【INTERVIEW】北 航平 『Head Towards The Horizon Of Sandy Sea』
京都を拠点にパーカッショニストとして確固たる地位を築く評価の高いサウンド・アーティスト北 航平。
世界的にも非常にレアでとても美しい音色を奏でる楽器「アレイムビラ」(カリンバの一種)を全面的にフィーチャー、60年代~70年代前半のジャズを彷彿
とさせる心地良いグルーヴと叙情性を感じさせる待望の4thアルバム『Head Towards The Horizon Of Sandy Sea』をリリースした氏に、本作を様々な角度で語ってもらった。
ものすごく簡単に言うと「癒し」を意識しましたね
- –:今回のアルバム『Head Towards The Horizon Of Sandy Sea – 砂の海の水平線へ向かう』を聴かせていただいて感じたのは、非常に聴きやすいという事でした。
- 北 航平(以下、北): そうですね、聴きやすくというのもあるんですが、何回も繰り返し聴いても疲れない、というのを意識して作りました。前作『Imbalance Order And World』はエネルギッシュでビート含めよりエレクトロニックなイメージの感想を頂く声が多かったのですが、今回はもう少し日常の生活に寄り添うというか、このアルバムを通して聴いてもらった時にどんな気持ちになってもらいたいか、というのを考えてみました。それは過去3作では無かった事なので、自分の中で非常に新鮮な気持ちでしたね。
- –:具体的にはアルバムを通して聴いた時に、どんな気持ちになってもらいたいと想像して作られたのでしょうか?
- 北: 聴いている最中に気分が良くなるというか、ものすごく簡単に言うと「癒し」を意識しましたね。でも、ただ単に環境BGMのように癒されるだけでは、苦労して時間をかけてアルバム1枚作ってる意味が薄れてくるので、そこはもちろん作り手の主張や描きたい世界も盛り込みたい、その微妙なバランスはやはり難しかったですね。日常的に何気なく聴いていて癒される、でも少し非日常を感じられる比較的近い世界線のパラレルワールドのような音楽。例えが的確かどうかはわからないですが、少し個性的で主張のあるお香やアロマといった感じでしょうか(笑)
僕の好きな水琴窟とカリンバの音色をミックスしたような深く美しい響きに感動したんです
- –:前作・本作とメインで登場する楽器、アレイムビラとの出会いについて教えてください。
- 北: アレイムビラとの出会いは結構古くて、2011年頃にYouTubeでたまたま見つけたヨーロッパのチルアウト系アーティストの動画を見つけたのがきっかけなんです。アレイムビラ単体でソロで弾いてる映像なんですが、もう観た瞬間に強烈なインパクトを受けました。僕の好きな水琴窟とカリンバの音色をミックスしたような深く美しい響きに感動したんです。それから色々と調べてみたんですが、なかなか欲しい情報に辿りつけなかったんです。でも、どうしても気になるので何年かかけて色んな楽器屋に問合せたり、ネットで探しまくってやっと見つかった情報が、非常にレアで世界中にもまだ数が少ない楽器だということ、アメリカ・サンディエゴの個人経営のような会社で作られていること、日本には代理店がないということでした。そして、これはもう直接製作者に連絡を取って個人輸入するしかないな、と。
- –:それで念願のアレイムビラが手に入ったわけですね。
- 北: いや、それがまだ紆余曲折ありまして(笑)
やっと製作者であるアメリカのおじいちゃんとコンタクトを取る事に成功したんですが、やはりレア楽器だけあって受注製作なんですよね。拙い英語でのやり取りなんですが、どうやら3カ月かかると。それは仕方がないと承諾して発注したんですが、4カ月経っても5ヶ月経っても連絡がない。最初に半額分振り込んでるんで不安になり、何度か連絡してみると、「作ってるよ。でも、これからバケーションで旅行に行くから、もうちょいかかるかなぁ、多分あと1ヶ月くらい。」的な返事が来まして(笑)、い…いや仕方ない、待とう、と思ってひたすら待ちました。まあ結局届いたのは、発注から7ヶ月近く経ってたんですが、やはり日本人とは国民性が色々と違うんだな、というのを実感しました。
- –:無事届いて良かったですね。それでアレイムビラをメインにしたアルバムを作ろうと。
- 北: そうですね。ただ、最初は迷いはありました。レア楽器で独特のサウンドなだけに同じ物を使用するアーティストとの被りに対する懸念ですね。でも考えてみたら、同じ楽器を使う事って他の楽器で考えたら当たり前じゃないですか。ピアノやギターを弾いて他と被るなんて考えないですよね。それならば、そんなどうしようもない事であれこれ悩むよりは、自分の思い描いてる音を迷わずに使いたいと。それで、アレイムビラを全面に出して一枚のアルバムを完成させたのがPROGRESSIVE FOrMからリリースした前作の3rdアルバム『Imbalance order And World』なんです。そして、それを昇華してもっと洗練させたものを作ろうと思って制作したのが4thアルバムとなる『Head Towards The Horizon Of Sandy Sea』なんです。
メインでずっと流れてるオルガンのような連続音が、実は全部アレイムビラで出来てるんです
- –:これまでのアルバムで一貫して日本語のタイトルも併記されています。エレクトロニカ系のアーティストとしては珍しいですよね。
- 北: そもそも自分の事をエレクトロニカ系のアーティストだとは思ってなくて、他のエレクトロニカ系のアーティストの方々についてもあまりよく知らないんですね。ただ単に好きなものを思いつくままに作った結果、周りの人に、これはエレクトロニカ系の範疇の音楽だと教えてもらったんです。
