【INTERVIEW】okkaaa『ID20』


『ID20』は批評的な目線や時代性といったものをぜんぶ削ぎ落として、「ぼくがいま歌えるもの、作れるものはなにか?」というのを探った作品なんですよ(okkaaa)

草野:ちょっと横道にそれますけど、いま大学生ということで、今年の生活はどのような感じなのでしょう?
okkaaa:すべての授業がオンラインで行なわれてますね。自宅から特設のwebサイトにとんでテストをうけることもありますよ。
草野:キャンパスにもいけず、友達とも会えず。
okkaaa: そうですね。もう飽きちゃいました、この生活にも。
草野:そりゃ飽きるわ……大学3年というと来年の就職活動を視野にいれると、ここで遊んでおかないといけない!ってところだし。
okkaaa:入学式や卒業式、部活動の大会とかも軒並み無くなってしまって、まさに「ロストジェネレーション」な世代もできてしまったわけじゃないですか?それを考えるとぼくはまだ良いほうじゃないかと思えてます。すごく悲しいですしね。
草野:okkaaaくんが書いているnoteを読んでいて、「自分の想像力が部屋の内側で止まってしまっている」と書いていて、そりゃそうだよなぁ……と思ってしまって。外に出てスーパーに買い物行くくらいしかないもんね?
okkaaa:おっしゃるとおりです(笑)サイクリングにハマって、車道を走ってみたりしていますけど、適度な運動をしたくてもそれくらいしかないくらいです。自分のインスピレーションが。自分の家のなかだけで限られてしまう、境界線がグンっと内側に入ってくる感覚なんです。ライブ配信などで一時的に外側に伸びても、代替品にはなれない、一時的なものなんじゃないのかなと思うんです。
草野:うん。
okkaaa:そういう意味でも「インスピレーションを掴みにいけない」というのは、やっぱり堪えるものがあります。
草野:そういったなかで質問をぶつけたいんですけど、音楽や映画、ドラマ作品や小説などでもいいですが、okkaaaくんにとってこの1年で印象に残った作品をあげるなら、何になりますか?
okkaaa:Ryan Beattyのアルバムですね。これがめちゃくちゃ良かったんです。今年上半期で一番ショックなアルバムだったと思います。インターネットっぽいエレクトロサウンドで、ボーカルもかなり重ねて録っていたりとか、自分の音楽にとても近しい部分を感じながら聴いていたんです。シンプルで、奥深い、でもそういうもので複雑な感情や情感を下支えしているなと感じていたんです。サイケっぽいサウンド、ノイズ、ドリーミーなムード、ピッチシフトがちょっと変だったり。彼はLGBTをカミングアウトしているわけじゃないですけど、そういう部分も歌詞を読んでいても読みとけるんですよ。むちゃくちゃ感化されましたね。



草野:ありがとうございます。話をもとに戻しますけど、『ID20』がコロナ禍での制作になったわけじゃないですか。やはり苦しみはありました?
okkaaa:結構ありました。最初のころは、作品に集中して制作できると思っていたんですけど、途中から、外界からの刺激をほとんど受けられなかったのはキツかったですね。「あのひとはああいうことをしている」とか、影響をいくらか受けた上でアウトプットをしているので、かなりキツかったですね。これまではシングルを連続して出していく中で「次の作品像」をイメージしていたんですけども、今回は連続性もなく、一気に作ったこともあってか、この作品を完成させてからはもう自分の中はサッパリ何にも無くなってしまって、「出し切ったな、一区切りがついた」と思えるくらいですね。
草野:フィルターバブル、分断、ポストトゥルースといった社会的事象を意識した言葉がnoteにもありますし、歌詞からも伺い知れますよね。そういったものに対する不安と危機感が、かなり顕著に出ているのが今作のように感じました。
okkaaa:確かに今作はそうかと思います。これまでは時代を汲み取った上で歌詞を書いたりしていたんですけど、今作では「自分のリアリズム」を基にして作りたかったんです。例えば、いまローファイなサウンドが流行っているからといって、ローファイなトラックで作ってみても、すでに時代遅れになってしまっている可能性もあるじゃないですか?そういう批評的な目線や時代性といったものをぜんぶ削ぎ落として、「ぼくがいま歌えるもの、作れるものはなにか?」というのを探った作品でもあるんです。なので、これまでぼくが聴いてきた音楽のエッセンスをフルに活かして、メロディをうまく生きている曲を作ってみようと思ったんです。



