【INTERVIEW】fuishoo『One Day In The City』

2009年からプロのジャズピアニストとして活動を開始、2018年にはTREKKIE TRAXのコンピレーションに参加した異色のトラックメイカーfuishoo、本作は2018年にOMOIDE LABELよりの1stEP「morning」に続く、ボーカル~ボイスを前面に打ち出した待望の1stアルバム『One Day In The City』をリリースしたfuishoo氏に、アルバムを中心にお話をうかがった。

各曲が提示するそれぞれの特徴的な曲の色合いを楽しんでいただきたいです

–:まずはリリースおめでとうございます!今回の『One Day In The City』はfuishooさんの色々な側面が感じられ、全編凝縮された素敵な曲が満載ですね。まずはfuishooさんの作曲を含む創作への発想の源的なところを教えて下さい。
fuishoo:ありがとうございます。作曲の発想というところですが、私はメロディーやコード進行などが、急に降りてきたりするタイプではないため、まず楽曲の制作を始める前にコンセプトを決めます。例えば〇〇というジャンルから展開した曲を作るというコンセプトや、フェンダー・ローズを中心に組み立てた曲を作るなどのコンセプトです。それが決まった後、まずリズムトラックを作り始め、そのリズムトラックに一番最適に響くコード進行をざっくりとピアノ音源などで打ち込みます。その後、出来たリズムトラックとコード進行に乗せた時に一番化学反応を感じられるメロディーを考えます。そうして曲の大枠が出来たあと、シンセやベースなどの音色を足したり、先程のピアノ音色を別の音源に入れ替えたりなどして、一番効果的に響く音色のバランスを考えて曲を作っていく形です。
–:本作『One Day In The City』で聴いていただきたいポイントを教えて下さい。また全体でも個別でも何かコンセプト的なポイントはありますか?
fuishoo:本作は、色々な曲調の楽曲を含む、非常にバラエティー豊かな内容の作品となっています。ですので、各楽曲ごとに、ジャンルもまったく異なりますし、音色や音質などに関しても、曲ごとにまったく異なる方向からアプローチしている作品でもあります。一番聴いていただきたいのは、各曲が提示するそれぞれの特徴的な曲の色合いを楽しんでいただきたいです。また全体のコンセプトとしては、このアルバムはポストEDM系のジャンルが多くを占めています。ダンスミュージックの新しい流れである新規のジャンルが、私というトラックメイカーのフィルターを通してどのようの変容するのか、といったところがポイントとなります。



–:「One Day In The City」というのはとても素敵なタイトルですね。このタイトルにした意図といったところを教えて下さい。
fuishoo:以前にOMOIDE LABELからリリースした1st EPが「morning」というタイトルだったのですが、それに続くこのアルバムは、朝という始まりの時間帯を通過した、その後の1日の出来事という、物語性から付けたタイトルです。日中の活動的な都市の様々な出来事を楽曲で表現しているため、音楽的内容においても前作よりも攻めた内容となっています。
–:では各曲についてお聞かせ下さい。M1「花ト成ル」とM2「小森詩」でyuukiさんをフィーチャーされています。とても素敵な歌声の女性ですが、yuukiさんを起用しようと思われたポイント、またそれぞれの曲について聴き所など簡単にご紹介をお願い致します。
fuishoo:yuukiさんに関しては、昔から彼女の歌を知っておりまして、元々とても面識のあるシンガーです。また彼女の歌声の声質はリスナーの方々からも元々定評があります。今回起用しようと考えたのは、元々ギター弾き語りというアコースティックな音楽を演奏されていた彼女の歌声と、私の作るエレクトロニックなサウンドが、良い意味で化学反応を起こすのではないか?と直感で感じたからです。結論から言えば直感は正解で、とても良い楽曲に仕上がりました。M1「花ト成ル」ですが、これはElectronica的音使いと、EDM以降のダンスミュージックの融合がテーマとなった曲です。ですので、Electronicaで用いられるような音色を使いながらも、Build upとDropが存在します。またよく聴くとBuild upの部分に、ブラジルのダンスミュージックであるBaile Funk的リズムが薄く乗っていたりと、隠れたところで色々な要素を盛り込んでいますので、そちらも楽しんで頂ければと思います。またM2「小森詩」ですが、これはこのアルバムの中で唯一のyuukiさん作曲の楽曲になります。私は編曲を担当しました。この曲は彼女がかなり昔から歌ってきた、彼女のオリジナル曲で、私がこの曲の大ファンだったため、是非アルバムに収録させていただきたいとお願いした曲です。彼女によるメロディーも歌詞も素晴らしく、非常に印象的な曲となっています。



–:変わってM3「Two, Four, Six」M4「Ghost Town」では疾走感と濃密度に圧倒されかっこいいですね!こういった曲はどういった音楽などに触発されて創られたのですか?
fuishoo:ポストEDMを考察した時に欠かせないジャンルにFuture Bassがありますが、Future Bass最盛期にFuture Bassを制作していたトラックメイカーたちは現在では、ある人はFuture Houseに移行していたり、またある人はGarageに回帰していたりと、多くのトラックメイカーが次の表現方法を模索しています。そのポストFuture Bass的ジャンルのひとつに、Future Coreというジャンルがあり、これはFuture BassにUK Hardcoreの要素を融合したジャンルになります。M3とM4の2曲はそのFuture Coreを、自分流に解釈し直してアレンジし制作した楽曲になります。またそれとM3「Two, Four, Six」のブリッジ中間部分では、Richard DevineなどのIDMからも影響を受けた展開も取り入れています。



