【REVIEW】オワルカナシミ / for you / blueberry, very blue
『blueberry, very blue』というグループをご存知だろうか。
90年〜00年頃にギターポップやネオアコを中心に音楽を聴いていた人ならその名前に聞き覚えがあるかもしれない。
大阪を中心に活動をしていたマスイカオルと、サカモトケンジによるユニットである。
ライブ会場で発売していたカセットテープ数本と、そのテープをまとめたCD、そしてまだ「Lucy Van Pelt」という名前だった頃のアドバンテージ・ルーシーが参加していたコンピレーション。
音源としてリリースされていたものはそれだけだったと思う。
lo-fi感とDIY感覚に溢れた音源たち。
それに留まらず使用されるアコーディオンが醸し出す独自性やサウンドクリエイトに現れるセンス。
ギターポップやネオアコと呼ばれるジャンルのツボを押さえた楽曲。
色々なものが斬新で当初は理解しきれずにいたものの、彼らの音楽に魅了されるのは時間の問題だった。
だが音源を入手した頃に彼らは活動を休止しており、それ以来手元にある数少ない音源を聴き続けライブテイクに入っている笑い声や挨拶の声等から彼らのライブ光景を想像するだけの日々を過ごしていた。
しかし驚くべき事にそんな彼らがこの2014年、18年ぶりに活動を再開した。
2014年春にsoundcloudに「オワルカナシミ」を公開。
6月に高円寺で行われた「ムクドリの会」でマスイカオルのみではあるものの、blueberry〜名義でライブ。
そして7月に「for you」をドロップ。
往年からのファンにとっては胸が躍る展開が続いていたのだ。
そして18年ぶりの新曲たち。
これまでの音源がカセットテープだったという事もあり、「lo-fi感が彼らの持ち味」という思い込みをしていたのだが、この新曲はその思い込みを勢い良く突き破ってくれた。
輪郭のくっきりとした音質で奏でられ、イントロから鳴り響くギターサウンドが胸に突き刺さる『オワルカナシミ』、彼らの持ち味の一つであるアコーディオンを持ってきつつアップテンポなアレンジで狂乱の彼方に連れて行く『for you』。
2曲ともにそこに流れるポップセンス、「イノセント」と称される透明感のあるマスイカオルのボーカル、そして楽しさや美しさの中にどこか切なさを残す曲の展開どれもがblueberry, very blueそのものでありつつ、過去の彼らを大きく上回った作品だというのが最初に聴いたときの印象だった。
活動していなかった時期や再開を決めたときのエネルギーがどれほどのものなのかは分からないが、この2曲に込められたエネルギーは並や大抵のものでは無い事が容易に想像できる。
少なくともこの活動再開が「ちょっとやってみようか」といった感覚ではなく、現在の自分たちに持てるものを出し切り本気でシーンに切り込んで行くものなのだという事を思い知らされた。
彼らは現在前述の2曲を含めたアルバムを制作中だが、このテンションで彼らが作り出すアルバムが、現在のシーンの中でどのように響き、どのように新しい聴き手を獲得して受け入れられて行くのか。
インディーミュージックに様々な人が注目を始め、かつセルフプロデュース・セルフマネージメントが必要と思われる時代が彼らにとってどう影響していくのか。
どのような結果が出るのかは分からないが、彼らの音楽に込められたものが一人でも多くの彼らに期待を寄せる人たちとまだ彼らを知らない人たちに届く事を望んでやまない。
2014.9.15 20:55
カテゴリ:REVIEW タグ:blueberry very blue, indie pop, JAPAN, neo_acoustic