なので、日本語タイトルについても元々何の違和感もなく、これが自然だと思ってました。今まで全ての作品のタイトルをつけてくれてる作詞家・シンガーの高山奈帆子(カルネイロ)からあがってくるのも当然最初は日本語なので、むしろ後から英語に変換してる感じですね。やはり日本人なので、細かいニュアンスや語彙の豊富さから言っても日本語が一番しっくりくるんです。音の制作時に頭の中でイメージしてるものとタイトルの言葉が一致する時は、楽曲に命が吹き込まれるようで最も喜びを感じる瞬間かもしれないです。
- –:今までのアルバムには無かったアンビエントドローン系の曲がありますね。
- 北: はい、今回のアルバムには3曲ほどあります。理由はいくつかありまして、まず本作のテーマ「癒し」というのに密接に繋がってるんです。また、自分の中の実験でアルバムのフックとしても前から一度入れてみたかったというのもあります。そして、もう一つ大きな理由としてはアレイムビラの可能性を探ってみたかったというのが実はあるんです。
- –:ドローン音にアレイムビラを使ってるんですよね。これはちょっと想像しにくいのですが、差し支えなければ音作りについて教えてもらえますか。
- 北: 隠すほどのことではないんですが(笑)、いわゆるドローン音、パッド音というんですかね、もっとわかりやすく言うとメインでずっと流れてるオルガンのような連続音が、実は全部アレイムビラで出来てるんです。アレイムビラは基本アコースティック楽器なんですが、エレアコのようにラインもありまして、そこにギタリストが使うようなコンパクトエフェクターを繋げてるんです。コンプや歪み、ディレイやリバーブなどを繋げて、極小音量でアレイムビラを弾くと、それが無限ループのようになり連続音になるんです。またその状態でアレイムビラを叩いたり引っ掻いたりすると、洞窟の中で打楽器を演奏してるような音もするんです。その空気を含んだザラついたあたたかい質感を見つけた時は、楽器の可能性を広げられたような気がしてとても嬉しかったですね。
- –:後半の「08. Translucent She And The Fact – 半透明な彼女と事実」「09. I Can Not Remember Blue – 思い出せないブルー」は往年のジャズを彷彿とさせます。
- 北: これは昔から好きなジャズのレジェンドであるマイルス・デイビスやビル・エバンスの50年代後半から60年代にかけての妖艶で暗く深い、絶妙に枯れた音の質感が何とも言えず好きで、そんな雰囲気を自分でも出してみたいと思って、ある意味オマージュ的な意味合いで作りました。そして今回のアルバムのコンセプトにも合うなと思ったんです。彼らの音楽をリスナーとして聴いてると、癒し要素もあり、芸術性もあり、しかも様々な映像が頭に浮かんでくるようなクリエイティビティもありで、こういったものを自分のフィルターを通して作ってみたいなぁと前から思ってました。結果的には良い楽曲が出来たと自己満足しています(笑)
- –:今回は映像もたくさんありますが、ご自身で制作されてるんですよね?
- 北: そうですね、映像に関してはなんとかかんとか必死に頑張って作ってます(笑)これも音でのコンセプトと同じで、日常の中の癒し+少しのアート、的なニュアンスをイメージしていて、水族館に大量の水を撮影しに行ったり、家のリビングでグラスの中を接写したりと、できる範囲の中で色々と考えて作ってみました。どちらかと言うと集中してじっと鑑賞もらうと言うよりは、BGV(バックグラウンド映像)のような感覚で部屋で流しっぱなしにしてもらう方が良いかもしれないです。もし良かったら一度やってみてください、心の沈静化作用があるかもしれないです(笑)
- –:最後にリスナーの方へのメッセージがあればお願いします。
- 北: 今までは自分の表現したいものを好きなように作ってきたのですが、今回は初めてリスナーの方に寄り添う形というか、聴いてもらってどんな気持ちになってほしいか、という事を意識して作った作品なので、よりたくさんの方の琴線に触れる事ができれば嬉しいなと思います。ぜひ聴いてください。よろしくお願いします。
「Head Towards The Horizon Of Sandy」
/ 北 航平
2018年5/15リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD78
価格:¥2,100(税抜)
【Track List】
01. Whisper Of Dawn
02. Head Towards The Horizon Of The Sandy Sea
03. Koh-I-Noor
04. Rain Falls On A Lotus Flower
05. Infiltration
06. Chaos Of Inspiration
07. His Conviction
08. Translucent She And The Fact
09. I Can Not Remember Blue
10. Responding Life
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タワーレコード
2018.6.14 19:00
カテゴリ:INTERVIEW, PU3_ タグ:drone, electronic, JAPAN, 北航平
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