【interview】三輪二郎×牧野琢磨 ギター対談

本年2月に5年ぶりの新作『しあわせの港』を発表した三輪二郎。前野健太や大森靖子などのライブや作品でのギター客演や、もちろんこの10年の自身のアルバムでのギターは、或るミュージシャンが羨むほど、また本来なら「ギターマガジン」誌が特集を組まねばならぬほど、そのセンスとテクニックは素晴らしいが、これまで一度もそれについて言及されたことがなかった。そこで、同じように素晴らしいギタリストである牧野琢磨(NRQ、湯浅湾)が、この視点から、三輪二郎に話を聞いた。

新作『しあわせの港』について

三輪二郎(以下「三輪」):え?もう聴いてもらったんだっけ。
牧野琢磨(以下「牧野」):聴きましたよ~……。
三輪:エフェクター借りっぱなしですいません。
牧野:これ会心の出来なんじゃないすか!
三輪:はい、そうです。
牧野:『III』が結構好きで、沢田(穣治)さんがプロデュースした前作。
三輪:はい。
牧野:今回は1曲1曲が全く人目を気にしてないっていうか、本当に伸び伸び、伊賀(航)さんと北山(ゆう子)さんに任せるまま任せて。
三輪:そのとおり、任せるまま。
牧野:『III』が良かったのはすごく緊張感あったから。それに比べるとすっごい自由で。
三輪:ああそうか。
牧野:あと印象的だったのは三輪さんしか歌ってないっていうのが。女性コーラスがいない。
三輪:そういえばそうだね、いつも女性が参加してるか。
牧野:意外と毎回ね。
三輪:よく知ってるね、ありがとう。
牧野:『レモンサワー』もさ。
三輪:川本真琴が歌ってる。
牧野:(大森靖子との)「ダブルファンタジー」はもちろん、mmmも。例えばさ「バージンギター」とかサビらしいサビがある曲でも女性の声がなかった。今回はもう、必要ないんだろうなー、って。印象的でした。
三輪:なにしろ制作費がなかったんで。だからほら、自分のギターの色で、自分の腕前で色をつけるしかないじゃない、拙いけどアレンジ力とかでさ、俺もそんなにコードとか知らないし、ギターのアレンジ能力もそんなある方じゃないから、でもそのわりには、地味な3ピースのロック・トリオでブルージーな感じになるかなって、色はつけられたなとは思う。でも俺が何してるわけでもないんだけどね。



『しあわせの港』各収録曲について

牧野:うんうん、だけど「おもいで」のね、イントロからもうバチっときてて、これはもう大成功だなって感じするじゃないですか。これ不思議ですよね。実際に3人でやって、そこに在る楽器以上のことが起きるのってがなかなか。引き合いに出すわけじゃないけど、前のアルバムは、楽器の数がすごい多いじゃないですか。それで、今回は少ないっていうのがなんかこう、すごくよくわかるっていうか、気持ちがよくわかるっていうか。で、結果すごいバチっと来てたんで、そのつまり、いいなと思いました。前に横浜(2017年2月、黄金町試聴室)で対バンした時に……。
三輪:そんときソロだったっけ?俺。
牧野:ううん、ソロじゃなくて北山さんと2人。
三輪:あーあー。
牧野:その時にね、たしか「バージンギター」もやってたし、「ダブルファンタジー」も北山さんと2人でやった。
三輪:アコギだった、俺?
牧野:いやエレキ。僕「ダブルファンタジー」すごい好きで、その北山さんとやってる「ダブルファンタジー」っていうのがもう凄まじくて、なんか二郎さんのギターに翼が生えてるような演奏だったんすよ!覚えてないかもしんないけど。その北山さんと、そのあと伊賀さんを手に入れた二郎さんていうのがまたすごい。どういう経緯で2人が、3人でやることになったんですか。
三輪:うーん。北山さんが伊賀さん連れてきて。ベーシスト探してるって言ったら。
牧野:なるほどね。
三輪:ギターは……、今回そうだな、どんな感じだろう。歪みに関しては結構理想の感じで。俺、ギター歪ませて、エレキギターって歪ませなきゃ弾けないんだけど、それがいい歪みで弾けた、かなー。
牧野:いい音だったね。
三輪:歪み、まあ適当にフェンダーの古いアンプで勝手に歪むやつ、
牧野:ピース(ミュージック・スタジオ)にあるやつ?
三輪:うん、で、勝手にやったんだけど、前から歪みのこと悩んでて……。
牧野:そう言ってましたね。
三輪:それでクリーンブースターとか借りてさ、まあ相変わらずエレキの音作りは悩んでいるよ。
牧野:けどすっごくいい音でした。特に、あ、いい歪みって「バージンギター」とかでしょう?すごくうまくいってた。
三輪:まあ、そうだね。あと「犬と煙草」とかもそうだね。
牧野:「犬と煙草」、ロカビリーっぽくなるとこがすごいよかった。
三輪:そうそう。
牧野:あそこが8ビートなるのかな、間奏だけ。
三輪:よくわかったね、間奏だけ。キャロルっぽく。
牧野:あーそっか。それでロカっぽかったんだね、なるほどね。ウッチャン(内海利勝)すね。そういうアレンジはみんなでやるんですか?
三輪:みんなでやる。
牧野:スタジオで?やりながら録って?
三輪:スタジオ入る前段階で、結構リハ入ったよね。そこでのアイデアで、ここは8ビートにしようって、そういうのが楽しかった。普通のただのロックンロールなのに、伊賀さんがブルースとか捻くれてやろうとするのが、よかったのかもね。
牧野:すごくよかった。
三輪:あれ?8にしようって言ったの北山さんかな?まあ2人ですね。そんなこと、間奏だけ8にしてキー変えようなんてそんな発想できるわけないから俺には、それはすごいよかった。



