【INTERVIEW】有馬和樹(おとぎ話) CLISMSを語る

尖鋭的ガレージ・インスト・ロック・バンドとして00年代の伝説となる、CLISMS(クリスマス)。2000年から10年弱の間に残されたライブ音源約200テイクからメンバー自身で選曲した未発表曲8曲含む全20曲を収録したベスト・ライブ・アルバムが発売される。同時期に同じ大学でバンド活動を開始した有馬和樹(おとぎ話)に話を訊いた。

地方の高校生が、バンドやるんだったら明学という誤った認識で入学する人が多かったんです。まあ、僕もその1人で。

僕が明治学院大学に入学したのが2000年、CLISMSは、おとぎ話より学年1つ上の人が組んでたバンド。ドラムの前越(啓輔)君だけ同級生ですけど。
この頃は、ガレージロック・シーンが盛り上がってきていて、ゆらゆら帝国も出てきたりとか。ミッシェル・ガン・エレファントやフィッシュマンズが、そのサークルからデビューしたって話を「ロッキン・オン・ジャパン」などで知った地方の高校生が、バンドやるんだったら明学という誤った認識で入学する人が多かったんです。まあ、僕もその1人で。
同じ大学に、音楽サークルに、カッコいい人がいるって感じだったんですよね。何だかすごいカッコいい…、この人たちのそばに居たら音楽とかの刺激があって、面白いこと教えてくれるんだろうなと思ってました。

最初の新入生歓迎イベントで、テレビジョンやニューヨーク・パンク、それにベルベット・アンダーグラウンドやキング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」のカバーを演ってるバンドがいて、高校の時に好きだったものが、これどうやって演奏するの?というのをカッコよく演ってる1年先輩の人たちを見たとき、それがCLISMSのメンバーになるんだけど、それはもう衝撃で今でも鮮烈に覚えています。
それで、このソングライツという音楽サークルに、みんなが集まって、色んな音楽を教えてもらいました。CLISMSのメンバーたちには、例えば、ストーン・ローゼズをどうやって聴いた方がよいとか、カンやノイ!、ジャーマン・ロックもいち早く全部教えてくれた先輩ですね。その影響でもっとそういうのを掘り下げようと思ったし、刺激になることが多かったですね。
そこから自然発生的にオリジナルを演るバンドを組んでいくんですけど、僕たちも、その頃再評価されて流行ったブラジルの音楽、トロピカリアとかムタンチスのコピーや、もちろんビートルズも、おとぎ話を始めた時は、よくやってたかな。

あと、サークルには、音源は残ってないんだけど石神甚さんのGAGA、これも凄いカッコよくて、その後、PROPOSEになるんだけど彼も影響力あってブルー・チアーなど教えてくれたり、変なバンドが大学の中にけっこう在ったんです。それから、後にParadiseや昆虫キッズで活躍する冷牟田(敬)とは、入学してすぐ最初のコピー・バンドを一緒にやってるんですよ。ずっと下向いて顔も見えなかったけど彼のことが何か好きでしたね。
またその当時は90年代終わりから2000年前後の音響系ですね、マイス・パレードやトータス、その流れに乗って、ライブに行くと新しいバンドが沢山出て来て楽しい時代でした。
その中で一番最初にCDデビューしたのが、CLISMS。リトル・クリーチャーズのレーベル、chordiaryからリリースされたんです(青柳拓次プロデュース「GOLDEN TIME」2003年)。大学の3年、4年の時に、そのレーベルのイベントでリキッドルーム立ったりとかして、僕たちからしたらもう、アイドルっていうか、憧れの的でした。誰よりも早く行ったんですね。羨ましかったし、すごく嬉しかった。



本当にね、一瞬だったけど、でもすごく長く感じました。

CLISMSは、一つのドラムを解体したツイン・ドラムだったり、メンバー揃いの白い服のビジュアルだったり、誰ともつるむことなく孤高のバンドで、東京では大きな影響力があったと思います。THE NOVEMBERSのメンバーも会うと未だにCLISMSが最高のバンドだと話してくれますからね。
本当にね、一瞬だったけど、でもすごく長く感じました。曲もポップで、難解のように見えて難解じゃないから今聴いても新しい。カッコつけてるんだけどカッコつけてない感じも、人間味がすごく見えてくるんです。CHAIが登場した時CLISMSみたいだと思いましたもん。
友だちだっていうのもあるけど、彼らのおかげで、流行ってるものに見向きもしないで、自分たちがかっこいいと思う音楽だけを聴いてやってきたって感じは、大学の中のムードとかしっかりあって、おとぎ話もこうやって今もあると思うんです。カッコいい先輩がいたから、その影を追っかけてるんだと思いますね。



ホントあの当時に音楽やってた人からするとかなり衝撃だったのは間違いないです。

何と言っても特徴的なツイン・ドラムスですが、前越は大学入ってからドラム始めたはず。もう1人、初代ドラム(北山徹也)は8ビートが上手くて1つのドラムを2人で叩いている感じが斬新でした。一定の良いビートを刻んで、前越がパーカッシブに攻める役割。
その後、ギターの樋口(一裕)君の弟(樋口靖志)が入って、ドラムが2人とも眼鏡で横分けだからルックスがめちゃくちゃ良くて、フロント3人は背がシュッとしてるから。そういう面でもアイドル感がありました。元々上手いベーシストだった越川律幸君のキーボードも飛び道具的にとても面白かったですね。まあ、カンやノイ!みたいな感じだったね、見たことないけど。踊れる感じではなかったな、衝動だからね。自主制作のライブ盤のタイトルが「リビドー」だったし。でもホントあの当時に音楽やってた人からするとかなり衝撃だったのは間違いないです。
例えば70年代ニューヨークのCBGB、リチャード・ヘルやテレビジョンにラモーンズ、このムードの中に醸し出ちゃう本物感、大ボス感としてCLISMSがいたんじゃないかって勝手に思ってしまうんですね。その中にあって、おとぎ話はフィーリーズのイメージ、僕がボーカルでカッコつけることが出来ないから。



