【INTERVIEW】FUNLETTERS『PRAY』





なるべくジャンルっぽさや、記号性を持たせないように、自然なままに作っていく(New K)

–:最初の音源を出したのは2018年のときでしたけど、達成感みたいものはありました?
New K:マスタリングが終わったときに「やった!終わった!」みたいな達成感はありましたよ(笑)
–:その後にagehaspringsで出した音源となにか違いはあるんでしょうか?
New K:最初に出した音源に1曲加えていますね、リマスタリングとリミキシングをしました。
–:2018年に出したときは、インディーズで活動していたこともあり、サラッと出されてますもんね。
New K:曲があったなかから一枚にしたので、喜びがあったわけでも特にないですよ。soundcloudからアップするのと、気持ちとしては変わらなかったと思います。
–:2017年にはりんご音楽祭に出演されてますよね。
New K:比べるわけではないですけど、あれはかなりハートが動きましたね。元々フェスにはたくさん出たかったので、いろんなフェスに応募していたんですよ。音源審査を通過して、ライブ審査もキッチリあって、「周りのレベルも高いし、無理かな?」と思ったんですよ、出れたときは本当に嬉しかったですね。
–:agehasprings Tracksさんから再発売となりましたが、反響はいかがでしたか?
New K:インディーズとして全部やっていたときより、明らかにリアクションがデカい、それは間違いないですね。ラジオでの放送もかなりありますしね。
–: つい先日にはJ-WAVEで流れていましたよね。
New K: Twitterを見ていたら「……んんん???」ってなりましたよ(笑)
Chami.:実際「んんん???」ってなるよね(笑)
New K:radikoで聞き直しましたよ、流れたであろう時間帯まで調べてね。「本当だ、間違いなく流れてる」と安心しました(笑)
–:ここまで聞いてみると、甲府でひっそりと活動していた宅録ユニットが、どんどんと大きなステージを歩んでいるというシンデレラ・ストーリーを感じますよ。
New K:コツコツとですけどね。
Chami.:そうそう、コツコツとですよ。
–:大っぴらに話しても良いか計りかねますが、いまも別にお仕事されながらですもんね。
New K:そうですね。なので、ペース感はメジャーの人たちよりも遅いですけど、タイミングとかが合えばライブなどに出ている感じなので。
–: ではデジタアルバムの話に移りたいんですが、まずはもう「良いなぁ」って思ってました、本当に。
New K・Chami.:ありがとうございます。
–:ここまで話されていたような、ロック・ミュージックとハウスやエレクトロミュージックの形が、非常に溶け合った感じで入っている作品だと思ったんです。1曲目と2曲目、別々の曲ですけど、ハウスミュージックのDJミックスのように自然と繋がっていくじゃないですか?ここでまず「おっ?」と思ったんです、スーッと変わっていったので心地よくて。
New K:ある程度意識的にやっている部分もありますね、別々の曲だったんですけど、やってみようと。
–:キックの音がハウスミュージック系統というのがキーになっているなと思っていて、例えばサカナクションや雨のパレード、D.A.N.などにも繋がる質感を感じたんです。ハウス・ミュージックをポップスのなかにくっつけていくことで、オルタナティブな姿になっていくという形ですね。加えて、ロックバンド的なものも見えてくるのは、4曲目の「聡明なあなた」で最初にタム回しでいきなり始まるじゃないですか、ハウス系のトラックはこんな流れで始めないし、そのアイディアもロックバンドを組んだ人と思いつかないというか。
New K:いまの話でハっと気づいたんですけど、BOOM BOOM SATELLITESの「MOMENT I COUNT」での平井さんのドラムに、かなりインスピレーションを得ていたんだといま思いましたね(笑)。インスピレーションを受けたという点では、Porter RobinsonやMadeonには影響されたと思います。キックの質感はフレンチ・ハウスっぽいんですけど、キメのフレーズだとかなりロックっぽいので、その感じがありますね。
–: なるほどです。あと聴いていて思ったのは、音数がかなり少なく聴こえるんですよね。楽器でいうと、5つくらいしか使っていないんじゃないように聞こえます、使用トラックはどうなのかはわかりかねましたが。それでいて、エフェクティブなサウンドで音の広がりがありますよね?、シンプルにしたいと仰っていましたが……。
New K:シンプルにシンプルにしようと心がけていたので、確かに楽器で言うなら4つか5つくらいです。でも、リヴァーヴなどでエフェクトをガンガン使っているのは、ロックからの影響からなんだと思います。あまりにスカスカな音だとしっくりこなくて、音が埋まってないと落ち着かないんですよ(笑)なのでガツンとエフェクトをかけてしまうんです。
–:ロックの影響がそういうところに出ているんですね。
New K:でもまぁ、そういったジャンル感は一度脳内から取っ払って、ギターやシンセの音やフレージングも踏まえつつ、曲に必要なアプローチをして、結果的にハウスっぽくなったり、ダンサンブルになったり、というように曲を作ってます。なるべくジャンルっぽさや、記号性を持たせないように、自然なままに作っていく、僕にとってはそんな感じですね。
–:ここ数年ほどですが、solangeやFrank Oceanなどを筆頭に、アンビエント・ミューシックなムードを持ち込んだ音楽が海外で流行り始めています(クワイエット・ウェーヴのこと)。FUNLETTERSの音楽にもそういったチルなムード感も確かにありますよね。一つ一つを丹念に追いかけていくと、ロックミュージック、ハウス・ミュージック、アンビエントっぽさを感じることができるんですけど、それがちゃんとFUNLETTERSの音楽としてポンっとくるまれている。素晴らしいバランス感覚をもった音楽だと思いましたね。
New K:めちゃくちゃ嬉しいですね。


