【INTERVIEW】塚原啓によるソロ・プロジェクトrakia 新作『Eclectic Color』インタビュー
サウンドクリエイター塚原啓によるソロ・プロジェクトrakiaが6年ぶりにリリースしたアルバム『Eclectic Color』。
坂本龍一によるオーディション番組での紹介や、前衛舞踏・演劇への楽曲提供、スペイン国営テレビ主催のクラブイベントへの参加といった経歴を持つ彼が、ブランクの間に訪れたヨーロッパの風景や芸術作品、そして日本国内の厳しい景色をモチーフとして作り上げたというこのアルバム。
彼にインスピレーションを与えたもの、そのインスピレーションをどのように吟味し、作品を形作っていったのか。
これらを掘り下げるべく塚原啓=rakiaに行ったインタビューを行ってみた。
美術で培ったノウハウが音楽制作に置き換えられているイメージかもしれません。
- —:6年のブランクですが、本作のトラック制作はいつころからスタートしたのでしょうか?
- rakia:最初の2年間はネットが繋がらない環境に身を置いて居たため、充電期間といいますか…一旦音楽から離れ、旅行と絵画製作等を行い展覧会に出品したりしておりました。その後、震災で実家や東北の親戚が被災した為2年程,DIYのツールを一式揃えてリフォームや再建へのボランティア活動を行っておりました。生活全体が安定するに従って、一度は処分した機材を海外のオークションサイトを利用して買い戻したりして…リペアやメンテナンスも含めて、海外の人とのコミュニケーションをとるのに相当な時間とエネルギーを費やしました。
- —:確かに6年というと間に震災もありましたね。。機材を買い戻すといっても結構大変だったのではないですか?
- rakia:当時は多少円高だったのでタイミングとしては恵まれて、憧れのビンテージシンセをコレクターの方から入手できたり、急激に安価になったサンプラー等の機材も購入する事ができました。又、新しいMacに加え0.S9にしか対応していない使い慣れたアプリケーション用に敢えて古いMacを買い戻したりしました。…そんな感じで、漸くセットアップ期間に入ったのが2014年秋頃で、トラック制作を再開できたのは2015年初旬からです。
- —:一貫したサウンドの統一性に圧倒されました。すべてのトラックが揃った後で、もう一度全体を見直して整合性をとるといったことを行っているのでしょうか。あるいは、サウンドを組み立てる前に精密に計算したものなのでしょうか?
- rakia:僕の場合、義務教育だった頃から絵画(水彩、日本画)版画(ドライポイント)を制作していた時期が有り、無意識といいますか体感的にその制作過程そのものが刷り込まれておりまして。恐らく、美術で培ったノウハウ(組み立てる前に計算、完成型から逆算する習慣)が音楽制作に置き換えられているイメージかもしれません。
- —:完成型から逆算する習慣、というのはものすごく分かる気がします。
- rakia:故に、幸か不幸か…DTMならではのポピュラーな制作手順は行っておらず、絵画制作に於ける“取材~スケッチ~パネル作り~構図/下図作り~本描き=納得がゆく迄描き込む”スタイルがそのまま“取材~モチーフ制作~ベーシックトラックを構築~マテリアル単位での解体~再構築を繰り返す”過程にピッタリと重なり合う感覚で制作を行っております。建築家が模型作りをバインドする流れと全く同じフローです。そのようなアプローチを試みているせいか自ずと一貫した世界観を表現する事が出来ました。
Y.M.Oの“テクノデリック”の様なアルバム構成が理想だったりします。
- —:アルバムは、1-4曲目までで小さく一周、その後5曲目からは最初の1-4曲目を踏まえて大きく構成を辿るといったような2部構成のような印象も受けました。曲順について意識されているところはありますか?
- rakia:曲順に関してはnikさんとのやり取りで決めました。正直、1曲目の選考は非常に悩ましかったです。耳から入る情報は無限ですが、実際リスナーの立場で考えると連続して同系列のトラックが重なると恐らく脳の処理の仕方が漫然とするでしょう。その辺りは起伏を考慮して曲順を変えたセットを幾つか用意して相当に吟味しました。
- —:かなり慎重に配置されたんですね。オープニングはとてもスムーズで、素晴らしいと思います。
- rakia:冒頭としてのスタートダッシュ的な躍動感を持たせる、楽曲としてのフックを提示する、示唆したいイメージを持続させる、持続したイメージを落ち着かせる…といった1サイクル。要するに、DJ的掟のような起承転結を、曲同士の前後関係を通じて役割を持たせている事は確かです。In Blossomで明確に切り替ります。
ご指摘の通り、5曲目からsideBに移行するニュアンスです。おこがましいですが、Y.M.Oの“テクノデリック”の様なアルバム構成が理想だったりします。
美術館等で、工芸品や肉筆絵画をダイレクトに見る行為そのものが、トラックメイキングの発展に繋がる重要なファクターであると考えております。
- —:ヨーロッパと日本のEclecticというコンセプトですが、例えば「ヨーロッパ的な役割」はすべてこの音響、といった音色による役割指定というよりも、和声感覚であるとか旋律であるとか、伝統的な音楽の部分に静かな折衷を感じました。それはとても抑制された美しさだと思います。ヨーロッパ、日本、それぞれで印象に残る景色というのはありますか?
