【INTERVIEW & REVIEW】gift to her / guitarsisyo (PROGRESSIVE FOrM)

2016年1月に3rdアルバムが配信されたばかりのguitarsisyoだが、早くも4thアルバムが届けられた。従来からリズムトラックに乗せた折り重なるアコースティックギターのアルペジオが印象的な安定した作風を保ち続けているが、今作は淡さを残しながらも音色の多様性やリズムトラックの透明感にも配慮されたトラックが多く収録されている。



1.toou
幾重も重なるギターのアプローチは音響的にも前作とも近い感触を持つが、ややダビーなブレイクビーツがとてもクリアな音色を保っている。外観は前作の延長ともとれる。しかしリズムトラックは今作のオープニングとして新しいアプローチをさりげなく、そして下降する美しいコードと共に深く提示する力強いはじまりかたともとれる。ここでの音響処理は以降のトラックでも随所に埋め込まれているようが気がする。静かだがオープニングにふさわしいトラックだ。

Q1このリズムトラックの音響は前作までの作品と比較してとてもクリアにリズムトラックが押し出された気がします。例えば、トミーゲレロのような要素を一層クリアにしたような印象です。前作から程なくして発表されたアルバムの1曲目としてはとても驚きました。このトラックはいつ頃作られたものなのでしょうか?前作とは明確に区別されているのでしょうか?
guitarsisyo作ったのは多分去年の中頃?だったと思います。基本的に曲作りは、時間があるときに断片断片で作って、あとでまとめる作業をするということが多いので、前作がどうだったから区別するとかそういうことはあまり考えていないです。ちなみに、トミーゲレロという名前くらいしか知らないのです…すみません…。
2.tpgk
冒頭のクリアなピアノのフレーズは絶妙に揺らぐことで、Hip Hop経由のサンプリングカルチャーが透明感を伴って昇華したような印象を残す。電子音を重ねながらトラックは進行するが、時折に挟みこまれるアコースティックギターの叙情的なオブリがECMのレコードのような感触を残す。
3.osk feat. hikyo
続くトラックでは非常にクリアでオンマイクなギターとリバーブに淡く揺らめくhikyoのヴォーカルの重なり具合が心地よい。ここでも繰り返されるフレーズは各所に揺らぎが織り込まれている。そこにリズムボックスの端正なノートが挿入されることでフォークトロニカとHip
Hopが入り混じる奥行きある響きを作り出している。

Q2この揺らぎと端正なリズムボックスのバランスがとても好きです。このトラック、どのパーツもナチュラルメイクというのか、丁寧な音響とナチュラルさが同居していて素晴らしいと思います。例えばヴォーカルRECの際には、例えば歌い方や言葉の散らばし方などあらかじめイメージを共有されていたのでしょうか?
guitarsisyo歌については、すべてお任せです(笑)。お互い離れたところに住んでいるので、カラオケ状態の音源をお渡しして、歌トラックをスタジオで録ってもらい、歌ファイルだけを頂いて、こちらですべてエフェクト処理、ミックスをしました。個人的にhikyoさんの声質が好きで、多分自分の曲に合うだろうなとは以前から思っていたので、私的には想定内(笑)の出来です。
4.dbnrm
細やかに配置されたリズムトラックとサンプリング音が印象的な冒頭部分にギターのアルペジが重なる瞬間、リズムトラックがミュートされギターを中心としたオーガニックな音が目の前に広がる瞬間、ピアノとギターが淡く交差する瞬間、シーンが切り替わるごとにそれぞれの美しさが刻まれているとても繊細な楽曲。どの瞬間も音響がとても印象に残る作りになっている。
5.sra
電子音が静かにコードを刻み、ディレイによってリズムが提示され、ギターはゆっくりと端正なアルペジオを刻む。シンプルなコード進行が物語を進めていく。中間部で入れ替わる細かな電子音の美しさに続くリズムトラックは意外にも高速感を持ったキック。シリアスさに寄り過ぎず穏やかなユーモアさえ感じさせる余裕のある表現に成功している。

Q3このトラックはシーンの切り替えが見事だと思います。特に後半に向けてのJUKEの倍速感覚とも違う、ダビーな音楽でもなく、なんとも予想外の展開なのですが、ある種の余裕とユーモアを感じてしまいました。そのような感じ取り方はどんなものでしょうか?
guitarsisyo私的には、あまり凝った展開ではないと思っています。多分ですが、ポストロックとかマスロックとか言われるジャンルの方々の曲を聴いていたからそういう影響からもしれないですね。そういう中だと「ベタ」かなと感じているくらいです。
6.teks
前曲から程なくつながるが、ここでは再び端正なブレイクビーツが再現されている。リバーブに暖められたスネアと透明感ある電子音に寄り添うギターのアルペジオ。静かに7thを入れ込むアプローチや、中間部以降で強調され繰り返される転調、音の動きがとても絵画的なトラックだ。
7.sbe
複雑な和声が示された前曲との対比でシンプルなコード進行が引き立つこのトラックでは、ピアノにMarei
Suyamaを迎えた淡いインタープレイが印象的だ。ピアノを覆うどのパートも大きく出すぎることなく、シンプルなコード進行を印象付けるべく一体となるようなアレンジと音の分離具合の対比がとても美しい。美しさへの配慮の多いトラックだ。