草野:それは先行曲の「CODE」でも明らかだと思います。前回も今回でも、okkaaaくんの曲に対してぼくは「アンビエント」とか「リズムの存在感が薄い」みたいなことを再三言ってたじゃないですか?この曲はまず始まってすぐに「これは間違いなくヒップホップがしたいんだな」とハッキリ思ったんです。それにこのEPでは、これまで以上に色々なサウンドを打ち出していて、多彩だなと思えましたね。
okkaaa:それこそ「CODE」はANIMAL HACKさんたちと一緒にコラボしたからこそ生まれた楽曲じゃないかと思います。「色んな人に伝える」という部分を意識できたからこそ生まれた曲なんだと思います。
草野:ヘタなこと言ってしまうと、「わかりやすく」なったと思うんですよ。これまでのokkaaaくんのやりたいことや伝えたいことを噛み砕いてあるというか。これまでの作品のなかで、一番おすすめできるんじゃないのかなと思います。
okkaaa:やっっっっっったぁ!!!
草野:むちゃくちゃ素直だ(笑)これまでの作品で一番ポップスだと思いましたね。
okkaaa:それはおっしゃるとおりだと思います。これまででいちばんに音楽をしようと頑張った作品だと思いますので。
草野:さきほども話しましたが、前作だと漢字や熟語が歌詞を多用していましたけども、今回の作品だとひらがなやカタカナを用いていて、より柔らかい言葉が並んでいますよね。
okkaaa:自分で唄おうとおもったときに、「言葉に踊らされているんじゃないか?」という意識は前作からあったんです。先程にも話しましたけど、そういったものを削ぎ落としていった結果じゃないかなと思います。
草野:「削ぎ落とす」というのはそういった部分にも当てはまるところだったんですね。
okkaaa:そうですね。あとは、ちゃんとラブソングを唄おうと思ったんですよ。前回のインタビューで草野さんが「ラブソングっぽいよね」という話をされていて、それがとても印象的で覚えてるんですけども、それまでなら気恥ずかしくてやろうと考えてなかったんですよ。いままで挑戦していないことだし、やってみようと思ったんですよ。
草野:なるほどです。
okkaaa:あとこれは……突っ込もうと思うんですけども(笑)
草野:え、なんでしょう?
okkaaa:草野さん、ずっと「アイニージュー(I need you)」っていう風に発音していますけど、この作品『ID20』はそのまんま「アイディーニジュー」っていう風に発音するんですよ。
草野:ああ、それはごめんなさい。申し訳ない……!最初にタイトルを読んだ時に、「2020年で2000年から数えて20年目、okkaaaくんは20歳を迎える、君は僕を求めているからI need you」っていうトリプルミーニングなんだと思ってたんですよ。もちろん「アイディーニジュー」っていう風に発音すのはわかっていたんですけど、そういう風なミーニングがあるものなんだと思ってたんです。でも、okkaaaくんのツイートとかnoteを読むと、「あれ?I need youっていう意味合いは無いみたいだぞ??」という風に気づいたんですよ(笑)
okkaaa:このインタビューが始まって、草野さんが何度かそういう風に発音されていて、「ん?あれ?でもそういう風に捉えることもできるぞ?!」とぼくも気づかされましたね(笑)いつも新しい視点をくれる人だなと思います、ほんと。ちなみに意図はしていなかったです。でもその捉え方面白いですね……こんどそういう意味があったって後付で加えようかな……(笑)
草野:いや単純に自己解釈が激しいぼくが失礼な人っていうところじゃないかと(笑)サウンドにしても、例えばヒップホップやアンビエントを生業にしているひとが聴いたら、「これは違うよ」というのかもしれない。でも、今作によってokkaaaくんの音楽がより幅広くなったのは確かだし、なによりジャンルに囚われていない、okkaaaくんの音楽になっているなと思えました。それは単純に良いと思いますね。
okkaaa: そういうオルタナティヴな感覚は一番大事にしてますよ。
草野:分断やフィルターバブルについて、noteやTwitterで書かれているし、歌詞中にもそれについての言及がいくつかあって、その時点でオルタナティヴな部分は受け持っているとすら思う。こういった話を友人としたときに、彼も同じく「分断の時代だった」っていう風に言ってて、ぼくはすこし違うように感じていたの。分断されていることに「気づいていく」時代だったと、つまりコンシャスであったり、自覚的であろうという部分がつよくあったのがここ5年の流れじゃないのかなって。
