【INTERVIEW】HeatMiser『When I’m drifting in the morning』
2017年夏、HeatMiserがリリースした2ndアルバム『When I’m drifting in the morning』。このアルバムに収録された楽曲たちが持つローファイかつドリーミーな質感は、ジュリアン・ベイカーやフィービー・ブリッジャーズといった同世代のアメリカのミュージシャンと共通するものであり、一方で日本のシーンにおいてはある種の異質さを感じざるを得ない。
早くから海外での活動も積極的に行ってきたHeatMiser=礒尾奈加子は、どのような過程を経てこのアルバムの制作に辿り着いたのか。アルバムのリリースライブを間近に控えた10月半ば、彼女に話を訊いた。
日本より海外でライブをしたほうが聴いてもらえるだろうなという自信があったのと、とにかく自分から海外に行かないと始まらないだろうなと(HeatMiser)
- –:最新アルバム『When I’m drifting in the morning』について伺う前に、礒尾さんのバックグラウンドについて少し訊かせてください。小学生の頃からビートルズやニール・ヤングを聴いていたそうですけど、そういった洋楽のロックを聴き始めたきっかけは何だったんでしょうか?
- HeatMiser:これが最初というのは覚えていなくて、気がついたら聴いていたという感じなんですよ。J-POPを経由して聴き始めたわけでもなくて、両親が洋学好きだったってわけでもないので、実際のところよくわからないんです。小学校の高学年くらいから不登校であまり学校に行ってなかったので、その頃からはもう自分で楽器を演奏するようになりました。
- –:最初はギターですか?
- HeatMiser:ギター以外にも、ドラム・ベース・ピアノと全部やっていました。ピアノ以外は全部独学で、ドラムはスタジオに行って叩いてましたね。バンドがやりたいと思っても友達があまりいなかったので、仕方なく全部自分で演奏するという感じで。当時の私にはビートルズはちょっと難しかったので、ニルヴァーナなどをコピーしていました。
- –:「HeatMiser」と名乗って活動し始めたのもその頃ですか?これはもちろん、エリオット・スミスがかつて在籍していたバンド名から取ったものですよね?
- HeatMiser:そうですね、13歳か14歳の頃からだと思います。名前は何でも良かったんですけど、彼に憧れていたし、自分なりに彼の意思を引き継いでいきたいと思って名乗り始めました。ちょうどその頃にオーストラリアに1年ちょっと留学していたんです。
- –:留学する時点では、英語は話せたんですか?
- HeatMiser:英語は全く喋れなかったですけど、それは大した問題じゃなかったです。現地では、どちらかというと家にこもって音楽を聴いている時間が長かったんですが、面白いなと思ったのはバスキング(路上で音楽を演奏し投げ銭をもらう習慣のこと)です。私が滞在していたゴールド・コーストに限らず、バスキングがとにかく盛んで、現地の人だけじゃなくアメリカとかヨーロッパからやってくる人もいましたし、それで生活していて家を買ったという人もいました。本当に生活の一部になっている感じですね。バンドもいれば一人で演奏している人もいて、一人で演奏している人はドラムマシンを使ったりしていて、一人でもこれだけ演奏できるんだというのは大きな発見でした。
- –:初めて自分でバスキングをやったのもその頃ですか?
- HeatMiser:そうですね。当時の私は知らなかったんですけど、本当は講習を受けてライセンスを取らなきゃいけないらしいんです。あと、演奏をする場所の縄張りみたいなものもあって、このストリートは人通りが多いからオーディションに受かった人しか演奏ができないとかそういう決まりもあって。でも、そんなこと知らなかったので、適当な場所でやってたんですけど、特に何かを言われることもなかったんですよね。
- –:日本に帰国して大学生になってから、ファーストアルバム「at dawn」を制作しますが、そのリリース後に海外ツアーに出ていますよね。海外ツアーを計画したきっかけは何だったんでしょうか? 各地のストリートでバスキングもしたそうですし、何よりツアーの大部分を自分でプランニングするのはとても大変なことじゃないですか?
