【REVIEW】CRUNCH 『blue blue blue』  



名古屋のガールズ・インディー・ポップ・バンドCRUNCHが世界各地の音楽メディアで話題となっている。グロッケンの響きが美しいメロディアスなリード曲「blue」は昨年11月に公開されるや複数の海外メディアで取り上げられ、PitchforkのライターPatrick St. Michelのサイトでは年間ベスト・ソングにも選ばれた。

「久しぶりに純粋なガールズ・バンドに出会った」とは、名古屋で共演した際にシンガー・ソングライターの古川麦が語った言葉だ。一方、never young beachやD.A.N.といった東京インディーの雄とも共演し、彼らに負けない粗削りで激しい演奏を聴かせた。
とはいうものの、CRUNCHはライヴ活動が少ないせいもあり国内ではほぼ無名のバンドだ。その彼女らの曲「blue」が主に海外からのアクセスで1万5千回以上の再生回数を記録し、なお聴かれ続けている。その理由は何なのか。

80年代ニュー・ウェイヴ、ポスト・パンクからの影響を感じさせる2曲目「人魚と海」では1曲目の「blue」同様、夢と現実の間で揺れ動く心情が描かれている。一方でポスト・クラシカル風の荘厳なバラード「街」と、くるりのようなフォーク・ソングを意図したという「通り雨」の2曲を通しては、過去に失われてしまったものと、そのことに折り合いをつけて未来へ歩んでいく姿が歌われている。スピッツの歌詞ではないけれど「誰も触れない3人だけの世界」で4曲のストーリーは紡がれていく。

彼女らの曲を手がけるエンジニア、荒木正比呂(レミ街、tigerMos、fredricson)は、ミックスに際して「その曲が潜在的に持っている魅力を引き出すよう心がける」というが、本作の最後を飾るリミックス曲の制作過程について以下のように述べている。

「別々の曲をコラージュした様で展開感が曖昧ではあったけど、音が歌の周りをドロッとまとわりついて液体の様に変化していく感じが気に入ったので、掴めそうで掴めない感じはそのまま生かす事にしました。木を燃やした時に出る木タールとか、ヒトヨタケ(一夜茸 英名Coprinus)の溶けていくときみたいな、とにかく副産物的な美しいドロドロが歌から放たれて伝わっていくイメージです。」

大企業のCMや海外ドラマにも起用される音楽プロデューサーである荒木が、CRUNCHの楽曲に見出したのはおそらく、人間社会だけでなく大自然をも含んだ世界そのものが抱える矛盾、そしてそれを包み込み、浄化して美しい何かに変えてしまう普遍的な力だったのではないか。普遍的な真理とはごく個人的な価値観を極限まで突き詰めたときにこそ生まれるものだから。

インターネットの発達により、メジャー / インディーの垣根どころか、リスナー / ミュージシャン / レコード会社 / メディアの境界もあいまいになった現在、言語の壁を越えて伝わっていく音楽は、ようやくその真価を発揮する時が来たのかもしれない。もちろん、このindiegrabというメディアも大切な役割を果たしていくはず。

blue blue blue
『blue blue blue』/ CRUNCH
2016年2/10リリース
フォーマット:デジタルDL/ストリーミング
i tunes / Apple Music / Amazon MP3 /  Bandcamp
レーベル:セルフリリース 詳細
【Track List】
1. blue
2. 人魚と海
3. 街
4. 通り雨
5. Blue Coprinus Mix

テキスト:Toyokazu Mori(@Toyokazu_Mori

2016.2.2 15:00

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