【INTERVIEW】『Pandora』/ 武田理沙
一言で言って音がでかいんだよね
- –: 今作はプロデュース、ミックス、レコーディング全てご自身でやってるんですよね?
- 武田: プロデュースって言っても自分で作った曲を渡しただけですけどね(笑)
- –: 先日のマスタリングのお話が印象深かったんですが。武田さんの方では「いじるところがあまりないから曲間ぐらいしかいじらなかった」というお話でしたが……。
- 武田: マスタリング・エンジニアの中村(宗一郎)さんの方で「音圧高すぎてこれ以上いじりようがない」って言われてしまって。低音カットしても仕方がないと……。私、マスタリングの立会い初めてで勝手が分からなくって……普通こんなに作り込んでこないんですか?
- 金野篤(インタビューに同席中の発売担当 以下 金野): 一言で言って音がでかいんだよね。
- 一同: (笑)
- 金野: CDになったときにひずんだらどうしようって思って……まあギリギリのところじゃないかな?
- 武田: ギリギリですか!?
- 金野: 多分(レッドゾーン)超えてると思うんだけどね。
- –: 2枚目の曲はドラム割れるか割れないかぐらいの曲が結構ありますよね?
- 武田: ありますね。
- –: 一曲聴いてはタバコを吸いに言ってたとか……。
- 金野: 疲れるよね。
- 武田: 疲れますよね(笑)
- 金野: マスタリングのチェックをしなきゃいけなくて。音が割れてたりとか……一番心配なのはCD化が初めてで、デジタル音源をマスタリング・エンジニアに渡してデジタルノイズとかが残ってたらどうしようかなと思って。
一生懸命聴くと……やっぱり……結構……きついよね。 - 一同: (笑)
- 金野: 最終的に楽しい作業だったんでよかったけどね。
- 武田: CDにしたら多少収まった気もしますけどね(笑)
- 金野: いい感じに収まったね。
- –: 聞いていた話よりも色々あったんですね。マスタリング。
- 武田: 実は一度音圧下げて調整したんですけど、何か違う感じになって元に戻しちゃったんですよね。
- –: これは私見なんですけど、こうして話していると武田さんて柔らかいんですけど、その向こう側に荒れているというか……例えば現状に満足していないとか、現状を変えていきたいとかそういうエネルギーを感じて。それが全てあの音圧や楽曲に現れている気がするんですよ。
- 武田: 確かにそういうのありますね(笑)King Crimsonの「Earthbound」とか荒れている音源大好きで。そういう感じにしたくなる気持ちはありますね。
- –: このアルバム全体が武田さんの今までの聴いてきたり作ってきた音楽の集大成という感じがするんですが、disc2の「革命前夜」はそこからさらにフラクタルの構造となっており、この楽曲自体がそのような構造を取っている気がします。
- 武田: あの曲はdisc1に入れるか2に入れるか少し迷った曲なんですけど、やっぱりアルバムの最後の方に持ってこようと思ってあの位置に入ったんですよね。あの曲は途中までイメージが湧かなくて困っていた曲で、SoundCloudに1年ぐらい前に公開していた「Flood」の冒頭部分から発展させて作りました。かなりエモーショナルな感じになっていますね。
- –: 「革命」というのは何に対する革命なんですか?
- 武田: 自分に対する変身願望……じゃないですけど変化が起こる時に出てくる……マグマが出てくる感じというか、爆発するようなエネルギーがあるんですけれど、自分を変えるために命と引き換えに自分にその変化エネルギーを与えて、結果その変化に耐えられずに死んでしまって「ラスト・モーメント」につながってくんですよ。
とにかく自分の30年間に区切りをつけたいなと思って作ったんですよね。自分の一生……30年を閉じ込めて爆発させたかった。 - –: とにかく「今これを作らなきゃ」って意識を感じました。
- 武田: 今が自分の人生の中で一番エネルギーが多い時期だと思うのでそれを使って何かを作ろうかなと。
- –: 後、出し惜しみのなさですよね。
- 武田: そうなんですよ!「2ndの事も考えて小出しにした方がいいよ」ってたまに言われますが、「小出しにできない!」って思って(笑)2ndを作るときはまた作りたくなる曲がたくさんあると思うので、「現在しかなくていい」って意識で作ってましたね。とにかく出し切りたかった。
- –: 作り終わったとき大変だったんじゃないですか?
