【REVIEW】V.A.『NOT FORMAL ~NEW ALTERNATIVE~』



ALTERNATIVE:別の可能性、取って代わるもの、代替手段、選択肢、オプション、代わりの、別の、他に取り得る。


真正面から『ALTERNATIVE』の意味を切り取ってみると、上記のようにある。

この言葉には一つの断りが必要になる。この言葉は、他の大きな存在を示唆し、呼応しているということ。つまり、先行した何かしらの存在がなければ、この言葉を使うわけにはいかないことだ。英語だろうが日本語だろうが関係なく、人間誰しもが言葉単語それぞれに、特有固有のイメージがある。「ALTERNATIVE」という言葉を「取って代わるもの」というイメージで捉える人は、まずいないだろう。

いわずもがなだが、ロック好きにとって「オルタナティヴ」というのは大きな意味をもっている。UKのポスト・パンク・ブームを受け取り、00年代初頭のUSインディシーンから地続きになっていたハードコアパンク~ポスト・ハードコアのトライヴから生まれでたバンド群をさしている。しかしながら、いつごろから「オルタナティヴ・ロック」なる言葉が出てきたのだろう、少なくとも、90年代にNirvanaやDINOSAUR.Jrらがブレイクして以降、90年代以前のロックとそれ以降のオルタナティヴ・ロックとを区分けするようになった。





その「オルタナティヴ」という心構えは、00年代以降のミュージックシーンを切り取る「インディ」という言葉にも大きく関与している。DIY精神であり、他の大きな存在とは決して同じではないもの、その意味を「インディ」がしっかりと受け継いだのだ。それは、00年代後半5年間でのUSインディバンドの大攻勢や、海外国内の音楽メディアが多用したことが起因しているだろう

その後、2010年代におけるポップミュージックのなかで、「オルタナティヴ」「オルタナティヴ・ロック」という言葉は、本来の意味が脱がされ、歴史のなかにある固定化された意味ある言葉の一つとなった。つまるところ、「いま・現在・この瞬間」を捉えるための語彙から、「オルタナティヴ」という言葉は外された。ドラム・ベース・ギターの音楽的特徴を差異として、ロックとは違ったロックミュージック・・・「オルタナティヴ・ロック」として封印されたのだ。

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僕がTHIS IS JAPANを初めて見たのが2013年、indiegrabにおいても2016年に彼らにインタビューした。その時にも、彼らはしきりに「オルタナティヴ」と語っている。それはこの記事を読んでもらえばよくわかってもらえると思う。彼らが口にする時の「オルタナティブ」は、たしかに歴史的な意味としての「オルタナティヴ・ロック」としての意味合いを持っているわけだが、彼らは今作『NOT FORMAL ~NEW ALTERNATIVE~』を通じて、その意味をもう一度更新しようと試みているようにみえた。

【INTERVIEW】THIS IS JAPAN『DISTORTION』

音楽メディア『Rock is』での動画インタビューにおいて、彼らが本作について語る動画がある。そこではギター・ボーカルの杉森ジャックは

「同じ世代のバンドで、面白いなと思えるバンドが出てきたタイミングだったので、みんなで『やりたいことをやる』という一つのイズムを持ち寄って、それが18曲でぶつかっているというのが面白いと思います」

と本作を語っている。





今作の先頭に立つTHIS IS JAPANと愛はズボーンらは4人組バンドだが、18組中9組に女性メンバーが所属し、3ピースバンドは5組、2ピースバンドも女性オンリーバンドもいる。18組全バンドがギターサウンドを軸にしてはいるが、その方向性はまるでバラバラ、これほどまでに粒ぞろいかつ、違いの見えるとは思っていなかった。

日本の10年代におけるインディロックシーンを鮮やかに彩ったkilikilivillaから選ばれたcar10やSEVENTEEN AGAiNは、フォーキーなギター感をそのままファズギターに変換したようなインディロックで、まさしくいまのマック・デマルコやMitsukiといったUSインディロックにもつらなる。ナードマグネットは過去のロックバンドの偉大さを茶目っ気とエモーショナルに溢れた形で表現しているし、午前3時と退屈・CHAI・THE TOMBOYSはそれぞれのスタイルで<女性像>を描こうとしている。

そしてこれはマスタリングなどの関係上の問題であろうが、今作に選ばれた18曲は、緻密なサウンドスケープではなく、ラフなサウンドスケープを保っている。もしかすれば、ただ単にコンプレッサーを不必要に使っていないからかもしれない。

THIS IS JAPANが敬愛するロックバンドらは、常にその時代を次代に繋ぐようなコンピレーションアルバムを生み出してきた。「No New York」「極東最前線」「TOKYO NEW WAVE 2010」などなどと一緒に、今作はいま全国に広がる<オルタナティヴなトライヴ>を切り取った一枚になりえるだろう。断っておきたいが、この2017年のNEW ALTERNATIVEなバンドを選ぶという意味で『あのバンドがいない!このバンドがいない!』と違和感の声があがってしまうのは致し方ないだろうと思う。この5年で特筆すべき活躍を魅せてきた、NOT WONK・THE FULL TEENZ・MiLK・And Summer Club・carpool・メシアと人人らがいないとなると、その声も大きくなるのかもしれない。収録曲には限界があるのを、ここで恨めしく思わざるをえない。

だが『NOT FORMAL ~NEW ALTERNATIVE~』という今作、ここでは『形式ばらず、囚われない』という意味に加えて、それこそインディという言葉が持っていた『自由さ』を支持する意味がある、そして『堅くなるなよ≒NOT FORMAL』なスタイルを表明した一作といえそうだ。彼らのなかで横一線につながる意識を、こうして決めつけてしまうのは、ボク個人の先読みしすぎだろうとは思うが。この先の活動を、楽しみに待っていよう。

『NOT FORMAL 〜NEW ALTERNATIVE〜』
2017年11/22リリース
フォーマット:CD
レーベル:Kerosene
カタログNo.:KRSE2
価格:¥1,500(税抜)
参加バンド:THIS IS JAPAN、愛はズボーン、 CAR10 、午前3時と退屈、The Taupe、THE TOMBOYS、SEVENTEEN AGAiN、w.o.d.、 CHAI 、Teenager Kick Ass、突然少年、ナードマグネット、ニトロデイ、BALLOND’OR、ハンブレッダーズ、羊文学、 FINLANDS 、余命百年


2017.11.27 21:50

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