【REVIEW】Toramaru / BEFORE RANGE(迷われレコード)

BEFORE RANGE

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『水と音出し』(MYWR-185)をレビューさせて頂いた時には、極端に突出しないシンプルな電子音を軸にしたチルアウトな音作りが印象的なEPと紹介したToramaruだが、その後、前作『Catalog of Installation』(MYWR-193)を経て発表された今作では、意外にもリズムトラックが強調された展開を見せている。

1.BEFORE RANGE
冒頭のタイトル曲で登場する端正なコードのリズム感はEP全体を支配する上品なフレーズの伏線を感じる。フィールドレコーディングを織り交ぜたスタイルは従来のチルアウトアプローチからの延長ともとらえることが出来るし、一方でタイトなリズムトラックは新しい展開を予感させるスタイルともとれる。StudioOneを駆使したサウンドを織り込みつつも今回は、microKORGを軸にトラックを組み立てていったということだが、このトラックはその新しさとこれまでの作風をうまく橋渡しをしているように感じた。

2.NITE HIWAY
前のトラックからリズムが抜けて、静かにパッドを残した状態でそのままこの曲につないでいく。ここで、バーチャルアナログを連想させるシンセベースと4つ打ちのキックが登場する。新しい展開を感じるリズムトラックを引き立たせた作りになっている。前のトラックからのつながりで美しく下支えするパッドと、その上を辿るアルベジエイターにパーカッシブな電子音、とてもクラシカルなコード進行がミニマルな構成を彩っている。エンディングは再びパッドが耳に残る一方で、アルベジエイターが進行に合わせて次第に次のトラックのオープニングに向けた準備に入っていく。

3.STREET LAMP
やや粗い電子音によるリフレインの中で、細かく刻まれたキックとゆったりしたスネア、チルアウトスタイルを連想させるピアノフレーズからトラックははじまる。この組み合わせの中で表現されるレイドバックスタイルがとても美しい。その後、高音で展開するミニマルなフレーズとリズムトラックが追加され、乾いた音の光景が少しづつ色彩を帯びてくる。エンディングは一連のリズムトラックが全てミュートされた状態でアンビエントミニマルな骨格だけを残して唐突に終わる。

前々作『水と音出し』のエンディングに配置された「鳥籠」では当初はリズムトラックがあったが、最終的にはそれらはミュートされてた。今作ではリズムトラックは常に前面に押し出されている。リズムへの向き合い方の変遷は「鳥籠」と今作EPの対比で聴いてみると非常に興味深い。変遷の一方で、全体の構成美を重視したサウンド面のコンセプチュアルな組み立て方はこれまでと変わらない部分とも言える。圧倒的な断絶はむしろ感じない。非常にコンパクトな作りだが、今回も繰り返し聴きたくなる作品に仕上がった。

テキスト:30smallflowers(@30smallflowers

2015.11.18 2:15

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