【INTERVIEW】『タラスコン・イヤーズ』で辿る、90年代の横川理彦
ソロやさまざまなユニットで幅広く活躍し、マルチインストゥルメンタリストとして即興から歌ものまでこなす横川理彦。在籍した4-D、P-MODEL、AFTER DINNERのレコードは今やニューエイジ、環境音楽、実験音楽などの日本のオブスキュアな音楽をディグする海外の音楽ファンからも注目され、評価は高まるばかりである。
その彼が90年代に発表した5枚のアルバムが、このたび『タラスコン・イヤーズ』と題した4枚組CDで復刻。特定のジャンルに帰結しないハイブリッドな音楽性を一気に堪能できる運びとなった。最近ファンになった人も、これを聴くことで90年代から現在に至る彼のソロ・アーティストとしての流れが見えてくるはずだ。実験的でポップでマジカルな無国籍音楽紀行。そんな魅惑的な旅のガイドとして、このインタビューを活用していただければ幸いである。
南仏のタラスコンのラウンドアバウト(ロータリー交差点)でしょっちゅう道を間違えていたのです。そのぐるぐる回っている感じとか、旅の空気感、いろんなミュージシャンとの出会いが音楽になっていた時期だと思います
- –:横川さんが90年代に発表したソロ・アルバム4枚とMEATOPIAのアルバムを「タラスコン・イヤーズ」としてCD4枚組ボックスにまとめようというのは、横川さんがもともと温めていた企画だったのでしょうか?
- 横川:これは、ディスクユニオンの金野さんから頂いた企画で、京浜兄弟社の10枚組ボックスセット(「21世紀の京浜兄弟者」)>松前(公高)くんのCD2枚組2セットからの流れで、90年代の私のアルバムをまとめてボックスにする、という提案をして頂いて、嬉しく思っています。『TARASCON』は、マスタリングをやり直して再発したかったのが、思いがけず5枚のアルバムをまとめてボックス化できることになりました。
- 金野:すいません、お邪魔します。前職の2006年に、4-Dのソノシートやテレグラフのアルバム『A Style of Building』をまとめたCD『Die Rekonstruktion』を発売した際、それに関わった(そして本作でもライナーノーツを書いた)小田晶房さんから、タラスコン、タラスコン、って言われてたんです、凄いからって。私はそれを知らなかった。また、現職DIWでも、90年代にDIW/SYUNから発売された『DIVE』と『Solecism』の問合せが恒常的にあって、うずうずしていたのです。ちょうど(担当している)武田理沙が、横川さんと対バンしたので、連絡先を教えてもらいました。
- –:「TARASCON」はフランスの町の名前のようですが、このボックスを「TARASCON YEARS」として括ったのは何か意味があるのでしょうか?
- 横川:タイトルとしては「90年代の横川理彦」とか「中期の横川理彦」とかになるのですが、面白みがない。この時期のアルバム5枚をまとめて1つのイメージにするとすれば、「タラスコン時代」になると思いました。After Dinnerでバンに乗って長期ツアーしている時、南仏のタラスコンのラウンドアバウト(ロータリー交差点)でしょっちゅう道を間違えていたのです。そのぐるぐる回っている感じとか、旅の空気感、いろんなミュージシャンとの出会いが音楽になっていた時期だと思います。
After Dinnerのツアーでは、もちろん音楽シーンの先端に触れる意味合いは大きかったのですが、同時に文化が多様でローカルばっかりだ、ということが言葉・匂い・食べ物・自然や建物などからが伝わってきました
- –:P-MODELを離れてから最初のソロ・アルバム『TWO OF US』をリリースするまで約5年近くかかっていますが、この間は横川さんにとってどういう時期にあたるのでしょうか? ソロ・アーティストとしてその後の方向性を色々と探っていった時期という感じなのでしょうか?
- 横川:アルバムとしては、After Dinnerの『Paradise of Replica』が間の89年に挟まります。After Dinnerは海外ツアーが87、89、90、91と続いて忙しく、この間をぬって『TWO OF US』や『TARASCON』を作っていました。技術的には、専用シーケンサーとサンプラー(MC-500とS-1000)を使うようになって、音楽の作り方が激変しました。
- –:専用シーケンサーとサンプラー(MC-500とS-1000)を使うようになって、音楽の作り方がどのように変化したのでしょうか?
- 横川:それまでは、MTRが音楽を作る道具で、シーケンサーは補助的な役割だったのですが、MC-500は4トラック(のちに8)で、完結した作曲環境になりました。S-1000は、サンプリング時間が伸びることで、長尺のループやS-1000だけでのアンサンブルが可能になったので、この2つが録音スタジオと同等の音楽制作環境になりました。
- –:『TWO OF US』は横川さんが曲ごとにさまざまなアーティストを迎えるという趣向のアルバムですが、アーティストの人選はどういう基準のもとに行われたのでしょうか?
- 横川:一緒に音楽を作って、いいものができると確信していた人たちです。曲の作り方はまちまちだけど、結果はどれも素晴らしかった。
- –:『TARASCON』は横川さんの歌とマルチ・インストゥルメンタリストとしての両面にフォーカスしていて、その後のソロ活動の基本的スタイルが打ち出されたアルバムだと思います。横川さんとしてどのようなことをやろうとして、このアルバムを制作されたのでしょうか?