–:M5「Youth」やM8「Filter Tripper」ではガラージやフュージョンなテイストも見え隠れして素敵です。これらはfuishooさんがジャズピアニストであることや以前Nu-Jazz系のバンドをされていたことと関係してきますか?
fuishoo:私自身、ジャズプレイヤーとしての活動も行っていますが、正直なところでは、ジャズの表現方法にはある種の限界のようなものを常日頃感じていました。そんな際に私に強く新鮮な印象を与えたのが、EDM以降のポストEDM的なサウンドになります。ですので、トラックを制作する際、ジャズ的なアプローチというのは、意識的に避けるような制作スタイルをとっています。ですが、この曲にはジャジーなサウンドが有効だなと感じたのであれば、あくまで引き出しのひとつとして、ジャズ的アプローチを取り入れます。それがこのM5とM8という曲になります。



–:エンディングを飾る「Broken」はまさに他にないような展開も含め圧巻です!この曲の発想の起点など含めご紹介をお願いします。
fuishoo:前半の躍動感のあるパートでは、Ghetto Techに関連するJuke/Footworkというジャンルのリズムを取り入れています。厳密にJukeのリズムではないですが、自分というフィルターを通したアレンジしたリズムになります。また後半の重いベースが鳴り続けるパートは、従来のWobble BassやGrowl Bassを積極的に用いない、ポストDubstep系のサウンドに影響を受けています。また鳴り続けるノコギリ波ベースの音を、通奏低音として、その上にピアノ・メロを入れる事で、頽廃の中の耽美のようなものが表現できれば、と考え制作しています。また曲全体に渡って使われているピアノの音は、音の再現性と高音質において定評があり、映画音楽等でも使用されているIvory II というピアノ音源の、Steinway&Sonsモデルのピアノ音色を使用しています。



CD全体が一枚の絵画のようだと錯覚を覚えるような素晴らしいアートワークだと感じ、感動しました。

–:アートワークはコラージュで非常に人気の高いアーティストであるQ-TA氏を起用されています。どういった経緯でQ-TA氏に頼まれることになったのですか?また実際アートワークが出来た時、また現物のCDを手に取られた時の感想を教えて下さい。
fuishoo:アートワークを依頼する当初では、私の方でお願いしたいと思っていた方がいたのですが、諸事情で折り合いが付かず、その際にPROGRESSIVE FOrMのレーベルオーナーであるnik氏にQ-TA氏をご紹介していただきました。その際お忙しいにも関わらず、アートワーク制作を快諾して下さり、Q-TA氏には非常に感謝させて頂いております。また実際にアートワークが出来た時では、「都市の景観と緑の融合」というこちらのイメージを忠実に再現して下さっており、非常に感嘆しました。さらに現物のCDを手にとった時には、CD全体が一枚の絵画のようだと錯覚を覚えるような素晴らしいアートワークだと感じ、感動しました。


–:楽曲制作に対するアプローチや、楽曲制作で常に意識していることは何ですか?
fuishoo:音楽における流行や新しい文化は、できるだけチェックし、感銘を受けた部分に関しては、必ず取り入れるようにしています。また最新の流行も、ただそれを追うのではなく、自分の中で一旦咀嚼してから消化、自分のフィルターを通すことによって、オリジナリティーのある楽曲を制作できるようにと、心がけて意識しています。
–:これまでに影響を受けたアーティストを教えて下さい。
fuishoo:ボーカルのカットアップやエフェクト処理に関しては、in the blue shirtやNative Rapperに影響を受けています。また私のトラック制作における音楽性にとってFuture Bassは非常に影響の大きなジャンルになりますが、Wave RacerやPusher、Ujico*/Snail’s Houseなどもです。またIDM系ではAphex TwinやAutechreなどからも強い影響を受けています。また影響という意味では、ジャズプレイヤーとしての経歴の長さもあり、Charlie Parkerを始めとしたモダンジャズ全般からの影響も土台としてあると思います。
–:最近のお気に入りのアーティストや作品を教えて下さい。
fuishoo:hirihiriさんというトラックメイカーの方です。非常にポップでキャッチーなのに、ワールドワイドで活躍できるような音作りをされていて、とても注目しています。
–:フィーチャーや共演など、今後一緒にやってみたいアーティストはいますか?また、今後どのような創作を続けていきたいですか?
fuishoo:Electronicaやダンスミュージックなどで垣根を作らず、色々な方と共作させていただきたいと考えています。今後の創作活動は、ダンスミュージックシーンの流行も自分なりに追いながら、より感情に訴えかけられるようなメロディーやハーモニーなどを探求していきたいと考えています。
–:これからの音楽シーンについて、特にフィジカル、配信、ライブなど、アーティストの視点でみる今後や将来像的なところを教えて下さい。
fuishoo:音楽シーンはこれからもどんどん配信やライブにシフトしていくと感じています。その際にフィジカルに求められるのは、所有することで喜びを見いだせる所謂付加価値的なところだと感じています(アートワークや特典など)フィジカルも良い音楽を収録するのはもちろんのこと、商品トータルとしての価値を求められる時代になってきたのではないか、と感じています。



『One Day In The City』
/ fuishoo
2019年10/9リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD92
価格:¥2,200(税抜)
【Track List】
01. 花ト成ル feat. yuuki
02. 小森詩 feat. yuuki
03. Two, Four, Six
04. Ghost Town
05. Youth
06. Chocolate Is Damn Drug
07. Down, Down, Down
08. Filter Tripper
09. Toybox
10. Broken

All Tracks Written, Arranged, Mixed and Produced by fuishoo 2018~2019, Shizuoka, Japan

Except:
M1 Vocal & Lyrics by yuuki
M2 Vocal, Lyrics & Written by yuuki

Artwork by Q-TA

2019.11.8 13:00

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