【対談】僻みひなた × Sawawo(Pot-pourri) しあわせ学級崩壊の「音」は音楽か

「しあわせ学級崩壊」は、生演奏による大音量の音楽の上に、俳優がマイクを用いてセリフを乗せることを特徴とした劇団だ。従来は、主にオリジナルのEDMを楽曲として使用していたが、今公演ではEDMを離れ、「時計の音」という生活音をもとに音楽、劇を制作したという。そこで、今回は、僻みひなたと学生時代から交流のあるバンド「Pot-purri」のメンバー Sawawoとの対談を行った。コロナ禍における両者の音楽性の変化を紐解くことで、しあわせ学級崩壊の劇作の今が見えてきた。

初日を観劇して「音楽とノイズの線引き」

僻みひなた(劇団「しあわせ学級崩壊」主宰。以下、“僻み”):Sawawoさんは、しあわせ学級崩壊が駒場小空間(東京大学駒場キャンパス内の劇場)で公演をやっているときから観てくれていますよね。
Sawawo(Pot-pourriメンバー):2016年の『CR ともだちこれくしょん』再演が初観劇で、そのあと少し間が開いて『ハムレット』『幸福な家族のための十五楽章』、そして今回の『終息点』と拝見しています。
僻み:今作は作風を大きく変えましたが、ご覧になってどのような印象を持たれましたか。
Sawawo:今作はテーマがダークなところにある、クラシカルな不条理劇のようにも見えました。そうすると地味な印象になりそうなものですが、不思議なもので作品から「これを表現しなくてはならない」という勢いが強く感じられて、決して地味とは思いませんでした。衝動を表現する演出がシャープになって、より強く伝わってくるようになった。それは前作で初めて感じたことでしたが、作風が変わっても、今作にも通底しているように思いました。
僻み:たしかに、表現の技術が向上したことで、初期衝動のようなものをはっきりディレクションできるようになったと思います。『幸福な家族のための十五楽章』は今までの作風の集大成として作劇しました。EDMを流したエモーショナルなシーンで構成する、ある意味、見てスッキリするような作風です。ただ、コロナ禍で自分の生活が停滞しているような感覚に苛まされ、ずっと消化できないようなモヤモヤを抱えるようになりました。そこで、今回はEDMではなくて生活の音である「時計の音」を用いて、消化できないような作品をつくろうと思いました。



Sawawo:消化できなさという点は強く感じました。時計の音はいい意味で即効性のない音だったように思います。今作の序盤では、わりと説明的に「退屈」についての物語だということが語られていました。ですから、「時計=単調なもの=退屈」というように結びつけて見ていたのですが、段々とそうではなくなってくる。時計の音がグルービーに聞こえてくるんですよね。それが大変おもしろく感じました。
僻み:前作で「音響が整備されて聞こえ方がとてもよくなった」とお話してくださいました。
Sawawo:そうですね。今回もそれが効いていたと思います。ステレオ感や奥行きが存分に感じられた結果、時計の音が音楽的に聞こえたところはあります。加えて、音響が洗練されることで、「音楽」と「音楽でないもの」の線引きが今までとは違う形で感じられました。たとえば、スタジオ公演の『ハムレット』だと、とにかく音が大きくて空間を埋め尽くしていました。ほかの音は存在せず、すべてがノイズという世界です。一方で、今作『終息点』では、オフビートだけどどこかリズミカルな人間の声と、退屈の象徴だったはずなのに段々とグルービーになる時計の音とが中心にあり、結果、これまで以上に無音が強調されていました。すると、マイクを通していない物音が印象的に聞こえてきます。たとえば、奈落のフタを開ける音、イスがガタガタとゆれる音とかですね。そうしたことによって、「音楽とノイズの線引き」のようなものが普段と違った形で意識されて面白く感じました。客席の僕らが発する音こそが「退屈」なのかもしれない……というようなことも思いましたね。
僻み:ありがとうございます。まさにその通りですね……。ちょうど『ハムレット』のあとに音響スタッフが劇団員になってくれたことがとても大きかったです。