- 武田: 死体みたいになってました(笑)脱力して何もできなくなってました。
- –: 放出しきってたんですね。(笑)
今作はかなりアルバムとしての完成度の高い作品だと思いますが、世間的にはサブスクリプションの存在感が大きくなってきていて、アルバム単位で曲を聴くことが少なくなるだろうと言われています。
そういう時代にこのような密度の高いアルバムをリリースするという事をどのように思いますか? - 武田: 配信などがメインになるのは時代の流れとして自然だと思うので、それそのものには特に何も感じていないです。自分が配信で音楽を聴かないので、いまいち自分の世界の延長にあるものと認識できていないからかもしれません。今回のアルバムを通して考えると、曲調がとっ散らかっているというのもありますが、一曲ごとに成立していて、シングルで出したいぐらい色んなものを詰め込んでいるので、とにかく一曲だけでも好きな曲調のものだけでも聴いてほしいという気持ちが大きいです。
溜めていっていって爆発力を産みたかったんですよね
- –: この音源のデモを初めて聴いたときにジャンルの問題とか音圧の問題とか色んなものが想像を超えていて、どうやったらこの音源を自分の言葉で表現できるのかがわからなかったんですよね。
- 武田: この間JazzTokyo(jazztokyo.org)の安藤さんには「狂ったThis Heat」って言われました。
- –: すごい密度これで宇宙を創造したいのかなと思いましたけどね。
- 武田: 創造したいですね。創造したいし自分を超えたいです。
- –: アルバム作ろうって思った直接のきっかけってなんだったんですか?
- 武田: だいたいみんな自分の音源何かしら持っているじゃないですか。自分でDTMを始めた時にそういうのが欲しいなとは思ったんですけど、自分の即興演奏を入れたものにはしたくなくて、もっとじっくり考えて作ったものにしたいなと。でもやってくうちにどんどん飛躍していって「自分でもびっくりするものを作らなきゃ!」と……そうやって作っていくうちに時間が経ってしまって。
- –: デモアルバムを作ろうとしていたら2枚組みの1stアルバムになってしまったと(笑)
- 武田: こんなことになるなんて思ってなかったですね(笑)最初にSoundCloudにあげた曲……アルバムではタイトルが違うんですけど「嗚」をアップした時に色んな人が反応してくれて、その時に「ああ、この路線で面白いものが作れるんじゃないか」って思って、そこから本腰が入った感じですね。
あとは自分が聴きたい楽曲を作りたいという欲求もあって色んな曲を作っていったところもありますね。 - –: そこが「二面性」の部分につながっていくんですかね。
- 武田: そうですね。人から評価されたい自分もいるし、「私はこうなんだ」ってわかって欲しい分もあるし。そして本能のままにぶちまけている自分も大きくて………そして最終的には面白いから全部入れちゃえって思ってとっちらかっていきました。
長い時間かけて作っていると状況も変わるし自分の気持ちもどんどん変わっていったところもあって。今、出して良かったって思いますね。 - –: 作品を作るってモチベーションをそんなに長く維持できるってすごいですけどね。
- 武田: それこそ自分のソロ音源がなかったからかもしれませんね。自分を証明できるものを自分の納得できる形で出したかったって気持ちがずっとあったと思います。
どんどん音源を出していって変化を楽しむっていうのも良いとは思うんですけど、溜めていって爆発力を産みたかったんですよね。 - –: 爆発というのがテーマなんですね。
- 武田: 爆発って思うようになったのは東京に出てきてからなんですけど、それまでの思春期ぐらいに結構色々おさえてきたのもあって。それを今解消している感じですね。
- –: 思春期ってどんな感じだったんですか?
- 武田: 酷かったですね、引きこもりでした(笑)人前に出るのが怖かった事もあって。中学高校の時は美術部で絵を描いていました。人前に絶対出たくなくて。発表する時でも目の前に人がいるのが怖くて。でもそういう自分を変えたくてしょうがなくて。地獄みたいな毎日でしたね(笑)
- –: どちらかというと鬱屈した青春だったわけですね。
- 武田: 鬱屈してましたね!一番輝いているはずの時期が死んだような時期だったんですよ!