okkaaa:まさにそのとおりだと思います。僕自身、適度な分断はあるべきだと思っているので。トライバリズムの加速によって自分を見失うようなことはあってはならないし、世界との距離感を保つためにも分断は適度に必要じゃないのか?とは思ってますね。
草野:今回のインタビューでも何度か仰っていましたが、いまのokkaaaくんのモードって「自分とはなにか?を自分で自覚しようとする」モードなんじゃないのかな?と思うんです。
okkaaa:……おお、なるほどです。
草野:これまでのなかでも「自分とはなんなのか?」ということに自覚的で、そこから得られるものにもビビッドに反応できる状態だと思っていて。そういうモードに入り始めたokkaaaくんが、次にどういう動きをしていくのか?というのは非常に注目していますよ。
okkaaa:僕自身が本質的に、「だれかになりたい」とか「これになりたい」というよりも、「ぼくはどうあるべきか」「どういう自分がいいだろうか」と進めていくほうが好きなんだと思うし、合ってるんだと思うんです。時代を汲み取っていこうという意識はしっかりと持っていつつも、時代に流されてはいけないぞと抵抗してみたり。そういうバランシングは常にしていきたいなと思ってますよ。
草野:……いまokkaaaくんの音楽からは程遠い言葉がさらっと出てきたなと思っていて、「抵抗」と仰ってましたが、いまの音楽性とはすこしかけ離れた部分があるようにも思えますが、どうなんでしょうか?
okkaaa:いや、これは「静かな抵抗」という意味合いですよ。なんといいますか……潜りながら思弁して、抵抗したいんですよね。それは明らかに戦っている、手をあげているという意味ではない抵抗、そういうイメージですね。
草野:なるほどです、ありがとうございます。政治とか社会事象に対しての意識の高さも伺えますし、そういった部分も含めて「自分を認識する、自覚する」部分がエッジになっているんだなと思えます。今後の活動はどう進むんでしょうか?
okkaaa:それこそ今作は、次の大きな作品を作るために「リアリズムに接近しよう」と意を決した部分はあるので、次の作品は大きな……1枚のアルバムを作ってみようと考えてますよ。いままでの結果発表のような形になるかもしれないし、構想はまだ立ってないんですけどね。
草野:ここまで伺ったお話だと、コンセプトアルバムになりそうな予感もしますが。
okkaaa:なにも決まってないですね。
草野:なるほどです。いまの話とは別にして、どのくらい曲ができたりしてますか?
okkaaa:今回の『ID20』を作ったことで、自分の中でひと区切りがついてしまっている状態なので、実は右手で数えられるくらいの曲しか生まれてないですね。はっきりというと、完璧に手探りな状態です。
草野:そうすると、来年にまで制作や発表がずれ込むと、大学4年生になるわけじゃない?音楽と自分の距離感はどういう風になっていくと思います?
okkaaa:いやぁ……口の中にすっぱいぶどうがずーーーっとあるような感じですよ、めちゃくちゃ悩ましいです。二足のわらじやダブルワークのように活動を続けていくのか、音楽家一本としてやっていくのは……難しいなと思ってますよ。ただハッキリ言えるのは、30年後や50年後の自分まで見据えてみたときに、音楽は僕にとってのアウトプットであり、表現方法だと思うので、この先にも続けていこうという気持ちはあります。

インタビュアー:草野虹 7月上旬

アーティスト写真:Hideya Ishima / 石間 秀耶



『ID20』/ okkaaa
2020年7/8リリース
フォーマット:デジタル配信
レーベル: Caroline International
【Track List】
01. CODE
02. imsodigital
03. IDO
04. Slow Field
05. (twenty)sailing



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2020.8.23 21:00

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