【INTERVIEW】あらきなおみ /「1964」

シンガー・ソングライターが26年ぶりに発表するソロ・アルバム。
一聴して覚えられる、すなわちキャッチ―なメロディと歌詞、それを表現する確かなる歌唱力と考え抜かれた編曲、それを具現化する優れたミュージシャンたち。
長い期間「いい楽曲を作り続ける」というモチベーションを持続して、実践し続けているシンガー・ソングライターにだけ創作可能な厳選された6曲。
ただ、そんな「音楽」をどれだけ多くの人に届けられるのか?
世に溢れる膨大な楽曲のなかにあって、どうやって「聴けば伝わる」相手に届けられるのか?『あらきなおみ/1964』を聴いてあらためて考えてしまう。
26年ぶりのあらきなおみの新作、その予想外の報に創作的な影響を受けてきた自分などは飛び上がって喜び、そして、実際にその音を聴いて、あらきなおみが作りあげる音楽のクオリティに改めて驚いてしまった。この素晴らしいアルバムを多くの人に聴いて欲しい。

あらきなおみのファースト・アルバム『東京トラッド』(リットー・ミュージック)がリリースされたのは1996年。
国内でもっともCDアルバムが作られ売られていた時期でもある。その5年前(当時の)東芝EMIからバンド『ハイポジ』のメンバーとしてメジャーデビューをしていたあらきは様々なバンドでベーシストとして参加しつつ、すでにプロフェッショナルな音楽家として楽曲制作やプレイヤーとして勢力的に活動を続けていた。ハイポジが2枚のアルバムをリリースした後、バンドとして活動停止期間に入ってしまう92年にはすでにシンガー・ソングライターとしてソロ・ライブ活動を開始している。以後、定期的にソロ・ライブを重ねてきた活動が96年に『東京トラッド』として結実したのである。今でも名盤として聴かれ続けているファースト・アルバムと同じく全6曲、セカンド・アルバムを作るに至った背景を聞いてみた。

セカンド・アルバム「1964」について。

あらきなおみ(以下、A):コロナ禍の少し前、少しまとまった資金が入る事情があって、これを予算にしてアルバムを作ろう、と考えていたんです。で、そんな計画が頭にあった2019年の2月頃に呑み会でギタリストの今堀恒雄さんに再会して。久々の彼との感触がとっても良くて、この人に頼もう!と、その時に動き始めた感じですね。まずは『遠い日』を今堀さんに頼みました。ライブで演奏している頃から『遠い日』はお客さんからも一番好きな曲と言われていて、でも、長い間カタチにして来なかったんですよ。今堀さんにもライブで演奏してもらっていた曲なので、まずは最初に。早く作らないと当時に聞いていたお客さんも亡くなっちゃうし(笑)で、その出来上がりに当然満足出来たので、次に手がけた曲がアルバムでは1曲目の『Suwaru』でした。
–:今回のアルバム用の書き下ろし曲はどの曲になるのでしょう?
A:その『Suwaru』と『この歌』は今回のアルバムのために書き下ろしました。いずれライブなどで演奏しようと書いてあった曲が『嘘』。『さらば小さな太陽』と『静かな生活』は過去のライブで演奏していたと思います。ただ当時とはアレンジがかなり違っていて、当時は鶴来正基さんのピアノ中心のアレンジだったので印象は少し違っているかもですね。



