【INTERVIEW】Half Mile Beach Club『Be Built, Then Lost』
ゆるく連帯していて、あとは価値観がどんどんと合ってきているからこそ、言葉を多く交わさなくても活動の足並みが揃ってる(Yamazaki)
- –:最初に出したEPは、今作のアルバムとはちょっと違いましたよね?
- Miyano:もっとチルウェイヴ寄りでしたね。ラップトップミュージック寄りに自然となっていたんだと思います。
- –:今作を聴けば自ずとわかるところなんですが、明らかに90年代ブリットポップやマッドチェスターのサウンドになっていることが挙げられます。チルウェイヴ寄りだったEPから、今作のドラッギーなマッドチェスターらしいサウンドへの変化は、どういったことが理由だったんでしょう?
- Yamazaki:サウンドがマッドチェスター系に寄っていった背景としては、DJチームがブリットポップやマッドチェスターのサウンドがめちゃくちゃ好きというのがあるんです。DJで流れる機会も増えていくと、「こういう方向性もありなんじゃないか?」という風にだんだんとなっていったんです。あと、発売された当初にバレアリックと言われていたこともあって、いまのシーンを見てみたとき、意外とこういうサウンドをメインにしたバンドがいないことに気づいたんです。こうしていま聴いてもやってみるとカッコいいし、やってみてもいいかと思ったんです。
- Asakura:それに、マッドチェスターやブリットポップのサウンド、バレアリックなムードというのが、CINEMA AMIGOから見る逗子の海岸線や海の風景と、妙にハマるし、納得できたんですよね。それにマッドチェスターのサウンドって、ロックを中心に捉えつつ、レイヴカルチャーが生んだハウスが系譜されるファンク、ソウルのエッセンスがグッと集まって生まれたサウンドじゃないですか?そうするとHarukaはブラックミュージックが好きだし、Tsuzukiはラテンが好き、ぼくはハウスやテクノで、MiyanoとYamazakiがロック側だとすると、この5人のメンバーの真ん中に位置するのがこのサウンドになるんだなと思えます。
- –:なるほどです。ファーストアルバムについてお聞きしますが、制作はいつ頃から始めたんでしょうか?
- Yamazaki:去年の冬からですね、そこから今年の3月までくらいですね。
- –:曲作りはだれかが中心になって作られるんでしょうか?
- Miyano:曲によってバラバラですね。
- Yamazaki:楽曲の土台を作って、メンバーで肉付けするようにいろんなフレーズを投げあって作った曲もあるし、1つのアイディアでビートを作ってそこから膨らませていって作った曲とか、本当にバラバラです。
- Yamazaki:LINEのグループに誰かが「ギターリフを作ってみたんだけど」という感じで素材音源を置いて、それに対して違う人が新たな素材を加えて編集した音源を作って投げてみたりしてるんですよね。互いが曲をリミックスしあいながらドンドン作っている感じがしますね。
- –:へぇーー!それはすごいですね。
- Yamazaki:スタジオに入って音を出して作るということもしたんですけど、楽曲内にサンプラーや打ち込みの要素も多いのでその場の反射神経でうまく合わせることができなかったりして、スタジオで作ろうとしてもうまくいかないということに気づいたんですよ。
- –:ということは、メンバー5人ともNativeなどのDAWソフトを持っていて作れる環境があるわけですもんね。
- Yamazaki:そうですね。ドラムはスタジオで簡単に録って、PCに取り込んで、すこしエディットしてLINEグループに投げたりもしますね。Asakuraのビートに対してギターを入れたり、没トラックになってしまった曲のビートにあえてエディットして、違う曲としてみんなとまた作り直したりとか、本当にいろいろあります。
- –:ということは、皆さん5人で作曲をしている感じですよね?
- 全員そうですね。
- –:と同時に、こういってしまうと変ですが、「どこでゴールとするか?」みたいなのもハッキリと見えてないんですよね?
- Miyano:実はそうです(笑)見えてないんですよね。
- Yamazaki:最初はみんな完成形のイメージは曖昧で、みんなでアレンジをしてく中で徐々にイメージがクリアになっていく感じです。
- Miyano:フレーズに対してどうこうという話はしないかもです、あんまり他の人のフレーズに文句が出てこないというか。
- Asakura:確かに。あんまりにも外れてるものだと声かけるかもしれないけども、「見ている情景」が合ってるか合ってないか?みたいな抽象的な判断になってますね、そこは。
- Yamazaki:たぶんあんまりにも合わないな……という素材音源は、LINEに投げないですね。そこはなんか分かるんですよ。
- Asakura:ああ、そうだね(笑)そもそもそれがあるね。あと、ジャンルや何かしらを意識すると、我々は上手くいかない。
- Yamazaki:確かに。こういうのをやろう!といってやりはじめると全然……。
- Miyano:テクノやろう!っていって作り始めて……。
- Asakura:上手くいかないよね(笑)ドラムンベースにしよう!といってもなかなか進まなくて。
- –:それもまた面白いですね。あとひとつお聞きしたかったんですが、ボーカルは最後に録音されてますよね?たぶんそうじゃないのかな?と勘ぐっているのですが.
