【INTERVIEW】colormal『merkmal』



アルバムのテーマ上どうしても人肌を感じる音像にしたくて、いわゆるプリセット的な音をそのまま使うことはほぼありませんでした(イエナガ)

–: 今回の作品「merknal」とのことですが、本来は「目印」や「指標」といった意味ですよね。現代思想系の本に出てくるような難意語ですが、なぜこれをタイトルにしたんでしょうか?
イエナガ:単語自体は僕が大学で法学部だったので、たまたま知っていて。今後の活動でどういった方向の音源を作るとしても今作がスタンダード、つまり「指標」になって欲しいなと。あとは僕から中村一義さんを連想される方も多いかもしれないですが、名作「金字塔」をもじったタイトルですね。「夢みる季節」でのクラッシック的なアプローチも中村一義さんの影響がありましたし。金字塔は打ち立てれないけど、誰かの指標になってほしいから… といった感覚でつけました。
–: 徐々に本作についての話をしていきたいのですが、今作の制作はどんな流れだったんでしょうか?これまで作ってきた曲をコンパイルしたのか、それとも何かの意味合いを基準にしてセレクトしたんでしょうか?
イエナガ:今作は一つの架空の駅を舞台に、そこを利用する人たちのことを一曲ずつ楽曲にしています。曲順も、始発から終電への時系列にして…。というテーマも後付けで、とにかく作品に向けて曲を作っていく過程で共通点が徐々に見えてきたのが正直なところですね。まずは演奏を録音してからメロディと歌詞を最後に作るので、見えてきたテーマに合わせて剪定していくようにメロも詞も整えていきましたね。「アルバムを出すためにテーマを設けるぞ!」というよりも、いいものが出揃った頃に自然とまとまりが生まれた形です。
–: ありがとうございます。今作では、歌やギターはもちろんのこと、ベースやドラムスもご自身で演奏されたところもあり、逆にDTMでのプリセットからの打ち込みサウンドでできている……という風に察するところがありますが、実際にはどういった按配・比率で制作されたんでしょうか?
イエナガ:僕は決して“宅録っぽい”とか“室内楽っぽい”アプローチをしたい訳ではなかったので、生演奏のギターやベースに対してドラムや鍵盤の打ち込みが浮いてしまうことには特に気を遣いました。打ち込みのドラムをスピーカーからマイクで拾ったものを重ねたり、キーボードはあえてタイミング補正をかけずにリアルタイムで演奏したり。打ち込みっぽい音にはギター用のアンプを通して歪ませてしまったり。アルバムのテーマ上どうしても人肌を感じる音像にしたくて、いわゆるプリセット的な音をそのまま使うことはほぼありませんでした。ただ、僕は宅録の正しい知識やアプローチをあまりに知らなかったのでほとんどが手探りではあったんですけど。



