【INTERVIEW】「必然的に、この4人が残った。」 メンバー全員に訊く、それぞれのザ・サイレンス。
だってロック・バンドですからね。カッコを付けるってことはとても大事な事なんですよ(岡野太)
- -:次は、岡野さんに訊きます。
サバート・ブレイズのことは当時、フールズ・メイトの担当編集氏が強力に推薦していて、もちろん、ぼくも聴きました。大阪の奇跡、浪花のクリームとも呼ばれて、とても人気がありましたよね。だから、メンバーの人達は、てっきりハード・ロック一筋なのかと思っていたら、岡野さんが実はオーケストラのティンパニ奏者だと聞いて、ちょっとびっくりしたのが最近の話です。
サバート・ブレイズからサイレンスに至る流れということで言えば、ゴーストよりも、むしろコズミック・インヴェンション(ナウ・サウンド1997/ドラッグ・シティ再発2018)の方がポイントでしょうか。
現在のサイレンスのサウンドが、ヘヴィなロック路線に移行してきている鍵が山崎さんの参加にあるのでは、という意見が出ていますが、そもそも、最初に山崎さんに声をかけたのは岡野さんとのこと。そこには、サイレンスのロック・パートを強化したい意図があった、ということなのでしょうか。 - 岡野太:ティンパニを叩いていたのは学生の頃です。
高校のブラス・バンド部でティンパニを担当していました。大阪のコンクールで3位になるくらいの強豪校で打楽器奏者として随分鍛えられました。将来はティンパニ奏者になる気満々だったのですが左手の指を怪我してしまい断念しました。だから自分が左手をレギュラー・グリップで叩いてるのは好きでやっているのではないんです(笑)。ティンパニのフレンチ・グリップが不可能になったからなんですよ。ドラムも叩いていたのですが、その頃に中学生の頃に聴いていたクリームのアルバムを聴き直して衝撃を受けました。ブラス・バンドやティンパニへの情熱がドラム・セットに替わりました。
吉田君もブラス・バンド出身なので何かと分かり合えるところが多く、その点もサイレンスのサウンドに加味される所が有ると思っています。
1996年頃に馬頭から連絡を貰ってコズミック・インヴンションの母体となるセッションに参加しました。馬頭の他にギターに栗原(道夫)君、ベースはサバートの藤原でした。そのままダモ鈴木氏の日本最初のライブを経てコズミック・インヴェンションを結成しました。その後ゴーストに参加してアメリカ・ツアーに出ました。その後2013年にスペインのサラゴサで再会するまで馬頭とは音信不通でした。で、スペインでバンド結成する話が出て翌2014年にサイレンスを結成しました。
ヤンが辞めると決まった頃にどうしてだか覚えてませんが、たまたま山崎君のfacebookのページでベースを弾いてる動画を見たのです。声を掛けようと思ったのは勿論ベースの演奏を見込んでの事ですが加えて見た目が良かったからかな(笑)。彼なら良いリズム隊が組めそうだと直感しました。だってロック・バンドですからね。カッコを付けるってことはとても大事な事なんですよ。
楽器は練習すればある程度何とかなるかもしれないけど、カッコ良さだけは練習したりキャリア積んでも何とかなるものではないんでね。
現在のサイレンスは一人一人のちょっとしたニュアンスの変化が色彩感に大きく作用するライブ・バンドらしさがあります(吉田隆一)
- -:ペーター・サードロがどれだけ素晴らしい演奏家でも、ジンジャー・ベイカーのかっこ良さはロック・バンドならでは、ということですね!
確かに、山崎さんにはロック・ミュージシャンとしてのグラマラスな華があり、以前、透過性分子の岩田裕成さんからも同様の指摘がなされていたように記憶しています。
山崎さんは歌もとても良く、コーラスを付けるのも上手いから、馬頭さんと一緒にもっと歌ったらいいのに、と思っていました。サイレンスとして、ヴォーカル・パートの強化にもなると思うので、ここは是非とも期待したいところです。
最後に、吉田さんに訊きます。
岡野さんと同じく、ブラス・バンド出身とのことで、経歴を拝見しても、ジャズのバック・ボーンが大きい方のようにお見受けします(http://yoshidaryuichi.com/)。しかし、山崎さんのコメントにもあるように、馬頭さんや岡野さんと同様、強靭なロック魂の持ち主とのことで、先ずはプロフィールから抜けていると思われるその辺りのことから伺いたいと思います。
ジャズのフィールドで活動していた吉田さんが、サイレンスというロック・バンドに参加した経緯と、サイレンスの演奏が当初のジャズ・ロック路線から変貌を遂げてきた中で、管楽器奏者としてのスタンスに変化はなかったのか、吉田さんなりのサイレンス評を交えて、お話いただけないでしょうか。
私見では、今回のアルバムのインプロヴィゼーションには、現代音楽やフリー・ミュージックのエレメンツに加えて、イアン・マクドナルドやメル・コリンズを擁した往時のキング・クリムゾンにも通じるロック・インプロの趣きが強く感じられるのですが。 - 吉田隆一:サイレンスへは旧メンバーの荻野さんの紹介です。ロックやプログレ周辺とのつながり(さほど記録に残ってませんが)はキャリア初期から即興演奏を介して長らくあったので、ロック・バンドへの参加は自然な流れだと思います。
