています。カメラのシャッター音はそのまんまなんですけど、ガラケーで実際に「カシャッ」とやりました。スマホ持っていないので。
–:スマートフォンを持たれていないという事ですが、歌詞には「ビューティープラス」というアプリの名前が出てきますよね。局地的に俗っぽい単語が出てくるのが面白いと感じたのですが、ご自身はアプリに馴染みがないのでは?
死神:はい、“七人掛けの椅子”という曲に出てきます。使ったことはないのですが、ビューティープラスで加工された画像はたくさん見ています。一応パソコンでTwitterをやっているので。
–:人の手によって加工された顔や風景を見て、どのように感じていますか?また、ガラケーを使い続けている理由とは何なのでしょうか?先ほどの発言からすると携帯を現代人のメタファーと考えられているようですが。
死神:おっかしいよなぁと思います。ガラケーに強いこだわりはないのですが、新しいモノ、環境に慣れるのが極端に苦手なんです。携帯、スマホは現代人の体の一部みたいに捉えています。
–:この‟七人掛けの椅子”は言わずもがな電車内での座席取りを皮肉った歌ですよね。死神さんご自身が見てきた光景から生まれたものですか?
死神:そうですね、電車の中には小さな「日本」が詰まっているという実感から作りました。席取り競争した挙句に、七人座れるはずの椅子に六人が悠々座っているのを見てなんじゃこりゃと。一人の犠牲の元に成り立つ安らぎ、これは不条理だなと。でも私も椅子に座りたい俗物なんです。すぐ疲れちゃうので。
–:私も同じ俗物なので、最後の「眠ったふりをした」という歌詞は自身を顧みさせられました。(苦笑)テンポの速いメインフレーズが使われていますが、そこは席取りゲームのスピード感を表現されているのでしょうか?
死神:はい。あの早めのテンポ感で、席取りのヨーイ・ドンの感じや、人々が行先へ急ぐ様子、足を踏んだ踏まないのトラブルやら、電車内特有のギスギス感を出しています。同時に「ガタンゴトン、ガタンゴトン」というビートを基調にして、電車のリズムも表現しています。ちなみにこの曲の原曲は古くて、2004年に作曲したもののリメイクverなんです。15年経っても嫌なことが変わらないんですね、因果なものです。
–:座席を争う光景は普遍的なものになりつつあるということですね。リズムといえば次曲‟二足、影絵踏み”が独特です。これも人の歩調を表現しているものですか?
死神:はい、そうです。「ズンチャッ、ズンチャッ」と人間の歩行のリズムを表現しています。途中、早くなるところは駆け足をイメージしています。と、インタビューを受けていて気付かされるんですが、好きなんですね、こういうアプローチが。
–:非常に耳に残るピアノのフレーズで、神経質な印象も与えます。死んだ後も陰になって歩き続ける、という発想はユニークであり恐ろしくもあります。
死神:神経質な音は私の性格由来だと思います。部屋はいつも汚いんですけど。人が死んだあと、影はどこに行くのだろうと空想を膨らませた結果、影だけがたくさん歩き続けることになりました。たぶん私は、影だけになっても生き続けたいのかもしれません。死ぬのが怖いんです、死神とか名乗ってますけど。
–:総ての人がそうだと思います。そういう意味では、救いのある曲かもしれません。ピアノは子供の頃習われていたそうですが、それからも定期的に触れてきたんですか?
死神:ピアノは小1~小4までやって一回辞めたんですが、X JAPAN聞いたらまたやりたくなって中1~中2で再び習いまして。で、高1で吹奏楽部に入って、パーカッションだったので、鍵盤打楽器のマリンバやらを叩くのにピアノでさらったりしてました。死神始めてからも数年に1回くらいは弾いてます。今も昔も簡単なのしか弾けないんですけど。
–:様々な楽器を経験されているんですね。弾ける楽器を一通り教えていただいてもよろしいですか?
死神:ピアノ、ギター、ベース、あとは打楽器全般なのですが、種類でいうとシンバル、マリンバ、シロフォンなんかが好きです。シンバルはあの両手で叩き合わせるアレです。マイシンバル持ってるくらい好きですね。実は今作でも数発叩いています。
–:そうなんですね。打楽器に通じてらっしゃるにもかかわらず、‟何かの拍子”では口でビートを表現しています。舞踏家・中嶋夏氏の稽古場でよくやるメソッドとのことですが、この曲のレコーディングには何テイクほど費やされましたか?
死神:3テイク録りまして、そのうちの1テイク目を採用しました。「こういうのは何テイクも録っちゃだめなんだよ。」と思いながら欲が出て3テイク録ったのですが、結局1テイク目が一番良いっていう。私のレコーディングでありがちなやつです。でもやらないと気が済まないんです。
–:3テイクというのは、1曲通して録ったものを3回分ということですよね?他の曲もつぎはぎせずにレコーディングされているんですか?