–: なるほどです。だいたいの楽曲は00年代の邦楽ロック、特にGREPEVINEのような弱々しくも感じられるブルージィさやパキっとしたギターサウンドから強い影響を感じられて、ある意味ではベーシックで、ある意味では正統派なロックアルバムだと思えます。ですが、1曲目の「夢見る季節」に関しては、全体で見るとかなり飛び道具的な楽曲であり、秀逸な楽曲だと思えました、同時に、楽曲制作時に楽曲構成で一番力を入れつつ、イエナガさん自身も悩んだであろうというのが想像できます(笑)ご自身にとって、この「夢見る季節」を制作しているとき、どういったことを考えていたでしょう?
イエナガ:「夢みる季節」の制作時は、妄想の中でなっている音を削らず全て再現したいな…と考えていました。ごちゃごちゃした、片付けないままを正確に再現したくて。この楽曲は僕の友人が働いてる会社を辞めてかねてからの夢だった職業に就くことになり、その過程を歌にしてお祝いにプレゼントにしようと思ったところが発端で出来た曲ですね。その友人がことあるごとにプレイリストを作って送ってくれたり、制作当時クラッシックを聴いていたりしたので、クラッシックのような章立てた楽曲を目指したかったんだと思います。楽曲の長さや、音の多さからかなり力が入っていると思われるかもしれないですが、そこまで気負って製作に臨んだ訳ではありませんでした。むしろもっと、みんなロック組曲をやればいいのにって思うくらいなので。
–: ありがとうございます。クラシックや組曲からの影響と仰いましたが、ぼくはこの曲とRadioheadの「パラノイドアンドロイド」とかなり近しいように感じました。スリリングでありつつもヒステリックな「パラノイドアンドロイド」ですが、この曲にも同じような錯乱した感覚を覚えました。ただ、「夢見る季節」はフューチャーベース系のトラックのように、カットアップに次ぐカットアップで構成されていて、バンド感とトラックメイカー感がゴチャゴチャと混ざり合った、とてもストレンジな異色さがあります。
イエナガ:レディオヘッドにはどうしても誰もがなんらかの形で影響を受けるのかなと思いますが、この曲はパラノイドアンドロイドのような形を目指した訳ではないんです。ただこの曲の製作中は精神的に参っていて、自分の生活音を録音したものをカットアップしてループ素材にしたり… それこそ「夢みる季節」の冒頭のループは僕の生活で出た音を切り貼りして作ったものだったりして。そういった私的な悩みが前面に出ていて、そこがパラノイドアンドロイドのような雰囲気に聴こえるのかもしれません。僕の周りにはパソコン音楽クラブやthe oto factoryのようなトラックメイカーとして気鋭の同世代がいて、僕もトラックメイカー的なカットアップやループ素材を作りたいなとずっと思っていて。でもあまりに周りがその領域の権威だらけなので気軽に手を出せなくて(笑)そうして録り貯めてはボツにしたループ素材の集積が「夢みる季節」を構成しているのは確かですね。トラックメイカー的な音からバンドサウンドになっていく、その対比を狙ってトラックメイカー感/バンド感は狙って混ぜました。
–: 難しいところをお答え頂きありがとうございました。ちなみになんですが、今作に収録されている曲で、一番古い曲はどれになるんでしょうか?
イエナガ:「さまよう」ですね。この曲が初めて作ったら曲なので…。アルバムでは「さまよう」と「東京」が再録になっているので、データ自体が一番古いのは「まばゆい」です。なのでこの3曲が比較的古い楽曲と言うことになります。
–: 楽曲を思いついたり、ネタが思いつくのはどういった時が多いでしょう?お風呂に入ってるときでしょうか?(笑)
イエナガ:楽器、それもギターからできることが多いですね。何気ないコード進行やフレーズを気に入って、それを聞かせたいが為に肉付けするように曲にすることがほとんどです。お風呂だろうと移動中だろうと思いつくし、楽器が手元になければボイスメモに声でギターフレーズを残したりします。最近は景色ありきで曲を作ることが多くて、映画やアニメを見たあとの気持ちを胸にしつつ楽器を爪弾いて形にすることも多いです。もちろん完成した演奏をお風呂で再生しながらメロディを考えることもありますよ(笑)
–: 自分自身をギタープレイヤーと思った時、影響を受けたギタリストとしていの一番に挙がるのは誰でしょう?どういったところに影響が出てると思いますか?
イエナガ:椎名林檎さんのサポートなどをされている名越由貴夫さん、赤い公園のギタリストの津野米咲さん……あたりでしょうか。グシャッと潰れた音の中にも切ないメロディだったりコード進行がある、ギターという楽器でしか出せない「歪み」をうまく扱っているギタリストが憧れですね。クリーンにすればすごく素朴で胸を打つフレーズを、あえて過度に歪ませていることでそのフレーズがオケの中で聞こえてくる…… そういったギターの立ち位置に影響を受けていると思います。
–: 序盤の4曲は特にそういったギターサウンドの質感がうまく出せていて、とても印象的かつスムーズにこのアルバムへとのめり込めるアクセントになっているなと感じます。


–: ところで、今作などを実際にライブ会場などで披露したことはあるんでしょうか?
イエナガ:全くもってないです。もし披露する機会があっても、できる曲は限られているのは聴いていただければ分かるかも知れませんが(笑)
–: ということは、今後もライブなどで披露する機会はなさそう……なんでしょうか?
イエナガ:ライブ活動をすることがあれば、大きくアレンジを変えるか新たにに曲を作ると思います。バンドの形式にもよりますが。「ライブでやる」という前提の中で音楽をやらなきゃいけないなんてつまらないと思いますし。でも後ろ向きな訳ではなく、いずれ機会があればライブもしてみたいなとは思いますよ。僕自身ライブの魔法みたいなものは信じているので。
–: 最後になりますが、今後の目標や夢などはあるでしょうか?
イエナガ:もう音楽でどうにかなろうという野望は個人的になくなってしまったので、真摯に良いものを作っていきたいですね。今作を「指標」としたのでここから攻撃的な音像に行くも良し、歌を追っても良いと思っています。ライブで拳を上げさせる正解があるなら、その人の生活の中で何度も再生される正解もあると信じて、定期的に今作のような音源を出していけるといいなと思います。とにかくたくさんの人に知られたい。
–: 一個だけ、付け加えて話していただければと思うんですが。ここまでの話で思ったことをお聞きしたいのですが、ライブと音源、その違いについて、イエナガさんのなかで思うところがあるようにみえるんですが、いかがでしょうか?。
イエナガ:僕はライブハウスでPAをさせていただく機会もあるので、その点に関して思うところは確かにあるかもしれません。ライブが音源の再現にならないで欲しいとおもうし、プレイヤーとしても録音時とステージでギターはまるで別物だと思うんです。

だから、ライブでは細かなディテールを綱渡りのようになぞるより、多少シンプルになってでも歌の強度で闘えることが理想なのかもしれません。ライブカルチャー中心の音楽が嫌いなだけかもしれませんけど(笑)。普段曲を作る時もライブでの再現性を考えないのは「本当にいいものならコードと歌だけになってしまってもいいものだ!」と思うからかもしれませんし、自分の作るものにもそういった姿勢やポリシーは確実に現れていると思います。




『merkmal』/ colormal
2018年1/17リリース
フォーマット:CD / デジタル配信 / ストリーミング配信
レーベル:マバセレコーズ
カタログNo.:M!002
価格:¥1,500(税込、CD)
【Track List】
1.夢みる季節
2.大きな怪獣
3.まばゆい
4.さまよう
5.花に嵐
6.日記
7.東京
8.鎹

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2018.3.5 12:30

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