【REVIEW】DATS『Digital Analog Translation System』

杉本亘、大井一彌、伊原卓哉、早川知輝の4人組バンドとして2013年に結成されたDATS。じつは2015年にUKプロジェクトから『DIVE』を発表し、音楽シーンへとデビューしていたわけだが、その話を知っている人は多くはないとおもう。収録曲となっている「Candy Girl」は、00年代のポストパンク・リバイバル好きにはたまらない、クールなファンクネスが宿ったバンドサウンドを持っていたバンドだったのをよく覚えていた。



『DIVE』発売と前後して、2015年には杉本と大井の2人に、池貝峻、篠田ミル、山田健人ら5人で結成されたyahyelが活動を開始している。両バンドの中心人物である杉本はもちろん、2つのバンドでドラムスを担当している大井も同じく、別々のバンドでの活動を続けてきた。

その後、彼らはRALLYE LABELより『Application』を2017年に発表、もともと持っていたクールさを、デジタルなサウンドにも憑依させた1枚となった。

主軸となるのは、ワブルベースやサウンドの鳴りにこだわったダウンテンポな楽曲なのだが、当時は流行る直前だったトラップ系ヒップホップでよく絡んでくる3連符のフロウなどもあり、彼らのディープな音楽好きぶりが断片的に伝わってくる1枚でもあった。



だが、そのサウンドスケープだけでは、やはり海外の真似ごとに捉えられかねない可能性もあった。すこしだけ話は逸れるが、SpotifyやApple Musicが日本に広がり始めたこと、いやもっと昔でもいいだろう、Youtubeが日本に広がったときからでもいい、『日本が海外の音楽そのものにより近しくなった』という話筋がある。彼はまさにそのドツボにハマりそうになっていた。

つまり、『Application』で示したDATSのサウンドスケープに、もう一つなにか色合いを加えなければ、日本人らしい音楽として、そしてDATSの音楽としても映えるようにはならなかった、いまから振り返ればそのように言ってもいいのかもしれない。



そこから1年の時間は、彼らDATSの状況を大きく変えた。yahyelとの活動も相まって、注目度は一気に上昇し、止まることのないライブ漬けの日々が始まったのだ。そうした活躍もあって、本作『Digital Analog Translation System』で彼らはメジャーデビューを果たすことになったわけだ。

DATSのメジャーデビュー作『Digital Analog Translation System』は、正しくディープな作品となった。UKガラージに端を発したイギリスのクラブミュージック・・・グライムやダブステップ、その影響下から生まれたJames Blake、そしてDisclosure、そういったDNAをDATSの最新作から見つけるのは非常にたやすい。

「Memory」「404」でのワブルベース/サブベース/シンセベースやシンセサイザーの鳴らし方やマナーから、その影響を強く感じさせてくれる。ボーカルへのエコーや軽い歪みの処理、中途に出てくるボーカルの節回しにいたるまで、彼らの音楽的集積が詰め込まれた2曲であり、聞き手のなかでつよい魅力を放っていく。

「Interlude」を終えたあとの5曲もまた、それぞれに彼らの魅力を一つ一つ摘みあげ、丁寧に花を咲かせた歌曲だ。

ワウペダルを踏み込んでカッティングされるギターリフから、一気にベース/ドラムサウンドが入ってアンサンブルが奏でられていく「JAM」は、彼らがバンドマンだったことを強く思い出させてくれる。

「TOKYO」では、アコースティックギターと今作でも一際やさしく打突されたバスドラムが軸になって、ゆるやかなムードを演出しつつも、「人混みで 肩を寄せ 何かに怯えるいくつもの明日が当たり前に来る sometimes I wonder こんなグレーなストーリー一体どこの誰が望んでいる?」と彼らなりのブルースを唄ってみせるのだ。



メジャーデビューし、これまでよりも多くの人に知ってもらえるチャンスを得た彼らは、自身らの音楽性を明確に提示しようとチャレンジした。つまり今作は、自分で自分を振り返る、自省を伴った1枚なのだといえる。

最初期作品『Dive』期のバンドグルーヴ、前作でみえた雑多な音楽的趣味、彼らの根幹にあるクールネス、それぞれをより深くつなぎ合わせたことで、彼らの音楽は一段と洗練されたように思える。彼らがファッションやアートといった分野に顔を出そうと試みているなかで、一皮むけた洗練さを手に入れたことは、何よりも得難い成長なのだろう。

今作のタイトル『Digital Analog Translation System』は、今作を作る際にとっさにでてきたものだったと彼らは語ってはいるが、彼らのバイオグラフィをうまく汲み取った総決算の1枚にふさわしいといえる。

2018.8.25 11:51

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