【INTERVIEW】『don’t watch the sun』/ iLU
ポップで浮遊感溢れる気持ちの良いコードワークを軸に、疾走する高速ビートやダンス・ナンバーからダウン・テンポまで縦横無尽に展開されるリズムが溶け合った秀逸なトラックに、キュートさとソウルフルさを兼ね備えたKUROの可憐で力強い歌声が重なったサウンドが大きな反響を得ているiLU。今回、そんなiLUのメンバーであるプロデューサーのShin WadaとボーカリストのKUROに話をうかがってみた。
Shinのトラックはイメージが浮かびやすく、メロ付けはどの曲も一瞬でした
- –:iLUの結成から本作リリースまでの経緯を教えて下さい。
- Shin Wada:「IN YA MELLOW TONE」というmellow hiphopのコンピがあって、最初知人からそれに合うような楽曲を作ってみないかという話をいただきました。そのトラックを去年の夏頃作ったんですが、KUROに歌入れを頼んでみたところ、これが驚くほど作業が早くしかもクオリティが非常に高かったんです。
ただその曲は結局「mellow hiphopではないね」と言われて(笑)使われなかったのですがそこから一緒に楽曲制作をするようになりました。 - KURO:私はずっとソロ活動をしていて、基本的に作曲からアレンジ、コーラスワークまで全て一人でやることが多いので、他人のトラックにメロを乗せるということがまず新鮮でしたね。
Shinのトラックはイメージが浮かびやすく、メロ付けはどの曲も一瞬でした。ここに、私たちの音楽的な相性の良さを感じています。
6曲ほど溜まったとき、EPとしてオンライン発表したのですが、そのタイミングでアプローチしたところ、今回リリースするレーベル「PROGRESSIVE FOrM」から良い反応をいただきました。
もう少し曲を増やしてアルバムにしようという提案のもと、何曲か追加で制作し、結果的に今の10曲が収録されました。
ライブはすでに数回していたものの、ユニット名もなかなか決まらず、SNSも立ち上げてない状態だったので、そこからは鬼のスピードで準備していきました(笑) - –:数あるレーベルの中からPROGRESSIVE FOrMを選んだ理由を教えて下さい。
- Shin Wada:僕の中では好きなアーティストであるAmetsub、M-KODA 、AOKI takamasa 等を輩出している老舗の名門エレクトロニカレーベルという印象を持っていてまさかiLUでリリースできるなんて想像もしていませんでした。初めて送ったメールも、「Hi check out my demos regards」みたいな感じで、聴いてくれたらラッキーぐらいに思っていたのに、しっかり音を聴いて返信をくれたレーベルオーナーのnikさんには頭が上がりません。
けどその反面、自分のproducerとしてのキャリアを始めるのはこのレーベルしかない!と思っていました。純粋にレーベルのファンでしたね。
じゃあちゃんとメールを送れ、と(笑)
生まれ持った個々の良さや自分の軸を押し殺されないようにしてほしい、という思いからです
- –:エレクトロニカだけに留まらない様々なアプローチがバランスよく重なり合った作品となっておりますが、方向性的なものは当初からあったのでしょうか?
- KURO:最初は単発で曲を仕上げていったので、ユニットとしての方向性はあまり明確ではなかったように思います。でもその分、ジャンルを縛らずに色んな曲にチャレンジすることができたので、良い意味で自分たちの可能性が掘り下げられたような気がします。
今、こうしてアルバムとして聴いてみると、多様性は持ちつつも自分たちのカラーが見える作品になったと感じています。 - Shin Wada:「次はこういうことがやりたい」というのをどんどん試していきました。メロディーが素晴らしいと感じられるトラック作りとミックスは心がけてましたね。
自分の技術で他より優れてるところは「歌に寄り添う」オケ作りだと思っていて、挑戦的でありながらもメロディーを主役に持っていくことが自分の中でトラックメイキングする上での礼儀作法。そのマナーを守ることを1番大切にしました。 - –:タイトルの『don’t watch the sun』はstolen weekend歌詞の一節にもありますが、どんな意味が込められていますか?
- KURO:直訳すると「太陽を見るな」。太陽というものは、キラキラ輝いていて、時に信仰や時間の象徴ともなり、エネルギーをもたらしてくれる存在、というイメージがあると思います。
でも文字通り太陽を見ようとすると、まぶしくて目が焼けてしまいますよね。そして、近づけば近づくほど、予想を絶する熱さにやられてしまいます。
雲の上にある美しいものばかりみていると、大事なものを失ってしまう。このタイトルには、そういうメッセージが込められています。
表面的なイメージや、見た目、飾り付けばかり重要視され、地位や贅沢が価値あるものとされがちな現代社会の中で、生まれ持った個々の良さや自分の軸を押し殺されないようにしてほしい、という思いからです。 - –:「inside -time relapse mix-」は元々はKUROさんのソロプロジェクトBLACKUR0の楽曲のリミックスですが、このアイデアはどちらからですか?