- HeatMiser:自分の音楽の特性として、日本より海外でライブをしたほうが聴いてもらえるだろうなという自信があったのと、とにかく自分から海外に行かないと始まらないだろうなと考えていました。中国と台湾、ロンドンに関しては、現地のコーディネーターを見つけたのでその人たちにブッキングをお願いしたんですけど、あとは自分で回りながらライブハウスに連絡したり、オープンマイクのようなイベントに出たり、あとはバーとかカフェにその日に行って演奏したりとか様々でした。
- –:初めて訪れる土地ばかりだったと思いますが、各地での反応はいかがでしたか
- HeatMiser:中国だと重慶とか西安とか奥のほうまで行ったんですけど、現地のサブカルチャーが好きな子たちは色んな音楽を聴いていたし、私の音楽を理解してくれる人が多かったですね。武漢では、現地で一番大きいライブハウスでワンマンライブだったんです。そこでも100人以上はお客さんが見にきてくれたので、こういう音楽が好きな人はいるところにはいるんだなと。現地のバンドマンには、中国のインディーズのバンドでもこんなに細かくツアーを回らないよって驚かれましたけどね(笑)。ロンドンでは現地のドリームポップバンドのリリースライブに出演したりしたので、良いフィードバックも得られましたし、物販もよく売れました。
前作が『at dawn』なので「夜明け」がテーマで、今回が「朝」。次に出すアルバムは、「昼」「ミッドデイ」みたいなイメージに(HeatMiser)
- –:今作に収録されている曲はそのツアー中に書かれたものですよね。テューペロとかハックニーといった地名も歌詞の中に出てきて、各地での具体的な体験が反映されているように思います。
- HeatMiser:ツアーで訪れた各地で思ったこと、感じたことを書いています。ツアーを通して書いた曲たちの中から、今回のアルバムのテーマが「朝」だったので、朝に聴きたいと思う曲を選びました。前作が『at dawn』なので「夜明け」がテーマで、今回が「朝」。次に出すアルバムは、「昼」「ミッドデイ」みたいなイメージにしようかと思ってます。作品毎に少しずつ時間が進んでいくようなイメージで。
- –:楽曲毎に様々なバンド編成で演奏されていますが、そこはどういった基準で決めているのでしょうか?例えば、タイトル曲の「When I’m drifting in the morning」でのテルミンの導入は幻想的な印象をもたらしていると思いますし、ドアーズのカバー曲「Indian Summer」でのウッドベースを入れた大胆なアレンジは斬新なものに聴こえます。
- HeatMiser:基本的には私が編成を考えて、こういう風にしたいというイメージをメンバーに伝えていますが、それぞれのフレージングなどは任せてます。曲が出来た時に、この曲のドラムは誰に叩いてほしいというようなイメージがあるんです。音の質感だったり叩き方の癖とかですね。今回はドラマーが2人参加してくれています。今作の制作に参加してくれているメンバーは、全員同じ大学なんです。
- –:レコーディングもそうですが、ライブ自体も弾き語りであったりバンド編成であったり、非常に多彩なパターンを持っていますよね。現在、ライブ演奏する形態というのはどのくらいのパターンあるのでしょうか?
- HeatMiser:それはライブによって変えていて、女性メンバーのみで演奏するガールズバンドのスタイルだったり、自分の弾き語りとサックスやピアノ、テルミンとのデュオで演奏する時もあります。私の理想としては常にフルバンドでやれたらと思いますけど、みんなフルタイムのミュージシャンではなくて就職活動などをしながらやっているので、スケジュールが合うメンバーでという部分もあります。見に来てくれるお客さんにとっても、毎回違うものが見られるのがいいだろうなと。
- –:先ほども話に出ましたが、今回、アルバムにもテルミンを導入しているじゃないですか。テルミンを入れようと思ったきっかけって何なんでしょうか?
- HeatMiser:テルミンを演奏してくれたGenくんがいきなり買って持ってきたんですよ。それで、レコーディングでやってもらえる?って。
- –:アルバムの最後がテルミンのノイズで終わるじゃないですか。それによって、作品全体の印象が、フォークとかアシッドフォークという部分だけじゃなくて、シューゲイザーっぽいモードや、ノイズの側面も際立っていると思います。これは具体的な狙いがあってのことなのでしょうか?あるいは、礒尾さんのマイブームだったりしますか?
- HeatMiser:単純に面白いなと思ったんですよね。色々なものが入ってると面白いし、ノイズ音楽も好きですし。あと、テルミンに対してちょっとアカデミックなイメージを持っていて、それでノイズを発するようなやり方がいいなと思ったんです。その前の曲「Rena」がポップなメロディーの曲なので、それを聴き終わったあとに「なんだこれは?」と。でも、それを超えないと終わらない。
- –:そういう点も含めて、今作をCD以外にレコードでもリリースするアイディアはいいですよね。レコードの聴き方にすごく合っていると思います。
- HeatMiser:本当は、CD・レコード・カセットテープという3フォーマットで出したかったんですけど、自主制作なので大変で、カセットテープは出せていないんですけど、レコードはずっと出したいと思っていたのでリリースできて良かったです。
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メルツバウの秋田さんは、海外に拠点を移して活動して、そこで評価を得ている、私のモデルになる人
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2017.12.8 20:48