とにかく「いかにおもしろい音が出せるか?」を実験してきました―松前公高インタビュー


僕の原点をやりたいっていう事が出来ました

–:山口優さんとのテクノポップ・ユニット、EXPOはどのような経緯で結成されたのでしょうか? EXPOが「エキスポの万国戦略」を出した87年にテクノポップは冬の時代を迎えていました。そうした時代の中でEXPOはどういう電子音楽をやろうとしていたのでしょうか?
松前:ライブで共演した「もすけさん」をやっていた山口優と知り合って、その頃はいつも自分のデモテープを持ち歩いていたので、山口にも渡して気に入ってくれてたんだけど、その時はなにもなかったんです。当時、YENレーベルのプロデューサーの小尾一介さんが細野晴臣さんのゼビウスのレコードからの発展でYENの次にゲーム音楽のレーベルを立ち上げられて(GMOレーベル)、その関係のゲームイベントで山口がゲーム音楽を演奏する仕事をやったんです。そこで「ゲーム世代の新しい音楽ユニット作ってレコード作らないか?」みたいなお話をいただいたみたいで、その時に山口が僕を誘ってくれたんです。バンドも出来てないのにメジャーデビューが決まってたという。
プロデューサーはかなりカッコいい音楽を期待していたんですが、僕等はその頃、レコメン系とかレジデンツ、DER PLANとか好きだったのと、僕の前述のデモテープもそういったサウンドが大量にあったので、それをベーシックにして作っていったんです。「正確なコンピューター」でなくて、リズムがよれていたり、不協和音、ミス、ノイズ(ノイズミュージックという意味ではなく、入れてはいけない雑音)とか、そういう事に興味があって、デジタルシンセにも飽きちゃってたからやっぱりリバーブなしのアナログシンセの音そのまんま、それが当時のゲーム音楽の音との共通性があって、結果としてはおもしろい形で出す事が出来ました。
–:94年に松前さんは日本のインディ・テクノ・レーベルの草分け的存在のトランソニック・レコーズからソロ・アルバム「Space Ranch」をリリースします。当時、クラブ系テクノ、アンビエントなどのルーツとしてクラスターやクラウス・シュルツェなどのジャーマン・ロックが再評価されていましたが、このアルバムはそうした動きに対する松前さんからの回答として響きました。このアルバムはどのような経緯で制作されたのでしょうか? また、クラブ通過以降のテクノ、アンビエントなどの電子音楽を松前さんはどうとらえていましたか? 
松前:EXPOでこっち方面はやった、その後セガのゲームミュージックのバンドS.S.T.BANDを立ち上げて、こちらではプログレっぽい事もやれた。で、自分がまだやってない事って、ジャーマンロックだろう?という事ですかね。クラブ系のテクノも「勉強」として意識はしていましたが、やっぱり、世代が違うというかな? 自分の守備範囲じゃない事、身体に染みついていない事を無理にしても「それ風」やってるだけになっちゃうんです。なので気にせず自分らしくやろうという事だったと思います。こういった作風もデモとしては大量に作っていたんですが(キツネに何曲か収録)、ディープに完成させたものはまだ一度も発表してなかったんですね。なのでそれをやれたのが「Space Ranch」です。松前公高という名前で初のソロアルバムだったので、僕の原点をやりたいっていう事が出来ました。
–:渋谷系~モンド/ラウンジに至る、90年代以降のポップ・カルチャーについてはどう感じていましたか?
松前:僕は元々、かなりプログレやジャーマンロックの方が影響大きかったですから。バカラックとか古いシンセミュージックも好きだったけど、主流で追いかけていた訳じゃないし、京浜兄弟社の他のメンバーほどモンド/ラウンジは詳しくなかったんですよ。むしろこの頃、いろいろ勉強させてもらった感じでした。