死神:そうです。1曲丸々通しでの録音を3回です。元々は2分くらいの尺だったんですが、中間部分が長く感じたのでカットして1分にまとめました。なので「一発録りを短く編集したもの」ということになります。他の曲は、ツギハギだらけです。イントロならイントロ、AメロならAメロ、それぞれ完成イメージがあるので、そのイメージに合うまで何度でも録り直します。ライブは勢いを優先しますが、スタジオレコーディングでは精密さを優先します。スタジオ録音は、表現したいことを正確に残すことに意味があると思っているので。これもまた、一つの魂の込め方だと思っています。「それじゃライブ感が無くなるじゃないか」と考えたこともあったのですが、ライブ感を最大源優先するなら、ライブ音源をそのまま売るのが一番良いと思ったので、現在では会場限定でライブ録音のCD-Rを販売しています。
–:ライブ感については、正論中の正論ですね。(笑) それにしてもツギハギに聞こえないところが凄いです。‟なにかの拍子”で、口から飛び出すビートが左右にパンする部分はどういったイメージで設計されたんでしょうか?
死神:エンジニアの原澤緯人(SONIC BAND STUDIO)さんの技術の賜物ですね。彼がいなければこの作品は完成しなかったです。左右にパンする部分は、楽曲の性急な雰囲気を更に煽るようなイメージで、ミキシングをオーダーしました。
–:確かになんだか急かされているような気もしますし、タム回しを聞いているような感じもあります。‟夢遊蝕-ムユウショク-”はご自身の体験が元になった曲だそうですが、不思議な歌詞ですね。短編の伝奇小説を読んでいるかのようです。
死神:伝奇小説なんてそんな大層なものじゃないんですが、一種の不思議体験ですね。夏場限定で、夢遊病になることがあったんです。目が覚めたら、ジャムを舐めたスプーンが枕元に転がってたり、冷蔵庫開けっ放しでその前に座り込んでたり。怖いというよりは面白がってました。「これは曲になるぞ」と。
–:起こることが食に関することばかりだったから夢遊病ではなく‟夢遊蝕“になったんでしょうか。その時ご自身の中で潜在的に食への執着が高まっていたということは考えられますか?
死神:そうなんですよ、寝ているときに食べてしまうのを勝手に「夢遊食」と名付けてまして、そこからもじりました。食への執着かどうか、寝ているときのことなので自分でもよく分からないんです。医者からは日常のストレスを食べることで解消しようとする働きだとか言われましたが、夏限定というところの説明がつかないので信じていないです。
–:やはり伝奇小説的な現象ですね。(笑) ご自身の身に降りかかる不便なことや不幸なことは「曲になるぞ」と捉えられることが多いですか?
死神:多いですね。ただ、曲にするのは随分あとになってからです。自分の中でその出来事を消化しきらないと曲にできないんです。
–:なるほど。弾き語りスタイルのアーティストの中には日記的な曲作りをする方もいますが、そうではないんですね。
死神:そうなんです、すぐに作るってことができないんです。そういう人を見ると羨ましいなって思うんですが、私の場合は、漏斗を使ってろ過するみたいに時間を掛けないとできないんです。マリア観音のVo.木幡東介さんが「“命”を懸けるということは“時間”を懸けること」というのを教えてくれて以降、じっくりと腰を据えて、テーマが消化されるのを待つようになりました。
–:木幡さんのお言葉は、ひっくり返すと時間の消費は命の消費に繋がるとも解釈出来て恐ろしくもあります。‟死角い浴室”もご自身の経験からろ過されて出来た曲なのでしょうか?
死神:はい。でも、これは白状してしまえばマリア観音の“懺悔の風呂場”の死神ヴァージョンなんです。“懺悔の風呂場”は「一人で風呂場にいるときの我が身を振り返る」的な内容なのですが、私は風呂場というキーワードに対して、自分が生きている世界を重ねてみたんです。自分がなにかしくじるとき、結局はいつも同じようなことが原因だよなぁ、ただ狭い風呂場の中でコケ続けて、浴槽の中を半分溺れながらあぶあぶ泳いでいるみたいだよなぁという。ということは、我が身の振り返りですね。
–:そうだったんですね。今も人生が狭い風呂場に感じるような閉塞感というものはありますか?
死神:閉塞感、ありますね。狭い風呂場にたくさんの人が詰め込まれているみたいで。
–:なるほど。内的世界、心の内を風呂場に例えたのではなく、自分の人生そのものが風呂場で生きているような感覚があるということなんですね。
死神:そうです。人生という“箱”を風呂場に例えました。それには内的世界観も含まれています。どっちなんだと言われたら、どっちもなんです。白と黒の境目があいまいなグレー色の曲です。今回のアルバムの中で、一番言葉で説明するのが難しい曲かもしれません。
–:このアルバムで一番難解な曲だと思いました。そしてこのアルバムで一番演奏が凪いでいる曲でもありますね。
死神:異質な曲だと思います。ライブではあまり演奏していないです。自分で作っておきながら難解だなぁと思って。
–:演奏しないというのは、難解さゆえにお客さんに伝わりずらいことを危惧しているからでしょうか?だとしたらアルバム収録曲向きとも言えますね。
死神:そうですね。普段の30分セットには不向きだなと。2マンや3マンのロングセットのときは、こういう曲も織り交ぜるんですけど。

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『さよなら平成』
/ 死神紫郎
2021年4/3リリース
フォーマット:デジタル配信
【Track List】
01.序幕
02.続・自殺の唄
03.七人掛けの椅子
04.二足、影絵踏み
05.なにかの拍子
06.夢遊蝕-ムユウショク-
07.死角い浴室
08.さよなら平成
09.牛は屠殺を免れない
10.どうせいつか壊れてしまう人間は悲しい肉の飴細工だから(live)
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2021.4.3 12:00

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