【INTERVIEW】「必然的に、この4人が残った。」 メンバー全員に訊く、それぞれのザ・サイレンス。
知る人ぞ知るVERSERKのサンプラー収録曲と、ボ・ディドリーのスタンダードという、それぞれが超絶にヘヴィーなカヴァー2曲に挟まれて、オリジナル・ナンバーとインプロヴィゼーションによって構成されたニュー・アルバムは、実にロックな重さと鋭さを伴った、聴き応えのある充実作である。
ザ・サイレンスとしては5枚目、前作から約1年という早いペースでのリリースが、バンド内の好調ぶりを表しているのかも知れない。
しかも、リーダーの馬頭將器は、本作と平行して最新ソロ・アルバムをリリースしたばかりであり、これまた前作から約1年という短いインターバルでのリリースだった。
かように、創造性が或種のピークを迎えているようにも見える馬頭にとって、現在のサイレンスのメンバーは、これまでの音楽活動を通しても最高にリスベクトできる存在なのだと語る。
バンド史上最強とも呼ぶべき現在のサイレンスの4人、即ち馬頭、岡野太、吉田隆一、そして山崎怠雅に話を訊いた。
Gibson SG customをマーシャル・アンプに繋ぐと、素早く「荒ぶる神」が降臨する心持ちがするのは、ロックへのルーツ回帰と私に根を下ろした禍神(まがかみ)が騒ぐせいかもしれません(馬頭將器)
- -:事前にライヴで聴いていた曲もあり、大体の感じは掴んでいたつもりだったのですが、それにしても重い音だという印象です。初期のブラック・サバスであるとか、ヴァーティゴ・レーベルのバンドにも通じるような、あの時代のブリティッシュ・ロックに特有の、重さと暗さがありますね。
以前のインタヴュー(「スマイル・ジーザス・ラヴズ・ユー」発表時)で、馬頭さんは「演奏や音楽には、特に思い入れはない。」と言っておられたのが意外でしたが、このアルバムの重い音から先ず感じられるのは、ロックに対する強い拘りのようなものです。
馬頭さんとしては、やはりロックに対しても強い思い入れや拘りのようなものはなく、例えば、このメンバーだからこのような音になった、といったような、自然な流れによるものだったということなのでしょうか。 - 馬頭將器:今回ご指摘を受けて初めて認識しましたが、4人組のザ・サイレンスの場合は、私のソロでの表現スタイルとはかなり違うのだと思います。ソロでの表現は完全に私と同化した私そのものの表出物。しかし、サイレンスの場合は4人が均等に表現出来るがっぷり四つの取り組みです。音楽を始めてから随分と長くなりましたが、今のメンバー程尊敬出来る仲間には会ったことがありません。
自然とこうなった、という事は全くなくて初期のベース・プレイヤーJan Stigter(ヤン)のいた頃にジャズ・ロック的なものをはじめ、色々な楽曲やアンサンブルに取り組んでみました。その頃はおそらくヤンのロック色の薄さが自然と全体のアンサンブルに表れていたのと、私の提示した楽曲もおそらくもっとコンテンポラリーなものに傾いていたように思えます。
ヤンが脱退して山崎怠雅が加入した事で化学変化が起きたのだと思います。自然と荻野(和夫)の脱退が続いたのは彼の中の音楽性がもはや現在のサイレンスに必要無いと本人が確信したから。彼もまたロック的な匂いの無い人でした。たまたまゴーストに加入して1984年から長く一緒でしたが、クラシックや多様なテイストを提供してくれましたが一貫してロックとは無関係な演奏家だったと言えます。
残った我々4人、岡野太(Dr)、吉田隆一(Sax,Flt)、山崎怠雅(Bass,Vo)、馬頭將器(Gt,Vo)、は様々なルーツを持ちながら根底にはロックで育ち繋がっていると言えます。そうして自然な成り行きからヘヴィ・ロックへ変貌したのでしょう。ロックは音楽のジャンルのみならずひとえに生き方だと思う4人ですから。人から見れば下らない拘りでしょうが、ここは大事な点ではないでしょうか。
私個人の幼少期からのロックへの傾倒はごく自然なものでしたし、そこから派生して興味はブルースやジャズ、クラシックへと広がりました。南紀熊野地方で育ちましたので、今から思えば民族学的に色濃い習俗、音楽に限っても祭事の御神楽、河内音頭的な盆踊りや神式の葬儀や祝祭玉串奉奠など多彩な宗教的、文化的なものが身の回りにごく溢れていましたのでそれらも自分の魂の奥底に染み付いていると感じます。Gibson SG customをマーシャル・アンプに繋ぐと、素早く「荒ぶる神」が降臨する心持ちがするのは、ロックへのルーツ回帰と私に根を下ろした禍神(まがかみ)が騒ぐせいかもしれません。
ゴーストが拡散していく音楽だったとしたらサイレンスは一点に向かって収斂していく音楽。そんな印象を持ちました(山崎怠雅)
- -:必然的に、ロックな4人が残った、ということですね!