結局今でも残っているのはKORG MS-20だけです。これなくなったら仕事出来ないと思って5台集めました

–:面白い音を作るうえで、ソフトウェア・シンセというのは松前さんにとって魅力的なツールでしょうか?
松前:ハードウェアの魅力から考えたら、ソフトウェア音源はまったくそういう魅力はないです……。
ただ、価格。使いやすさ、DAWとの連携を考えると、とてつもなく素晴らしい。
以前は「ハードと比べて音が全く違う〜〜〜」って言えてましたが、今はソフトがかなり優秀なので、全く問題ないです。
ただ、やっぱり、鍵盤叩いた時の感覚は、いまだに違いますねえ〜〜〜〜。
でもそれ以上に、便利で安くて、コンパクト。これは素晴らしいので、全くハードウェアに固執していません。
–:その中で松前さんお気に入りのものはありますか?
松前:Dmitry SchesのTHORNは、昔シンセをさわっていた頃と同じ様な感覚で、その機能にワクワクさせられています。あとDAWのLOGIC PRO Xが10.5にアップデートされたんですがその新機能も今、ワクワクして使ってます。
–:松前さんが今もレコーディングやライブで愛用されているアナログ・シンセサイザーはありますか?
松前:音楽を仕事にする様になってからは、とにかく昔の欲望のままにシンセ買いまくりました。相当な数になってましたけど。その後、ソフトウェア化が進み、同時に、帰阪する決意をしたんです。それで一気に断捨離。大阪に持って帰ったのはEMS AKSとKORG MS-20だけでした。EMS AKSはあまりに故障が激しくて、あと同じ音は出ないまでも、最近のユーロラックでも面白い事は出来るので手放しました。結局今でも残っているのはKORG MS-20だけです。これなくなったら仕事出来ないと思って5台集めました。その後メーカーからも再発されましたけどね。
–:数多くのシンセサイザーを使いこなしてきた中、MS-20が手元に残った理由というのは?
松前:MS-20、音が好きっていうのが大きいけれど、カッコいい音も出てトボけた音も得意なんです。すごく自分に合うな〜って思って使ってます。操作も慣れているし、何よりローパスフィルター、ハイパスフィルター両方にレゾナンスが付いていて、両方のカットオフつまみを同時に動かせる設計が素晴らしいですね。今回のアルバムでもMS-20の音が一番たくさん入っています。

大学や専門学校で教えたりしているんですが、そういう時に話すのは、先ほど書いた「何でも屋」になるなって事ですかね

–:松前さんは現在帰阪されていますが、活動の拠点を大阪に移したのはどういう理由からなのでしょうか?
松前:第一の理由は大阪のテレビ番組を観たかった。それまでは大阪に居た親に大阪の番組ビデオ録画して送ってもらっていたんです。YouTubeもGYAO!もなかったですからね。第二の理由はネットがあればどこでも仕事が出来る様になってきた事。家にひきこもって仕事して、納品もネットで送れる様になってきた。もうそうなったらどこに住んでても一緒でしょ?第三の理由は人生計画的な事ですね。子供の成長、家を買う、親の高齢化等々。第四の理由は大阪の立ち飲み屋でいつも飲みたかった。天満とか西成で。その頃は渋谷、新宿に立ち飲みなんてほとんどなかったでしょ?これら考えるともう帰阪するしかないな〜と思いました。2005年からです。
–:CMやゲーム、テレビ番組などで音楽を多数手がけてきた松前さんから、これから音楽で食っていこうとする若者にアドバイスがありましたら、お願いします。
松前:いやいや、そんなビッグなアーティストでもないし、若い人の方が素晴らしい作品作るし、パワーもあるし、僕から言う事はなにもないですよ。ただ、今、大学や専門学校で教えたりしているんですが、そういう時に話すのは、先ほど書いた「何でも屋」になるなって事ですかね。
–:では最後に、松前さんが手掛けた最新の仕事で、これはチェックしてもらいたい、というものがあれば教えてください。
松前:最新、っていう意味では「WORKS」に収録した「(あなたはキツネBEST+40TRACKS-70TRACKS)x16」っていう曲がちょうど、このWORKSをまとめる作業の中で1曲つくったものですね。これは今回の「キツネ」も一つの「仕事依頼」という解釈で、一ヶ月前に出たアルバムの曲を31曲、16倍速で収録したものなんです。44.1kHzの音を176.4kHzで再生して、それを44.1kHzでリサンプリング、2回やると16倍速になるという方法でキュルキュルって音にシンセの音を重ねただけのものなんです。逆の方法で1/16速で再生したら、音がとんでもなく悪いけど、キツネの曲が31曲聴ける様になっています。重ねたシンセの音は1/16速になると可聴範囲より下になるので、音としては再生されません。まあ、ワンアイデアな作品ですが、是非「WORKS」でチェックしてみていただきたいです!

取材・まとめ:小暮秀夫




『あなたはキツネBEST+40 TARCKS』
/ 松前公高
2020年7/22リリース
フォーマット:2CD
レーベル:SUPER FUJI DISCS
カタログNo.:FJSP395/396
価格:¥2,880(税込)
ディスクユニオン




『松前公高ワークス 1989-2019』
/ 松前公高
2020年8/19リリース
フォーマット:2CD
レーベル:SUPER FUJI DISCS
カタログNo.:FJSP397
価格:¥2,950(税抜)
ディスクユニオン

1 2

2020.8.21 18:00

カテゴリ:INTERVIEW, PU3_ タグ:,