–:一個一個見ていくと、まったく別々のものなんだけども、音楽として一つになっている。でもそれは語弊があるかもしれないけども、「引き裂かれている」状態というか、もっというと「孤独」感みたいなのをとても感じさせるんですよ。
New K:そうですかね?
–: 歌詞がそう思わせているところはあると思います。「染みの付いたシャツ」は、「染みの付いたシャツ」を4回歌うだけとか、めちゃくちゃ孤独な感じがしますよ?(笑)
New K:はは(笑)
–:これがアンビエントっぽいテクノポップ、ベッドルーム・ポップにノッて届けられるし、MVも真夜中のスーパーのなかをグルグル回って歩くPVだったり、孤独というシチュエーションを思わせるものが多いと思うんです。シチュエーションを喚起させたり、リスナーの想像力にまかせているというのは、意識的だったりするんでしょうか?
New K:うーん、サイコロを転がすような作業かもしれないんですけど、いろいろと書いてみて、自分の中で映像や情景が浮かび上がるような言葉をチョイスしていくような作り方になってますね。それはそのとおりかもしれないです。
–:逆に、「こういう映像をみせたい!」という明確なシーンを持ってつくることはあるんでしょうか?
New K:先に考えないようにしてるんです。メロディや音、そこに言葉がハマったときの「センテンス」が出てきたところで、「これはどんなテーマになるだろうか?」と踏まえつつ、演奏したり、歌詞を加えたりするような作りかたになるんですよ。印象的なものが出てきたら、そこから広げていく感じですね。
–:つまり、行間を読んで、連想ゲーム的に制作をしているということですか?
New K:ええ、そうですね。曲の構成としてはポップス足らしめたいので、そこの枠からは少なくともはみ出さずに進めてます。詞先、曲先という風によく言われますけど、僕らは「オケ先」と言っていいかもしれないですね。オケを先に作って、メロディと詞を編み出す感じですね、そこから音をちょっとずつ足していく、みたいな。
–:なるほど、ちなみに今作で制作時間が一番長かった曲はどれになんでしょう?
Chami.:「正解」じゃないかな?
New K:そうかも。この曲はぼくらにとって最初期の曲で、いま話したような制作方法が確立する直前だったので、かなり時間がかかった曲です。歌詞も一番「文章っぽい」ですしね。確か……1年とか……?
–:1年ですか!?
New K:さきほど話にもあがりましたが、「歌メロが作れなかった時期」というのがまさにこの曲を作っていた時期だったんです。歌詞とメロディをつけるということが、まだまだ分からなかったころの曲で。
Chami.:じつは当時、「ぜんぜん曲ができないけど、本当に大丈夫なの?」って話をしていたくらいだったんです。かなり悶々としているなと感じていたので。
New K:一番大きかったのは「Untouchable」ですかね。この曲ができたから、いまの制作方法に自信がもてたんだと思います。実は「染みの付いたシャツ」は、「Untouchable」のプリプロが終わった次の日に、ポンっと閃いて、その夜にはChami.に曲を送っていたくらいのスピード感でできた曲なんですよ。
Chami.:「曲ができたから唄ってほしい、歌詞はほとんどないんだけど」って言われてこの曲が来たんです。ちょっと驚きますよね、ここまで違いが出るのか!って(笑)
–:ははは(笑)こうしていま歌詞をズラっと並べてみても、やはり孤独感とどう対峙するか?というのが一つの根幹になっているように感じますね。
New K: 最近感じているのは、「正しいこと」を言い過ぎない、言わないということです。「幸あれ」では、「そのパーティには行かない」と唄っているんですけど、その行動が良いとは思わないんです。でも、この気持ちを抱えている人は多くいると思っているし、それをできるだけ肯定したいなと思っているんです。
