【INTERVIEW】okkaaa『ID20』

昨年の新宿でのインタビューから1年。
彼の周りと、彼本人は大きく変わっていった。

学生生活とともに、音楽制作にも舵を切った彼は、新たに『okkaaa pt.II』をドロップし、様々なトラックメイカーともコラボし、自身のセンスをより磨いていった。

2020年、コロナ禍のなかにあっても、彼は自身の内面と真正面に向き合い続け、今作『ID20』を生み出すことになった。

彼の言葉からわかるように、彼にとって音楽の武器となるのは自身の歌声と言葉のみである。
持てる武器が少ない彼が、それでもなお自身と対話をしつづけ、思考と実行を繰り返したさきで、シンガーソングライターとして目覚めつつあるように筆者は感じた。

もしくは一人の青年のなかにある、苦悩、葛藤、そこに対する解決を見出すまでの、もしかしたら青臭い物語にも読めるのかもしれない。非常に大人びていて、明晰に自分と社会の距離感を計って言葉を発する彼だが、まだ20歳を超えた年ごろということを忘れてはならない。

2020年、ここから10年先、彼がどんな風に生きていくのか、それすらも楽しみになるような対話である。



自分の中の感情を起こして、音楽の中に残していこうと考えて作り始めたのが、『okkaaa pt.II』以降なんですよ(okkaaa)

草野:去年から1年ほど経過して、okkaaaくんの周辺の状況がかなり変わっていって、スピード感が非常に速いなと僕としては感じていたんです。前回の『okkaaa』から、『okkaaa pt.II』EPと『ID20』を発表していて、様々なコラボ曲もありました。単純にお聞きしたいのは、この1年をざっくり振り返るとどうでしたか?ということです。
okkaaa:前回もお話させて頂いたと思うんですが、「音楽をやっていこう」という意志を固めて、門出となった1年だったと思います。『ID20』はそういったものを込めた作品でもありますし、「音楽をちゃんとやろう!」という部分に力を注いだなと思います。トラックメイクにしても、歌入れにしても。
草野:前回のインタビューで、「自分の音楽が、プロで活躍されている方と同じ土俵のなかにある」ということに重みやプレッシャーを感じていると話してましたが、そこから抜け出た上での戦いですよね。
okkaaa:自分らしい立ち振舞いに気づけたという部分ですね。音楽として解像度がものすごい高い音楽ってあるじゃないですが?ジェイコブ・コリアーさんの音楽を聴いて「うーわ、すっご」って思っちゃうんですけど、そういったものは僕にはできないだろうと。だったら、自分らしい解像度でつくった音楽をやってみようと思ったんです。その部分が1年前のEPのときとは確実に変わったと思います。
草野:……変わったね、うん(笑)
okkaaa:そうですか!?(笑)
草野:ひとつひとつ紐解いていければなと思います。今回のインタビューでは『ID20』をメインに扱うところなんですが、せっかくなので『okkaaa pt.II』に触れてみたいなと思うのですが。まず思ったのが、日本語、とくに漢字への拘り、カタカナ語が異様に少ないという部分で……。
okkaaa:カタカナを使わないというのは、意識してましたね。本当に。
草野:本当ですか。まず先行曲として発表されていた「積乱雲」「界雷都市」「想像の遊牧民」「印象派の夢」と、漢字が中心になったタイトル。しかも歌詞でもカタカナ語が少なくて、画数や読み方も難しめの漢字が多いと。音楽や歌を唄うという部分で、二字熟語が使われないのは、メロディに合わせづらいからというのがあって、ひらがな言葉やカタカナ言葉のほうが合わせやすい。でもokkaaaくんはこのEPではその辺をある程度気にせずに作っている。「語りたいんだな……」という風にぼくは捉えていて、『okkaaa pt.II』はある意味ではそういった部分の頂点に達していたと思うんですが、作られていたときはどうでしたか?
okkaaa:『okkaaa pt.II』を作っていた時は、作家の真似になってしまってもいいから、私的に自分のことを語ろうとしていたんですよ。風のそよぎにもメタファーを宿しながら、自分のことを語ろうと思っていたんです。どちらかというと、自分の中の感情を起こして、音楽の中に残していこうと考えて作り始めたのが、『okkaaa pt.II』以降なんですよね。日本語や感情の揺れ動きについてはこだわりましたし、いまの指摘は嬉しいですね(笑)
草野:ありがとうございます(笑)いつ頃から『okkaaa pt.II』から作っていたんでしょう?
okkaaa:えーっと……2019年の8月頃にはもう既に作ってましたね。ちょうど草野さんらとインタビューしていた頃ですね。