- –: 私の周囲にも青春時代がぱっとしなかったせいで年齢重ねてから爆発しちゃってる人結構いますね。
- 武田: そんな感じですね。今青春してます(笑)
- –: 青春に復讐している感じですね(笑)
- 武田: 昔の自分に復讐してますね(笑)そういう後ろ向きの気持ちは爆発力につながると思ってます。なんというか小学5年ぐらいから浪人ぐらいまでは本当に地獄でした。
- –: 浪人時代もそんな感じだったんですか?
- 武田: そうですね。自分の理想と今の自分の状況と周りの環境が全部うまくいかなくて嫌でした。どこを壊したら突破口が開けるのかも分からなくて。
- –: その感覚は私も身に覚えがありますね。大学ではどうだったんですか?
- 武田: 受験を理由にピアノをやめたんですが、尋常じゃない虚無感があったんです。音楽しかなかったんだと思って。最初は大学でも人前に出るのが苦手だったので美術の方頑張ろうと思っていましたがやっぱり音楽をやりたいと思いました。
- –: そこでまたピアノにも向かったんですね。
- 武田: そうですね。でも自分がずっとやってきたってプライドがあって人前で弾けなかったんですよね。コードが弾けない恐怖と、人前で恥をかけないという事もあって。ドラムを始めたのは「ドラム初心者」って肩書きに頼れば人前で演奏できると思って。ピアノは下手にならないように指の練習だけしてましたね。今はそういう感覚はないんですけど、「私はちゃんと努力して練習してたんだ!」ってプライドに苛まれてました。
- –: そこを自覚して語れてるってすごいですね。
- 武田: いや、もう本当にプライドいらないんですけど、そういうのって根っこにこびりついてるんだなって思って。今でこそどうでもいいんですけど、多感な時期って気にしますよね(笑)その時からジャズピアノに向かっていればよかったなって思いますけどね。
- –: そういう状況があって今アルバムを出すっていう状況になっているわけですね。
- 武田: そうですね。色んな分岐点があって、その中の一つとしてこうなっていると思うと感慨深いですね。
- –: そういう状況のどれが欠けていてもこういうアルバムには仕上がらなかったと思いますね。音楽以外に趣味はあったりします?
- 武田: (考え込む)……無いかもしれない……(また考え込む)……全然ない(笑)
- –: そんなに無いんですか(笑)
- 武田: いざ考えると全然ないですね(笑)マニアの域に達する人からすると趣味でもなんでもないんじゃないかな。
- –: 武田さんの基準の中でこれを趣味と呼んじゃいけないってことですね。
- 武田: 実はZappaもマニアってほどではないと思いますが好きは好きなんですよね。で、この感情をどうやって伝えたらいいんだろうみたいな気持ちはありますね。
- –: 周囲にディープなマニアが多いんですね。
- 武田: 愛情を知識に変換できないんですよね。愛情表現の仕方が違うとしか言えないんです(笑)他の人を尊重しつつ自分の愛情を表現したいって気持ちはあります。
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『Pandora』/ 武田理沙
2018年8/8リリース
フォーマット:CD 2枚組 / デジタル配信
レーベル:MY BEST! RECORDS
カタログNo.:MYRD124
価格:¥2,500(税抜、CD)
【Track List】
Disc-1:
1. at daybreak,
2. Island
3. Pagoda 2018
4. Idle brain is the devil’s workshop
5. NagaRaja
6. Cursed Destiny -I have opened the Pandora’s box-
7. a time of thaw
Disc-2:
1. 鳴
2. 尋常に狂う
3. 業
4. 涅槃
5. 寄生虫
6. 弟切草
7. 孤高の厭世家
8. 革命前夜
9. ラスト・モーメント
作曲、編曲、録音、演奏、プロデュース:武田理沙
ミキシング:武田理沙、佐藤優介
マスタリング:中村宗一郎
ディスクユニオン オンラインショップ
iTunes
Apple Music
Spotify
2018.8.8 12:00
カテゴリ:INTERVIEW, PU3_ タグ:classical, electronic, JAPAN, jazz, rock, 武田理沙
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