【REVIEW】ゾウさんが殺す / かろうじて人間
Micheやソロ名義でネオクラシカルなアンビエント作品を多く残している宮田涼介がハロギ(Gt & Vo)、u(Ba) 、鮭(Ds)と共に結成したバンドがこの、かろうじて人間 である。本日3/2より全国流通を開始する1st mini album『ゾウさんが殺す』はバンドとして最初の作品だが、収録された8曲はどれもシンプルでストレートな音を積み重ねてはいるが、繊細なリズムが印象的な曲ばかりだ。
1.怪獣
2本のギターが奏でる断片的だが美しい和声、断片的な短いフレーズとの折重なり方がとても美しいメロディーで冒頭から引き込まれる。ブレイクを変拍子で織り込んだ上で、ブリッジで再び拍子を変える。サビではタムがリズムを積み重ね、さらに間奏は5拍子、7拍子としだいに拍を増やしていく。ギターソロはカオスが入り混じり、そのままどこにも帰結せずに楽曲が終わる。ある種の枠組みから解放される一方で、素晴らしい構成力を持っている。圧倒される仕上がりだ。
2.横浜よこよこ
横浜で撮影されたPVがすでに公開されているが、極めて日常的な景色がカオスと同居する映像はこのバンドの音作りや歌詞にもうまくリンクしている。力強いがやはり断片的な短いフレーズでまとめられた5拍子のオープニングから始まり、ブリッジは6/8拍子が織り込まれている。間奏を経た中盤のカオティックでレコメン系の流れを連想させるメロディーがとてもピュアで、叙情的な言葉が散りばめられた歌詞とともに印象的なシーンの切り替えに成功している。バンドの疾走感をつなぐエンディングは突然に終止符を打って楽曲を終える。
3.高円寺、吉祥寺、深大寺
シンプルな3コードを軸にしたシンプルなリズムとメロディーだが、随所にベースが奏でるメロディーラインや、ギターのカッティングで、粗さを打ち出しながらも細かくシーンの切り替えを配慮されたアレンジが印象的だ。間奏のブレイクを挟んだ転調はとても美しい。中盤のメロディーラインとユニゾンになるギター、あるいはメロディーの後ろでブレイクを刻むアレンジ等、USインディーの流れも感じるとても美しくも重要なトラックだと感じる。
4.失意のふち
マイナーコードが支配する楽想は冒頭3曲から若干趣を変える。サビ前のブリッジから徐々に複雑化するリズムはハードプログレのようでもあり、一方でいわゆるオルタナ・マナーも踏襲した仕上がりになっている。ファルセットやシャウト、明確なメロディーをもったギターソロ、楽曲の進行に合わせてしっかりと切り分けたアレンジは粗い音像の中でひとつひとつが丁寧に作られていているように感じる。
5.鮟鱇の骨まで凍てて
冒頭一瞬の音響からソロで宮田涼介のアンビエントなアプローチも感じつつ、8ビートのシンプルなリズムトラックが深くエコーに包まれていることも本来であればとくに驚くアプローチではないがこのアルバムの中ではむしろ驚きをもって聴いてしまった。サビは折り重なるLo-Fiコーラスのアプローチが耳に残る。それはリズムトラックの音響と対比するとまったくデッドでダイレクトなものであるためにコードを補強する役割にも大いに貢献している。
6.イイクンマン
3連のシャッフルでシンプルなストロークのギター、ルートを刻むベース、リズムを守るドラムから始まり、5拍子のサビ、あるいはアルペジオを高音で刻むベース、MC、演奏力をもっとも発揮しているトラックなのではないかと思う。時折ルートを通らないベースラインが印象的なフックになっている。終盤のブレイクをはさんだ転調はとても美しく、大円団といった趣きのエンディングでは最後にバンド名にも含みをもたせた歌詞が登場する。
7.Rickenbacker360
ハードシャッフルの中で詰め込まれた言葉の断片を強調する静寂のブレイク、メジャーコードとマイナーコードが入れ替わり登場することで調性をあいまいなまま楽曲は進んで行く。中盤でメジャーコードを全面に押し出す短いフレーズが登場してはじめて、それまで覆っていたコードの浮遊感に改めて気づく。ここまでバンドサウンドをダイレクトに響かせているが意外にもこの曲はフェイドアウトで終わる。
8.ひとりになったり、ふたりになったり
フェイドアウトに続くアルバム最後の曲は。ギターとベースが折り重なるアルペジオに優しく歌われるヴォーカルで静かに始まり、間奏を経てタイトなベースラインとドラムが同じメロディーをまったく異なるアプローチで演奏するアレンジが見事。極端なまでにメロディックなギターソロをはさんで最後はアンビエンスを多く残したギターで静かに終える。
多くの1stアルバムはあらゆる要素が織り込まれている。このアルバムもまさにそういった作りになっている。シンプルなメロディーを軸にしながら持ち込まれたあらゆる音楽がダイレクトに入り混じる。新しくもあり、これまでのあらゆる音楽の積み重ねでもあり、聴きどころの多い作品に仕上がった。
『ゾウさんが殺す』/ かろうじて人間
価格:¥1,500
【Tracking List】
1.怪獣
2.横浜よこよこ
3.高円寺、吉祥寺、深大寺
4.失意のふち
5.鮟鱇の骨まで凍てて
6.イイクンマン
7.Rickenbacker360
8.ひとりになったり、ふたりになったり
Tower Records
テキスト:30smallflowers(@30smallflowers)
2016.3.2 2:27
カテゴリ:REVIEW タグ:alternative, JAPAN, かろうじて人間, 宮田涼介
関連記事
-
【NEWS】シロメ(DRUGPAPA)ソロ名義の活動を本格化 6ヶ月連続リリース企画の第1弾「Modern Lovers Death」配信開始 & MV公開
-
【NEWS】BANNY BUGS 森(どんぐりず)を客演にむかえたニューシングル「WHEN U LOVED ME」11/29に配信リリース決定
-
【NEWS】sophisticated silence 朝の風景からインスパイア受けた新曲「Quiet Morning」Idiot Pop Recordsより配信開始
-
【NEWS】シティヒップホップ・バンドNelko miidaを迎えたシングル「Fade」11/27に配信開始 & リリックビデオのティーザー公開