【REVIEW】ライブレポート:死神紫郎×面黒楼卍×中学生棺桶 東高円寺二万電圧ライブレポート
じっとりと汗ばむ真夏日となった2022年7/30(土)。東京都 東高円寺二万電圧では、フォーク歌手とラッパーの2つの肩書をもつ死神紫郎の18周年、暗黒童話の世界を弾き語りで表現し続ける面黒楼卍の20周年、そして2000年代アングラシーンを牽引した中学生棺桶の11年ぶりの復活という、いくつもの記念が重なった歴史的ライブが開催された。
まずはこのライブの主催者である死神紫郎が登場し、初めてプロデューサーを携えて制作したラップソング「冷蔵庫」を披露。音楽活動17年目にしてラッパーとなり、MCバトルにも乗り込んで鍛えあげたラップは、完全に磨きがかかっている。クールなビートに合わせ、臭い立つような生活感のある単語を織り交ぜたリリックを淡々と叩きつけた。初っ端からラップスタイルを見せつけた死神がステージに呼びこんだのは、この日が初ライブとなる奇才の映像作家・愛は0秒天使弾道ミサイル。怪しい三つ目サングラスをかけて登場した彼は、死神紫郎作曲の不気味なマーチ曲「天使弾道ミサイル愛は0秒」を堂々と歌い上げる。最後には「これからも自信をもって不審であろうと思います」と宣言し、異様な印象を残したままステージを後にした。
続いて登場したのは、お待ちかねの中学生棺桶。彼らの出番前には、11年もの間待ち続けたファンたちのそわそわとした落ち着かない雰囲気が会場内に漂っていた。ライブの開始時間が迫るにつれて、フロア前方へどんどん人が入ってくる。音出しの時点ですでにピリピリした空気が充満していたが、頭から血を流した赤髪の葉蔵が登場するとその緊張感はピークに達した。痺れるような鋭いギターのリフが響き渡ると、フロアからは歓喜の声が上がる。待望の復活ライブの幕開けは、「自転車に乗りゃ雨」。ブランクを全く感じさせない完璧なグルーヴを生み出し、観客を湧かせる。酒を片手に身体を揺らす者。低い天井に向かって腕を突き上げる者。ステージをじっと見つめる者。床に視線を落として音とリズムに浸る者。それぞれのやり方で、待ちわびた暴力的な音楽を楽しんでいた。「みんなバラバラ、それでいいんだ。足並み揃える必要なんてない」と観客をさらに煽る葉蔵。その言葉に触発されたフロアはさらに熱を帯びていく。その言葉に触発されたフロアはさらに熱を帯び、ライブハウス本来の姿を取り戻していく。雁字搦めの世の中への憤りを叩きつけるように、「馬鹿がばれるの怖くて無口」、「あのままのま」、新曲「JYUZOKKA(従属禍)」、「女の子です」などを次々とぶつけていく中学生棺桶。途中「みなさんはあのままですか!」としゃがれた声で葉蔵が問うと、「もちろんだぜ!」とどこからか声が上がった。この短いやり取りが全てだろう。ラストは「六月十三日の虚無牢」を披露し、完全復活した姿を見せつけながら終了。ロビーへ出る観客たちの背中には、大きな汗染みが見えた。
この狂乱を静かな鍵盤の音色で打ち消したのは、レースのケープと青いドレスに身を包んだ面黒楼卍だ。「夕闇の舟唄」から始まり、彼女にしか表現できない不気味かつ美しい音楽を奏でながら、夜の世界へと誘う。語りかけるような歌唱は、まるで芝居の舞台を見ているような錯覚を感じさせる。先ほどまで熱狂していた観客たちは、今度は直立不動でステージを見つめていた。その後も、緩急つけた演奏で不協和音を響かせる「一粒の種」、魂が飲み込まれていくような恐怖を感じるフレーズをリフレインさせる「錆色」、金属音のような同期が印象的な「夜の音楽」を続けて披露。前傾姿勢で髪を乱しながら歌う面黒楼卍は、途中のMCで顔面に黒髪をはりつけたまま「みんなで楽しんでいきましょう」と笑顔を見せ、そのまま次の曲「人工海月」へ。片手を高く上げて空中をぼんやりと見つめたり、あどけない少女のように楽しそうに笑ったりと、数多の表現で観客たちを圧倒していく。曲の合間に差し込まれるアドリブのインストも迫力満点だ。最後は、生き物のように動く指がダークなメロディを奏でる「瓶詰の唄」と「赤い煙」を続けて演奏。20年の間で培った表現力を全て開放したような圧倒的なパフォーマンスで、たっぷりと余韻を残したままステージは幕を下ろした。「今日は死神さん、呼んでくれてありがとう。そして中学生棺桶、復活してくれてありがとう。お越しいただいた皆さん最高です、ほんま。ありがとうございます」。面黒楼卍がそう柔らかな関西弁で言いながら深々とお辞儀をしたとき、やっと現実世界に戻ってきたような気がした。