ブルースとギター

牧野:ギターとか、特にブルースなどを弾いてると、これでいい気分になっちゃいけないって思ったりしませんか?例えば、まんまブルースとかギターソロっぽいものを弾いてこれでいい気になるなんて陳腐な、ほらなんていうの「真っ青なブルースじゃ、あの娘何にも感じない」(『III』収録「サマーツアー夏バテ」)だっけ……そんな歌詞があったでしょう?
三輪:ハハッハ、よく覚えてんな、恐縮だな。
牧野:なんかそういう感じで、本当にそのまんまっていうのは、抵抗がある。僕も何かのライブでセッションみたいな感じでブルース・ギター・ソロを何小節か振られたことがあって。
三輪:そんなストイックな。
牧野:けどさ何もやることがないんですよ、照れちゃって。三輪さんて、照れながらも「これでいいんだ」っていうのと、「でも本当はこれでいいわけないよね」みたいなバランスがすごくいいと思うの。
三輪:あー、そうかねえ。
牧野:そういうギターってなかなか難しくて。というのは、これがいいっていう体が楽チンな方向にいっちゃうか、あるいはものすごくなんか捻くれて、人前でやるまでにすごい捻くれてから形にして出すか、どっちかみたいなさ。
三輪:ブルースを?
牧野:ブルースを。いや、ブルースであれ何であれ、自分の好きなものを好きって言うことが、すごく良くないことみたいな、そういう意見もあるじゃないですか。そこが三輪さんはバランスが良いなってすごく思う。今回のはやっぱり北山さんと伊賀さんの力もあるんだろうけど、自然に三輪さんの好きなものがすごく出てる。『III』のときも三輪さんの好きなものっていうことがすごいわかるんだけど、勝手なイメージだけど、(プロデューサーの)沢田さんに「イヤこっちの方がいいんじゃない」って導かれたり、他の人に「イヤこっちの方が面白いんじゃない」って言われてる感じも同時に受けたかも。
三輪:まったくそのとおり、まったく主体性がないんで。
牧野:ウソでしょ、主体性はもちろんあったでしょう? けど。
三輪:ウーン、何気に頑固に、あの、人任せにするわりには、変なところ頑固に主体性出しちゃうんだよね。