現在のサイレンスは、やはりロック・バンドとしてのフォーマットが強力で、所謂ジャズ・ロックというスタイルとも違ってきていますね。吉田さんの管楽器にしても、フロントでアドリブ・ソロを回すのではなく、あくまでもロック・バンドのフォーマットの中で仕事をしている印象です。
ロックへの拘りという点では、以前、ロック・マガジンの阿木譲さんが書かれていた「ロックに触発された自分を、やめるわけにはいかない。」という一言が想起されます。時代の表現としてのロックが終わっても、各個人の中で、それは永遠に続いていくものなのでしょう。
故郷の南紀熊野の風土が、馬頭さんの音楽性に多大な影響を与えているというのも、大変、興味深いポイントです。
バンドの音楽性の変化ということでは、山崎さんがキー・マンのようですね。山崎さんはとても顔が広く、常に様々なバンドで活動されているイメージがありますが、これまでのゴーストや馬頭さん関連の人脈とは、あまり接点がなかったようにも思われます。山崎さんがサイレンスに参加した経緯と、ご自身が参加される以前のサイレンス、およびゴーストに対する印象等を教えてもらえますか。
サイレンスが、初期のジャズ・ロック路線から、現在のヘヴィ・サイケデリック・ロック路線にシフトしていった鍵が山崎さんの参加にある、という馬頭さんの分析も出ましたので、ここは他のメンバーの見解もお訊きしたいところです。 - 山崎怠雅:2016年5月に自分のバンドで非常階段と対バンしました。その時に岡野さんとは初対面だったのですが「今度何か一緒にやろう」って言ってくれたのです。初対面の若造にこういう事を言ってくれるとは親切な人だな、と思いました。
それから2か月後、岡野さんから「馬頭から連絡行ってない?」とメッセージ。馬頭さんとは面識がなく、連絡も届いていませんでした。その日のうちに改めて連絡を取り合い、その日のうちに会い、お酒を飲みながら長く話しました。音楽のことや共通の友人知人のこと、そしてザ・サイレンスのこと。ヤン君が脱退したからベースを弾かないか?って。その頃僕はいくつかのバンドに同時に在籍していて、正直これ以上活動を広げるのは無理だと思っていたので、明確にバンドに加入する、とは回答せず、まずはセッションを…、という感じだったのですが気が付いたらライヴが決まっていました。あれから4年近くが経ち、バンドの中で自分の立ち位置や意味が明確になった今、加入してよかったなと思っています。
自分が参加したことでヘヴィ・ロック路線にシフトした、という話について、確かにある部分では呼び水になったとも思います。サイレンスとは別に参加している(していた)バンドも、僕の加入をきっかけにハード・ロック化した、ということがありました。自分の中にあるロックとはこうであって欲しい、というものを演奏に反映させることで、バンドの色が変わっていくのは興味深いです。ただ、サイレンスの場合は馬頭さん、岡野さん、吉田さんが元々持っていたそれ(ロック)が強靭だったので、僕が入らなかったとしてもそうなるのは時間の問題だったのでは、とも感じます。
ツアーの合間に世間話をしてた時に、吉田さんが「ギターという楽器について、下世話で好きじゃなかったけど、ジミヘンを聞いて、その素晴らしさに開眼した」と言っていたことを付け加えておきます。サイレンスの根幹だと思います。
ゴーストのことは1990年代から名前を知っていたのですが、「Tokyo Flashback」の印象が強かったのでチェンバー的な音のバンド、という程度の認識でした。馬頭さんの名前はダモ鈴木さんのインタビュー等でも見ていましたが、メンバーの皆さんとも面識はなく、唯一ドラムの立岩さんと何度かお会いしたことがある程度でした。