衝動的に人を踊らせるというか狂わせる感じでした。

「C!L!I!S!M!S!クリスマスです!」って言ってからライブ始めるんだけど、ライブが本当に凄かった、興奮する作用だらけで。30分の中に何だろうな、出てきた時の異質感と、同じコード鳴らしているのに何でこんなにかっこいいんだろうって。衝動的に人を踊らせるというか狂わせる感じでした。それがオリジナルの音源として残しきれてなかったから、悔しい部分はありましたね。この頃レコーディング技術も分岐点だったんです、おとぎ話の1stアルバムやCLISMSがスタジオ録音でデビューする時も。そこがまた不運でした。だからこそライブ見た人にだけすごく刻まれちゃってる感じがあるかな。1回でも見たことがある人だったら、うわ!ってなると思うし、その人たちの記憶には必ず残ってると思う。
それで大学卒業して、CLISMSはもうデビューしてたんだけど、その周りのシーンが盛り上がることは無かった。そんな時に(2005年)、おとぎ話が、銀杏BOYZと対バンすることになって、その直後にドラムが抜けて前越君が加入した。それでCLISMSの活動があまり出来なくなっていったから、そこだけは今でも心苦しい感じはありますけどね。何度もね、2マンやりたかったんだけど。
そしてCLISMSは一度もワンマン・ライブやった事ないんだよね、イベントに出てただけだから。スケジュール組んでどうこうって、欲に…、もちろん、売れたいとかはあったと思うけど、そこに執着が無い感じも儚すぎたね。
最後の方、2009年か2010年くらい、それが全然覚えてないんだけど、止めたとも解散したとも言ってないよね。CLISMSを体現していたベースの吉田(隆人)君が、仕事をしっかり始めた時くらいだったか、そこでライブをしなくなったのかな。


今こうやって再発見されるのは必然だと思います。

この時代特有の空気があって、SNSなんて無くてインターネットでは掲示板だけ、紙媒体が強かった最期のこの時期、CRJ(カレッジ・ラジオ・ジャパン)の大学生が盛り上げてくれましたね。それと長州ちからくんがやってた十代暴動社のイベントや、円盤ジャンボリー、あふりらんぽにZUINOSIN、おしりペンペンズやワッツーシ・ゾンビなど関西ゼロ世代が盛り上がってた時期ですね。
CLISMSは、この時、本当に一瞬だけ、かけがえのないものとして、この転換期に一瞬だけ在ったバンドですよね。今いたら海外のバンドのフロントアクト引っ張りだこだと思う。僕にとっては、ウルトラマン見てるのと同じくらい青春の1頁でした。今こうやって再発見されるのは必然だと思います。

取材:金野篤







『BUT!』/ CLISMS
2023年11/1リリース
フォーマット:2CD
レーベル:SUPER FUJI DISCS
カタログNo.:FJSP486
【Track List】
DISC 1:
01. GO!!!!! (Smash Hits Version)
02. GARREL
03. SPIA
04. 汐 (WHAT’CHA GONNA DO?)
05. KISS US Ⅰ
06. NEW MOON, NEW MOON
07. DEVIL
08. RED WITH PURPLE FLASH
09. LABA CA VA?
10. JUMBO ON
DISC 2:
01. OK OK OK
02. BIG HAMMER
03. STEREO TWIN
04. KISS US Ⅱ
05. GIRLFRIEND
06. SO SWEET YOUNG BOY
07. KISS US Ⅲ
08. SMILEBEAT WEEKEND FENDER JAZZ BASS RUNNING HOMERUN
09. GO!!!!! (Primitive Version)
10. RUNNING FUTURE FROM NOW
ディスクユニオン
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【クレジット】


Vocal, Drums:前越啓輔(CD1 M1-10, CD2 M1-10)
Drums:樋口靖志(CD1 M1, 7, 9, CD2 M3, 8)
Drums:久徳亮(CD1 M2-6, 8, 10, CD2 1, 2, 4-7, 9, 10)
Vocal, Piano:越川律幸(CD1 M1-10, CD2 M2, 3, 8)
Vocal, Bass: 吉田隆人(CD1 M1-10, CD2 M1-10)
Guitar:樋口一裕(CD1 M1-10, CD2 M2, 3, 8)
Vocal, Guitar:牛尾健太(CD2 M1, 4-7, 9, 10)

CD1 M1 Recorded live in 2003 at 渋谷 club eggsite
CD1 M2, 4 in 2005 location unknown
CD1 M3, 10, CD2 M2 in 2005 at 高円寺 U.F.O. CLUB
CD1 M5 in 2004 at 白金 明治学院大学2202教室
CD1 M6 in 2005 at 渋谷 O-nest
CD1 M7, 9 CD2 M8 in 2002 at 白金 明治学院大学2202教室
CD1 M8 in 2004 at 渋谷 CYCLONE
CD2 M1, 4-7, 9, 10 in 2009 at 渋谷 LUSH
CD2 M3 in 2002 at 池袋 Live Garage Adm
編集・マスタリング:George Mori
デザイン:坂村健次
ライナーノーツ:吉田隆人(CLISMS)、有馬和樹(おとぎ話)




2023.10.16 12:00

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