–:アルバムに入れる曲を選んだ基準はどのあたりがポイントになったのでしょうか?
A:仕事用とは別に自分の楽曲は沢山あったので予算を考えながら。後は今の時代にも合うような曲を選びました。
–:今回のアルバムのクレジットを見て少し驚いたのは、あらきさんがベースを弾いていない!という事でした。
A:今回のアルバムは、自分でディレクション(編曲のアイデアや方向性、演奏内容などの指示)を一切せずに、「頼んだ相手に信頼して全てお任せする」というのがコンセプトなんです。なので、最後の歌入れのときには「このオケに従って歌を入れてください」状態で。ディレクションを依頼した音楽家たちには(谷口尚久水谷浩章冷水ひとみ今堀恒雄横川理彦)一切、心配はありませんでしたね。そこに自分が意見を入れるといいモノにならないかも、と思ったんです。それぞれの演奏者も全部お任せで。だから自分がベースを弾く事もなく。自分が所属する音楽事務所(TOYRO MUSIC。 谷口、冷水、横川が所属している)でも仲がいい谷口氏に依頼した2曲目の『Suwaru』が出来たときに、「あ、これは思った通りのいいアルバムになるな」と。
谷口氏はジャニーズの仕事なども沢山しているのですが仕事モードではなく作る音楽も素晴らしいのを知っていました。今堀さんに依頼した『遠い日』と合わせて2曲。
思った通りに仕上がったので後は心配ないな、と。そこで今回のプロデューサーでもある横川さんに聴いてもらい、残りの4曲を相談した感じですね。曲のミックスも各自に任せています。歌だけは自宅とスタジオで納得できるまで自分で録音しました。
–:それは驚きです。途中の作業段階でも聞かずにお任せしたんですね。
A:日頃の音楽仕事で触れる若い人が作る音楽の作り方が、自分世代のそれとはまったく違う作り方をしているのを分かっていたからですね。だから従来の自分のやり方ではない流れで自分の楽曲を再構築して欲しかった。それが何も口出しせずに作りたかった理由ですね。
–:自分がその制作意図を聞いて、なおかつ興味深いな、と思ったことがあります。それぞれのアプローチで複数の音楽家に任せてもなお、完成した印象として「歌が中心にある」アルバムになっていたからです。
A:確かに。自分の経験上でもアレンジを他人に依頼すると、原曲のコード感とかをあえて「自分色」にしたいという人が沢山いるのですが、そういうことをする人はいなくて、そういう方向で自己主張する音楽家たちではないのです。元のデモの和音などに関してはそれなりに忠実になっていて。でも、なおかつ、その音色や扱い方などが更新されている印象でしょうか。
–:自分が気になった演奏としては『さらば小さな太陽』。クレジットを見るとヨーロッパの民族楽器のハーディ・ガーディの演奏者、パーカッションも外国の方ですね。耳なじみがない楽器の音色の素晴らしさに驚きました。
A:編曲を依頼した冷水さんが度胸のある方で(笑)、英語も堪能で。コロナ期だからオンライン上でセッションして「こんな楽器を弾く人~!」で冷水さんが選んだんですよ。ポルトガルの人とイスラエルの人、見ず知らずの音楽家。今も彼らとは会ったこともないんですよ。
–:ええっ!あらきさんも、その状況で出来たオケを聞いて驚いたのではないでしょうか?
A:それも自分が口出ししないから、で。依頼された側はそんな演奏者の選択法もやりやすかったから、だと思うんですよね。と、いって、それぞれが音楽作りに妥協しないことも知っているので(笑)
プロデューサーでもある横川さんには『遠い日』の編曲と、最初に作った2曲以後の楽曲選び、依頼する編曲者の選定、マスタリングの調整。そして今回リリースするレーベルの担当者に繋いでもらいました。横川さんも全体のコンセプトを守ってくれましたね。
–:水谷浩章の2曲「嘘」と「この歌」のオケもまた素晴らしいですね、バンド感がある素晴らしい演奏はそれぞれの演奏者のクレジットを見て納得しました。
A:最初は水谷さんも自宅でやろうとしていたらしいのですが、このアレンジはスタジオでの演奏じゃないとダメだとなって。結果として2曲依頼して、演奏陣が全員大ベテランなので短時間でレコーディングも終わりましたね。このセッションはスタジオに見学に行ったのですが、自分が現場にいるとどうしても「どう?」って相手に聞かれそうだから、あえて遅れてスタジオに入ったりして(笑)水谷さんの曲は弦楽器も入っていて、やり始めたら妥協しないで作りあげてしまいたくなる「音楽家魂」が出てますね。
–:僕の私的な音楽観なのですが、聴いていて素晴らしいと思える曲は「メロディが良く、そしてアレンジや録音もいい」それが両立しているのです。メロディはいいけどアレンジが今一つだったり、アレンジだけが肥大していて幹となるメロディが面白くなかったりすると「う~ん、勿体ないな」と感じてしまうのですが、今回のあらきさんのアルバムは全曲メロディとアレンジや演奏が最上級のカタチとして組み合わさっている。そこが自分にとってこのアルバムを「素晴らしい」と感じる理由です。
A:そうですね。全面的に依頼して何一つ不安にならなかった。長い間、音楽家として相手を見ていた経験があったからかもですね。水谷さんは初めて組みましたが予想通りの面白さで。反対に、知り合いとして長い付き合いの横川さんの編曲が意外でしたね(笑)
最初の話に戻るけれど、今堀さんが仕上げた『遠い日』について自分は満足なんですが、過去、ライブで気に入っていた人がどう思うのか?ちょっと心配です。



