【REVIEW】Piano Magic / Disaffected(Saint Marie Records)



英国のAmbient Popあるいはインディートロニカと言われるバンド、Piano Magicが2005年に発表した8作目のアルバムが今般、ヴァイナルリイシューされるということで、あらためて聴いてみた。本作はインディーサイケに接近しつつも、2000年代当時のインディーシーンにも寄り添った多様なアプローチがまとまりよく配置されている傑作だ。

1.You Can Hear The Room
電子音を中心に始まるが、中盤以降の淡く抑制されつつ激しいギターやにエコーの深いドラム、揺れ動くヴォーカル、ワンコードでゆっくりと押し通す1960年代のサンフランシスコ直系の呪術的なサイケデリック感覚に吸い込まれていく。その構成が美しい。また随所にかつて所属していた4ADのサウンドを思わせる音響処理が施されておりその上品なミクスチュア感覚は実にPiano Magicらしい。

2.Love Et Music
ピッチの高い乾いた音響が印象的なスネアドラム、淡白なアルベジオと通奏低音のストリングス。冒頭のトラックとの対照的なアプローチが印象的だ。中盤、あるいはエンディングの切り込むようなギターのカッティング、厚いリバーブに溶け込むようなギターソロ。ノイズ混じりのエンディングまでシンプルながら余裕ある展開を見せる。

3.Night Of The Hunter
前曲に引き続きSOMAスタジオ的なアプローチを散りばめながら、ハンドクラップや、拍を外すスネア、アコースティックギターにやはり淡白なコード進行で、フレーズごと、ブリッジごとに繰り返しながら音を重ねていくアレンジが見事。巧妙に配置されたSEはブライアンウィルソンやKLFを連想させる犬の咆哮など、さりげなく様々な仕掛けが埋め込まれている。

4.Disaffected
タイトル曲は、打ち込みを多用したリズムトラックにアコースティックギターのアルペジオ、女性ヴォーカル。やはり控えめなコード進行でじっくりと開けていくサビに派手さはないがとても印象的。後半、リズムトラックが極めてミニマルに強調される。この辺りは1990年代のサイケデリックロックにも通じるアプローチを感じた。エンディングに向かって徐々に淡々と織り込まれるギターが美しい。

5.Your Ghost
歌詞は彼らの元々の持ち味でもあるゴシック・ロックらしさを持った絵画的な世界観も見せつつ、耽美で淡い低音ヴォーカルではじまる。間奏部分は巧妙にテーマに位置付けられており、そのことがかえってヴォーカルのメロディーラインに余韻を感じさせる。湿度の高い間奏部分と、淡白なブリッジ部分のメリハリが効果的だ。

6.I Must Leave London
ここでは、2000年代当時のフリーフォークに通じるアコースティックギターが楽曲を支える。あるいは、DONOVANのような世界観も垣間見得る。美しく切ないメロディー、アルペジオ。シンプルに旋律の良さを響かせる力作で、ヴァイナル化の中でも引き立つトラックの一つではないかと感じる。

7.Deleted Scenes
前曲との対比がやはり見事な、打ち込みを多用したミニマルなエレクトロトラック。やはりコード進行に大きな展開はないが、サビの男女ユニゾンヴォーカルが楽曲を大きく展開させる。諦観を感じさせる世界観がシンプルに繰り返される歌詞を通じて楽曲を覆い尽くす。トラックはエンディングに向けて次第に細かなフレーズを織り込むが唐突に、引きちぎられるようにトラックは終わる。

8.The Nostalgist
ゆったりと進行する構造は極めてサイケデリックなアプローチと、淡いエコーの中で時折奏でられるストロークが折り重なって幻想感を盛り立てる。このストロークの揺らめきがとても魅力的だ。ヴォーカルは次第に断片的になり、淡白ながらシアトリカルな印象も感じる。

9.Jacknifed
淡々と打ちつけられるドラム、アルペジオ、間奏で織り込まれる轟音、シンプルでミニマルな構成、彼らの持ち味の対比が凝縮された楽曲だが、それだけにとどまらず間奏部分ではエモーショナルなドラムがフィルを時折垣間見せ、エンディングに向けて溶けだすような轟音の一体感まで、あらゆる要素が詰め込まれている。

10.You Can Never Get Lost (When You’ve Nowhere To Go)
アコースティックギターが静かにアルペジオを刻み、やはり静かにストリングスが辺りを覆う。2000年代にNick Drakeの再評価が高まった時は、フリーフォーク界隈の作品がきっかけだったように思う。その空気感を取り込みつつ、彼ららしい淡白さやミニマルな高揚の美学を追求したエンディングにふさわしい上品な作品だ。

Cedric Pin初参加の本作。ヴァイナルでリイシューされた2000年代の作品をリバイバル感なく聴いてみて、新作当初よりも一層素材の完成度が印象に残った。あらためてこの多様かつ一貫性があり、構成美を保ち続けたこのアルバムを評価したい。

テキスト:30smallflowers(@30smallflowers

2016.6.23 4:20

カテゴリ:REVIEW タグ:,