2016年に実際に一緒に演奏することになってからゴーストのアルバムを幾つか聞かせてもらい、非常に自分にフィットする音楽だな、と感じました。それは昔持っていた印象と大きく違う、非常にスケールの大きな音楽だったのだけれど、それと同時に自分が元より好きな音楽、ロックだけでなくフォークや古楽、トラッド、さらには数多のエスニックな音楽等の要素を内包(ミクスチャーではない)していました。
それと比べるとサイレンスはとてもシンプルな音楽でした。僕が加入する前の3枚のアルバムを聴いた際、ハード・ロックではないブリティッシュ・ロック、例えばプロコル・ハルムやトラフィック、そして「プログレ」ではなく「プログレッシヴ・ロック」…、ヴァンダーグラフ・ジェネレーターやソフト・マシーンなどの香りを感じました。ゴーストが拡散していく音楽だったとしたらサイレンスは一点に向かって収斂していく音楽。そんな印象を持ちました。そしてそれは自分にとって率直に「好き」なものだったのです。
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『Electric Meditations』
/ The Silence
2020年8/5リリース
フォーマット:CD
レーベル:MY BEST!
カタログNo.:MYRD141
【Track List】
1. 罪と笑い
2. バタフライ・ブルース
3. 冥土日誌
4. エレクトリック・メディテーションズ
5. インプロヴィゼイション
6. アイム・ア・マン
7. E/A [ボーナス・トラック]
ディスクユニオン
【クレジット】
馬頭將器:ギター、ボーカル
岡野太:ドラムス、ティンパニー
吉田隆一:バリトン・サックス、フルート、クラリネット
山崎怠雅:ベース、ボーカル
録音:近藤祥昭(GOK SOUND) 2019年8月
マスタリング:クーパー・クレイン
写真:船木和倖
[The Silence]
伝説のフリーロック・バンド、Ghost解散後の2015年にそれをより発展するべく、馬頭將器、荻野和夫を中心に、岡野太 (非常階段、Acid Mother’s Temple、 ex Subvert Blaze)、ヤン (Great3, Jan and Naomi)、吉田隆一 (渋さ知らズ, blacksheep)が集結。サイケデリック、スペースロック、フリージャズなど他に類を見ないワン・アンド・オンリーなドリーミーかつカオスでパノラマな世界を深遠なグルーヴで展開する。Sonic Youth, Damon & Naomi, Spiritualizedなど世界中から愛される日本のカルトロック現在進行形。
【ディスコグラフィー】
The Silence(2015/Drag City)
Hark The Silence(2015/Drag City)
Nine Suns, One Morning(2016/Drag City)
A Bunch Of The Silence(2017/diskunion)
Metaphysical Feedback(2019/Drag City)
2020.7.19 20:00
カテゴリ:INTERVIEW タグ:ghost, JAPAN, rock, the silence, 吉田隆一, 山崎怠雅, 岡野太, 馬頭將器