Q4冒頭にも登場する管楽器の音色からもっとvaporwave的な展開を予想したのですが、むしろ自由に広がるピアノや前曲との対比でのシンプルなコード進行が印象的でした。曲の並び方がとても効果的だと思います。(が、曲順が見えてきたのは制作のどの段階あたりなのでしょうか。こうした繊細な並べ方というのは相当時間を掛けて練った構成なのかなと想像しました。そのあたりのお話を伺えたらと思いまして質問させて頂きました)
guitarsisyo曲順については、レーベルの方と相談して決めました。全曲揃ってからですね。今回のアルバムは今までだったら、全て自分で考えないといけないところを客観的に見てくださる方がいたので、大変助かりました。
8.cbmh
リードトラック的な明快さを持ちつつ、ギターが旋律とアルペジオの中間点のようなフレーズを奏でている。複雑さと明快さを併せ持つトラックだが、端正なバランスがそれらを両立させている。ギターの揺らぎはかつてのミニマルミュージックも連想させる。あらゆる要素が織り込まれている。
9.ansl
朴訥なピアノのブロックコードを支えるブレイクビーツ。美しい転調をはさむコード進行、ギター、電子音、オブリとリズムトラック、表情の移り変わりがとても自然で、楽曲の展開を意識せず、つい聴きいってしまう。中間部以降徐々に音が集まり集中力を増す。このゆったりした淡い変化が美しい。
10.slw
朴訥としたピアノとギター、楽曲は静かにレイドバックしたブレイクビーツに乗せて、美しくもシンプルな進行の中での物語のシーンを切り開いていく。ここでも端正で美しい世界はキープされているが、時折みせるギターのオブリをとらえる音響が美しい。ピアノの細かな打鍵、ゆったりしたフレーズ、旋律以外の要素も一体となって淡い世界観を醸し出している。
11.life is dictionary
最後に収録されたこの曲では、淡さはリバーブの中に残しつつ、ダイレクトな音響のギターがそれを引き立てる。陰影を帯びたコードや、静謐なブレイク、サイン波を引き伸ばしたような低音の余韻、どのパーツも自らの短いフレーズをもっており、それらが揺らぎながら寄せては分離するサイクルに包まれていく。soejima
takumaによるミックスがラジカルな側面と叙情的な背景を同居させることに成功している。とても美しい。

Q5soejima takumaさんとの音楽的な相性はとても良いと感じました。シリアスさやアーティスティックな側面が時折ユーモアでうまく包まれていることがあったり、とてもラジカルな部分が時としてむき出しになっていたり。。ミックスによって変わった部分、変わらない部分というのはありますか?
guitarsisyo元々は、ギターとエレピのかなりシンプルなものだったのですが、soejimaさんがピアノを足してくれたり、ミックスしてくれたことで最後の曲に相応しい感じになったかな?と思います。
Q6どうしても伺いたいと思っていたことがありました。それは不思議な曲のタイトルについてなのですが、、逆に最後のトラックだけは明確な単語になっていますね。そして”dictionary”という言葉。前作までのタイトルも含めてとてもdictionary的だなという集約されたイメージをこのトラックに求めてしまうのですが。。(が、そんな深読みはアリでしょか)
guitarsisyoタイトルは付けるのが苦手なのと、dawのファイル名も製作開始年月日なんですよね。で、尊敬する宮内優里さんの曲タイトルも結構適当だったので(笑)、「あ、もうこれでいいや。」という感じで付けています。一応、ある単語の頭文字のアルファベットを取っているんですが、思い付きでつけているので殆ど覚えていません(笑)。
最後の曲だけ明確な単語なのは、昔、音楽的にかなり影響を受けた人とユニットを組んでいたことがあって、そのときのユニット名なんです。もうその人とは音信不通で今どこで何をしているかも分かりませんが、もしこれを見たら思い出して頂ければありがたいなと。なので、楽曲については全く関係無いですね(笑)。
Q7最後に、このアルバムに込めた「家族への想い」というのはどういったものなのでしょうか。(私は、そこにある種のメランコリーと、自我っていうのでしょうか、、そういうものが縦軸、横軸で交錯する、、とても複雑な、肉親ゆえの、、的な想いを感じてしまいましたが、、そのようなものなのでしょうか)
guitarsisyoあんまり深い意味は無いですが、僕のように嫁や子どもがいて、音楽で生業を立てていない人が、音楽活動を続けるのって意外と難しいのかな?って思います。それが出来るっていうのは、やっぱり家族が理解して許してくれているからだと思うんですよね。そこに対する感謝という意味でこういうアルバムタイトルにしました。ま、結局、楽曲には何の関係も無いですね(笑)。
そういう意味から言うと、次のアルバムタイトルは「gift to her vol.2」とかになりますが、それは避けます(笑)。
基本的にはこれまで通り、不思議な曲名と美しいアコースティックギターが織りなす世界観はしっかりと提示されているが、多様性がその世界をさらに押し広げることに成功しているのではないかと感じる。「家族への想い」をタイトルに込めたという本作は、家族故のメランコリーを持った陰影を残しつつ、自己の透明感はキープする。そういったタペストリーを連想させる折り重なった世界を幾重にも提示してくれる作品に仕上がった。


インタビュー 30smallflowers(@30smallflowers)



gift-to-her
『gift to her』/ guitarsisyo
2016年7/17リリース
フォーマット:CD
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
カタログNo.:PFCD59
価格:¥2,000(税抜)
【Track List】
01. toou
02. tpgk
03. osk feat. hikyo
04. dbnrm
05. sra
06. teks
07. sbe
08. cbmh
09. ansl
10. slw
11. life is dictionary
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All Tracks Written, Produced & Mixed by guitarsisyo in Japan
Except:
M2 Vocal by hikyo, Recorded by CatooO NO asoviva
M5 & 11 Additional Production & Mix by soejima takuma
M7 Piano by Marei Suyama
Mastered by Yoshio Machida
Model by mirei
Artwork by rieko w, guitarsisyo
Design & Layout by nik
Thanks to: bit, horse ride park, sexy chocolates, selvasupina, CatooO, NO asoviva, My Family & All Friends

2016.7.26 21:00

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