【INTERVIEW】HOPI「そもそも、完成形ってないと思うんですよ」

規則性と不規則性で散りばめられたリズムトラック、不穏なキーボードとギターサウンド、心地よさではなくムードを彩る歌声とその変幻、そしてHOPIの音楽にとっての「顔」とすら言えそうなベースサウンドの鳴りと響かせ方。

HOPIの音楽は、規則性からの逃避によってある程度紐付けられている。分かりやすい8ビートは配置されておらず、とはいえベースサウンドとリズムトラックの巧妙な手招きで、体を揺らすミュージック。それはFlying lotusやChirs Daveのようなビート感とも違った手ほどきで、聴くものの目と耳を惹き付ける、魔力と言っていいだろう。

東京のインディ・ロックシーンを知る人なら、the morningsとthai kick murphを知っている人が少なからずいるだろう。HOPIはそのメンバーによって結成されたエレクトロニカ・ユニットである。便宜上、エレクトロニカと書いたが、おそらくメンバーからは「そうかな・・・?」と首を捻るかと思う。なぜなら、上に書いたような音楽性は、エレクトロニカというには少しばかり枠外にあるものだからだ。

ライブを経るごとにトライ&エラーを重ねていく彼らに、「ライブでのHOPIは、未だに完成形がないのですか?」とぼくは問い、「そもそも、完成形ってないと思うんですよね」と返されたとき、音楽家としての夢や理想などではない、現実現況そのもののリアルな言葉のなかに、「音楽とは禅問答のようなものなのだ」と諭された気がした。その経験で奏でられる音楽に、どうか注目していただきたい。

曲作りでメロディラインを作る人が、HOPIの音楽と私のボーカルを聞いたら、相当すごいことをしていると思ってくれるはずなんですよ(宮尾)

–:岸野さんと渡辺さんは以前はthe morningsを、宮尾さんはthai kick murphでそれぞれ活動されていました。どうしてHOPIを組もうと考えたんでしょうか?
岸野:2015年に、10年以上続けてきたthe morningsの活動を休止したことがきっかけです。まだまだ新しい音楽をやっていきたいという気持ちがあって、ポンタ(渡辺さんのこと)と「じゃあ何やる?」といった始めたのがHOPIでした。だいたい2015年の春から夏にかけて本格的に動き出しましたね。2人で話し合って、「歌がうまい女性ボーカルは絶対入れたい」となり、宮尾しかいない!ということで声をかけました。ベースやドラムもメンバーがいたんですが、残念でしたが初ライブ前に脱退してしまったので、以降3人で活動しています。
–:実は、僕と岸野さんはかなり長いことTwitter上で相互フォロー状態で、お互い見ている感じなんですけども、HOPIを知ったのも少し遅れてのタイミングだったんです。「始めます!」という宣言をしたわけでもなく、自然発生的にゆっくりと進んでいって……という感じに思えました。
岸野:そうですね。the morningsは……ポンタとしても僕としてもかなりガチンコでやってきたバンドだったんですよ。それができなくなるなら、すぐに「次に行こう」と考えて、ポンタと動いてましたよ。





–:宮尾さんは、HOPIのボーカルに招集されたという流れですけども、どういったつながりがあったんでしょうか?
宮尾:イベントやってた友人がthai kick murphのことをよく誘ってくださってて、ライブ活動をどんどんと広げられたんです。そのなかでもthe morningsは、良き先輩バンドの一つで、普通にファンだったんです(笑)
–:なるほど(笑)
宮尾:「the morningsと対バンしたい!」と言って、何度か対バンしたり、普通にライブを観に観に行ったりしていたんですよ。そういったことが積み重なって、こうして声をかけてもらったんじゃないかなと思いますね、あこがれの先輩たちに声をかけてもらったので、「やるやるやるやる!!!」っていう感じで。
岸野:一応その時も、僕らも説得したうえで加入してもらおうと思っていたんで、彼女を呼んで、その時出来上がってたデモ音源を聴かせて、「こういうのやりたいんだけど……」って言ったそばから「やるやるやるやる!!!!」って言ってくれたんですよ。
–:本当にそのテンションだったんですか(笑)
宮尾:聴いてみて、「これはいけるー!」っていうような感じではなくて、言ってしまえば、キャッチーなものではないですし、でも「すごくやりがいがあるな」と思いました。でも、こんなにいっぱい頑張るとは……想定してなかったですね。
–:もうすこしフワっとしていたものを考えていたと。
宮尾:声をかけられたときだけめっちゃ頑張る!っていうサポートメンバー的なポジションなのかと思ってました。今ではHOPIがメインでの活動になっています。
–:ド定番な質問なんですけども、なぜHOPIという名前なんでしょう?調べようとすると、ホピ族が何度となく検索されるのですが、なにか関係があったりしますか?
岸野:そうですね。the morningsの休止前は、スピリチュアルなムードのある音楽を志向してやっていたんです、当時僕がマンダラとかチベット仏教などにハマっていたのと、Brainfeederのショーケースをポンタと一緒に観に行っていたりもしていたこともあって。そういった立体的なベースミュージックと、the morningsで志向していた方向性を掛け合わせて、スピリチュアルなものを目指そうというコンセプトがHOPIというワードに繋がってます。
–:それが新たな活動における骨格、HOPIの骨格なんですね
岸野:そうですね。名前をつけるとき、スピリチュアルなワードを色々と挙げていったんです。その中でホピ族は、宇宙の真理を信仰しているということもあり、バンドのコンセプトに合っていると思いました。メンバーのウケは最初はあまり良くなかったんですけど、説明したら「そこまで考えたなら、オッケーじゃないか?」っていう感じでしたね(笑)
–:なるほどです。作曲は岸野さんがやられているんでしょうか?
岸野:そうですね。基本的にはぼくがトラックを作っています。the morningsの頃とそこは変わらないですね。最初はメロディもつけていたんですけど、今は宮尾にぜんぶ任せてます。ポンタはミキシングやエフェクト処理やライブの出音に責任を持っていて、分業制になっています。
–:以前からHOPIの音楽を少しずつですが触れていて、今回のインタビューでガッツリと向かい合ってみたとき、「果たして似ている音楽はあるのかな?」と思って、いろいろと聴いていったんです。
先程話しにもあがったBrainFeederならFlying Lotusですし、Four Tet、Prefuse73、Adrian Sherwood、Tricky、Portishead、あとはベースミュージック関係のトラックメイカーさんなどなど聴いていったんですけど、どの音楽にも似ていないんですよね。 近いけど遠い、そしてどれにも似ていない、ワン・アンド・オンリーな音楽をやっていることが徐々にわかったんですよね。
岸野:自分たちでも、自分の音楽がわからないときありますよ(笑)