- Yamazaki:はい、そのとおりですね。
- –:ありがとうございます。なぜこういった聞き方をしたかというと、今作では歌を歌っている部分よりも、音を聴かせて気持ちよくさせてくれる部分のほうが長く取られていて、そちらのほうに重点を置いた作品であり、「Half Mile Beach Clubはこういうバンドなのだ」ということが、しっかりと伝わってくる作品になってるなと思ったんです。
- Miyano:ありがとうございます。
- –:それに、ハウスやテクノからも影響をうけつつ、制作面でもメンバー同士で素材をぶつけあって作っているという話をお聞きして、もしかしたらいくらでも長く……10分でも20分でも長く作ろうと思ったら、本当に作ってしまえるのではないか?と思ったんです。
- Asakura:んーーそれはそうですね。
- Yamazaki:確かにそうかと思います。
- –:今日一番お聞きしたかったことにも繋がるので、ここでお聞きしたいのですが……自分たちの集団が、バンドなのか、グループなのか、コレクティブなのか、先程はファミリーともコミュニティともおっしゃってましたが、どう感じてらっしゃるのかをお聞きしたいです。
- Miyano:ときと場合によるかなと。5人のバンドチームとして出るときは「バンド」ですし、逗子でイベントを開いているときは「クルー」「コレクティヴ」として一つのものを作っている意識です。
- –:僕はこれまで逗子のイベントには足を運んだことがないのですが、もしもフォトグラファーの人やDJチームのひとと話す機会があったら、きっと「コミュニティ」「イベント」としてHalf Mile Beach Clubを感じ取るんだろうな、と思いますね。
- Yamazaki:そう思ってもらえると嬉しいですね。
- –:いまの9人での活動ということになると、なにか「僕らはこういうものを表現したいんだ!」というコアになる部分があるのでは?と思うのですが、どうでしょうか?
- Yamazaki:「僕らはこういうものを表現したいんだ!」というアツイ話をしているか?というと、実際のところそういった話はほとんどしたことがないんです。でも逆に、普段話していることから、お酒を飲みながら会話してるときでもそうですけど、「これ以上はクールじゃない」「これはすごくいい!」という線引を感じていますね。そうしてゆるく連帯していて、あとは価値観がどんどんと合ってきているからこそ、言葉を多く交わさなくても活動の足並みが揃ってるんですよね。
- –:これは先程の話にも通じると思うのですけど、音源を制作しているときに、なにかイメージしていることはありますか?例えば逗子にまつわるものがあったりとかは?
- Yamazaki:ぼくの中ではざっくりとはありました、逗子の海岸線です。アメリカの西海岸みたいなカラッとした晴れ模様というわけじゃなく、もっと湿度があって、なんならどんよりとした感じですね。
- Asakura:それがトゥルー逗子……ほんとうの逗子の光景ですからね。
- Miyano:トゥルー逗子、いいですね(笑)
- Asakura:逗子を代表しようとかいう意識は全く無いですけどね。湘南や逗子という言葉を聞いて、みんなが思っているようなわかりやすいものだけが、逗子の音楽やムードじゃないんだよ?っていうのは、さっき話しにあがっていたコアな部分にも入ってくるんじゃないかと思いますね。
- Yamazaki:そうですね。茅ヶ崎というとサザン、湘南ならミクスチャーロックなバンドみたいなパブリックイメージが先行してしまって、実際住んでいる自分からすると「いやいや実際海はそこまで青くないし、サーファーだってそこまで多くはないし」って冷ややかに思ってしまうんですよね。
- Miyano:そうだね。
- Asakura:僕らの音楽は、強い日差しにあたっている海の家とかき氷の看板……みたいなイメージとはやはりかけ離れてると思います。べつに「夏」だけのタイミングに合わせたわけでもないし。
- Miyano:なんでも無い時、冬とかシラフな時期の逗子の海に近いですよね。そういう逗子の情景が好きだから音楽に現れる部分もあるでしょうけど、「ここに合わせて作ろう!」という感じで作っているわけじゃない。
- –:活動の初期にはチルウェイヴ寄りだった、という言葉がありましたが、実際そういった感触もありますよね。神奈川、逗子、という言葉でくくられるような快活なものではなく、まさに「架空の場所」のように音楽が鳴っているのが、「シラフなときの逗子」っぽさをちゃんと表現している、しかもとても逆説的になって響いているという。
- Miyano:2010年の頃とかだと「こういう音を、いったい誰が聴いてくれるんだろう?」と思っていた時期からすれば、いまこうして音楽をやれていて、誰かに聴いてもらえるのは、とても嬉しいことです。
- –:いまHalf Mile Beach Clubとしてやりたいことや目標みたいなものはありますか?
- Miyano:ヴァイナルをカットしたいですね。
- Yamazaki:そうだね。
- Asakura:できれば自分たちのアルバムをカットするだけじゃなくて、リミックス音源もヴァイナルカットしてみたいんですよ。クラブ要素を多めにしたような……。
- –:まさに90年代っぽいですね(笑)ケミカル・ブラザーズが物凄い量のリミックスを手掛けてたりしてきた、あの感じ。
- Asakura:そうそうそう(笑)そのノリが一番ですね。あとは海外でやりたいよね。
- Yamazaki:台湾ですね。
- Asakura:アジアがすごいものすごい盛り上がっている流れをみていて、僕らも日本の中でもローカルなところでやっているバンドなので、海外のローカルなシーンとも触れ合ってみたいという感じですね。
- Yamazaki:野外フェスにも出たいですね、大きなサウンドシステムで音を鳴らしてみたいです。
- Asakura:僕らの音なら、絶対に映えるんじゃないかと思います。 インタビュー・テキスト:草野 虹(新宿 8月末)
『Be Built, Then Lost』/ Half Mile Beach Club
2019年6/19リリース
フォーマット:CD
レーベル:P-VINE
カタログNo.:PCD-83011
価格:¥2,300
【Track List】
01. Nite Revue
02. Blue Moon
03. Oasis
04. Chasing the First High
05. Zapper
06. Temperance Club
07. Baobab
08. Olives
09. Yankee
10. in the Windy City
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2019.10.8 12:00
カテゴリ:INTERVIEW, PU3_ タグ:half mile beach club, JAPAN