- rakia:確かに、音色あるいは音響で「ヨーロッパ的な役割」は表現そのものが困難かもしれません。音楽的な部分、すなわちコード感及び旋律的な音列(インターバル)を適宜設置する事により平均率に対してよりヨーロピアンだったり、ジャポニズムな折衷感を醸し出していると思います。
- —:表現そのものが困難というのは確かにあるかもしれませんね。そこに絵画の役割も自然と折り重なるようなところがあったのでしょうか。
- rakia:景色に関してですが、ヨーロッパは逆光を差して黄金色を帯びた広大なドイツの麦畑や、朝霞がかったスイスのルツェルン湖がとても印象的でした。そのイメージで当初“Swan”のタイトルでインストとして制作しましたが、後になってリリックとvoiceを作って頂いた為、真逆なモチーフをそのまま“The Desert Of The Moon”として発展させました。日本では、青森県白神山地沿いの夕暮れ時の日本海が絶景でした。さらには奈良の吉野山から見下ろした山桜も圧巻でした。青森、奈良それぞれ晩秋と早春の時期に訪れ“Tidal Flow” 及び“Cherry Petals Falling”のモチーフ制作のインスピレーションの源となっております。
- —:音楽がキーになって記憶が蘇るということをよく聞きます。ここれはむしろ逆で(音を制作する訳ですから当然ではありますが)、景色がキーになってサウンドを具象化する、ということになりますが、トラック毎に明確にこの景色、といったような分離があるのでしょうか。あるいは大きな物語のようなものが作品全体を覆っているというようなイメージでしょうか?
- rakia:前述したものは景色や心象がトラックに具象化されておりますが、曲によっては完全に“無”の状態からモチーフを作りつつ(往々にして季節感は影響しますが)、一旦クールダウンさせて、再度別解釈で構築しトリミングを施した結果、ベクトルが明確になり作品として成立したものもあります。今年の1月にモチーフを作った…White Landscapesはその試みの典型です。逆に、2月に入ると早朝や夕方に“渡り鳥の群れ”を多数見かける様になり“Migratory Birds”のベーシックな部分を作ったり…と身近な日常からヒントを得てます。ですので、トラック毎にこの景色という分離よりも、その後の“高みに昇華/発展させる処理”に重心を置く事が、結果として景色と結びつくのではないかと思われます。
- —:景色、心象、無、日常、そして再び景色…と。
- rakia:更に、個人的な経験則としては美術館等で、工芸品や肉筆絵画をダイレクトに見る行為そのものが、トラックメイキングの発展に繋がる重要なファクターであると考えております。理由は通常の音楽(当然、主軸であり影響もある)からの刺激と比べ、より気分がフラットになり、客観的に“イケてるか、否か?”分別が付き易くなるという空間的な感性が備わる様な気がします。尚、作品全体に関しては、それほど俯瞰しておらず、偶然の賜物とでも言えますが…トラック単位で臨んでいる為、大きな物語といった括り等は特に意識しておりません。
- —:rakia名義では今後、どのような活動を考えているのでしょうか?
- rakia:音の質感やトラックメイキングのスタンスは今まで通りですが、個性的な女性ボーカリストをフィーチャーしたメロディアスな楽曲にもトライしてみたいと思います。機会があればライブ活動も視野に入れたいと思います。
インタビュー 30smallflowers(@30smallflowers)
『Eclectic Color』/ rakia
2016年10/15リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD62
価格:¥2,000
【Track List】
01. Cherry Petals Falling
02. Day Dream feat. Manami
03. Tidal Flow
04. After The Rain
05. In Blossom
06. Reflection feat. Hiroe Baba
07. Migratory Birds
08. Nostalgia
09. The Desert Of The Moon feat. Hiroe Baba
10. White Landscapes
11. Water Drop
30smallflowersによるrakia『Eclectic Color』レビューはこちら
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【REVIEW】Eclectic Color / rakia(PROGRESSIVE FOrM)
2016.10.15 12:00
カテゴリ:INTERVIEW タグ:JAPAN, progressive form, rakia