【REVIEW】ライブレポート:CICADA One man show“Absolute” at 渋谷CLUB QUATTRO
その顔は、不安げだった。
新作EP『Loud Color』を頼りにしたCICADAへのインタビューは、メンバーのバイオグラフィーからバンド結成の流れ、それぞれの特徴やメンバー間の関係性、『Bedroom』の制作における不安から100本近いライブを経てきた充実へとつながっていった。
その最後、渋谷QUATTROでのライブに向けての抱負を聞いてみた。冒頭の表情の主は及川創介、しかも一言目から「不安しかない」ときた。
「僕自身、今回のライブへの意気込みは不安しかないです。いまの話にもあるようなライブ演出をどうしよう?というのは僕が考えていて、最近のライブでは思惑通りにハマっているところではありつつ、初のワンマンライブの空気や雰囲気をこのバンドでは体験していないし、試練として試されているので、楽しみちょっと、不安たくさん、といった心境ですね。(笑)」(発言まま)
CICADAでは作曲を務め、このバンドのモチベーターとしても働いてきた彼が、はっきりと示した不安げな表情と言葉。それがゆえに「何をしてくるのか」が非常に楽しみであったのを告白しておきたい、彼らの音楽に内在していた得体のしれなさが、この日のためにどのような変化を遂げるのかを楽しみにしていたと言っても差し支えない。
というわけで、渋谷QUATTROワンマンライブを終えた2016年5月29日、筆を取って書く。
楽しみにしていた気持ちを十二分に満たし、彼らの明らかな変化を見て取れた、非常に興奮させられた一夜のことを。
このバンドには2つの顔がある。彼らの音源をよく聴き、足繁くライブを見、彼らの興味関心にも気を払い、彼らが愛し、時には彼らが羨望の眼差しを向ける事象を知れば、自ずと答えは出る。
一つは、ジャズやヒップホップを経由し、トリップホップを自己発展させていったクラブミュージックとしての顔だ。CDレベルで聴けばそれはロバートクラスパーやJ.ディラを経由したスローなR&Bとして輝きを放つが、ライブの場では一転してクラブDJもかくやというほどにめまぐるしくグルーヴとビートを移り変えていく。「ドープな曲をやります!」とこの日のライブでMCしていたが、ドープといえばハウスミュージックやベースミュージックに使うべきであり、いわゆるスウィートできらびやかなR&Bサウンドを奏でる……昨今でいうところのシティポップバンドにも値するような……バンドには不釣り合いの言葉のはずで、その言葉が似合うくらいライブでの彼らはより野性的な顔をみせてくれる。その際には、櫃田のシャープなドラミングが核になるのは言うまでもなく、その音色がライブでもっとも輝く、そんな夜も少なくなかったはずだ。
しかしながら、R&B、ひいてはソウルミュージックを思い出せば、本来の主役はボーカルの歌声に他ならない。
2つ目の顔は、この日の渋谷QUATTROで最も輝いていた城戸あき子のボーカルだ。しかもその響きと圧力は、『ハンパない!!!スーパーな才能をもったボーカリストがついにその才能を目覚めさせた!!!!!』の一言で終わらせてしまいたくなるほどだが、詳らかに書いていこう。
CDでの彼女の歌声は一聴するとウィスパー気味な歌声かと感じてしまうが、ライブでは一転して伸びやかな歌声が印象的で、中途ではラップをも披露する、ある意味では軽快な一面ももったボーカリストだ。これまでの彼らのライブでは、バンドアンサンブルが魅せるグルーヴィさが全面に出ていながらも、城戸のボーカルが前に出ている場面は数限られており、彼女の声がバンドを引っ張っていくという場面は僕自身は想像もできなかった。
ドラムとボーカル、この縦のラインが噛みあえばバンドがより強い結束をもたらせる、というのは良いバンドを巡るエピソードには欠かせない。バンドという音楽隊の中心は間違いなくドラムであり、ポップミュージックの主役であろうメロディを大まかに担当するのがボーカルなのだ、この2つの食い合せとマッチ感がどれほどに進むかが問題にあがる。
「わたしは、誰にも負けないボーカリストになる」
彼女はライブの終盤に、はっきりとそう口にした。
ライブMCで常々語っていた「より高みへと向かっていく」という姿勢として、またはメジャーデビューするという決意をわかりやすく言葉に落としこむために、ポップソングを歌うバンドのボーカリストを務めるうえでのレゾンデトールを……他人が認める上での存在ではなく自分が自分に求めるハードルを……そこに求めたのだ。
鬼気迫る、というのは言葉としては正確ではないだろうが、この日の城戸あき子は櫃田が叩くドラムラインよりも力強い存在感を放っていた。とはいうものの、音量がデカイ小さいという話ではなく、足先から頭のテッペンから湧き出てくる存在感としての話だ。
同時に、人を躍らせることに夢中になりがちな4人の演奏が、時よりメロディに寄り添うように緩んだアンサンブルを奏でる、しかもピンと張り詰めた緊張感を持続させながらシームレスに演奏は続き、場の空気がどんどんと変わっていく、そんな音の表情と移り変わりを感じ取れた。
新曲は多数、これまで一度も演奏されなかった楽曲を含めた24曲をブチかました夜、集まった観客はダブルアンコールを求める拍手が起こすほどに彼らを求めた(ダブルアンコール用の曲が無いことを城戸が謝りに出てくるほどだ)。ダンスミュージックを奏でるか、ポップミュージックを奏でるか、その意識の差異を5人で無言の内に共有しながら弾き出せるようになったとき、このバンドがもたらす音楽は無限に広がるように感じた。多くの優れたロックバンドが独自に解決してきたその筋に、この日の彼らはついに立ったのだ。
最後に、緊張感のあるライブを終え、火照った体のままに舞台からグッズコーナーが並ぶ通路へと足を運び、この日集まったファンと触れ合っていた5人のメンバーの笑顔を思い出しながら、一言だけ申し上げたい。
メジャーデビュー、本当に、本当に、おめでとうございます。
CICADA One man show“Absolute” at 渋谷CLUB QUATTRO
セットリスト
1.intro
2.No border
3.ふたつひとつ
4.Naughty Boy
5.eclectic
6.リコールミー
7.君の街へ
8.back to
9.FLAVOR
10.閃光
11.one(仮)(新曲)
12.新曲(タイトル未定)
13.夜明けの街
14.door
15.drop(新曲)
16.熱帯魚
17.雨模様
18.フリーウェイ
19.bomb track(新曲)
20.アウトライン
21.Colorful
22.stand alone
23.Dream on(新曲)
en
24.YES
テキスト 草野虹(@kkkkssssnnnn)
2016.6.6 15:25
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