草野:前回の『okkaaa EP』には「19歳と決別」というテーマがありましたけども、『okkaaa pt.II』にテーマをあげるなら何になるんでしょうか?
okkaaa:『ID20』にも通底してくるんですけども、いまはポストトゥルースの時代で、なにが真実で、なにが嘘か、分からない時代になっている。そういったものを表面的に捉えるのではなく、深く潜ってみて、熟考して、思弁をして、その文脈を捉えてみる。それが『okkaaa pt.II』のテーマだったんですよね。
草野:なるほどです、ありがとうございます。音楽的にみても深化したなと思える部分があって、自分の声に注目して、コーラスワークの重ね方やエコーを用いた残響や反響が非常に強まった作品だと思うんです。いま話されたテーマでいうと、「自分で自分に問いかける」ようなイメージになると思うんですが、自分の声がダブリングしていくサウンドは、まさにテーマをそのまま音楽に仕上げてきたなと感じましたね。
okkaaa:めっちゃ嬉しいですね(笑)この頃から「自分の声をちゃんと使おう」というのを意識して楽曲を作るようになったんです。ダニエル・シーザーさんの「A Cappella」という曲をきいたとき、楽器もなく、すべて声だけで作られているんですけども、「声だけでこんなに美しくて幻想的なものが作れるのか!」とめちゃくちゃ感動したんです。ぼくはタイプビートを使っているので、僕にとって音楽ができるというと声だけなんですよね。自分の身体を使ってどこまで表現できるのか?という部分にすごく着目をして、アカペラであったり、声を重ねてみたり、というのをやっています。それは『ID20』でも続いてますね。
草野:タイプビートはやはり使っているんですね。
okkaaa:そうですね。『ID20』でも同じように使ってます。
草野:実はご自身で作っているのかと思ったんです。そもそも初作のころとビートが変わりましたよね?というか、もはやリズムがまったくないような、アンビエントのようなトラックでやってますし。
okkaaa:それは『ID20』でかなり意識していたところなんですよ。アンビエントとの出会いがすごく大きかったんですよ。でも『okkaaa pt.II』のころはそこまで意識的ではなかったんですが……。
草野:でも、実際のところ、トラックにはリズムレスのものが非常に多いですし、なんならムーディなものが非常に多いわけで、かなりそうした趣があるトラックだなと思ってましたよ。
okkaaa:本当ですか、それは嬉しいですね(笑)
草野:「印象派の夢」はすごいことになってるんですよ。一応ビートはあるけども、コーラスの重ね方もすごいので、むしろokkaaaくんのボーカルでリズムを取ってしまいそうになるくらいですよね。
okkaaa:日本語による譜割とリズム感は前々からすごく興味があったんですよ。ラップの抑揚あるフロウとか、シンガーソングライターらしい歌心とかを、うまく織り交ぜたいなと思っているのは間違いないですね。
草野:メロディラインはどこで思いつくことが多いんでしょう?
okkaaa:僕が音楽理論に疎いせいで、トラックから受け取ったムードで作っている部分はありますね。全体的なテクスチャーが自分の好みと合ってればやりますね。それこそ……雰囲気で。
草野:最後めっちゃアバウトだ!
okkaaa:へへへ(笑)最近ではやっぱり「歌を唄おう」と考えていることが多いので、タイプビートを選ぶ前から、まずメロディラインと歌詞ができあがってることが多いんです。歌メロとタイプビート、あと他にいろいろな要素を頭に入れて、かなり試行錯誤して作っていることが本当に多いです。
草野:なるほど……『okkaaa pt.II』と『ID20』の間でとても印象的なのは、コラボ曲をたくさん発表したことなんですよ。LULUさん、ANIMAL HACKさん、Yackleさんなどなど。どのように出会ったんでしょう?
okkaaa:イベントで共演することで自然と仲良くなったパターンが多いですね。まずLULUくんは、SNSでやりとりがあって、一緒に食事をしていろいろ話してみて、「共作してみるか!」と決まったんです。言ってしまえばノリみたいな……(笑)音楽とか他の趣味とか色々話してみて、いいなと思える人に出会えることが多くて、その瞬間的なノリで決まったことが多いんですよ。
草野:すごいですね。「やるぞ!!」ってなったあとは自然と……。
okkaaa:自然と曲作りのほうへと流れていくという。ANIMAL HACKさんは、そもそも昔から聴いていたことが大きいんです。声がかかってきたときは……もう……声をあげてしまいましたよ、本当に(笑)YackleさんもLULUくんと同じで、「こんど食事にいきませんか?」とご連絡を頂いて、いろいろ話しているうちに「一緒に曲をつくろう!」という風になったという。
草野:……okkaaaくんが共作をお願いをしたというよりも、むしろお三方から「作ってみませんか?」と声がかかったということですか?
okkaaa:そうですね、たしかに言われてみるとそうです(笑)特にLULUさんとANIMAL HACKさんとの曲を作ったときは、かなり時間と力をいれこんで作ったんです。「どういう曲をつくろうか?」という話しになったとき、「この本と、この本と、この曲とこのアルバムを読み聴きしよう」と言って読書したり音楽を聴いて、その感想を言い合ったり、そこから着想を得て議論し合ったりして。
草野:作ることを通して、一種の勉強会を開いている感じだったんですね。
okkaaa:そのとおりです。かなり勉強になったし、カロリーが高いなと思いましたね(笑)ANIMAL HACKさんは先輩なのですけども、感性が自分と似ていて、非常に感化されました。ぼくは私的な部分を唄っているのに対して、ANIMAL HACKさんはポップスのフィールドにむけて、多くの人にどう訴えていくか?という部分で戦っている方々なので、「この歌詞でほんとうに伝えたいのはどこになるの?」と指摘をうけながら作っていったんです。





草野:お三方から受けた影響は大きかったでしょうか?
okkaaa:かなり大きかったですね。より多くのひとに向けて伝えようとする意識が、自分とぜんぜん違ったし、「自分のユーモア性がどこにあるのか?」というのをかなり探っていって、勉強になりましたね。楽しかったですね。
草野:それが2019年の終わりから、2020年の始まりあたりですか?
okkaaa:そうですね。『ID20』は彼らとのコラボも終わったあとに作り始めたので、今年2020年の2月や3月頃から作ったんです。完全にコロナ禍のなかで、自粛期間のなかで作ってますね。
>次ページ「『ID20』は批評的な目線や時代性といったものをぜんぶ削ぎ落として、「ぼくがいま歌えるもの、作れるものはなにか?」というのを探った作品なんですよ(okkaaa)」へ


『ID20』/ okkaaa
2020年7/8リリース
フォーマット:デジタル配信
レーベル: Caroline International
【Track List】
01. CODE
02. imsodigital
03. IDO
04. Slow Field
05. (twenty)sailing

1 2

2020.8.23 21:00

カテゴリ:INTERVIEW, PU3_ タグ:,