【REVIEW】Taiko Super Kicks『Fragment』
東京出身の4人組Taiko Super Kicksが静かな話題を呼んでいる。2012年結成、2013年から本格的な活動を開始し、2014年にミニ・アルバム『霊感』を発表し、2015年12月にファースト・フル・アルバム『Many Shapes』を発表。それ以来となる3年ぶりのアルバムが『Fragment』だ。
メンバー唯一の女性であるこばやしのぞみのシンプルなドラミングには力みはなく、大堀晃生によるベースラインは艶めかしさや味気はあまり無く、ユニゾンとアルペジオを伴ったダブルギターサウンドはナチュラルトーンをキープし、音を厚くしないように心がけている。4人のアンサンブルは、その風通しの良さと心地よさを運んできてくれ、ボーカルの声をより聞こえやすくしつつも、軽やかなムードを与えてくれる。
「実生活は大変なのに、音楽では理想を歌う」みたいなことが、すごく嘘っぽく感じる。
ボーカル/ギターを務める伊藤暁里がとあるインタビューで語っているように、彼らの歌う言葉は、リアリティを伴いながら、いまある私情をなぞったものが多い。感情でいうなら、怒りと諦め。怒りや諦めを滲ませつつも、彼は何とも無いようにフラっと歌い上げる、そして尾を引いて心に残っていく類のもの。軽やかさに怜悧な言葉を歌ってくるという図は、笑いながら怒っている人や、怒っている表情もなく淡々とキレている人を思い浮かべてしまう。Taiko Super Kicksの音楽は、とても人間らしい音楽とすらおもえてくる。
例えば、このアルバム1曲目「たたかいの朝」はどうだろう。スネアドラムを2度叩いてから広がるバンドサウンドは、ナチュラルトーンの単音ソロが2本重なり、ベースもドラムも非常に簡素に奏でてみせる。あっけにとられてしまうほどに軽やかで、スイスイと進んでいくバンド・アンサンブルに合わせて、伊藤が歌う言葉はこうだ。
ああ今日も夜が明けて
始まる たたかいの朝が
いつものことさ 総当たりの日々
いつかはたどり着けるさ
君が求めれば
僕が求めれば
この曲、実はこのあとには同じ歌詞を歌うだけであり、非常にシンプルな曲である。とはいえ、このシンプルさの向こう側に、なにか深いものを見てしまうのも確かなのだ。
この歌詞、会社勤めのひとのモーニングタイムを描写したものなのは間違いない。こういった歌詞なら、THE BLUE HEARTSよろしく「頑張れ!!!」といってしまいそうになるが、彼らはそうではない。一つの描写、あるいは心象風景を切り取り、歌い上げることで、常世の儚さや難しさを表現していく。「無縁」という曲が象徴的だ。
あなたのことだと思っていない
ことはほとんど、あなたのこと
無縁でいるのは 何より簡単で 何より難しい
遠くを眺めていれば 忘れられそうな夜でも
じぶんのことだと思っていない
ことがときどき、自分のこと
無縁でいるのが、何より簡単で 何より難しい
この歌詞、おそらくSNSとの付き合い方を歌っているのだろうと思うし、同時に人間関係のことをも射程距離に入ってくる。人と人とが関わって生きていく社会の中で、この歌詞はその難しさを歌い、生きづらさそのものを歌っているのだ。
そっけなく、でも心地よく、彼らの音楽は聞く者の心を撫でていく。強い主張を音にせず、言葉にしても遠巻きに伝えて、直截すぎることはない。このバンド感、まさにいまのインディロックらしい作品だろう。
2018.7.23 12:00
カテゴリ:PU3_, REVIEW タグ:JAPAN, taiko super kicks
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