- Shin Wada:この曲はKUROの曲で僕が1番好きな曲でした。ただ自分の思い描いてるミックス、アレンジとはまたベクトルが違っていたので自分の好きな感じの質感のクラブミックスにリミックスしました。
4つ打ちのビートって実はあまり得意じゃないんですよ。
M3「stolen weekend」も初めはKUROから「Nina Kravitzみたいなトラックで次はお願い」みたいなことを言われたんですが1mmもそれを感じないオケになってしまって(笑)
でもこの曲のリミックスアレンジはかなりお気に入りです。 - KURO:iLUを結成する前から、Shinにはソロの曲を聴いてもらったりしていました。原曲は80’s UKのエレクトロ・ポップを彷彿とするような楽曲なのですが、このリミックスではShinの上品で浮遊感のあるトラックが、曲の新たな一面を見出してくれたと感じています。
- –:「future note」は唯一のインスト曲ですが、この曲をあの位置に入れた意図について聞かせて下さい。
- KURO:曲順は正直、迷いに迷って何回も考え直しました(笑)でも、最終的にあの位置に落ち着いたのは、アルバムのちょうど真ん中から後半にさしかかるポイントで、一種の切り替えのような、ちょっと耳をリセットするような役割を果たしているなと思います。
- Shin Wada:レーベルオーナーのnikさんから1曲だけ他の曲に対して見劣りするのでは?と指摘を受けた曲があって、その曲は個人的にも確かに他の曲と比べて完成度が落ちると感じていた曲でしたのでその曲は一旦なしにして、昔作ったインストのトラックを入れてみたところ流れ的にもハマったのでこの曲を収録しました。
ちょうど touchで少し流れが切り替わるところだったのでアルバムの中でrestartする感じでいいなと。
この異常にこまかいブレイクビーツは打ち込んだビートを5つぐらいの違う音と別々のトラックにアサインしてキックを抜いて適当に並び替えて再生したらあんな感じになりました。こういうどこにもtutorialに載っていない作り方を見つけるのが好きです。
iTunesやSpotifyなどで新しい音楽に常にアンテナを張っているような音楽ファンの人々にアプローチできたらいいなと思います
- –:お二人の制作環境について教えて下さい。
- Shin Wada:メインのDAWはlogic pro 9、Logic Pro X、を使用しています。
“don’t watch the sun”の収録曲のリズムトラックは全てNative InstrumentsのMACHINE JAMを使用して作りました。
ハード音源はRoland INTEGRA-7。ソフトだとSpectrasonicsのOmnisphere 2、Native InstrumentsのKOMPLETE 11 ULTIMATE等をよく使用しました。 - KURO:DAWはCubase Pro 8、インターフェースはRME社のbabyface proやSteinberg UR28Mを使っています。スピーカーはYAMAHA MSP5、モニターヘッドフォンはSHURE SRH-940です。
普段曲をつくるときは、ソフト音源も使いますが、シンセサイザーを数台持っているので、ハード機材も使用します。 - –:本作はライブハウスやクラブといったシーンを問わないボーダーレスな作品となったかと思いますが、最後にそれぞれ今後のiLUの活動の展望について教えて下さい。
- KURO:iTunesやSpotifyなどで新しい音楽に常にアンテナを張っているような音楽ファンの人々にアプローチできたらいいなと思います。日本ではあまり類をみないような音楽性なので、斬新なインパクトを与えられたら最高です。
これからもどんどん良い作品を残せるよう、楽曲制作に最大限のエナジーを注いでいきたいです。
テクノやドラムンベース系のイベントや、アンダーグラウンドでコアな音楽好きが集まるクラブでライブしてみたいですね。 - Shin Wada:曲作りがメインだということは変わりません。
あとボーダレスにシーンを問わない活動っていうのはどんどん難しい時代に突入していると感じています。ジャンルがはっきりしていた方が圧倒的にシーンに自分たちの居場所を作れるんですが、僕はもっと根本的に言うと歌としての魅力があればジャンルは関係ないと思っているので
どうすればこの広いクラブミュージックシーンで友達が増えるかをこれから考えます(笑)
『don’t watch the sun』/ iLU
2017年9/15リリース
フォーマット:CD
レーベル: PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD71
価格:¥2,100(税抜)
【Track List】
01. one
02. inside -time relapse mix-
03. stolen weekend
04. wave trippin’
05. today
06. touch
07. future notes
08. it’s DOPE!!
09. gone heart
10. blue mind
all songs produced, composed and performed by iLU
lyrics by KURO
mixed and mastered by Shin Wada
artwork by mio motoi / codvoid.com
2017.9.28 17:57
カテゴリ:INTERVIEW タグ:blackr0, club, dance, drum'n'bass, ilu, JAPAN, progressive form, shin wada