- 横川:最初は、『TWO OF US』の世界版を作ろうと思って、9人くらいに提案し何曲かは完成まで行ったのですが、『TWO OF US』では私がどういうアーティストかわからない、と何人かの友人・知人に評されたので、じゃあ明確なソロ・アルバムを作ろうという流れ。仮タイトルは『DANCE TO THE MUSIC』で、色々なダンスビートを自分の好きなサウンドでやるつもりだったのが、91年の4月から12月まで飛び飛びで9ヶ月くらいの録音期間のうちに、帰省した田舎の武家屋敷の案内音声とか、中学校のブラスバンドが田んぼの向こうの校舎で練習してる音とか、色々なフィールド録音も入り込んできて、旅日記のようになってしまいました。
- –:もともとはダンス・ビートをベースにしたアプローチを考えていたということは、その頃(90年代初頭)のダンス・ビートに魅力を感じていたということなのでしょうか? そのきっかけは? After Dinnerの海外ツアー時にさまざまな国のクラブやレイヴなどのダンス・カルチャーに触れて触発されたのでしょうか?
- 横川:どちらかといえば、子供の頃 からの映画音楽好きがロック経由でワールドミュージック志向になり、東欧・アフリカ・南米など世界各地の素敵なダンス・ビートに惹かれていた、それを生演奏と打ち込みで表現したくなった、ということです。After Dinnerのツアーでは、もちろん音楽シーンの先端に触れる意味合いは大きかったのですが、同時に文化が多様でローカルばっかりだ、ということが言葉・匂い・食べ物・自然や建物などからが伝わってきました。それが想像力を刺激するのです。例えば、「DO THE TARASCON」という曲は、夏の南仏の風情とローカルな2ビートに、フェスティバルで共演したセルビア(当時はユーゴスラビア)のブラスバンドのバルカン的2ビート(広くくくれば地中海文化、でしょうか)と混じり、その後列車移動している夜中(これは汽車による2ビート環境)に曲となって降りてきました。
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『タラスコン・イヤーズ』
/ 横川理彦
2020年9/9リリース
フォーマット:4CD
レーベル:SUPER FUJI DISCS
カタログNo.:JSP400
【収録曲】
CD-1 [Two Of Us]
01. 硬い人 with 山口優
02. トラック・ラグーン with 平沢進
03. 誰もいない with 今堀恒雄
04. MIT CHANG with Haco
05. 雲の影 with 成田忍
06. ダム64 with 小西健司
07. 卍 with 北田昌弘
08. ボーダーソング with 伊藤与太郎
09. 再訪 with 外山明
CD-2 [TARASCON]
01. DO THE TARASCON
02. 坂をのぼる
03. TOO FAR
04. 町につくまで
05. 武家屋敷
06. STEP
07. 火をつけて
08. AIR SICK
09. BOB≒ROBERT
10. WHY?~WHY NOT?
11. OUT TO LUNCH
CD-3 [meatopia]
01. NEIGHBORS
02. タラスコン組曲3 / DO THE TARASCON
03. ミートピアの逆襲
04. INDONESIAN TIME
05. 天狗と散歩
06. ミートピア
07. タラスコン組曲2 / にんにく入りスープ
08. 青空だけど迷宮入り
09. フル・スイング
10. 黄金の時
11. オレはセクシーかい?
12. タラスコン組曲1 / ラッパと太鼓
CD-4[DIVE/Solecism(Edited)]
01.Dive
02.黄金車に乗る男
03.Call
04.ブルノでストンプ
05.外で泣く
06.つかまえて
07.5月のブギウギ
08.Twins
09.ソルコシス的夜
10.Walk Song
11.夢の先
12.辻師
13.On The Phone
14.月
15.眠る額
16.水の歌
17.See You
18.Air
詳細(ディスクユニオン)
CD-1 [Two Of Us]
横川理彦(guitars,bass,violin,vocals,programming)
山口優(electric instruments,percussion,vocals on 1.)
平沢進(voice on 2.)
今堀恒雄(guitars,keyboards,drums on 3.)
HACO(singing,performing,electone on 4.)
成田忍(guitars,programming,vocals on 5.)
小西健司(programming,MS-20,vocal on 6.)
北田昌弘(hands-feet-voice,synthesizer,percussions on 7.)
伊藤与太郎(vocals on 8.)
外山明(drums,percussion,voice on 9.)
CD-2 [TARASCON]
横川理彦(bass,violin,guitars,vocals,keyboards,etc…)
今堀恒雄(guitars,bass)
外山明(drums,percussions)
山口優(keyboards,programming)
ライオンメリイ(accordion on 1.7.)
磯部智子(chorus on 7.)
MINT-LEE(vocals on 11.)
CD-3 [meatopia]
横川理彦(bass,bouzouki,mandolin,violin,voice,percussions)
今堀恒雄(guitars,bass,keyobards,mandolin,percussions)
松本治(trombone,trumpet,pianica,organ)
CD-4[DIVE/Solecism(Edited)]
横川理彦(guitars,bass,mandolin,violin,vocals)
今堀恒雄(guitars,bass)
外山明(drums,percussions)
田村玄一(steel pan)
福来良夫(chorus)
小西健司(chorus)
Miss.N(voice)
ライオン・メリイ(accordion)
篠井英介(朗読)
松本治(trombone)
2020.9.5 19:00
カテゴリ:INTERVIEW, PU3_ タグ:4-d, after dinner, blan, haco, JAPAN, meatopia, metrofarce, mint-lee, miss.n, p-model, ライオン・メリイ, 今堀恒雄, 伊藤与太郎, 北田昌弘, 外山明, 小西健司, 山口優, 平沢進, 成田忍, 松本治, 横川理彦, 田村玄一, 磯部智子, 福来良夫, 篠井英介