【INTERVIEW】Utzho『Stand On The Horizon』

現代音楽から電子音楽、またそれらに関わる現代アートや舞台音楽などを中心に幅広く活動を続ける作曲家Hiromu Yamaguchi、2013年に自身名義でSpeechからリリースされた1stアルバム『Chairs of Grass』以来となる、クラブサウンドを取り入れたUtzho名義での1stアルバム『Stand On The Horizon』をリリースした山口紘ことUtzhoにアルバムを中心に話を伺った。


全体を一つの物語のように構成したので、ぜひ通して聴いていただけると嬉しいです

–:まずはリリースおめでとうございます!今回の『Stand On The Horizon』はUtzhoさんの音楽についての深い造詣が感じられ、全編凝縮された素敵な曲が詰まっていますね。まずはUtzhoさんの作曲を含む創作への発想の源的なところを教えて下さい。
Utzho:ありがとうございます。
僕は音楽だけでなく、映画や文学、美術なども好きですが、それらの他分野の芸術からインスピレーションを受けることがよくあります。
また、それぞれの作品ごとに課題を設けて、それを解決するように制作することもあります。例えば、ジャンルや手法を掘り下げたり、組み合わせたりといったことですが、それはある種の探求や研究のようなものだと思っています。
–:本作『Stand On The Horizon』で聴いて頂きたいポイントを教えて下さい。また全体でも個別でも何かコンセプト的なポイントはありますか?
Utzho:全体を一つの物語のように構成したので、ぜひ通して聴いていただけると嬉しいです。
コロナ禍でのステイホームと、地球を脱出して宇宙に進出する船への隔離、というSF的な設定を重ね合わせ、「時代の新たな地平に立たされて、前時代を思いつつ、新しい時代に漕ぎ出していく」という物語をコンセプトにしています。
オリエンタルな響きや映画からのサンプルは、そのような物語上でのノスタルジーを込めて使用していますので、その辺りも念頭に聴いていただけると嬉しいです。
–:アルバムタイトルの『Stand On The Horizon』は素敵な響きですが、このタイトルにした意図や思いといったところを教えて下さい。
Utzho:上記のように、コロナ禍初期のステイホーム期間に制作を開始したのですが、その際の感慨が発想のもとになっています。まるで時代の新しい地平が突然現れて、無理矢理そこに立たされてしまった気がしました。そして、それは当時には、SFのように非現実的に思える出来事でもあったので、原理的に不可能なことである「地平線の上に立つ」という意味のタイトルにしました。

PROGRESSIVE FOrM · Utzho "Stand On The Horizon" PFCD103

アメリカのルーツミュージックにも接近したいと思い制作しました

–:では幾つかの曲についてお聞かせ下さい。M2「Souvenir From Artificial Lake」はギターの響きが美しくリズムと共に壮大に展開されるところが印象的でした。聴き所などご紹介をお願い致します。
Utzho:アルバム全体を物語のようにしたいと思っていたので、最初に大きな展開を用意しようと思いました。前奏のあと一度静かになりますが、その静けさも含めて大きな流れを聴いていただけたら嬉しいです。



–:M4「Dancing Into The Tunnel」はとても印象的なテーマと共に展開される疾走感が印象的な楽曲です。どのような発想の元に制作されていったのでしょうか?
Utzho:台湾の映画監督ホウ・シャオシェンの「ミレニアム・マンボ」という映画へのオマージュとして制作しました。そこからセリフをサンプリングしています。その映画も、世紀の転換という新たな地平を意識して作られています。踊りながらそのような時代の転換期を潜り抜けよう、という思いを持って制作しました。



–:M6「Space Colony Toys」はオリエンタルなガムランが揺らめき脳内密林トリップするようなたまらない楽曲です。聴き所などご紹介をお願い致します。
Utzho:子供が遊んでいるような趣と、失われてしまった(フィクションとして)民族的な音楽へのノスタルジーが同居しているような楽曲です。架空のアジアの国の架空の子供時代を思い出しながら聴いていただけると嬉しいです。

PROGRESSIVE FOrM · Utzho "Space Colony Toys" from "Stand On The Horizon" PFCD103

–:M9「Bones Among The Stars」はFenneszを想起させるような叙情感と美しいメロディーが素晴らしいです。どのような発想の元に制作されていったのでしょうか?
Utzho:Fenneszは大好きなので嬉しいです。オリエンタルな要素がアルバムには随所にありますが、同じようにアメリカのルーツミュージックにも接近したいと思い制作しました。アメリカのルーツミュージックは、日本やアジアのルーツミュージックと同じように、自分にとって大切なものです。

自分にしかできないことを探究したいと思っています

–:アートワークは写真家のKazuki HIRO氏の作品を使われたと聞き及びました。写真の印象や、実際にCDを手に取られどのように思われましたか?
Utzho:タイトルのように、ある場所に立って空を見上げているような構図で、とても気に入っています。宇宙もテーマの一つなので、星の美しさが素晴らしいこの写真がぴったりでした。実際のCDの繊細な作りも嬉しく感じました。


–:楽曲制作に対するアプローチや、楽曲制作で常に意識していることは何ですか?
Utzho:いつも他にはない音楽を作りたいと思い制作しています。自分にしかできないことを探究したいと思っています。
–:これまでに影響を受けたアーティストを教えて下さい。
Utzho:本当にたくさんいるので難しいのですが、上記のFenneszやJim O’rourkeなど、若い時に聴いていた2000年前後のエレクトロニカやポストロック辺りのアーティストには影響を受けました。また、一聴しては分からないと思いますが、イタリアの現代音楽の作曲家Luigi Nonoの作品には、音そのものへのアプローチなど、基本的な部分で影響を受けています。
–:最近のお気に入りのアーティストや作品を教えて下さい。
Utzho:Sam Gendel は今気に入ってよく聴いています。静けさとビート感の同居が心地いいです。
–:フィーチャーや共演など、今後一緒にやってみたいアーティストはいますか?また、今後どのような創作を続けていきたいですか?
Utzho:上記のSam Gendelのような、新しい感性をもった演奏家の方と共演できたら面白いだろうなと思います。今後はUtzhoとして、毎回異なるコンセプトのもとでアルバムを制作していきたいと思っています。
–:これからの音楽シーンについて、特にフィジカル、配信、ライブなど、アーティストの視点でみる今後や将来像的なところを教えて下さい。
Utzho:配信は聴き手として大変ありがたいですし、プレイリスト文化なども面白いと思いますが、もう少しアーティストに還元される仕組みを作れないだろうかとは思います。ライブはやはり大切なものであり続けると思いますが、テクノロジーを用いたより広い意味での「ライブ」が探究されていくと思いますし、それは面白いものが生まれる可能性を持っていると感じています。



『Stand On The Horizon』
/ Utzho
2021年9/15リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD103
【Track List】
01. The horizon That Suddenly Appeared
02. Souvenir From Artificial Lake
03. Gathering the feathers
04. Dancing Into The Tunnel
05. Running Without Sound
06. Space Colony Toys
07. Wind From The Earth
08. Upsurge Of The Inside
09. Bones Among The Stars
10. Love In The Abyss Of Distance
11. The Liaison Ship Island Sails
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2021.10.11 19:00

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