–:なるほどです。
New K:映画だと特にそうかと思うんですけど、主人公が良い行動や正しい行動をしないものってかなりあると思うんです。そういった良くない行動や悪い行いというのが、芸術であったりポップアートに昇華される……というのは感じつつ、制作はしています。
–:FUNLETTERSの音楽として昇華される、ということでしょうか?
New K:この点、説明するのは非常に難しいんですけども、悪意であったり、理性的ではないものであったとしても、その感情や行動としてこの世の営みのなかにあるなら、僕は認めてあげたいなと思っているんですよ、謎な理論かもしれないですけど。
–:博愛、という言葉が近しいかもしれないですね。
New K:僕は哲学の話はまったく分からないので、この考えがどう位置づけられるかはわからないんですけども、こういった部分に芸術的な美しさやエモさみたいなものが宿ると思っているんです。これがヒップホップなら、自分の意見としてドンと出していくんだと思うんですけど、ぼくはなるべく避けつつ、情景描写に徹していますね。
–:そうなると、「そこに愛があるなら」という曲、FUNLETTERSのステートメントやコアな部分を表する曲だと思うんです。それこそ、「赦し」の音楽であり、今回の音源であるデジタアルバム『PRAY(≒祈り/赦しを請う)』にも繋がりますよね。
New K: いろんな人間関係があるとは思うんですけど、どんな場合でも、愛というものの定義はあやふやなまま、みんな人間会計を構築するし、進行していくわけじゃないですか。そのあやふやさや不安定さを表現したいなと思ったんです。「灯りを持たず谷を降りていく」という歌詞があるんですけど、本当にそのとおりで、そこに愛があると信じながら進めていく、という感じで書きましたね。
–:薄氷のうえを歩くような危うさのなかにいる人を、ちゃんと描写していると思いますし、FUNLETTERSの精神性や音楽性みたいなものがちゃんと含まれてるなと感じますよ。
Chami.:『PRAY』というデジタアルバムで、言葉の意味は「祈り」という意味なんですよね。わたしはFUNLETTERSのメンバーでありつつ、一人のリスナーだと思っているところがあって、FUNLETTERSの音楽はお守りのような存在なんです。できれば、自分の仕事場の同僚の人にも聴いてほしいなって思っていたりしますよ。
New K:基本的に、ぼくらは社会の中で生きているので、「なんでも良いよ」っていう風にはいかない、楽曲制作のときに「どんな歌でも唄っていいよ」とは言えないように。人間を全肯定はできないけども、音楽が鳴っているときだけは、それが可能なんじゃないか?と思っているんです。ライブで楽しんでいるとき、一人で楽しんでいるとき、僕らの音楽を通して、自分を開放する……というか……。
Chami.:アウトプット?アンチェインだったり?
New K:なんだろうな、適切な言葉があるんだろうけども、全てを認めるっていうか……。
–:「自分を赦す」ということですか?
New K:ああ、それが近いかもしれないですね。さっき仰っていましたが、「赦しの音楽」ということ、音楽で全てを赦せることができればいいな、というのは考えてます、それが本望ですね。

インタビュー・文:草野虹




『Untouchable(KOIBUCHI MASAHIRO Remix)』/ FUNLETTERS
2019年6/5リリース
フォーマット:デジタル配信
レーベル:agehasprings Tracks
Spotify






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2019.6.1 13:12

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