ラストを飾るのは、もちろん死神紫郎。黒装束にアコースティックギターを抱えて登場すると、まずは「七人掛けの椅子」を演奏し始める。不条理な日常の一コマを死神紫郎目線で切り取ったこの曲は、誰もが一度は経験したことがあるからこそ全ての人の心に刺さる力を持っている。続いて、MC死神紫郎名義としては初となる作品「執念のラップもういっちょ」を披露。この曲ではギターのボディを叩いて作ったリズムに哀愁漂うメロディを重ね、そのフレーズをリフレインさせることでリアルタイムにビートを作り上げ、そこにラップをのせていくという、死神ならではのパフォーマンスが見られる。リリックには、18年という活動歴の確かな重みと、しかし型に囚われず保守的にならない前のめりな姿勢の両方を感じさせる言葉が並んでいる。この曲こそが、今の死神の名刺代わりの一曲と言っても良いのではないだろうか。さらに、スピード感のあるリズムを刻みながら血なまぐさい光景を描いていく「牛は屠殺を免れない」、情感たっぷりに歌い上げる歌謡曲「紫郎の夢は夜ひらく」、労働社会を皮肉った「逃げろ!」と多彩な楽曲を届けていく。MCでは、この日復活を遂げた中学生棺桶について「当時、高円寺や池袋のアンダーグラウンドシーンでは中学生棺桶の影響がすごくあって、中学生棺桶のライブを見ると、みんな葉蔵さんに影響を受けて物申したくなる。音楽ライターの大越よしはるさんが、“中学生棺桶を見ると自分の心の中に狩野葉蔵を飼うようになる”と言ってたが自分もそうで、“シニさん、最近ちょっと丸くなってきてない? 本当は怒ってること曲にしたいんじゃないの?”って自分の中の葉蔵さんが絶えず表現の火をつけてくれている」と、自身の中にある大きな感情を言葉にする場面も。ラストはギターを置いて、9/11に配信リリースとなる新曲ラップ「神と紙」を披露。洗練されたトラックにハマるクールなラップを繰り出す姿はまさに新境地。18周年にしてさらなる進化を期待させるパフォーマンスであった。
死神紫郎、面黒楼卍、中学生棺桶、そして愛は0秒天使弾道ミサイルと、それぞれの方向に尖った音楽性を持つ彼らが一堂に会し、刺激し合った本公演。フロアにいた観客たちはもちろん、配信で見ていた観客たちの心も強く刺激したに違いない。
テキスト:南明歩
【セットリスト】
・死神紫郎/愛は0秒天使弾道ミサイル:
冷蔵庫
天使弾道ミサイルのマーチ(ゲスト:愛は0秒天使弾道ミサイル)
・中学生棺桶:
自転車に乗りゃ雨
死なずの関係
馬鹿がばれるの怖くて無口
あのままのま
かかわれば
JYUZOKKA(従属禍)
地団駄(踏んで踏んで漫画描き)
女の子です
六月十三日の虚無牢
・面黒楼卍:
夕闇の舟唄
一粒の種
錆色
夜の音楽
インプロ的インスト(情景に忠実に)
人工海月
インプロ的インスト(水辺への憧憬)
瓶詰の唄
赤い煙
・死神紫郎:
七人掛けの椅子
執念のラップもういっちょ
牛は屠殺を免れない
紫郎の夢は夜ひらく
逃げろ!
神と紙
en.ねぼけまなこ
「死神紫郎18周年・面黒楼卍20周年・中学生棺桶 復活記念ライブ」
2022年7/30(土)東高円寺二万電圧
ACT:死神紫郎 / 面黒楼卍 / 中学生棺桶
Opening Guest:愛は0秒天使弾道ミサイル
Open 17:30 / Start 18:00
来場:Adv. ¥4,200(+1d)
配信:¥2,800
2022.9.13 18:00
カテゴリ:PU3_, REVIEW タグ:JAPAN, 中学生棺桶, 天使弾道ミサイル, 死神紫郎, 面黒楼卍
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