【REVIEW】Eclectic Color / rakia(PROGRESSIVE FOrM)
塚原啓が6年間の充電期間を経て発表したrakia名義では初となる本作、立体的で奥行きのある電子音楽作品に仕上がった。アルバムは一貫して無国籍でフラットな世界だが、サウンドはあらゆる角度から慎重に奥行きを持ち、ミニマルな世界観を美しく彩る丁寧な印象を受けた。
1.Cherry Petals Falling
冒頭から深いリバーブに包まれたサウンドと交互に配置されたデッドな空間の入り混じり方が心地よい。リズムトラックはシンプルなフレーズを刻むが、音響効果への配慮が美しい。ディレイ効果を含めてメロディーに織り込んだサイン波の旋律はシンプルだが、湿り気を帯びたテンションコードの中でとても映える仕上がりだ。
2.Day Dream feat. Manami
シンセベースがオクターブのフレーズを刻み、Manamiのヴォイス、深く食い込むキック、4拍子と3拍子を静かに重ねていくアプローチは4つ打ちのアプローチに引っかかりをもたせることに成功している。エレピ風のオブリフレーズや、パッド、ゆっくりとラウンドするパンの心地よさの中でトラックは少しづつ様相を変化させながら楽曲を進めていく。極めて上質なフレーズを慎重に選んだ音楽的なトラックだ。
3.Tidal Flow
オーガニックなピアノ音で幕開けとなるこの曲は、リズムトラックが入るとVaporwaveでも多様されるキックパターンとの組み合わせによって一気に表情を変える。冒頭の短い瞬間にシンプルな構成で多様な景色を持たせるがとても自然で美しい。ここでは和声の美しさと細かく配置されたリズムトラックの組み合わせが印象的だ。
4.After The Rain
冒頭の曲とも通じる輻輳する音響効果とエレクトロニカ的なリズムトラックだが、ここでは前曲に続いて沈み込むようなテンションコードが断片的にはさまれていて、ミニマルな構成に深い彩りを与えている。4つ打ちのアプローチや前曲のパーカッションと近い音色が時折登場するが、冒頭からのトラックを踏まえたデジャヴ感が美しい。後半には明確な旋律が暗示的に与えられている。
5.In Blossom
エレクトロファンクを連想させるベースとスネアの組み合わせが静かにグルーヴを組み立てていく。ここでも渇いたサウンドとリバーブのバランスがポリリズム的な効果を発揮している。中間部でミュートされたリズムトラックを補っているのはまさにこの音響効果だ。とても職人的な展開に引き込まれる。
6.Reflection feat. Hiroe Baba
不協和音を感じさせる冒頭のピアノは、ベーストラックが与えられることで次第に楽曲の和声の中に溶け込んでいく。この音楽的な処理がとても美しい。ヴォイスの処理は2曲目ではエフェクト効果を含めた効果だったが、ここではかなりデッドな表現になっている。ピアノは中盤も見事な転調やアウトフレーズが織り込まれておりネオクラシカルな展開と抑制されたリズムトラックの緊張感が印象的だ。
7.Migratory Birds
電子音楽の伝統的なアプローチをパッドからもリズムからも踏まえつつ、和声はあくまでネオクラシカルマナーを持たせており、音色や音響処理というよりもゆっくりと変化する和声に引き込まれる形で楽曲が進んでいく。ピアノのフレーズは高音に控えめに設定されたディレイが美しく、中盤のブレイクを引き立たせている。
8.Nostalgia
シンプルな電子音が奏でる淡いシーケンスは中盤のブレイクを経て挿入されるベース音によって安定感を持たせる。和声をわかりやすく際立たせるなら、キックより先にベースラインが入ってくるだろう。このトラックではそうはせず、キックを先に出すことでシーンの切り替えで視界が広がっていく様を効果的に演出しているように感じる。その前後の対比がとても美しい。
9.The Desert Of The Moon feat. Hiroe Baba
サイン波とピアノ風のサウンドの自由な折重なりから始まり、ディレイで彩る上ものと細かくセットされたハイハット、大きく刻むキック、ユーモアも織り込んだパーカッシブな電子音、シリアスなヴォイス、本作のあらゆる要素が楽曲の中で組み立てられていく。抑制された和声が変化する瞬間が見事だ。
10.White Landscapes
細かくカットアップされたサンプリングを連想させる冒頭の電子音の配置は、低音の効いたリズムトラックが入ることで、リズムアプローチを深めていく。ここでもサイン波の短くシンプルなフレーズが旋律を進めるが、トランスポーズで生まれた転調をメロディーとしてとらえる俯瞰した姿勢が静かに続いていく構成はミニマルで音楽的なとても上品な世界観を持つ。
11.Water Drop
アルバム最後の曲はDropを連想する冒頭の電子音の配置から、冒頭の曲でも使われた音色と近いフィーリングを異なる音響で提示する。シンプルだが時折旋律を持たせるベース、短く刻まれたコード、渇いたスネア、どれも有機的にからみあうバランスが見事だ。
アルバム全体を貫く美学は、伏線をすべて回収する長編小説のような心地よさをもたらす。随所にあらわれるデジャブ感はミニマルでストイックな姿勢にリスナーの感覚を常に引き戻す。全体の整合性は全編通じて一つのトラックのようでもあるし、一つのフレームの中であらゆる世界を提示するコンセプトアルバムのようでもある。立体音響の完成度の高さがとても印象に残った。
『Eclectic Color』/ rakia
2016年10/15リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD62
価格:¥2,000
【Track List】
01. Cherry Petals Falling
02. Day Dream feat. Manami
03. Tidal Flow
04. After The Rain
05. In Blossom
06. Reflection feat. Hiroe Baba
07. Migratory Birds
08. Nostalgia
09. The Desert Of The Moon feat. Hiroe Baba
10. White Landscapes
11. Water Drop
テキスト:30smallflowers(@30smallflowers)
30smallflowersによるrakiaインタビューはこちら
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【INTERVIEW】塚原啓によるソロ・プロジェクトrakia 新作『Eclectic Color』インタビュー
2016.10.22 11:43
カテゴリ:REVIEW タグ:JAPAN, progressive form, rakia