【INTERVIEW】『誰もいない夜の果てを』吉田和史


人目に触れずひとりで黙々とやっていた時期がとても長かった

–:吉田さんが文壇バー「風紋」のママにギターを見出されて活動を始めたというのは有名なお話ですが、実際にはどのような流れで実際に音楽活動に至ったんですか?
吉田:最初はママにクラシックギターの演奏会みたいなものを期待されてたんだ。歌うっていうことは客として通っていた時にはしていなかったので。酒を飲みながら店に置いてあったギターを適当にポロポロ弾いていた。そのギターの音色をママは気に入っていたんだと思う。だけどクラシックギターの独奏曲でライブをするっていうのは技術的にちょっと自信がなかった。演奏のブランクもあったしね。だから歌の伴奏という形でならやれるっていうことでライブをやった。それが弾き語りの活動へと繋がっていった。風紋で初めて人前で歌ったのは2013年の秋だったんだけど、そこから数ヶ月空いて、2014年3月に高円寺で全曲オリジナルで弾き語りライブをした。それが実質的な音楽活動のスタートだった。
–:音楽歴は5年ほどというお話ですが、それまでは音楽活動は全くやっていなかったんですか?
吉田:いや、さすがにギター歴は長い。クラシックギターを18歳から始めて21歳くらいまでは死ぬほど練習していた。作曲を始めたのも同じ頃から。宅録で曲作りをやっていた。ただ20代半ばで一旦そうしたことをやめて、6〜7年のブランクがあって。35歳で初めて人前でライブをしたり音源を公開したりするようになって、それで音楽活動歴が5年という意味。発表したいという欲がほとんどなかったから、人目に触れずひとりで黙々とやっていた時期がとても長かった。



–:その当時作った曲や音源は今の音楽にどのように反映されていると思いますか?また、その当時の音源を発表する予定はありますか?
吉田:曲調はだいぶ違うが、メロディの感じとか言葉選びとか、いまに通じるものはあると思う。内容はもっと明るかったよ。飲み屋暮らしの影響でずいぶんと変わってしまった。声も全然違うし。その時のデモ音源は一信頼できる友だちの一人にだけ預けてあるから、俺が死んだらそいつが発表してくれたらうれしいけどね。自分で発表するつもりはない。
–:そう言えば吉田さんは谷川俊太郎さんのトリビュートLIVEにも出演されていましたよね。
吉田:活動したての頃はライブハウスに出演するツテもなくて、これからどうやってやっていこうかなっていう時に、たまたま知人から朗読のオープンマイクを紹介されたんだ。セッティングが簡単な弾き語りなら出ても大丈夫だよって。そこで一年間くらい詩を朗読する人たちに混ざって弾き語りをやっていた。蛇口さん、桑原滝弥さん、馬野ミキさん、ジュテーム北村さん、といった振り切れた感性の朗読詩人とたくさん出会った。刺激的な日々だった。そういった人たちとの交流から谷川俊太郎さんに繋がっていったという流れがあって。具体的には桑原滝弥さんに声をかけていただいた。トリビュートライブ自体はちょっと訳あって二日酔いで出演するはめになって大失敗だった。詩の朗読にも挑戦したんだが、あれはひどかった。朗読は二度とやらない(笑)



–:奥村靫正さんがアートワークのディレクションを担当していますが、こちらはどのようなきっかけで実現したのですか?
吉田:普段だったら足を踏み入れない銀座の街角で偶然知り合った。通称“ナンパ通り”のコリドー街でナンパしたようなものだった。ものすごい洒落た皮のコートを着た紳士がビルとビルの細い隙間でタバコを吸っていて、とても雰囲気がいい感じだったので「俺もここでタバコ吸っていいですか?」って話しかけたのがきっかけだった。音楽の話になって、どんな人かもよく分からないまま、その場で背負っていたギターで奥村さんに弾き語りを聴かせて、それで名刺をもらって。家に帰ってググッたら「はっぴいえんど」とか「Y.M.O」とか名だたるアルバムのアートワークを手がけているとんでもない人だったとその時にわかった。驚いて名刺の連絡先にすぐさまメールしたんだ。
–:割と即決で行動されるんですね。
吉田:時と場合によるけど、チャンスは一瞬だと最近はよく思う。一方で急がずにゆっくり関係を築いていった方がよいと感じる時も。この時は前者だと感じた。いま動かなかったら「いつか機会があったら」で終わって二度と機会はないだろうと思った。



人生うまくいっているっていう人には聴いてほしくないね(笑)

–:今作の歌詞や曲名では焼酎の登場率が圧倒的に高いですが、実際に酒場では焼酎を飲まれる率が高いですか?
吉田:ビールが飲めない。ワインも日本酒もあまりダメ。だから消去法でいつも焼酎になる。特にキンミヤの水割りをよく飲む。何の味もしない酔うためだけの酒だ。酒は自分にとってはもともと孤独を紛らわすものでしかなかった。ただ酒場にいたいだけ。酒は別に好きじゃない。
–:お話を伺っていると酒場で知り合った方々と作り上げたアルバムという感じですね。アルバムが出来上がってみてどのような方々に届いて欲しいと思いますか?
吉田:弱者っていうと何様だって感じになるけど、ダメなやつっていうか少数派の鼻つまみ者っていうか、なかなか他人に理解されない孤独を抱えている人みたいなのがイメージに近いかな。俺もそうだから。「人生うまくいかないのはお前が悪いんだろ」って言われかねないような危うい人たちがいい。逆に人生うまくいっているっていう人には聴いてほしくないね(笑)




インタビュー・テキスト sabadragon

Photo by Kota




『誰もいない夜の果てを』/ 吉田和史
2019年8/7リリース
フォーマット:CD
レーベル:Boccie Records
価格:¥2,500(税別)
【Track List】
01. 誰もいない夜の果てを
02. 近づかず 離れずに
03. 絵具
04. 埋葬
05. 代償
06. 疲れたね
07. クリスマスを待ちながら
08. 檸檬焼酎
09. 太陽
10. 夏の庭

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2019.8.14 12:00

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