–:自分の好きな音楽、HOPIに影響を与えたバンドがいらっしゃったら、教えていただきたいです。
岸野:そうですね、敢えてあげるならRadioheadになりますね。音楽性もそうですけど、彼らの創作スタンスもそうです。アルバム毎に違ったものを作っていて、一つの完成形を作り上げても、次の作品には同じことはしない。いつも違うことをやっていて、予想外の方向性を見出して、音楽を作っていく、そういうスタンスはすごく影響されてます。
–:ちなみにどのアルバムを選びますか?
岸野:一番人気がないアルバムだと思いますが、「The Kings Of Limbs」ですかね。ああいうムード……陰鬱で、スピリチュアルで、ビートが強め。やっぱり意識はしますよね。



–:渡辺さんはいかがでしょう?
渡辺:ぼく個人としては、最近のハウスやエレクトロニック系の音楽からの影響が大きいです。特にFour Tetにはいつも影響を受けています。
岸野:ぼくは最近のものをタイムリーに聴かないので、ポンタから教えてもらうことも多いですよ。
渡辺:アルバムやアーティスト単位というより、曲単位で好きになったり影響を受けたりすることが多いです。特定のアーティストのアルバムをじっくり聴き込むよりは、DJのMIXやネット上のプレイリストにから良い曲を見つけて、「この曲よくない??」とメンバーにシェアしたりしています。



宮尾:最初にHOPIに入って「どうしようか?」って考えたときに参考にしたのは、Bjorkの「Pluto」だったんですよ。この曲がズバ抜けて好きだというのもありますけど、生々しいけど、声がハッキリとしていて、ビートが強くでている感じなのは、この曲かなぁと思ってましたね。歌い方とかはまったく考えず、自分自身の伸びしろや今まで培ってきたものを活かしつつ、「変なメロディが出てこないかなぁ」とずーっとやってますね。



–:ボーカルという立ち位置ですけど、聴いていると、不意を突くようにボーカルが入ってきたり、「これはキーボードかシンセかな?」と思って聴いていると、宮尾さんのボーカルだったり、とんでもない切れ味をもった表現をしてきますよ。「いったいどうやって歌っているんだ?」と思わされます。
岸野:トラックを彼女に渡して、彼女の声がちゃんと入ったものが戻ってきたとき、毎回「これは一体なんなんだろう?」って思わされるんですよ。トラックだけだと伝わりづらいニュアンスを、宮尾がボーカリストとしてのスキルや才能をフル活用して表現してくれることで、より良いものに仕上がってくれている。 ポンタがミックス時に声をエディットしてアレンジしている箇所もたくさんあります。
–:HOPIの音楽を普通に聞いたら、たとえばメジャーな歌ものの音楽とは全く異なる音楽だとすぐに気づくじゃないですか?R&Bでもないし、Hip-Hopでもない、ましてやJ-POPでもない・・・。じゃあこれはなんですか?というと「ベース・ミュージック」というのが正確なんでしょうけども、この音楽によくぞこのボーカルとメロディラインを見つけてくるなと、ものすごいアクロバティックなことしていると思ってます。
宮尾:曲作りでメロディラインを作る人が、HOPIの音楽と私のボーカルを聞いたら、相当すごいことをしていると思ってくれるはずなんですよ。音感とリズム感を総動員してるので、スポーツみたいな感じですし、運動神経を使ってると思ってますよ。


(左:岸野 中央:宮尾 右:渡辺)
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「Eel」/ Hopi
2019年1/28リリース
フォーマット:デジタル配信
【Track List】
01. Eel
02. TY Remix by Miii
iTunes/Apple Music
Spotify

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2019.2.24 12:00

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