コロナ禍での芸術観の変化




僻み:Sawawoさんは、音楽をつくることに関して、コロナ禍で停滞したような感覚はありましたか。
Sawawo:僻みさんが語るような停滞はないかもしれませんが、音楽でやりたいことが変化してきたとは感じています。長い間バンド活動をしてきて、バンドであることへの拘りを強く持ちすぎていたのかもしれません。今までは「ライブで映える形が一番いい」と思っていましたが、コロナ禍でライブができない中、ライブを意識したつもりの構成や表現が、音楽のよさに必ずしもつながっていないということに気付かされました。
僻み:音楽業界も舞台芸術と同じく、公演中止が相次ぎましたね。
Sawawo:そうですね。2020年の上半期はかなりのライブが中止になってしまいました。どのように対策をすれのばいいのかすらわからないという状況に加え、19年10月に1stアルバム「Classic」をリリースしたばかりということもあり、かなり苦しかったです。ただ、ライブがなくなったこと自体は残念だったのですが、自分が今までバンドでできたことはどのようなことだったかを見つめ直す時間が取れたのも事実でした。Pot-pourriにはライブ・エレクトロニクス(楽器などの音を直接マイクで拾い、それに電気的な変調などの操作を与えてスピーカーで同時に流す電子音楽の技術の一種)を担当するメンバーがいて、現在もそのメンバーとやり取りをしながら制作を進めているのですが、「宅録っぽい音を活かしたものにしたい」というお願いをするようになりました。これもライブを意識した過剰な拘りがなくなったからだと思います。
僻み:Sawawoさんは、このコロナ禍を音楽性にプラスに働かせることができたのですね。僕の場合はまだそれをうまくできていません。芸術観は確実に変わったはずなのに、それをどう昇華するかというところがわからない。その「わからなさ」自体をテーマに作劇したのが今作でした。
Sawawo:綺麗にまとめてしまいましたが、実際のところ手探りでやっているところは多く、スパッと答えを出せないところも多いかもしれません。

音楽と演劇の交流

僻み:しあわせ学級崩壊は「劇団」ですが、「音楽」も作品の中で大きな要素です。ですから、音楽を活動の主軸にしているSawawoさんとの対談は大変嬉しいことでしたし、演劇が好きな人に加えて、音楽に関心がある人たちにも作品を届けたいと思っています。
Sawawo:ありがとうございます。コロナ禍のこの状況で難しいかもしれませんが、僻みさんのおっしゃるような意味でも、いまのしあわせ学級崩壊でのスタジオやクラブでの公演を見てみたいという気持ちがあります。いま挙げたような比較的音量の大きな音楽の場でも、あるいはもっと静かな音楽をやるスペースとかを使ってみても面白いかもしれません。SCOOLのような演劇や音楽に限らない複合的なスペースもありますし。どうなるのか気になります。
僻み:劇団内でもそのような意見がでることがあります。ただ、僕たちはライブハウスやクラブなどの音楽の方々が、この状況でどれほど奮闘しているのか肌感覚であまりわかっていません。そうした意識で参入していくことに躊躇してしまうところがあります。
Sawawo:なるほど……。僕としては、コロナ禍で苦しんでいるのはライブハウスやクラブといった音楽の場だけではなく、パフォーマンスをやることで成り立たせてきた場はどこも同じように苦しんでいると思います。劇場や箱の人を代弁することは立場の違う僕にできることではありませんが、あくまで自分個人としての思いを述べるならば、その場へのリスペクトがあれば問題ないのだと思います。一観客として、一ファンとして、音楽に近い場で何が起こるのかという期待が大きいです。
僻み:ありがとうございます。たしかに演劇と音楽の場を行き来するのは、どの団体でもできることではないですからね。果敢に取り組んでいきたいと思います。

取材・構成=田中健介


【Pot-pourri】
2015年、Sawawo(アコースティックギター・ヴォーカル)を中心として活動開始。
同名のアルバムを出していたP-MODELをはじめ、割礼、The Cure、The Durutti Columnといった80sニューウェイヴ~ポストパンク、Robert Wyatt、Portishead、Grouper、更にはスピッツ、LUNA SEA、THE NOVEMBERS、空間現代といった日本のバンドからの影響のもと、ヴォーカル、アコースティックギター、ベース、ドラム、ライヴ・エレクトロニクスという編成の変則的なアンサンブルで、日本語詞によるメロディーを聴かせるアブストラクト・ポストパンク。
2019年10月25日(金)にHEADZ/UNKNOWNMIXより1stフル・アルバム『Classic』リリース。エンジニアリングはnoguchi taoru(soup)。
2021年現在、新作を鋭意制作中。
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【しあわせ学級崩壊】
僻みひなたが脚本、演出、演奏を手掛ける劇団。
サウンドをベースに、グルーヴを以って体験する演劇。完全オリジナルのダンスミュージックのライブ演奏に、俳優がマイクパフォーマンスで台詞を載せるスタイルを基本とする。劇場公演のほか、音楽スタジオやクラブハウス等に活動の場を広げつつ、幅広い形で創作を行う。
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2021.9.5 12:00

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