–:いや、いや。『遠い日』こそ、今堀さんの音でアレンジされて、やっと楽曲が普遍性を獲得したと、過去の演奏でも聴いていた自分は強く思いました。
ライブなどで演奏していた曲を正式に録音したりするときに曲のテンポ感が変わってしまって、そこが原曲のイメージを変えてしまうことがあるのですが、今堀さんは元々『遠い日』をライブでも演奏していたので「原曲の魅力でもあるテンポ感」に1ミリも違和感がなかったことに驚きました。『遠い日』は途中でテンポが大きく変わる曲なので、その印象が強く残りました。
A:確かに、そこも含めての今堀さんの曲への理解だと私も思いますね。

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【あらきなおみ/荒木尚美】
中学の頃から多重録音を行い、ギター、ピアノ、歌を1人で作った自主カセットがクラスで評判に。大学からエレキベースを始めバンド活動をするうちに京浜兄弟社の人々と出会い、「もすけさん」、「コンスタンス・タワーズ」にベーシストとして参加。 その頃、もりばやしみほ、近藤研二の「ハイポジ」に山口優とともに参加、メジャーデビューし2枚のアルバムを経て脱退。1992年よりソロとして活動、当初はホーン・セクション、パーカッションとベース&ボーカルという実験的な編成でライブを行っていた。1995年から鶴来正基(Key.) 今堀恒雄(Gt.)岡部洋一(Per.)の編成になり、同年、ソロ・アルバム「東京トラッド」を発表。以後はテレビCMの音楽と歌、幼児番組のためなどの音楽制作を中心に活動。印象的なメロディ、真似出来ない作曲センスや歌声には定評があり、さまぁ~ずが歌うプロミスCM「ヤリヤリクリクリ」がCDリリース。2015年NHKみんなのうたに「ひげヒゲげひポンポン」は大評判になる。ベーシストとしては京浜兄弟社人脈の多くのライブやCDに、またムーンライダーズの岡田徹「LIFE GOES ON」にも参加。音楽を作り自ら演奏し歌う、これをライフワークとして続けている。




【宮崎貴士】
1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Disc)、2つのバンド「図書館」「グレンスミス」(ともにdiskunion/MY BEST!RECORDS)で共にアルバム2枚リリース。2020年よりポニーのヒサミツ氏との2人ユニット「Flozen Japs」活動開始。岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏)「正しい数の数え方」作曲。




『1964』
/ あらきなおみ
2021年10/6リリース
フォーマット:CD
レーベル:MY BEST! RECORDS
カタログNo.:MYRD145
【Track List】
1.Suwaru
2.嘘
3.さらば小さな太陽
4.この歌
5.遠い日
6.静かな生活
ディスクユニオン
あらきなおみ/1964 特設HP

【クレジット】
All songs written and sung by
あらきなおみ
Produced by 横川理彦
Mastered by 竹内一弘
at Wareabout Record



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2021.9.18 19:00

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