【REVIEW】水と音出し(迷われレコード) / Toramaru

水と音出し

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StudioOneを使ったシンプルな制作環境で、時間をかけてゆっくりと電子音を積み重ねていくToramaruが、自身のSoundcloudでも発表しているトラックを含めたアンビエント曲集を迷われレコードから配信した。作品は、2014年の”SYMPATHY”の延長と言えるもので、前作同様にすっきりとした音作りが印象的な電子音楽としてまとめられている。

1.雨粒
タイトルから連想される通りの情景描写が、粒子のような細かな電子音から静かにはじまる。雨傘を打つ水滴を思わせる中低音の連鎖が心地よい。中盤からのきらびやかな音域が物語の奥行きをもたらす。大きな展開は無いが、静かにフェイドアウトする中低音と最後に残る金属的な響きのコントラストが余韻を印象づける。

2.上流
前作”SYMPATHY”では、INOSENT LIFEというタイトルで、やはり2曲目に配置されていた曲だが、本作の配信に伴ってタイトルをあらためている。フィールドレコーディングされた自然音とアルペジエイターの合間を縫って楽曲の旋律が示されるが、繰り返されるアルペジオに多様なコードをもたらす効果がとても音楽なアプローチだ。

3.水海
静謐なパッドに包まれたサイン波と、断続的に示されるリズムトラック。一つひとつのパーツはとても淡白な作りだが、それらが組み合わさる事で繊細に表情を変えていく。中盤、Dubstepのキックから始まるリズムトラックに合わせて開けていくコード感覚がとても美しい。

4.霊峰
リズムトラックのループは出過ぎない程度の力強さをキープしている。和音階的なパッドが奏でる旋律と、ややDubstepに近いが控えめなキックとサンプリングを組み合わせたアプローチの組み合わせが立体的な音を作り出している。パーカッションの抜き差しによって和音階を上品に支える後半に向かう展開が美しい。

5.富士
静かな低音ノイズは風の音を連想させる。タイトルから、それは山肌に吹きつける、あるいはそれを自身の耳でとらえる音像を思わせる。極めてアブストラクトに大きな展開を見せず、風の音がどこまでも広がっていく。トラックは突然の幕切れによって終わるが、このつながりは本作の最も印象的な瞬間だ。

6.頂上
前曲からのつながりはタイトルにもあらわれているが、本作中では一番最初に作られたトラックという事だ。前曲で吹き付ける風は、このトラックでは控えめなノイズになり、そのかわりにゆったりとしたコードで視界の開けた明るい和声が示される。前曲とのつながりやタイトルのイメージから映像を喚起させる仕上がりになっている。

7.鳥籠
明確なサンプリング、フィールドレコーディング、当初はリズムトラックがあったようだが、最終的にはそれらはミュートされ、現在の姿になっている。深いリバーブによって覆われた淡い光景は、繰り返される中音域の和声と、それに折り重なるような金属音を中心に進行していく。リバースが効果的なリズムトラックの残骸はほとんど登場しないにかかわらずリズムを印象づける。


基本的には極端に突出しないシンプルな電子音を中心として構成されている。かなりダイレクトに近い冒頭のトラックからリバーブに包まれたエンディングに向けて徐々に距離感を作り出していく構成がこの7曲をきれいにまとめあげている。それが通して繰り返し聴きたくなる仕掛けにもなっている。

テキスト:30smallflowers(@30smallflowers


2015.4.2 14:23

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