管楽器奏者としてのスタンスの変化という質問ですが、現在はアンサンブルというより「人の声とは異なるヴォーカル」として参加している気分です。旧作で、デヴィッド・ボウイ『★』に対する返答のようなアプローチができたのが大きいです(『★』はロックやポップスにおけるサックスの在り様に新たな意味を与えた作品だと考えてます)。それに手応えがあったので、よりシンプルに、しかし『★』以後という意味合いがある演奏をしたいと考えてます。
そうしたアプローチは、現在のサイレンスの在り様とリンクしています。私は元々「切り詰めた編成」による、それでいて豊かな「色彩感の変化」を感じる音楽が好きです(自分のバンドblacksheepにベースとドラムがいないのもそうした好みが反映されてます)。現在のサイレンスは一人一人のちょっとしたニュアンスの変化が色彩感に大きく作用するライブ・バンドらしさがあります。管楽器の微細な音色の変化が活かせる状態ですね。
「プロフィールから抜けてるロックの部分」と「今回のアルバムでの演奏内容」の話はリンクしています。私は元来、アメリカのジャズ(特にフリージャズ)、欧州の即興演奏の他、とりわけブリティッシュ・ジャズ(及び隣接したロック)を愛好しております。ブリティシュ・ジャズにおける重要人物…、ジョン・サーマンやアラン・スキッドモア、マイク・ウエストブルック、そしてソフトマシーンにおけるエルトン・ディーン、コロシアムにおけるディック・ヘクストール=スミス(重要です!)の影響は大いにあります。
とりわけ影響を受けているのはカンタベリーと英国即興演奏を横断するOgun関連、特にドゥドゥ・プクワナ、クリス・マクレガーらのブルーノーツ、ブラザーフッド・オブ・ブレスです。このあたり、カンタベリーの視座からはジャズ寄りとして語られず、ジャズの視座からは無視されて、ホント、やり切れないのですが…、自分にとって「ロック」とは、そうした名状し難く語りようのない、しかし力強く息づく音楽を指します。
怠雅くんが私の発言「ギターという楽器について、下世話で好きじゃなかったけど、ジミヘンを聴いて、その素晴らしさに開眼した」 を引用しましたが、確かにそこに、私がサイレンスに参加している理由がリンクしているように思います。私は繊細な音が好きです。ジミヘンのギターは恐ろしく繊細で美しく感じました。サイレンスのメンバーは皆、音色の細部にこだわり、色彩感の変化に敏感です。一緒に音を組み上げていく喜びを感じられます(岡野さんの回答にもある、よく話をしているトコでもあります)。
怠雅くんとは以前、「我々にとって音楽活動とは自己表現ではない。今まで聴いてきた大好きな音楽への恩返しであり、そうした音楽から自分たちが受け取った印象を演奏で伝える行為である」という話をしたことがあります。言って見ればそれが上記の回答全てを内包しているのかも知れません。
聞き手・まとめ:市川典夫
『Electric Meditations』
/ The Silence
2020年8/5リリース
フォーマット:CD
レーベル:MY BEST!
カタログNo.:MYRD141
【Track List】
1. 罪と笑い
2. バタフライ・ブルース
3. 冥土日誌
4. エレクトリック・メディテーションズ
5. インプロヴィゼイション
6. アイム・ア・マン
7. E/A [ボーナス・トラック]
ディスクユニオン
【クレジット】
馬頭將器:ギター、ボーカル
岡野太:ドラムス、ティンパニー
吉田隆一:バリトン・サックス、フルート、クラリネット
山崎怠雅:ベース、ボーカル
録音:近藤祥昭(GOK SOUND) 2019年8月
マスタリング:クーパー・クレイン
写真:船木和倖
[The Silence]
伝説のフリーロック・バンド、Ghost解散後の2015年にそれをより発展するべく、馬頭將器、荻野和夫を中心に、岡野太 (非常階段、Acid Mother’s Temple、 ex Subvert Blaze)、ヤン (Great3, Jan and Naomi)、吉田隆一 (渋さ知らズ, blacksheep)が集結。サイケデリック、スペースロック、フリージャズなど他に類を見ないワン・アンド・オンリーなドリーミーかつカオスでパノラマな世界を深遠なグルーヴで展開する。Sonic Youth, Damon & Naomi, Spiritualizedなど世界中から愛される日本のカルトロック現在進行形。
【ディスコグラフィー】
The Silence(2015/Drag City)
Hark The Silence(2015/Drag City)
Nine Suns, One Morning(2016/Drag City)
A Bunch Of The Silence(2017/diskunion)
Metaphysical Feedback(2019/Drag City)
2020.7.19 20:00
カテゴリ:INTERVIEW タグ:ghost, JAPAN, rock, the silence, 吉田隆一, 山崎怠雅, 岡野太, 馬頭將器