【REVIEW】『STRINGS』/ Boyish



バンドミュージック、多人数で音を合わせ奏でることは奥深い。

ポップミュージックの源泉を紐解けば、アメリカのジャズやイギリスまたはアイルランドのカントリー / アイリッシュトラッド / ケルトミュージックを追いかけることになる、音楽フリークな人にとって常識といっていいだろう。

ホーン隊にドラムにベース(コントラバス)、そこにはまだ電化されたギターは姿を現しておらず、音の組み合わせによるグルーヴも今ほど豊富にあるわけでもない、ある種一辺倒なグルーヴを奏でる音楽隊だったようだ。

そこで主旋律を揚々と奏でていたのは御存知の通り、バイオリンであり、フルートであり、トランペットであり、時にはアコーディオンであった。いまでも多くの人の心を引きつけてやまないこれらの音色が、現代で通用しないわけがない。

BOYISHの岩澤は今回の新作で自身のバンドにサックス / フルート / 2本のバイオリンを加えた、文字通りの管弦楽隊だ。岩澤本人はインタビューにおいて<ソウルユニットのRASAから影響を受けた>と話してくれたとおりだ。





管弦楽器とロックサウンドの接続か……というのは、歴史を逆さ読みにしてしまっている。歴史学的な私見でいえば、むしろ管弦楽器隊に対してロック / ポップミュージックの権化たるエレキギターとロックサウンドが接続する、そして両楽器隊のヒエラルキーがフラットな立ち位置へと居直る、というくらいが正しいくらいであり、今作における両者の関係性は不思議とそう感じさせるマジックがある、それが聴取者を惹きつけるのだ。

こうした文脈を体現しているのがオールディーズのソウルミュージックを愛する人間だ。そういった人たちのライブショーは、サウンドスケープや音の色合いそのものから平等な立ち位置を感じることができるし、互いが互いをサポートしながら空間を構築し、非常にピースフルな空間を顕現していく。

つまりそれは、ギターというロックミュージックの主役を影の脇役に立たせることにもなるし、ロックミュージックに付随するスピリットや精神性は一旦脇に追いやられることをも意味する。ロックミュージックがどうしても捨てきることが出来えなかったエゴイズムが、このときに本当に過小のものになりえる。

今作『STRINGS』でもっとも驚かれるべきなのは、スウィンギーかつリズムの裏拍を意識してBPMも重心もググッと低くなったグルーヴを奏でながらも、<ドリーミー><幽玄>という彼ら自身のエゴイズムへと見事に終着しているということだ。

前作ではストレートエッジな8ビートの刻みにギターの爆音を鮮やかに奏ながら、白昼夢でドリーミーな質感の裏でエモーショナルを吐き散らかしていたこのバンドが、それほどの変化をしているのだ。

これほどのサウンドスケープの変質ならば、己ら自身のアイデンティティすらをも無意識に変質しかねない場面なのだが、彼らはその迷路に嵌まることなく自身が奏でるべき音を奏でている、奇跡的な一枚といってもいい、そして岩澤という作家の業をそこに見ることができる。

ほぼほぼ一発でレコーディングないしはミキシングしたためか、ちょっとした違和感を感じてしまう音が何箇所かあるが、それもまた彼らが進化途中であり、まだまだ手の施しようが見込めるということに他ならない。今作は決して100点満点を与えられる作品ではない(無論そのような作品はこれまで一つとして生まれていない)、だが重厚に重なったメロディによって保たれた楽曲構成力は素晴らしい。

岩澤はインタビューの最後にこう語っている。

<ポップスのなかにソウルっぽい人たちが普通にいたような、ジャンル分けとか仕切りがもっとない、混沌としていて自由だった雰囲気には憧れますけどね。今だったら、これならこれ!それならそれ!という感じですし、仕切りが外しづらい雰囲気すらありますよね。僕は、もうそういうのをやめようと思いましたね、なんでもやろうとするとさすがに際限がないので、ある程度ここまでという決めて、どんどんとやっていきます>

そんな彼らに対して、ギターポップだのネオ・アコースティックだの、パンク文脈の向こう側で切り開かれた精神性をもったそういったバンドを受け継ぐ存在だとか、「青春」とか「清涼感」とか「叙情性」とかいう言葉や文句が、彼らをいかに局所的に裁断してしまうか、そういった言葉がいかに局所的にしか響かないか。はっきりといえば、この作品よりもさらなる上の完成度が望めるのであるのだから、「挑戦的」「野心あふれる」という言葉が本当に似合っているのだと思えるのだ。

今後バンドミュージックという枠組みを外れるようなことはおそらくないだろう、だが逆に言えば、バンドミュージックであって手が届くものならば・・・と、その気概を感じ取れる言葉と作品を残してしまった。このバンドのポテンシャルと行く末を見届けていきたい。

テキスト 草野虹(@kkkkssssnnnn)

2016.6.6 15:06

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