【REVIEW】吉田ヨウヘイgroup 『paradise lost, it begins』
クラシックの素養を持つメンバーが居ながらも、定型を崩すことで自由を獲得していったドイツのバンドCANは、後にPublic Image LtdやRADIOHEADを始め多くのポストパンク、オルタナティヴ・バンド達に影響を与えた。
対して、吉田ヨウヘイgroupはロック以外の音楽からの影響を取り入れながらも、実はポップソングとしての制限、形式を絶えず意識しているという。
「このバンドでは、歌もののロック、ギターが中心になって作られてきたポップス(仮にギターが入ってなかったとしても、そういう質感のもの)にこだわって音楽を作ろうと思っています。歌があるとか、分かりやすいメロディーがあるとか、サビがあるとか、ある程度の短さであるとか、そういった普通の形式は守って、その中で最大限自由を獲得することを目指しています。
音楽をインストにするとか、プログレッシヴで複雑にするという方向もあると思うんですが、音楽をそのように変化させて作ることは進化ではなく全く別の作業だと思っています。
『Smart Citizen』も、これから作る作品でも、ある程度普通の形式のものにこだわって、その中で光るような素材をいろいろな音楽から探すというつもりで作ると思います。まっさらなところから新しいものを目指すというより、更新していくことを目指すといったほうが自分の感覚には近いです。そしてそれを聴いた人が、新しいものだと感じてくれたら嬉しいなと思っています。」
セカンドアルバム 『Smart Citizen』リリース時に海外メディアbeehypeのインタビューに応じて、吉田は上記のように語ってくれた。
続くサードアルバム『paradise lost, it begins』は前作と比べてサウンドの輪郭がより明確になった。前作が思春期の思い出だとしたら今作は青年期の物語を思わせる。リスナーそれぞれの個人的な思い出につながって、浄化するような感覚。
歌詞だけを切り取っても素晴らしく、しかし感想を述べようとすると決して簡単には言えない。曲の構造も、様々な引き出し、バックグラウンドがあって、かつ一聴あっさり聴けるポップソングになっている。再読、再聴に耐え、後世に残る作品だと思う。
以下に掲載するのはbeehypeでのサードアルバム『paradise lost, it begins』リリース時の吉田ヨウヘイのインタビューだ。
Q「 間違って欲しくない」という曲の主題はなんでしょう?
「間違って欲しくない」
A
フラれてしまったばかりの元恋人に向けて歌う、という形で書きました。ただ、こういうパーソナルなことを歌としてパブリックに出すと、いろいろな意味にとれるようになると思います。具体的にあなたが何に当たるのかは自分でも考えないようにしましたが、外向きに出すことによる効果は意識して書きました。
Q このアルバムを通して、歌詞で何を表現していますか?
A
こういうことは自分の人生にもあったかもな、とか、この話は自分のことなんじゃないか、とか、この感情は自分だけが分かるものだ、といった受け取り方を、なるべく多くの人にしてほしいと思って書きました。パーソナルであるがゆえに、広く理解されるようなことを表現したいと思っています。
Q これらの曲を説明お願いできますか。
A
「ユー・エフ・オー」
ユー・エフ・オーはシルヴィア・ストリップリンの曲のリズムや構造が面白いと思って真似しました。拍子が普通の4拍子だったり、4+4+2の10拍子に変わったりしながら、違う拍子の上でも同じフレーズを使うことでそういう変化に気づかせないところが面白いなと思いました。メロディーはずっと変わり続けるので、それと同じように自分達もメロディーを変えるようにしました。
「サバービア」
Ground Zeroがビクトル・ハラの「平和に生きる権利」をカヴァーしてるヴァージョンがあり、それに影響を受けてメインのテーマを作りました。ドラムの3拍子は最近のジャズで聴いた高速なシャッフルのパターンを使っています。
「Music,you all」
アコースティックギターのストロークを、ちょっと遠目から録音して空気感を入れる、というサウンドが好きなので、そういった音質になるように工夫した曲です。アニマルコレクティブのアコギの音が好きなので、そういう感じにしたいなと思って作りました。
Q 日本式の家で録音したのは興味深いですがどういった経緯で?
A
今回のアルバムの録音場所は、メンバーの親戚の家が空き家になっていて、大きな音をだしても大丈夫なので、そこにエンジニアの方に来てもらって録音しました。
Q 複雑なアレンジに対してメロディーは親しみやすいです。その意図は?
A
自分の感覚では、細野さん、ユーミン、くるりなどに通じるメロディーの流れが日本にはあると思っていて、メロディーについては常にそういった影響を反映したものにしたいと考えています。このタイプのメロディーは、下にどのようなアレンジがきたとしても強く響く、逆に言えば、どんなスタイルのアレンジも吸収して一定の質感のポップスに聴かせる力があると思っています。ある種のメロディーを作り続けたい、という意図は強くあるので、このように聴いていただけると嬉しいです。
Q このアルバムを聴くと、深さ、幅の広さ、テンポのバリエーションから「悠久」という言葉が浮かびます。先日、細野晴臣のコンサートに行きましたが、彼は「小さい音で大きい音を表現すべきだ。しかし多くのミュージシャンはずっと大きな音を出す」と言いました。きっと彼はあなた方の音楽を気に入るのでは。
A
僕らはライブは結構音の大きいほうかなと思うんですが、細野さんの発言がそういうことではないことを指していて、それに僕らの音楽が当てはまるとしたら嬉しいです。 でも当てはまらないような気がします(笑)。
インタビューは以上。
吉田はこんな言葉で返しているが、私は吉田ヨウヘイgroupの繰り出す爆発的な演奏のなかに、孤独なサックス・プレイヤーの幻影を見た。無駄に音圧が凄まじいだけの音は聴いていて耳が疲れるが、彼らはそうではない。
弾き語りをしているのに、後ろにバンドの幻影を見せるようなミュージシャン、あるいはバンドで複雑な演奏をしているのに、ソロ・ミュージシャンを聴いているかのように感じさせる人達が私は好きだ。吉田たちの実践していることは、まさにそういうことだと思う。
なお、筆者は2015年末に、最近彼が聴いている音楽についても質問した。その内容はこちらに掲載されている。
取材・本文 森豊和(@Toyokazu_Mori) beehype 日本特派員
2016.2.21 22:10
カテゴリ:REVIEW タグ:JAPAN, 吉田ヨウヘイgroup