photo by 宇壽山貴久子


再び『しあわせの港』各収録曲について

牧野:まあ、1曲ずついくと……、さっき言ってたようなことなんだけど、2曲目「おもいで」は、ソロがアコギだっていうのがすごいよかった。それがねー、またいい音で録れてますね。
三輪:コレねー、「時間よ止まれ」って知ってる?永ちゃん(矢沢永吉)の。ジュークボックスで聴いてて横浜の。間奏がアコギのソロですげーよかったの。
牧野:そうかそうか。
三輪:相沢(行夫)っていう人、知らない?あんま矢沢のバンド知らないか。(*相沢行夫:「アイ・ラヴ・ユー、OK」など歌詞提供、1976年より矢沢永吉のツアーバンドやレコーディングに参加。1981年より自身のバンド、NOBODY始動)
牧野:うん、知らないです。
三輪:「時間よ止まれ」の間奏、超いいの、聴いてみて。坂本龍一や高橋幸宏とか、駒沢(裕城)さんとか。
牧野:へえー!
三輪:すっげーいいとこで駒沢さんのスティールギター入って、めっちゃいいのリゾート感があって。その間奏がアコギのソロ。
牧野:それで「おもいで」……。
三輪:うんバンドなんだけどアコギのソロいいなって。
牧野:なるほどね、とても鮮烈でした。これはネックが折れたマーチンですか?
三輪:そうそう、壊れたマーチン。(2010年「レモンサワー」発売時)大阪のレコ発でいきなり壊れた。10万円くらいかけて直した。けど折れると音良くなるっていうよね。
牧野:ネックが折れたギターを直すと、音が良くなるって言いますね。補強が入るから。前よりも丈夫になるっていうし。
三輪:そうそう。幸いオリジナルのその木で直してくれたんだけど。
牧野:そうなの?
三輪:うん粉々だったんだけど。
牧野:職人さんが集めてくれたの?
三輪:うん集めたっていうか飛び散りはしなかったから、その木のまま直してくれた、すごいよねー。
牧野:で、次が「バージンギター」か。『III』の後に出来た曲だよね?
三輪:そう、結構ずっとダラダラやってる、ライブで。
牧野:『III』はけっこう前だね、2014年。
三輪:5年前。
牧野:この曲は、サビがめちゃくちゃサビらしいサビだね。前にハマショー(浜田省吾)っぽいって自分で言ってたけど。
三輪:よく覚えてるね。
牧野:でもハマショーのどの曲かわかんないんだけど……詳しくないから。
三輪:なんかバンプ・オブ・チキンみたいな曲だよね。
牧野:ああ、確かに大サビがあるからね(笑)。
三輪:自分でいうのもあれだけどバンプかよって(笑)。
牧野:サビの前に確かにさ……。
金野:バンプ、知ってんの?
牧野:知らないけど(笑)。サビの前にきちんと止まるし、それがそこがバンプっぽさなのかも。
三輪:そうか、バンプっぽい。
牧野:確かに「人の心を掴もう」という強烈な意志を感じる。それがすごく成功してると思います。
三輪:ハッハッハ、バンプね。





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[牧野琢磨] ギタリスト。2007年よりNRQを始める。最新4thアルバム『レトロニム』発売中。浦朋恵、ぱいぱいでか美などのアルバムに参加。令和元年は湯浅湾のアルバムを準備中。
[三輪二郎] 2008年、「おはようおやすみ」でデビュー。2010年、弾き語りアルバム「レモンサワー」発売、いずれもロングセラーを続けている。ギタリストとしての評価も高く、盟友・前野健太を始め川本真琴、大森靖子などのアルバムやライヴに客演。2014年、沢田穣治プロデュースで傑作「III」を発表し話題となる。



『しあわせの港』/ 三輪二郎
2019年2/20リリース
フォーマット:CD
レーベル:MY BEST!RECORDS/DIW/diskunion
カタログNo.:MYRD127
価格:¥2,500(税抜)
【Track List】
01.犬と煙草
02.おもいで
03.バージンギター
04.翌朝
05.スライディング・マドロス
06.ギターを弾く犬
07.ハロー・マイ・ジェラシー
08.グッドラック・ブギー
09.くわえ煙草の夢
10.ターニングポイント・ブルース
ディスクユニオン
iTunes/Apple Music
Spotify

三輪二郎:ボーカル、ギター
伊賀航:ベース
北山ゆう子:ドラムス
録音、ミックス、マスタリング:中村宗一郎
写真:宇壽山貴久子
デザイン:ダダオ




三輪二郎「しあわせの港」
レコ発ワンマン東京編
2019年4/30(火)下北沢440
ACT:三輪二郎バンド【三輪二郎(Gt./Vo.)、伊賀航(Ba.)、北山ゆう子(Dr.)】
Open 18:30 / Start 19:00
Adv. ¥3,000 / Door ¥3,300(+1d ¥600)
チケット販売:(3/9~)
440店頭(3/9 16:00~)
e+(3/9 10:00~)
メール予約:下北沢レコード(shimo_reco@yahoo.co.jp)
件名に「4月30日 予約希望」本文に「イベント名、お名前(ふりがな)、電話番号、複数の場合、お連れ様のお名前」を添えて、メールにてお申し込みください。

三輪二郎「しあわせの港」
レコ発 横浜編①
2019年5/21(火)横浜Thumbs Up
ACT:三輪二郎バンド【三輪二郎(Gt./Vo.)、伊賀航(Ba.)、北山ゆう子(Dr.)】
GUEST:5/18発表
Open 19:00 / Start 20:00
Adv. ¥3,000 / Door ¥3,500

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2019.4.19 19:00

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